書き直すのが面倒くさいわけではないですよ?(;・3・)~♪
今回は堀北視点の話になります。
第1話の後の話です。
私、堀北鈴音は苛立ちを募らせながら廊下を歩いていた。目的地である生徒指導室に向けて歩く速度は心なしか速くなっている。それもこれも先程の茶柱先生の発言のせい。いや、鳴海君にいつものごとく絡まれたのも苛立ちの一つであることは間違いない。面倒なことに、あの男はあろうことか私に好意を持っており、事あるごとにアタックしてくる。
正直な話、好意を持たれることは昔からよくあった。告白されたことも何度もある。けれど、私はその全てを切り捨ててきた。恋愛などというものに興味がなかったし、そもそも私のことをろくに知りもしないで好きだと告白してくる人に嫌悪感しか覚えなかった。だからこそ二度と私にそんな感情を向けられないよう罵倒し、拒絶した。そうすると皆が口をそろえてこう言った。「こんな人だと思わなかった」と。勝手に私に幻想を抱き、見た目で判断して好意を寄せる。それで告白を断られたら被害者面をして、冷徹だの最低な女だのと吹聴する。挙句の果てには美人だからって調子に乗るななどと言ってくるのだけれど、私の容姿に何の関係があるというのか。まぁ、彼らが何と言おうと知ったことではない。今までもこれからも私は変わるつもりはないし、変わる必要もない。
だから、
しかし、無情にも彼とは同じ教室、つまりクラスメイトだった。彼も私の存在に気付き、駆け寄ってきた。
『さっきは急にごめんね。まさか君があんな性格だとは思わなかったんだ』
例に漏れずこの男も今までと一緒だ。勝手に見た目に惚れて、勝手に幻滅する。どうでもいいからもう私に関わらないでほしかった。
『……良い』
ボソッと何かを呟いた彼に私はとっさに聞き返してしまった。この時聞き返さなければ違う未来になっていたかもしれないと思いつつも、結局は同じ未来になることは容易に想像できるわね。
『惚れた!容姿も滅茶苦茶タイプだけど、中身も良い!その蔑んだ目、最高だ!』
変態だった。今までに会ったことのない人間で困惑したことをよく覚えているわ。それを目敏く察知した彼は再び私に謝罪をした。
『ごめんねちょっとテンション上がっちゃって。えっと、堀北鈴音さんでいいんだよね。それじゃあ堀北ちゃんって呼ぶね。さすがに出会ってすぐに名前呼びはハードル高いしもっとお互いを知ってからだよね。あ、俺は鳴海幸っていいます。呼び方は堀北ちゃんの好きに呼んで。呼び捨てでも君付けでもいいし、堀北ちゃんなら下の名前でも全然オッケー。あだ名とかでもいいよ。色々あるけど、俺のオススメは、なるみんかな。親しみがこもってるし、堀北ちゃんが呼んでる姿を想像すると可愛すぎてキュン死しそう。ところで堀北ちゃんの出身はどこ?俺はね───』
地獄だった。私のことなどお構いなしにひたすらしゃべり続けるこの男はいったい何なのか。止まる気配がないので無理やり話すのをやめさせた。彼は申し訳なさそうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔に変えて私を見た。何故かそれに腹が立ち罵倒するも、特に響いた様子もなくニコニコしていた。
『堀北ちゃんは一目惚れなんて一過性のものだって言うけど、俺は今以上に君を好きになる自信があるよ。でも、堀北ちゃんの気持ちを考えずにいきなり告白したのは間違いだった。知らない奴からの告白なんて嫌に決まってる。だからこれから俺の事を知ってほしい。これから好きにさせてみせる。そしてもう一度告白させてくれ』
自分勝手な話だ。もちろん答えはノー。こんな変な男に付きまとわれるのなんてまっぴらごめん。なのに強く否定できなかった理由は分からない。彼が可哀想に思えたのか。いや、きっと相手にするのが疲れただけよ。
『これからよろしくね、堀北ちゃん!』
そう嬉しそうに笑みを浮かべた彼は、宣言通り毎日のように絡んできた。最初のうちは無視を決め込んでいたが、無視する方が面倒なことだと気付き、適当にあしらうようになった。そんな生活も早一か月、段々彼がいる生活に慣れ始めている自分がいる。彼の笑顔に徐々に絆されているような気がして強い嫌悪感を抱く。慣れとは怖いものね。
閑話休題。鳴海君のことはいったん忘れて本題に戻ろう。生徒指導室についた私は、ドアをノックする。わずかの間を置いて中から入室を促す声が聞こえた。挨拶をして中に入ると茶柱先生がいた。
「率直にお聞きします。何故私が、Dクラスに配属されたのでしょうか」
「本当に率直だな」
茶柱先生は呆れたように笑った。私がわざわざ茶柱先生に時間を作ってもらってまで聞きたかったことだ。
「先生は本日、クラスは優秀な人間から順にAクラスに選ばれたと仰いました。そしてDクラスは学校の落ちこぼれが集まる最後の砦だと」
「私が言ったことは事実だ。どうやらお前は自分が優秀な人間だと思っているようだな」
茶柱先生の馬鹿にしたような発言が少し癪に障った。
「入学試験の問題は殆ど解けたと自負していますし、面接でも大きなミスをした記憶はありません。少なくともDクラスになるとは思えないんです」
別に自意識過剰なわけではない。事実を並べたうえでDクラスになるなどありえない事だと言っているだけ。主観的にも、客観的にも、自身が優秀な人間に分類されると自負している。
「入試問題は殆ど解けた、か。本来なら入試問題の結果など個人に見せないが、お前には特別に見せてやろう。偶然にもここにお前の答案用紙がある」
そう言って茶柱先生は数枚の解答用紙を私に手渡した。まるで私が抗議に来ると分かっていたような用意周到さね。紙に目を通すと、自己採点とほぼ変わらない点数に少し安堵する。やはり入試の成績は良かったのだ。茶柱先生が言うには今年の一年の中では同率4位の成績であり、上位3人とも僅差。さらに面接でも特別中止される問題点はなく、むしろ高評価だったそう。
「では、なぜDクラスなのですか?」
至極当然の疑問。入試の成績、面接ともに良かったにもかかわらず、Dクラスになることに納得がいかない。
「その前に、お前はどうしてDクラスであることが不服なんだ?」
「正当に評価されていない状況を喜ぶ者などいません。ましてこの学校はクラスの差によって将来が大きく左右されます。当然のことです」
「正当な評価? おいおい、お前は随分と自己評価が高いんだな」
茶柱先生の失笑にさらに苛立ちがつのる。
「お前の学力が優れている点は認めよう。確かにお前は頭が良い。だけどな、学力に優れた者が優秀なクラスに入れると誰が決めた? そんなこと我々は一度も言っていない」
先ほど教室で鳴海君との話通り、単純な成績は関係ないということか。認めるのは癪だけれど私より成績が上であろう彼もAクラスではないことが証明だ。
「確かに勉強が出来ることは1つのステータスだ。それを否定するつもりはない。しかし、この学校は本当の意味で優秀な人間を生み出すための学校だ。それだけで上のクラスに配属されると思ったら大間違いだ。それに、考えてもみろ。仮に学力だけで優劣を決めていたのなら、須藤たちが入学できたと思うのか?」
「それは……」
「それに、正当に評価されていない状況を喜ぶ者は居ないと言ったが、それは違う。Aクラスともなれば様々なプレッシャーが重くのしかかる。下のクラスからの妬み嫉みもすごいしな。お前が想像するより遥かに過酷で大変なものだ。だからこそ正当に評価されないことを良しとする者もいる」
「冗談でしょう?そのような考えは私には理解しかねます」
「そうか?Dクラスにもいると思うぞ。低いクラスに割り当てられたことを喜んでいる変わり者の生徒とか、Dクラスになれて一番喜んでいる変人とかな。堀北、お前にも心当たりがあるだろう」
頭の中にあの変態のアホ面が浮かび上がってくるも、すぐさま払いのけた。
「説明になっていません。採点基準が間違っていて、私がDクラスに配属された可能性もあります。再度確認をお願いします」
「残念だがDクラスに配属されたことは紛れもない事実だ。お前はDクラスになるべくしてなった。それだけの生徒だ」
これ以上茶柱先生と話していても無駄ね。改めて学校側に聞くしかないわ。
「一応言っておくが上に掛け合っても結果は変わらんぞ」
私の考えを見透かしたかのような発言にハッとする。鳴海君にも考えていることを読まれたし、私は分かり易いのかしら。いえ、この二人がおかしいだけよ。
「それに悲観せずとも卒業までにはAクラスに上がれる可能性は残っている」
「未熟なものが集められたDクラスでどうやってAクラス以上のポイントを取ると?どう考えても不可能です」
「それは私の知ったことではない。その無謀な道のりを進むかどうかは君たち個人の自由だ。それとも堀北にはAクラスに上がらなければならない理由でもあるのか?」
「……。とにかく、私が納得していない事だけは覚えといてください。ではこれで失礼します」
茶柱先生の質問に答えることなく、その場を後にしようとするが、茶柱先生に引き留められた。私に関係ある人物をもう一人呼んでいたと言われ、咄嗟に兄さんの顔が浮かぶ。しかし、茶柱先生にが口にした名前はクラスメイトである綾小路君だった。
指導室に備え付けられている給湯室から姿を現した綾小路君はわざとらしくため息をついた。どうやら私の話をきかれていたらしいが、茶柱先生は何がしたいのかしら。ここまでが仕組まれた流れだったことに苛立ちがさらにつのる。
「……先生、どういうつもりですか?」
「必要なことと判断したからだ。さて、綾小路、お前をここに呼んだわけを話そう」
「私はこれで───」
「待て、堀北。最後まで聞いていた方がお前のためになるはずだ。Aクラスに上がるヒントにもなるかもしれないな」
「……手短にお願いします」
部屋から出ようとドアにかけた手を離し、もう一度椅子に座る。信用ならないが、聞くだけなら問題ないと判断した。私が座ったのを確認し、茶柱先生はクリップボードに視線を落とすとニヤニヤと笑った。
「お前は面白い生徒だな、綾小路」
「茶柱、なんて奇特な苗字をもった先生ほどオモシロイ男じゃないすよ、オレは」
「全国の茶柱さんに土下座してみるか? んん?」
茶番を見せられ早くも帰りたくなる。残ったのは失敗だったかしら。
「入試の結果を元に、個別の指導方法を思案していたんだが、お前のテスト結果を見て興味深いことに気が付いたんだ。最初は心底驚いたぞ」
そう言って茶柱先生はクリップボードから見覚えのある入試問題の解答用紙を順に並べていった。その点数を見て驚嘆する。5教科全てが50点であり、さらには小テストまでが50点だった。驚きのあまり視線を綾小路君に向ける。本人は偶然と言うが意図的にやったとしか思えない。でもそんなことが可能なのかしら。
「あなたは、どうしてこんなわけのわからないことを?」
「いや、偶然だって。隠れた天才みたいな設定はないぞ」
「どうだかなぁ。ひょっとしたらお前よりも頭脳明晰かもしれんぞ」
茶柱先生に煽られて、ムッとする。この男も鳴海君のように私よりも上だというのかしら。しかもそれを隠して点数を合わせて遊んでいるというの?
「頭脳明晰と言えばあの変人もいたな。堀北のことが大好きな奴が」
「……」
ここで反応してしまうと負けたような気がするので無反応を突き通す。そんな私を見透かしてか茶柱先生はニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。
「余談だが、あいつの入試の成績は学年2位。堀北、お前よりも上だ」
「それがどうだというのですか?」
「奴は本来はAクラスに配属されることになっていたのだが、急遽Dクラスに配置換えになったらしい」
「え?」
「それも理事長の指示でな。事情は聞かされていないが、あいつも一筋縄ではいかぬ存在なのかもしれんな」
理事長の指示でDクラスに?一体どういうことなの。
「鳴海に関しては担任の私でさえも情報が少ない。Aクラスに配属予定だったことを考えると、普段はおちゃらけているが、かなり優秀な人間なのかもしれんな。もっとも、理事長からDクラスに配置換えするように指示されている時点で、大きな問題を抱えているようだがな。もしかしたら退学になるのは奴が一番かもしれんな」
「……それはなぜですか?」
「さぁな。もし退学になればお前も嬉しいだろう?言い寄ってくる面倒な男がいなくなるんだ。願ったり叶ったりじゃないか」
茶柱先生は言いたいことを全て言えて満足したのか、私と綾小路君を廊下に放り出し、職員室へ帰って行った。鳴海君の事情が気にならないと言えば嘘になるが、私にも知られたくないことはある。それにあの男が退学になるなんて想像もできない。気にしても無駄なことよ。
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今になってあの時の事を思い出すのはきっと目の前の衝撃的な事実に、理解が追い付いてないからだろう。教室の黒板に掲示されたテスト結果。皆一様に自身の結果を確認し、安堵の息を漏らしている。過去問の効果もあり、全体的に点数が高い。
「43点!」
「よっしゃー!赤点回避だ!」
須藤君英語の点数を確認し、三馬鹿トリオは大いに喜んでいた。どうやら他のテストも赤点を回避できたようだ。
そんな三馬鹿トリオを傍目に、英語のテスト結果を再度確認する。他のクラスメイトも徐々にその事実に気付き始める。櫛田さんも、普段表情をあまり変えない綾小路君でさえも目を見開いていた。
「どうして……」
自身の点数に納得がいかなかったわけではない。私の上にあるべきはずの名前がない。探していた名前はずっと下、須藤君の下にあった。
鳴海幸 40点
この日、鳴海幸の退学が決まった。
1巻の内容が終わると言ったが、あれは嘘だ。
終わる終わる詐欺です。すみません。
次回で本当に終わりです!