「──とまぁ、桐谷を見て推測できるのはここまでだな」
「おぉー」
昼休みの部室に、めぐりの感心したような声が響く。
彼女が座る席の上には可愛らしく彩られた弁当が置かれていた。
「やっぱりはじめちゃんは色んなものが見えてるんだね」
「少し離れた視点で見ることができるだけだ。問題はこれからどうするか、だな」
俺が購買で買ってきた菓子パンを口にしながら考えていると、部室の扉がおもむろに開けられた。
「ひゃっはろー。部活やってるー?」
「どうぞいらっしゃいました。お帰りはあちらになります」
「ご丁寧にありがとうございます、では──ってそっち窓じゃん」
「チッ」
やはり上手くいかなかったか。
舌打ちする俺を尻目に、雪ノ下は机と椅子を引っ張ってきてめぐりの横につける。
随分と手際のいいことで。
「一応ここの創設者なんだけど?」
「やぶ蛇目的は結構だ。邪魔になるからさっさと出て行け」
「まぁまぁ、はじめちゃん。はるさん、昨日はじめて依頼人の話を聞いたんですよ」
めぐりが昨日あったことを説明する。
その話を聞いて「なるほどね」と頷いた後、不審げな視線をこちらに向けてきた。
「……意外とやる気なんだね。もっとサボるのかと思っていたけど」
「はじめちゃん、やることになったら結構真面目にやるんですよ? そこまでが長いですけど」
「めぐりは黙っていてくれ」
「へぇー、そうなんだー」
そこ。いいことを聞いた、みたいな顔をするな。
「でも、はじめちゃんをやる気にさせるのって本当に大変なんですから。この前だって──」
「ストップだ、めぐり」
「はーい」
「また今度教えてね」
「わかりました」
俺を話題にするのは確定なのか。
幼なじみと天敵が仲良くなるとここまで厄介だったとは。
「雪ノ下、お前はお前で仕事はどうした」
「そっちは順調、来週には引き継ぎも全部終わって本決定になるはずだよ」
「それは何よりだ」
「こっちのことはいいじゃない。依頼を聞かせてよ」
「依頼主は有岡佐助。内容は、最近不審な行動を取っている一年の桐谷の動向を調査することだ」
「不審って?」
「ふと部活の休憩中にいなくなったり、声をかけても反応がなかったり、らしいです。でも、見てても特におかしい様子はなかったんですよね」
「直接聞いたら早いんじゃない?」
「依頼主の要望で、あまり事を表沙汰にしたくないらしいんですよ」
「そういうことだ」
「ふぅん……あ、めぐりのお弁当かわいいね」
あまり興味を惹かなかったのか、彼女の話題はめぐりが持っている弁当にシフトする。
想像していた以上のことではなかったのだろう。
「ありがとうございます♪ 今日のは自信作なんですよ」
「もしかして自分で作ってるの?」
「はい。お母さんが忙しい時だけですけどね」
「へぇ、偉いね。それに美味しそう」
今日も今日とて菓子パンがうまい。
それにしても、やはりこの二人は仲がいいように見える。
雪ノ下の黒さは鳴りを潜め、めぐりは敬意を払いながらも友人と同じように接している。
相性が良かったのだろうか。
その二文字で済ませていいのかは分からないが。
「ありがとうございます.はるさんのお弁当も美味しそうですね」
「うちは使用人が作ったものだからね。美味しくなかったらむしろ解雇ものだよ」
「使用人? 料理人さんの手作りなんですか?」
「そうだよ。少しいる?」
「やったぁ」
「代わりにめぐりのお弁当のおかず全部と交換ね」
「えぇっ!?」
「あっはは、冗談だよ。めぐりは本当にいい子だね。どこかの誰かと違って」
「急に飛び火させてくるな。パンが不味くなる」
それと、めぐりがいい子なのは昔から知っている。
「はじめちゃんもひとついる?」
「こっちからはメロンパンの切れ端ぐらいしか出せないぞ」
「いいのいいの。はい、あーん」
「普通に渡せ、普通に」
ひょいっと差し出された箸の先の唐揚げを手でつまみ、口に運ぶ。
うん、やっぱりめぐりの作る料理はうまいな。
「あっ、もう。はじめちゃんったら……」
「俺が悪いみたいな言い方はやめろ」
しかし、当の本人は少し残念そうである。
何故そうなるのか。
「二人は恋人なんだっけ?」
「ただの幼なじみだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうですよ。わたしとはじめちゃんは幼なじみです」
「ふぅん…………あれ?」
「どうした」
何かやらかしたのに気づいたのだろうか。
「あぁ、いや、ちょっと……あれ?」
「大丈夫ですか、はるさん」
「うん、大丈夫と言えば大丈夫なんだけど……おっかしーなぁ」
そうして昼休みがおわるまで、彼女はずっと首を傾げ続けていた、
おかしなヤツだ。
いや、元からか。