ようこそ堀北至上主義の教室へ   作:かわらまち

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メインヒロインは堀北鈴音です


第1話

 東京都高度育成高等学校。この学校には、一般的な高等学校とは異なる特殊な部分がある。学校に通う生徒全員に敷地内にある寮での学校生活を義務付けると共に、在学中は特例を除き、外部との連絡を一切禁じていることだ。たとえ両親や兄弟であっても、学校側の許可なく連絡を取ることは許されない。当然ながら許可なく学校の敷地から出ることも固く禁じられている。それだけ聞けば、かなりヤバい高校で、進学したいなどと思う奴はただのドМか、自殺志願者だろう。

 

 しかし、この学校を目指す生徒は腐るほどいる。なぜならこの学校は未来を支えていく若者を育成することを目的として日本政府が直々に建設した、進学率・就職率100%と言われる進学校たからだ。

 

 つまり、この学校に入れば将来を約束されたも同然ということだ。さらには、60万平米を超える広大な敷地内にスーパーやコンビニ、カラオケやシアタールーム、カフェやブティックなど数多くの施設が存在し、生活に困ることはないという。

 

 こんな嘘みたいな学校に通いたいと誰もが憧れる。俺もそのうちの一人であり、合格をつかみ取った勝ち組なのだ。まさに薔薇色の高校生活が幕を開ける!

 

 

 

 

 

 

 

「俺の薔薇色の高校生活はどこにいった!堀北ちゃん!」

 

 俺の雄たけびが教室に響く。クラスメイトは何事かとこちらに視線を向けるが、大声の発生源が俺だと分かると、「ああいつものか」といった感じに各々の話へ戻る。唯一俺に視線を向けているのは目の前に座る黒髪の美少女。向けられる視線はとても冷ややかだ。

 

「……いきなり何を言っているのかしら」

 

 嫌々ながらも返答をしてくれた堀北ちゃん。無視をする方が面倒臭いことになることをこの1ヵ月程で学んだのだろう。できる女は違うぜ。

 

「だからさ、俺の薔薇色の高校生活だよ」

 

「頭でもおかしくなったのかしら?いえ、元々おかしかったわね」

 

 堀北ちゃんに物凄い怪訝そうな顔をされる。まぁ、いつものことだから気にしない。

 

「だって聞いてた話と違うじゃん!学校の恩恵を受けれるのがAクラスだけとかさ!入るだけでどこでも就職できるんじゃなかったの!」

 

「うるさいわね。あまり吠えないでくれるかしら。耳障りだし目障りだわ」

 

「だってさー」

 

「だっても何もないわよ。そもそも、そんな事を当てにしていたのが愚かなのよ」

 

「えー。みんな、それが理由でこの学校に入学してるんじゃないの?」

 

「少なくとも私は違うわ。あなたみたいな変人と一緒にしないで頂戴。不快よ」

 

「じゃあ何でここに入学したん?」

 

「……あなたには関係のないことよ」

 

 堀北ちゃんは視線を窓の方へ移すことにより拒絶の意を示す。これは聞いても教えてくれないだろうな。踏み込んだら間違いなく怒られる。

 

「でもさ、ほとんどの人は俺と同じ考えで入学したと思うよ。とくにうちのクラスメイトはさー」

 

 教室を見渡すとクラスメイト達が騒いでいるのが目に入る。話題は先ほど担任の茶柱先生から通告されたこの学校の本当のシステムについて。

 

「堀北ちゃんはポイント残ってるの?」

 

「当たり前よ。この先どうなるかもわからないのに無暗に使うわけないでしょ」

 

「堅実だね。将来はいいお嫁さんになるね。もちろん、俺の」

 

「なる気もないしなる予定もないわよ」

 

 この学校ではSシステムと言われるものが存在し、敷地内での買い物などはこのSシステムのポイントで取引される。先生曰く、このポイントで買えないものはないらしい。入学初日に10万ポイントを支給されたのだが、今月になるとポイントは1円も支給されなかった。毎月10万ポイントを支給されるのだと思い込んでいた生徒が結構いて、ポイントを1ヵ月でかなり消費してしまったようだ。

 

「って、クラスの有象無象どもの事なんかどうでもいい。それより、堀北ちゃんは将来、結婚する気がないの!?」

 

「別にどうでもいいでしょ」

 

「よくないわ!結婚する気がなかったら俺の妄想している堀北ちゃんとの新婚ラブラブ生活が実現しないじゃないか!」

 

「勝手な妄想をしないで。訴えるわよ。それに、もし結婚するとしてもあなたとではないことは確かね」

 

 バッサリと切り捨てられた。堀北ちゃんが俺以外と?フッ、ありえないな。西から昇ったお日様が東へ沈むくらいありえない。堀北ちゃんをお嫁さんにするのはこの俺だ。

 

「絶対にないわよ」

 

「照れんなよ」

 

「はぁ、頭が痛いわ」

 

 手を額に当て溜息をつく堀北ちゃん。大丈夫だろうか。重症なようなら保健室に連れて行こう。そして添い寝をしてあげよう。

 

「なぜか急に悪寒がしたわ」

 

「それは大変だ!すぐに保健室に行こう!」

 

「結構よ。なんでそんなに食い気味なの、気持ち悪い」

 

 残念ながら振られてしまった。せっかくの添い寝チャンスがなくなってしまったが、堀北ちゃんが元気なのが一番だから問題はない。

 

「それより大丈夫?」

 

「だから問題ないと言っているでしょ」

 

「いやいや、そうじゃなくてさ」

 

「何?」

 

「Dクラスの本当の意味を知らされたときにショックそうだったからさ」

 

 堀北ちゃんは目を見開いて驚いた表情で俺をみて、すぐに眉間に皺を寄せ視線を外した。

 

「……よく見てるわね」

 

「当たり前じゃん」

 

この学校ではA~Dまでのクラスがある。普通ならその並びに意味など無いのだろうが、この学校は違う。ここでは優秀な生徒たちの順にクラス分けされるようになっている。最も優秀な生徒は”A"クラスへ。ダメな生徒は”D"クラスへ、と。

 

「大なり小なりショックだったのはみんな同じでしょ。いきなり言われて納得できるわけない」

 

「確かにねー」

 

「……あなたは納得できるのかしら?」

 

「まぁ、納得はできないけど大した問題でもないかな」

 

「Dクラスってことは最底辺ってことなのよ?ちゃんと理解できているの?」

 

「分かってるって。でもさ、結局Aクラス以外は落ちこぼれってことでしょ?じゃあBとかCとかどうでも良くない?瑣末なことだよ」

 

「そういう問題じゃ……」

 

「それにさ、卒業までにAクラスになればいいだけだろ?簡単な話じゃん」

 

 なにもずっとDクラスなわけではない。今後の行動次第ではAクラスになる事だってできる。それにこの学校はポイントで何でも買えるのだ。Aクラスへの切符も買う事だってできるかもしれない。

 

「はぁ、あなたは相変わらずお気楽ね」

 

「それが俺の取り柄」

 

「さっきまで薔薇色がどうとか騒いでいたくせによく言うわ」

 

「あれは今の周りの空気的に騒いどいたほうがいいかなって思っただけ。ほら、俺って空気めちゃくちゃ読めるじゃん?」

 

「空気が読めるのなら私が出している空気も読んで欲しいものね」

 

「俺のこと好き好きってやつなら読めてるから安心していいよ」

 

「その真逆よ」

 

 おかしいな。堀北ちゃんの俺に対する好感度はかなり高いものだと思っていたのだが。

 

「その自信はどっからくるのよ。病院に行ったほうがいいんじゃないかしら」

 

「俺のこと心配してくれるなんて堀北ちゃんは優しいなー」

 

「本当にうざいわね。叩けば直るかしら」

 

「堀北ちゃんに叩かれるなんて俺にしたらご褒美だからね」

 

「はぁー」

 

 今日何度目かの溜息。そんなに溜息をついていたら幸せが逃げるぞ。別に俺が堀北ちゃんを幸せにするから問題ないが。

 

「んでさ、Dクラスに配属されたのが我慢できないって感じかな?」

 

「なぜそう思うの?」

 

「顔に書いてる」

 

「屈辱ね。人の顔を見ないでくれるかしら。警察呼ぶわよ」

 

 何と言って通報するのだろうか。顔を見られました助けてください、とか?俺はメドゥーサか何かだったのだろうか。

 

「不服に決まっているでしょう。入試も殆ど解けたし面接だってミスをした覚えはないわ」

 

「堀北ちゃんは頭が良いもんね。でもその理屈だと俺もDクラスだとおかしいんだよね」

 

「……屈辱だわ」

 

 堀北ちゃんは優秀だ。さっき先生が発表した実力テストの結果を見てもそう断言できる。なぜなら90点という高得点を出して同率2位に名を連ねていたからだ。ちなみに俺は100点だった。

 

「あなたは人間性でDクラスなのよ」

 

「えー。それを言ったら堀北ちゃんも人間性アウトじゃんかよー」

 

「は?私のどこに問題があるの?」

 

「協調性がない。あと、クラスの人たちを見下しているところかな。そんな堀北ちゃんも俺は好きだけど」

 

「……うるさい。私はあなたが大嫌いよ」

 

「照れんなって」

 

 堀北ちゃんの頬がほんのり赤く染まっていた。なんてことは全くなく、表情は無だった。せめて嫌悪感を出してほしい。無は心にくる。

 

「別に協調性なんて必要ないでしょう」

 

「そうとも限らないんじゃないかなー」

 

「どういうこと?」

 

「さぁ?俺にもよく分からん」

 

「何よそれ」

 

「後で先生にでも聞いてみたら?いい返事が返って来るとは思えないけどさ」

 

 この学校は日本屈指の進学校だ。仮に学力だけで優劣をつけているのだとしたら、このクラスの生徒のほとんどが入学すらできていないだろう。学力以外で入学できている生徒が何人もいることが優劣のつけかたが単純なものではないことを物語っている。

 

「堀北ちゃんはAクラスを目指すの?」

 

「まずは先生に話を聞いてみるわ。それでもDクラスなのだとしたら……」

 

 その続きが堀北ちゃんの口から発せられることはなかった。

 

「まぁ、どっちでもいいけどねー」

 

「あなたはどうするの?」

 

「俺?俺は別にどうでもいいかな」

 

「薔薇色の高校生活は諦めるのかしら」

 

「いや、諦めないよ」

 

「あなたはバカなの?今のままでは無理よ。恩恵を受けられるのはAクラスだけ」

 

 堀北ちゃんは俺の矛盾している発言に少し苛立つ。そうか、さっき俺が騒いでいたから勘違いをしているのか。

 

「俺の薔薇色の高校生活に恩恵だとかは関係ないよ。言ったでしょ、さっき騒いでたのは周りに合わせただけって」

 

「どういうこと?じゃあ、あなたの言う薔薇色の高校生活ってのは何?」

 

「それはね、堀北ちゃんだよ」

 

「……私?」

 

 俺の言っていることが意味が分からないのか、首を傾げる堀北ちゃん。

 

「俺の薔薇色の高校生活は君と一緒にいること。堀北ちゃんと一緒に学校生活を送っていきたい。好きだから。ただそれだけ」

 

 この学校に来て、一目見て恋に落ちた。ただ、この子と一緒にいたい。笑い合いたいって思ったんだ。だから俺の求めることはAクラスにあるのではなく、堀北ちゃんがいるクラスにあるのだ。

 

「鳴海くんは本当に気持ちが悪いわね」

 

「照れんなって」

 

 目を逸らした堀北ちゃんの頬は今度こそ少し赤く染まっていた気がする。

 

 これは俺、鳴海 幸(なるみ こう)が堀北ちゃんとイチャイチャするために頑張るだけの話。

 

 

 

 

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