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「そういえば清隆の気になることって結局何だったんだ?」
勉強会が終わった帰り道、櫛田の横に行って話を聞く。俺の前に堀北ちゃんと清隆が並んで歩き、その前には三馬鹿トリオが馬鹿をやりながら歩いていた。清隆に堀北ちゃんの横を取られている事実にジェラシーを感じるも、櫛田と二人で話す必要があるので仕方がない。当の櫛田は何かを思いついたのか、悪い笑みを浮かべている。
「ふふっ、知りたい?知りたい?どうしようかなぁ?鳴海君がどーしても知りたいって言うなら教えてあげても───うぴゃあ!?」
イラッときたのでいつものやつをお見舞いしてやる。ちなみに清隆への嫉妬の恨みも一緒に込めたのは秘密だ。しかし、こいつはこうなることが分かっててやってるのか?さてはこいつも変態の一味か?
「ううっ、女子に手をあげるなんてサイテーだよ」
「俺は男女平等を信念としているからな。ムカついたら女子でも容赦はせん」
「じゃあ堀北さんにも同じことができるの?」
「おいおい、お前ら一般女子と堀北ちゃんを一緒にするなよ。恐れ多いぞ」
「真顔でそういうこと言わないでくれるかな?本当に怖いから」
櫛田は俺を青ざめた表情で見る。そんなにおかしなこと言ったかな。普通に堀北ちゃんは別次元の存在だと言っただけなんだけど。
「それで、何があったんだ?」
「……綾小路君が学食で三年生の先輩に話しかけたの。それでねある取引をしたんだけど、何かわかる?」
「テストの過去問か?」
「そうそう。テストの過去問を……って何で分かったの!?」
「何となく予想はしていたからな」
「面白くない」
櫛田はいじけて地面にある小石を蹴った。なるほど、清隆が動いてくれたか。俺も考えていた正攻法ではない方法を清隆も思いついていたということか。まぁ、俺が思いつくぐらいだから清隆の頭の中にないわけがないけどな。
「さっきそれを見せなかったのは何か理由があるのか?」
「過去問をすぐに見せちゃうと緊張が緩むし、折角の頑張りに水を差すからだって。それに信用しすぎるのも良くないって言ってたよ」
「確かに今年から問題が変わる可能性はゼロではないからな。ということは配るのは前日か」
「そういうことっ」
自分で考えたわけではないのにドヤ顔で話す櫛田を嘲笑しつつ、清隆に感心する。前日に配れば皆必死に頭の中に叩き込むだろう。もし問題が今年から変わっていたとしても前日までは勉強をしているわけだから問題はない。俺だったら安易に配っていたかもしれないな。そのへんの思慮深さは一級品だ。ホワイトルーム恐るべし。なんであいつDクラスにいんの?
「つまり、俺の須藤への熱い説得は無駄だったというわけか」
「無駄なんかじゃないよ。きっと、須藤君に響いたと思う」
「まさかお前に慰められるとはな」
「鳴海君は私の事なんだと思ってるのかな?」
「腹黒痴女」
「ふざけんな!」
ギャーギャー文句を言ってくる櫛田を無視するが、心の中では一応感謝しておく。俺に何を言っても無駄だと気づいたのか櫛田は諦めて静かになった。
「ねぇ、鳴海君。仮の話なんだけど、堀北さんと私が対立したとき、どっちの味方をする?」
「堀北ちゃん」
「ははっ、気持ちがいいくらいの即答だね」
「当たり前だ。比べるまでもない」
「その点は堀北さんが羨ましいかも。絶対的な味方がいるって心強いと思う」
いつものように笑顔を張り付けている櫛田だが、その仮面がひどく脆く見えた。
「そもそも堀北ちゃんと対立した時点で俺と対立するようなもんだろ」
「そうだね。変なこと聞いてごめんね」
「まぁ、相手が堀北ちゃんじゃなければお前の味方してやるよ」
「……え?何で?」
「何でってそりゃ、友達なんだから当然じゃね?」
櫛田は俺の発言を聞いてその場に立ち止まる。こいつは何を呆けた面をしているのだろうか。怒ったり沈んだり呆けたり忙しい奴だな。
「鳴海君って私の事を友達と思ってたの?」
「は?何をいまさら言ってんだよ」
「だって、いつもいじめてくるから」
「それはお前の反応が面白いからだ。俺は悪くない。むしろお前が悪い」
「なんでそうなるんだよ!」
こういう風にツッコミをしてくるから弄りがいがある。普段は仮面をかぶって隙を見せないくせに弄ると簡単に本性を出す櫛田は面白い奴だと俺は思う。
「てか前に、今日から親友だって俺、言わなかった?」
「言ってたけど……本気だとは思わなかったから。私の本性を知っているわけだし」
「お前の本性を知ってるからこそ友達になったんだけど」
「でも、自分で言うのもなんだけど、口が悪いし、それに───」
「性格も悪い」
「うるさい。お前が言うな」
櫛田は凄い形相で俺を睨む。自覚があるんだったら俺が言っても問題ないだろ。
「口が悪くて性格が悪いなんて大した個性でもないだろ。見方を変えれば堀北ちゃんもそうだしな。まぁ、そんな堀北ちゃんが俺は大好きだからどうでもいいけどな」
「で、でも───」
「でもでも言うな、鬱陶しい。俺とお前は友達。簡単な話だろ。はい、もうこの話は終わり!」
うじうじしている櫛田に苛立ちを覚え、強制的に話を終わらせる。何を気にしているのか知らんし興味もないわ。俺の思考は堀北ちゃんの事だけで手一杯なのだ。思考をすべて堀北ちゃんに埋められるって、支配されているようでなんかいいな。
「そっか……友達か……ふふっ」
「何笑ってんだよ、気持ち悪いぞ」
「お前にだけは言われたくないよ!」
今度は急に笑い出した櫛田を見て少し引く。勉強のし過ぎで頭がおかしくなったのだろうな。可哀想に。
「本当に堀北さんが羨ましくなってきたな」
「ん?堀北ちゃんがなんだって?」
「何でもないよ。バーカ」
人を罵りながら櫛田は前を歩く三馬鹿トリオの方へ駆けて行った。よく分からんが、最後は笑顔が戻っていたので解決したのだろう。人騒がせな奴だ。
「櫛田と何かあったのか?」
「いや、特に」
「そうか」
清隆が駆けて行く櫛田の姿をみて俺の横に来た。どうやら俺と櫛田が話しているのに気を使ってくれていたみたいだ。そうとはしらずに嫉妬してごめん。
「清隆と俺は友達だよな?」
「……そうだな」
清隆の返事には間があったが、怖くてこれ以上は聞けなかった。これで清隆も友達と思ってなかったとかだったら泣いちゃうかもしれん。
「鳴海、ここはどうすりゃいいんだ?」
「ここはさっきの公式を使うんだ。いわゆる応用問題だな。実際のテストなら捨ててもいいかもな」
「でもよ、こういうのって配点が高いんだろ?捨てていいのかよ?」
「解けそうにない問題に時間を割いて他の問題が解けなかったら意味がないだろ。時間が余ったら解くぐらいの気持ちでいいと思うぞ」
「そっか、分かった」
いよいよテストの前日となった。あれから勉強会を重ねてきたが、面白いくらいに須藤が素直になっている。分からないところは俺か堀北ちゃんに迷いなく聞いてくるし、アドバイスも簡単に聞き入れる。別人が入れ替わったと言われても驚かないレベルだ。
「そういえば今日だな」
「ん?なんかあんのか?」
「いや、気にするな」
不思議そうな顔をする須藤を横目に櫛田の姿を探す。すると、ちょうど行動を起こそうと教壇へと向うところだった。
「皆ごめんね。帰る前に私の話を少し聞いてもらってもいいかな?」
そう言ってクラス全員に例のプリントを配り始めた。そのプリントを見て、クラスメイトは一様に驚く。それは堀北ちゃんも例外ではない。驚いた表情の堀北ちゃんマジカワユス。
「テストの……問題? もしかして櫛田さんが作ったの?」
「実はこれ、過去問なんだ。昨日の夜に三年生の先輩に貰ったの。聞いた話だと一昨年の中間テストがこれとほぼ同じ問題だったんだって。だからこれを勉強しておけば、きっと本番で役に立つと思うの」
櫛田の発言にクラス中が歓喜の渦に包まれる。さすが腹黒ちゃん、息を吐くように嘘をつく。演技力はなかなかのものだ。
「須藤君と鳴海君もどうぞ」
「おう。助かるぜ」
「うむ、ご苦労」
須藤も嬉しそうに過去問を受け取った。もちろん須藤だけではなく、皆が嬉しそうに過去問を見ている。クラスの士気を上げる効果もあり、やはり前日にしたのが正解だった。清隆の策士め。
「何だよ、こんなんがあるなら勉強を無理して頑張らなくても良かったじゃん。なぁ、須藤」
山内がヘラヘラ笑いながら須藤に話しかけた。もし堀北ちゃんの前でそんなことぬかしやがったら引きずり回してやる。そう思っていると須藤がおもむろに立ち上がって山内の胸ぐらをつかんだ。
「堀北や鳴海が俺らのために色々やってくれてたんだぞ。そんな言い方はないんじゃねぇのか?」
「ちょ、どうしたんだよ須藤」
俺も堀北ちゃんも須藤の言葉を聞いてかなり驚いている。あの須藤がこんなことを言うなんて。まじで中身が入れ替わってるんじゃないのか。
「気持ちはありがたいが、その喧嘩っ早いのはどうにかしないとな」
「ちっ、うっせーよ」
須藤は頭をかきながら山内を離すと大人しく席に座った。その様子を見てクラスにどよめきが起こる。そうだよね、やっぱり変だよね。こんな素直に聞き入れる奴じゃないよね。普通にいい奴になっちゃってるじゃん。
「須藤、なんか拾い食いでもしたのか?ポイントがないからって拾い食いは良くないぞ」
「してねーよ!何で急にそんな話になんだよ」
「そっか、勉強のやり過ぎで頭がおかしくなったのか」
「てめぇ、やんのかコラ!」
いつもの須藤だった。とりあえずデコピンをお見舞いしてやった。それを見て櫛田が自然とデコを押さえていた。やっぱり櫛田と須藤の躾にはデコピンが必要不可欠だな。
「そろそろ帰るか、あとは部屋に帰って過去問を見るだけでいいだろ」
「おう」
須藤と軽く勉強をしていたが、あとの時間は過去問の暗記に使うべきだと判断して、帰ることにした。ノートやペンをしまっていると、堀北ちゃんが話しかけてきた。
「鳴海君、今から帰るのかしら?」
「そうだよ。堀北ちゃんも一緒に帰る?俺としては手をつないで帰るのが一番おすすめなんだけど」
「そうね、帰りましょう」
「え、まじで?手つなぎで?」
「指一本でも触れたら折るわよ」
手つなぎはないにしろ、堀北ちゃんからオッケーが出るとは思わなかった。もしかして夢でも見ているのではないか。
「須藤、俺の頬を叩いてくれ」
「任せろ」
「痛い!」
普通に痛い。その痛みが夢ではなく現実だと教えてくれた。てか、須藤の奴、軽く叩くだけでよかったのにグーで殴りやがった。よっぽど俺に絞め落とされたいらしいな。
「んじゃ、俺は先に帰るわ」
「へ?一緒に帰らないのか?」
「そんな野暮なことはしねーよ。じゃあな」
須藤は俺の肩に手を置いてから教室を後にした。あいつまさか俺に気を使って先に帰ったのか。滅茶苦茶いい奴じゃん。ただのいい奴じゃん。お前、キャラが完全に崩壊してるけど大丈夫なのか。
「グズグズしてないで早く帰るわよ」
「イエスマム!」
「次その返事をしたら舌を引きちぎるわ」
「俺とは対等でいたいということだね。可愛いなー」
「鳴海君は舌が必要ないみたいね」
「ごめんなさい」
堀北ちゃんと話せなくなるのは絶対に嫌だ。堀北ちゃんはため息をついて教室を出て行ったので犬のように後ろをついて行った。
「堀北ちゃんと下校できるなんて俺は幸せ者だな」
「これまで何度も帰っているでしょう」
「何回帰っても幸せなんだよ」
「随分と安上がりな幸せね」
「じゃあ、これから毎日登下校を───」
「嫌よ」
「何でだよー」
俺が提案をする前に堀北ちゃんに一刀両断される。
「あなたが幸せでも、私が幸せじゃないからよ」
「大丈夫、俺が幸せにしてみせるから」
「あなたの存在が私にとっての不幸なのよ」
「それ、詰んでるやん」
あまりの衝撃に関西弁になってしまった。俺が幸せにしたいのに、俺じゃ幸せにできないだと。何そのジレンマ。でも、ロミジュリみたいでちょっと興奮する。
「いえ、違うわね」
ひとりで興奮して悶えていると、堀北ちゃんはポツリと呟いた。
「鳴海君が居なければ勉強会はうまくいかなかった。感謝しているわ」
「堀北ちゃんがまたデレた……?春はすぐそこか?」
「そんなわけないでしょう。さっき櫛田さんにお礼を言ったから、あなたにも言うべきだと思っただけよ」
驚きのあまり漏らした言葉をすぐさま否定される。
「お礼なんていいよー。俺は別に何もしてないし、もし俺がいなくても問題なかったと思うよ」
「そんなことないわ」
「別に気を遣わなくて大丈夫だって」
「いつもは自信過剰なのに変な所で卑屈ね。鳴海君が居て、協力してくれたから勉強会がうまくいった。その事実は紛れもなく本物よ。もしもの話なんてする意味がないわ。そもそも、私があなたに気を遣うなんてありえるわけがないでしょう」
確かに堀北ちゃんが言う通り、俺に気を遣うはずがない。つまりは本当に堀北ちゃんが俺に感謝をしているということだ。
「そうだね。うん、ありがとう堀北ちゃん」
「何故あなたが礼を言うのよ」
「堀北ちゃんのお礼に対するお礼かな」
「何よそれ。馬鹿ね」
誰かに必要とされるってのはやはり嬉しいものだな。それが好きな人であればなおのこと嬉しい。俺の事必要だと言ってくれたのなんて有栖くらいだからな。
「あなたの事だから猿みたいに騒ぐかと思っていたけれど、予想外の反応ね」
「あんまり人に感謝されたことないから耐性がないんだよね。罵られる方は耐性ありまくりなんだけど」
「どうりで何を言ってもめげないわけね」
「堀北ちゃんの言葉には愛がこもっているのを知っているから大丈夫なだけだよ?」
「そんなものをこめた覚えはないわ。私がこめるのは100%の嫌悪感だけよ」
そう言って堀北ちゃんは嫌悪感をこめるように俺を睨む。相変わらず堀北ちゃんはツンデレのようだ。
「鳴海君はテスト大丈夫でしょうね」
「もちろん。堀北ちゃんこそ大丈夫なの?須藤達の面倒見るので手いっぱいだったよね」
「愚問ね。普段から勉強をしていれば問題ないわ」
「俺たち似た者同士でお似合いだね」
「あなたのような掃き溜めみたいな人間と一緒にしないで。不快よ」
掃き溜めみたいな人間ってどんな人間なんだろうか。掃き溜めに鶴のことわざにかけているのだろうか。まぁ、堀北ちゃんが鶴のように美しいのは間違いないな。
「つまり、私に似合う男になれということか。俺、頑張るよ」
「どうしてそうなるのよ」
堀北ちゃんはいつものように、呆れた様子で溜息をついた。何故呆れられたのかは見当もつかん。
「それより、忘れてないでしょうね」
「俺との結婚の約束のこと?」
「そんな約束したことはないし、未来永劫することもないわ」
「約束なんかしなくても俺たちは結ばれる運命みたいな?」
「知ってるかしら?運命は辿るものじゃない。壊すものなのよ」
「なにそれカッコイイ」
堀北ちゃんの名言を聞いて憧憬の眼差しを向ける。堀北ちゃんは俺の反応が予想外で照れくさくなったのか、顔をそむけた。若干耳が赤くなってるところが可愛すぎてしんどい。
「私が聞いているのは、勝負の件よ」
「照れ隠しする堀北ちゃん……尊い」
「何か言ったかしら?」
「いえ、何でもないです」
堀北ちゃんの純粋な殺意が込められた睨みに、これ以上触れるとマズいと判断する。勝負の件っていうと、テストの点数の話か。勝った方が何でも命令できるんだっけか。
「俺が堀北ちゃんとの会話を忘れるわけないけど、アレ、本気で言ってたの?」
「当たり前でしょう。必ずあなたを負かすわ」
「堀北ちゃんに負かされるなら本望だよ」
「手を抜いたら一生口をきかないといったはずよ」
「それは卑怯だぞ!」
堀北ちゃんの条件に抗議の意を示す。だって堀北ちゃんと話せないとか、学校にいる意味ないじゃん。堀北ちゃんは俺にとっての酸素と言っても過言ではない。それを奪おうとは死刑宣告ではないか。
「手加減せずにテストを解けばいいだけの話でしょう」
「まぁ、そうなんだけどねー」
負けなければいいだけの話だし、負けても手を抜いてさえいなければ問題はない。でも、俺がどうするかはもう決めちゃってるんだよな。どうしたものか。
「そういうことだから、真面目にやりなさい」
そう言って堀北ちゃんは寮に着くなり、先にエレベーターに乗って帰って行った。負けず嫌いな所もまた可愛いんだよね。
「おかえりなさい、幸くん。ご飯にします?お風呂にします?それとも───」
勝負の件に頭を悩ませながら開いた自室の扉を勢いよく閉める。考えすぎて頭がおかしくなったのだろうか。幻覚がみえた。てか、幻覚であってほしい。
「もう、最後まで言わせてくださいよ。幸くんは意地悪ですね。そんなところも素敵ですが」
俺の願いを打ち破るかの如く、内側から扉が開かれる。現れたのはエプロン姿の銀髪の天使だ。
「なんで俺の部屋にいるんだよ、有栖」
「あら、家に帰ってきたらまず言うことがあると思うのですが」
「……ただいま」
「はい、おかえりなさい」
有栖の問いに渋々答えると満面の笑みをうかべた。お気に召したようで何よりだ。
「ちゃんと手洗いうがいをしてきてくださいね」
「おう」
有栖に言われるがままに洗面所へ向かう。手を綺麗に洗った後、部屋に入ると机の上に紅茶が入れられていた。
「幸くんが好きな茶葉ですよ」
「やったー。じゃなくて、なんでお前が俺の部屋にいるんだよ」
「私たちは家族のようなものなんですから別に構わないですよね?」
「いや、そういう意味じゃなくて。どうやって入ったんだ?鍵かけてたよな」
「ふふっ、秘密です」
有栖は可愛らしく人差し指を立てる。まじでどうやって入ったんだよ。ポイントで合鍵でも作ったのか?いや、まさかそんなことはありえない……いや、こいつならやりかねんな。怖いから追及するのはやめとこう。別に困るものでもないし。
「何か用事でもあったのか?」
「用事というわけではありません。テスト前日ですので幸くんの様子を見に来ただけですよ」
「人の心配してる暇あったら勉強でもしといたらどうだ?」
「必要ありませんよ。幸くんと一緒で」
「一緒にするなよ。俺は今から過去問見て配点を覚えるんだから」
「答えではなく、配点をですか。変わった言い方をしますね」
「目ざといねー」
「幸くんの事ですからね」
有栖は当然だという顔でティーカップを口に運ぶ。昔からこいつに隠し事をできたことがない。俺のポーカーフェイスを見破るとは恐ろしい子だ。
「結局、遊びに来ただけってことだな」
「そうとも言いますね」
「そうかい。飯作るけど食っていくか?」
「はい!幸くんの久しぶりの手料理、とても楽しみです」
「そんな大したものじゃないだろうに」
目をキラキラさせて喜ぶ有栖の頭を撫でてキッチンへと向かい、晩飯を作った。一緒に食べた後有栖は自室へ帰って行った。その後、過去問を一通り覚えてから床に就いた。
ちなみに、寝る直前に堀北ちゃんに感謝されたことを思い出し、狂喜乱舞したことは言うまでもない。
次回で一巻の内容が終わります。
いつものことですが、次回更新は未定です。