「あははははっ! なんで、アイちゃんが泣いてるんだぁ?」
笑いながらマキノ姉ちゃんの店に入って来たのは、さっき腕を無くしたばかりのシャンクス。
その後ろには、泣き疲れたのかルフィを背負った、赤髪海賊団の副船長のベン・ベックマンが居た。
……笑ってる?
ルフィのせいで腕を失ったはずなのに、副船長の背中でスース―とルフィが寝ているのか理解が出来ず、その光景に涙が一瞬で引っ込む。
「腕一本で友達を助けれたんだから、安いもんだろ?」
「……と、友達?」
「そうだよ。アイちゃんはおれをなんだと思ってたんだ? あー、そうだ、おれ達、海賊だった!」
シャンクスがそう言うと、海賊団の人達が一斉に笑い声を上げる。
「とりあえず、アイちゃん。こいつ家に連れて帰って、布団で寝かして……って、なんだって?」
「?」
ルフィをとりあえず受け取ろうと思って、副船長に近づくと話の途中でシャンクスに他の船員が何かを言ったのか急に大声をシャンクスが上げた。
「アイちゃん? ちょーっと、聞きたいんだけど……溺れたって?」
「さっきは、ルフィ助けようと思って必死だったから……だと、思います?」
だよね? あたしが溺れるなんて理由はそんなことでもない限り、あるわけない……はず?
「溺れた時、全くカラダが浮かなかったなんてことは無いよな?」
「浮きませんでしたけど……」
えっと、何この拷問。
溺れたんだから、体が浮かないって当たり前なんじゃないの?
シャンクスの質問のあたしの答えに、顔を見合わせる船員たち。
「じゃあ、体に力が入らなくて力が抜けた感じになったとかは……ないよな?」
「入らなかったけど……」
「だよなぁ? 入るわけないよなぁ……って、入らなかった?!」
シャンクスの乗り突っ込みに驚いてると、シャンクスも船員たちもあたしとは違う驚きがあったのか叫びだした。
なんか、ルフィがゴムゴムの実を食べた時と似た感じもする。
だけどさ、あたしだってまさか溺れるなんて思ってなかった。
それに、シャンクスの腕のこともあって落ち込み倍増中のあたしが、なぜ質問攻めに合ってるのかわからない。
「アイちゃんは腕伸びたりしねぇよな?」
「ルフィじゃないんだから、伸びませんけど……」
あれ? これって、もしかして……あたしが溺れたのって、なんかのゴムゴムの実を食べたからだと思われてる?
あたしとルフィは同じもの食べてないし、そんな変な物を食べた記憶は自分にはない。
「ほ、ほら、頬っぺたも何も伸びませんって! 見て下さい!」
そう言って自分の頬を引っ張ってみれば、もちろん痛いし伸びもしない光景を海賊団の人達が無言でジッと見つめる。
「よし、じゃあ、これから海に泳ぎに行くぞ!」
「えっ?! これから?!」
何を疑われてるのか、わからないけど……喋るのより早く泳げるようになってたあたしだって、たまには木から落ちるよね?
◆◇◆◇
「さぁ、アイちゃん! 泳ごう!」
寝てるルフィをマキノ姉ちゃんに預けて……海に赤髪海賊団の人たちが、ゾロゾロと全員付いて来て、あたしが海に入る前に「いつでも助けてやる」と言わんばかりに、海の中で手を広げてスタンバイしている。
……なんなの、この光景。
そこまでされると、本当に自分は泳げないんじゃないのかと不安になる。
でも、ここで泳いじゃえば、この恥ずかしい状況もきっとすぐに終わるはず。
「じゃあ、泳ぎますよ?」
そう言って岩場から海に飛び込むと、さっきも溺れた時にも感じたけど海水に入った瞬間に力が抜ける。
「ぶ……っ!」
それに、やっぱり浮かない?! え、一体どうなってるの?
あたしの体はルフィみたいに伸びたりしないし、ゴムゴムの実とか関係ないよね?
や、やばい! このままじゃ、さっきみたいに水飲んで溺れるっ!!
慌てて手足をバタつかせるが、やっぱり水に体が浮く感覚は来ない。
「や、や、やばい! やっぱり、アイちゃんが! どうしよう! みんな!」
何故かシャンクスの慌ててる声がする。
「うろたえんじゃねぇ!! お頭、このやろうっ! お前らも早くアイちゃん助けろ!」
「へっ、へい!!」
その声と同時に、自分の顔が水面から出る。
「ぶっは……! あ、あたし、また溺れた……」
また溺れたことに落ち込んでいると、あたしの上からシャンクスの慌てた声が聞こえる。
「こ、これは、何か悪魔の実の能力が……ん。待てよ。お前らあの実はどうした?! 誰が管理してる?!」
「おれじゃねェっす!」「知らねェな」と海賊団のみんながザワザワする。
「お頭……後で調べるとか言って、自分で持ってなかったか?」
「お、おれか?! あ、おれだーー! アイちゃん、リンゴの形に似たやつ食ってないよな?」
「ルフィがくれたから、ルフィがゴム人間になった日にそんなようなのを食べましたけど……でも、変な味がしたので、一口しか食べてないですよ?」
その場がシーンと静まり返る。
「お、おれは女の子になんちゅーもんを……! この年の差じゃあ、責任取って結婚とかおれは出来ねェし! あわわわ! どうしようどうしよう!?」
いや、シャンクス……責任とか大丈夫ですから。
と、突っ込みたいのも山々なんですが、あたしに悪魔の実と言うかルフィみたいに伸びたりしたら恥ずかしい! と焦ってる方が大きくて、それどころではない。
「悪魔の実は一口食べただけで、世界で一人の何かの能力者になるんだ!」
「え、え、え、え、えーっ?!」
ひ、一口で?!
てか、あの変な味のリンゴ、悪魔の実だったの?!
「お頭、何の実だったか調べてねェんだろ? まさか、ゴムゴムの実ってことはねェから、何の能力がついちまったんだ?」
副船長があたしの顔を見ながら、ブツブツそんな事を言っているけどあたしに言われたって、わかりません!
自分の事の話だけど、何処か自分の話じゃないような気がしてみんなの会話を黙って聞く。
「アイちゃん、ちょっとエイっ! と、なんかやってみたりして?」
「……エイ?」
何かよくわからないけど、深呼吸をしてから言われた通りに腕を振り上げてみる。
するとパチパチパチと音を立てて、風船のような物が目の前に突然現れた。
「わっ! 何これっ?!」
あたしは驚いて腰を抜かすとみんなは「おぉ!」と、何故か感動してる。
「……良かった、ゴム人間じゃなくて」
それを見てシャンクスは、安易したのかドスンとその場に座り込む。
うん。そりゃ、あたしもゴム人間じゃなくて、良かったとは少しは思った。
泳げなくなったのは、もうルフィと一緒になって知らなかったとは言え、悪魔の実を食べたのは自分。
だから、それは諦めるけど……これってば何の役にたつの?
「お頭! これ、シャボンディ諸島のシャボン玉じゃ、ないっすか?!」
どこそれ? なにそれ?
そう思って、その発言をした船員の方を見るとあたしが風船だと思ったシャボン玉をフワッと掴んで、その人はシャボン玉を頭から被って海に潜って行った。
なんか、すごぃ……正体がわからないものを被って、ってか、シャボン玉が割れないで被れるって事にも少し驚いたけど、なんでわざわざ海に潜ったんだろう?
とりあえず、海面をポーカンと見ながら潜った人が出てくる待っていると、笑顔でその人が出てきた。
「やっぱり、そうっス!」
それを聞くとまた皆が「おぉ!」っと声を上げた。
何が凄いのかわからないって顔をしてるあたしに気付いて「確実にシャボンディ諸島の物とは、言いきれないが」と前置きをして、副船長が説明してくれた。
シャボンディ諸島には「ヤルキマン・マングローブ」と言う樹がある。
その樹が呼吸した時に出す、特殊な樹脂がシャボン玉として出てくるらしい。
そのシャボン玉を被れば、水中でも息が出来るらしい。
えっと……あたしは、その「ヤルキマン・マングローブ」とやら人間になったの?
「ヤルキマンマン人間……」
あたしが呟くと、シーンとしたその場にあたしの声が響く。
「ヤルキマンマンっ?!」
「……ぶぶぶっ!!」
なんか、名前が恥ずかし過ぎない?! 能力としては、ビヨーンと伸びるより恥ずかしくないけど……ヤルキマンマンだよ?!
ヤルヤルの実? マンマンの実?! もしくはヤルマ……「リ」じゃないことが救いだよ! って!! なんだとしても、下ネタぽく聞えるよ!!
海賊団のみんなも同じようなことを思ってたのか、シーンとしてたはずが笑いを堪えてるような声がする。
「絶対にこの実の名前、誰にも言わない!」
「そ、それは、アイちゃんの自由にすればいいと思うよ……っ、ぶぶっ、あはははははははっ!!」
そして、笑いを堪えるのを皆は、止めたらしく大爆笑し出した。
「はぁ……でも、泳げなくなっちゃったから海に出て、兄ちゃんの事を探せなくなっちゃうのかな」
「ん? 兄ちゃん? アイちゃんとルフィには、まだ兄弟いんのか?」
あたしがポロっと嘆いた言葉を、シャンクスが笑うのをやめて疑問を投げかけてきた。
あ、言うつもりはなかったんだけどな……まぁ、いいや。なにか小さな手掛かりがあるかもしれないから、聞くだけ聞いておこう。
「あたしとルフィは多分、腹違いの兄弟なんだけど……あたしには、生き別れた双子の「エース」って、兄ちゃんがいるんだ。なんか知ってる?」
「「エース」ねぇ。おれは知らねェな。誰か知ってる奴いるか?」
シャンクスは皆に聞いてくれたが、知ってると言う人は誰も居ない。
「まぁ、なんだ? そのシャボン玉は、海底に潜る時に船にコーティングで使ったりするんだ。泳げなくても、その能力ならなんとかなるんじゃねェか?」
と、あたしの頭に副船長がポンと手を置いて慰めてくれてるのか、この能力の使えるであろうことを教えてくれた。
「本当に、なんとかなるのかな……」
「シャボン玉を大きくして、自分が入るとか想像出来ないか? 自分が水に浸かる前にシャボン玉に入ってから水に入れば、水の中とか移動が出来るんじねェか?」
「そんなこと出来るの?!」
「そりゃ、アイちゃん次第だろう」
なっ? と、言ってあたしの肩に手を置いてニッコリ笑うシャンクス。
息継ぎしないで、水の中に居られるなら普通に泳ぐより便利かもしれない! どういうことが出来るか、少し色々と試してみることにした。
◆◇◆◇
あれから数日。
赤髪海賊団の人たちは、拠点としてたこの村を離れことになったらしい。
あたしは泣きわめき、溺れて自分にも悪魔の実の能力がって、言い訳かもしれないけど……ルフィを助けてくれたことを、シャンクスにお礼をまだ言えてなかった。
「……ん? アイちゃん、そんな怖い顔でおれのことなんで睨んでるんだ?」
「え? あっ! えーっと……」
いつお礼を言おうかと、シャンクスを見てたらいつの間にか睨んでいたらしい。
慌てて視線を逸らすとシャンクスが近くに来て、あたしと視線を合わすように屈んでくれる。
「あの、あの時……は、あたし何も出来なくて、ルフィのことを助けてくれて……その、だから……」
「あははははははっ! まだ、そのことを……ぶっ、ぶっははははは!」
あたしの神妙な顔を無視して、シャンクスはお腹を抱えて笑い出した。
「っと、笑っててもしょうがないな。ちょっと、耳を貸してくれ」
「耳?」
なんでこんな所で内緒話なんか……と思いつつ素直に耳を貸す。
「おれは海賊なんだぞ?」
「……うん」
それは今更なくらい聞かなくても、わかってるんだけど。
「未来への投資さ」
「投資って……?」
「あぁ、投資。海賊がタダで人助けするわけないだろ?」
言っていることがよくわからなくて、シャンクスの顔をジッと見る。
そりゃあ、海賊が自分たちの利益にならないことを無償でやるとは思わないけど、この海賊団の人たちは何故か違うと思わせる雰囲気を持ってる。
「シャンクスー!! この船出でこの町へは帰って来ないって、本当?!」
シャンクスと話してると、ルフィが走ってこっちに向かって来るのが見える。
「お、おれが投資したガキがお出ましだ──ああ! 随分長い拠点だった。ついにお別れだな、悲しいだろ?」
あたしからルフィに視線に変えて、ルフィに話しかけるシャンクス。
「まぁ、悲しいけどね。でも、連れてけなんて言わねぇよ! 自分でなることにしたんだ、海賊には!」
げっ! ルフィったら、何を言ってるの?! 泳げないくせに自分で海賊になるとか言って。
「お前なんかが海賊になれるか! あははは!」
ルフィをからかってるのか、舌をベーっと出してそれに対応するシャンクス。
うん。あたしも、そう思う。
ゴム人間になってから、なんか色々してるみたいだけど未だにあたしにケンカで勝てないし。
「なる!! おれはいつか、この一味にも負けない仲間を集めて、世界一の財宝を見つけて……海賊王になってやる!!」
ルフィの言葉に思わず吹き出しそうになったけど、それも何故かシャンクスの言葉で引っ込んだ。
「ほう……! おれ達を越えるのか……じゃあ……この帽子をお前に預ける!」
「…………っ!」
さっきルフィのことをからかってた顔をと違う優しい笑顔で、シャンクスは自分の被ってた帽子をルフィに被せた。
「おれの大切な帽子だ。いつかきっと、返しに来い! 立派な海賊になってな!」
シャンクスの言葉に何か胸に響いたのか、泣きながら黙ってコクンコクンと頷くルフィに背を向けた。
シャンクスは自分たちの海賊船に乗り込んで行ってしまった。
なんか……男の世界を見た気がする。
投資ってなんのことを言ってるのか、よくわからなかったけどシャンクスは帽子だけじゃなくて、ルフィに色々と預けて行った気がする。
「じゃあ、アイちゃんも海に出た時は、おれ達にも会いに来てくれ!」
船の甲板からシャンクスが大きな声で、あたしにも声を掛けてくれ、あたしは黙って大きく手を降った。
「いい人たちだったね」
そっとルフィの横に立って、声を掛けるけどジッと海賊船を見ているルフィから返事が返って来ない。
赤髪海賊団の船が見えなくなるまで、2人で黙って見送った。