次の日の午前中。
俺は一年のクラスの前までやってきていた。
目的は桐谷だ。
開きっぱなしの扉から中をうかがう。
……あぁ、そういえば容姿を聞いていなかったな。
と、そこで見知った人物と目が合った。
「はじめちゃん!」
こちらを見るなり、彼女ははにゃんと柔らかに顔を歪ませて駆け寄ってくる。
昨日一緒のクラスだって言ってたもんな。
「……めぐりか。どうだ、調子は」
「もしかして例の人を見に来たの?」
「まぁ、そんなところだ。一度は相手を見ておいた方が動きやすいからな」
「それもそうだね。ちょっと待って……」
「えっとね、教室の奥の、窓際からちょっと離れたところに集まってる茶髪の人だよ」
「ふむ」
そちらに目を向けると、確かに五人グループの中にそいつはいた。
ふむ……。
注意深く観察する。
動き、表情、クセ。
見ているだけで分かるのはそれぐらいだが、侮ってはいけない。
どういう人であれ、その行動にはおのずとパターンというの発生しているのだから。
そして、それを観察するのは得意分野だ。
「どう? はじめちゃんから見て、桐谷くんは」
「パッと見だが……っと。ここでは注目を集めすぎるな。後で話す」
さっきから妙に注目されているのを感じていた。
さすがに後輩のクラスにいると注目を集めすぎるか。
また変な噂になる前に戻るとしよう。
「ふふっ」
そんなことを考えていると、めぐりが笑いをこぼす。
あどけない子どものような表情。
よく見慣れた顔だ。
「どうした」
「ううん、何だか昔一緒にやってたスパイごっこを思い出しちゃって」
「遊んでるわけじゃないんだぞ」
「わかってるよ……ふふっ」
注意しても、めぐりは笑うのを止めない。
まぁ、こいつが楽しいのならいいか。
「じゃあ、またな」
「うん、お昼休みにね」
幼なじみと、お互いに手を振って別れる。
戻りながら、俺は昨日あったことを思い出していた。
「はぁー、奉仕部か。こんなところがあったんだなぁ」
机を挟んで向かい合っている有岡はキョロキョロと周囲を見回している。
まぁ、少し前にできたばかりだから、知らないのも無理はないだろう。
というか知っていたら逆に驚きだ。
「奉仕、奉仕かぁ。どういう活動してんの?」
「人助けを中心に活動していく予定です。はじめちゃんはこの部の部長なんですよ」
「人助け部の部長……」
「何だ」
こっちをじっと眺めてきて。
文句でもあるのか。
「似合わなくね? だってお前、俺が普段困ってても助けてくれないじゃん」
「お前が助けを求めるのはだいたい学校の課題だろう」
それぐらいは自分でやってほしい。
「まぁ、色々あったんだ」
「色々?」
「色々は色々だ。そういうことにさせてくれ」
正直、奉仕部に関してはどこまで経緯を話していいのか分からない。
平塚先生や雪ノ下は秘密の部活と言っていた。
まぁ、変に情報を出さない方が波風は立たないだろう。
「色々あったんだよねー」
そしてめぐり、学校でもいつも通り接することができるようになったからってニコニコしっぱなしなのはどうなんだ。
可愛いのだが、何だかこう、調子が狂う。
「それで、悩みとやらを聞かせてくれ」
「いや、でもなぁ。やっぱり市原も部外者だし……」
悩んでいるようだったが、やがて彼は決心したように顔を上げる。
どうやら話してくれるらしい。
「うちのサッカー部に、桐谷ってヤツがいるんだよ。そいつが最近、部活を抜け出すんだ」
「桐谷くんって、一年生のですか?」
「そだけど……」
「知っているのか、めぐり?」
「うん。うちのクラスの男子だと思う。よくいる運動部っぽい子だよ」
それだけじゃ分からないんだが。
「それにしても抜け出す? 練習中にか?」
「いや、休憩の時だけどさ。どこに行ったか聞いても答えてくれないし、そいつと仲がいいやつも知らないって言うし」
「それは心配ですね」
「そうなんだよなぁ」
めぐりの相づちに、有岡はため息をつく。
その中には副部長だからこその苦悩もあるのだろうな。
「だが、どこかに行っているだけだろう? そのせいで練習に参加していないとかか?」
「いや、再会までには帰ってくるんだけど、やっぱりどこか上の空でなぁ」
その後も、桐谷の話をいくつか聞いた。
部活中の詳しい様子や、普段の彼の性格など。
「分かりました! その悩み、奉仕部が解決しましょう」
「とりあえず、その桐谷ってやつを調べればいいんだな?」
「そう、だな。ここまで話したんだ。よろしくお願いします!」
有岡は頭を下げる。
俺とめぐりは、首を縦に振った。
「了解した」
「頑張ります!」