ようこそ堀北至上主義の教室へ   作:かわらまち

13 / 16
長くなったので前後半で分けます。
後編は明日か明後日に出す予定です。


第13話(前編)

 

 いよいよ迎えたテスト当日。教室内は活気にあふれていた。それもこれも昨日櫛田が配った過去問の存在が大きい。俺としてもかなり助かっている。清隆には今度、ジュースでも奢ってやろう。

 

「欠席者はなし。ちゃんと全員揃っているみたいだな。お前ら落ちこぼれにとって最初の関門というわけだが、質問でもあるか?」

 

「僕たちはこの日まで真剣に勉強をしてきました。このクラスに赤点を取る生徒はいないと思いますよ」

 

「自信満々だな、平田」

 

 不敵な笑みを浮かべる茶柱先生に平田が真剣な面持ちで答える。その言葉を聞いてか、他の生徒の表情にも自信がうかがえた。池や山内までドヤ顔してるのは非常にムカつく。それをよそに須藤の表情が曇っているのが少し気になるな。

 

 テストを配り終えた茶柱先生は再び不敵な笑みを浮かべた。ろくなこと言わないだろうな。

 

「もし、今回のテストと7月の期末テストで誰一人赤点を取らなかったら、全員をバカンスに連れて行ってやる」

 

 茶柱先生の発言にクラスが呆気にとられる。急に何を言いだすかとも思えば、バカンスって。この発言にも何かしらの意図が隠れてでもいるのか。

 

「そうだな、青い海に囲まれた島で夢のような生活を送らせてやろう」

 

 まぁ、バカンスと言えば海があるリゾートだよな。だからと言って何だという話だが。クラスのやる気を上げさせるための発言か?そうだとしても当日にやることじゃないし、そんな単純な奴らではないだろ。

 

「みんな!やってやろうぜ!」

 

「「「うおおおおおおお!!」」」

 

 池の号令に男子のほとんどと一部の女子が雄たけびのような声を上げる。あ、清隆もどさくさに紛れて叫んでる。

 

「変態」

 

 その声を聞いて堀北ちゃんが清隆を罵る。

 

「くそっ!一緒になって叫んどけば俺も罵ってもらえたのに!」

 

 完全に対応を間違えてしまった。堀北ちゃんの「変態」チャンスをみすみす逃すとは。あまつさえ清隆にそれを取られるなんて堀北ニスト失格だ。

 

 堀北ちゃんは悔しがる俺を冷たい目で見るだけで何も言ってこなかった。

 

「鳴海は何でテンション上がってないんだよ」

 

「別に海とか興味ないし」

 

「馬鹿だなー。海と言えば何だ?」

 

 池に馬鹿呼ばわりされ、ぶん殴ってやろうかと思いながら、質問の意図を考える。海と言えば、水着だな。一体それがどうした───はっ!なんで俺はこのことに気付かなかったんだ!?

 

 俺は勢いよく振り返り、堀北ちゃんを見た。いきなり視線を向けられ驚いたのか、少しピクッと肩を揺らした。可愛い。

 

「……何?」

 

「海といえば水着。当然堀北ちゃんも水着を着るわけだ。海で水をかけあい、浜辺で追いかけっこ。キャッキャウフフ。水平線に沈む夕日を見ながら近づく二人の距離。そして……。最高かよ!」

 

「先生、もうすぐ開始の時間なので進めてください」

 

「そうだな。鳴海、座れ」

 

「はい」

 

 茶柱先生に着席を促された俺は大人しく席に座る。クラスメイトも何事もなかったかのように前を向いていた。何でこういう時だけこのクラスは息がぴったりなのだろうか。普段からそうならAクラスに上がるのだって楽になるのにな。

 

 先生によるテストの説明があり、開始の合図でテストが始まった。全ての問題に軽く目を通してみるが、どうやら清隆の狙いは当たっていたようだ。そこには過去問と同じ問題が並んでいた。クラスの奴らは一夜漬けで過去問を叩き込んできているはずだ。この分なら赤点回避は問題なさそうだな。

 

 

 

 

 その後のテストでも過去問と同じ問題が続いていた。難度の高い問題も多々あったが、答えを覚えていればどうってことない。4限目の数学のテストが終わり、勉強会のメンバーで堀北ちゃんの周りに集まった。池や山内は余裕の言葉を吐き、笑顔を浮かべていた。どうやら手ごたえはあるみたいだな。須藤はどうか聞こうと思ったら、近くに姿はなく、一人で机に座って必死に過去問を凝視していた。その様子が気になった櫛田が須藤に話しかける。

 

「須藤くん?」

 

「……あ?わるい。ちょっと忙しい」

 

 突き放すように答えた須藤の額には薄っすら汗が浮かんでいる。俺と堀北ちゃんはその様子が引っかかり、すぐに席を立ち、須藤の隣に行く。

 

「過去問、勉強できなかったのか?」

 

「……ああ。英語以外はやったが、寝落ちしちまった」

 

 須藤はイライラした様子で答える。だから焦っているのか。教室の時計を見ると、次のテストまで残り15分余りしかなかった。過去問をやってきていると踏んでいたから声をかけなかったのがあだとなった。

 

「くそ!全然頭に入ってこねぇ」

 

 頭を掻きむしりながら悪態をつく須藤。よりによって英語か。他の教科と違って、この数分で覚えるのはかなり難しいだろうな。

 

「何で寝ちまったんだよ、俺は」

 

「ていっ」

 

「痛ってぇ!何しやがんだ鳴海!」

 

 焦っている須藤に渾身のデコピンをお見舞いしてやる。これには堀北ちゃん達も驚いた様子だった。

 

「まずは落ち着け。焦ってたら頭に入るもんも入らん。普段使ってない頭を短期間で稼働させたんだ、寝落ちしても無理はない。冷静に今できることをするぞ」

 

「……おう」

 

「安心しろ。ようは赤点さえ取らなきゃいいんだ。だよね、堀北ちゃん」

 

「ええ、鳴海君の言った通りよ。点数の振り分けが高い問題と答えの短いものを覚えれば何とかなるわ」

 

「それに過去問を覚えてなくても、この数週間で勉強してきたことがなくなったわけじゃない。そう考えると余裕だろ?」

 

「はは、そうだな。何とか頑張ってみるか」

 

 須藤の表情は明るいものになった。これで少しは点数を取れるだろう。勉強は堀北ちゃんに任せてその場を離れる。それに付いてきた櫛田が心配そうに話しかけてきた。

 

「本当に大丈夫かな?」

 

「どうだろうな。さっきはああ言ったが、日常で使わない英語は他の科目に比べて難度は高い。俺にできることは少しでも冷静にさせることだけだ。後は須藤次第だな。というか、堀北ちゃんがマンツーマンでレッスンしてくれるんだから余裕で突破できるだろ。……なぁ、あそこ変わってくれないかな」

 

「最後のがなければなぁ」

 

 苦笑いを浮かべる櫛田。横の清隆も深く頷いていた。俺が何を言ったというのか。

 

 時間は瞬く間に過ぎ去り、休み時間の終了を告げるチャイムが無情にも鳴る。テスト開始が始まったいま、須藤を直接助けることはできない。俺は俺のやるべきことをやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室内には只ならぬ空気が漂っていた。それもそのはず、今日はテストの結果が発表される日だ。クラスメイトは席に座り、今か今かとその時を待っていた。

 

「随分と物々しい雰囲気だな」

 

「先生、テストの結果はいつ発表されるのでしょうか?」

 

「お前がそこまで気負う必要もないだろうに。喜べ、今から発表する」

 

 平田の質問に答えた茶柱先生は大きな白い紙を黒板に貼りだした。そこには生徒の名前と点数の一覧が載せられていた。

 

「正直、感心している。お前たちがこんな高得点を取れるとは思わなかったぞ。数学と国語、それに社会は満点が10人以上もいた」

 

 先生の言葉に歓喜の声が上がる。軽く見ただけでも高得点が並んでいるの分かる。さて、自分の点数は()()()()()()()。見るのは須藤の点数。

 

 須藤の点数は軒並み60点台と高得点をたたき出している。勉強の効果が表れたようで何よりだ。問題は英語の点数だが……43点。何とかなったな。須藤も点数を確認したのだろう、立ち上がりガッツポーズをして喜んでいた。池と山内の点数も確認するが、これも問題なく点数が取れていた。赤点回避は確実だな。

 

「鳴海君、どういうこと?」

 

 後ろの堀北ちゃんから声をかけられる。間違いなく俺の点数に関しての疑問だろう。俺の点数は英語が40点、それ以外が50点に()()()()。わざと点数を低くしているのは明白だ。

 

「ちょっと調子が悪くてね」

 

「噓ね。手を抜かないと約束したはずよ」

 

「手は抜いてないって。それを言うなら堀北ちゃんもでしょ?」

 

「それは……」

 

 堀北ちゃんが言い淀むのは、英語の点数があるからだ。他の教科は満点を取っているにもかかわらず、英語だけ51点と低い。おそらく須藤のために点数を落としたのだろう。真剣勝負の約束をしていたが、こればっかりは許してほしい。それに()()()()()()()()()わけだし。

 

「見ただろ先生!俺たちもやるときはやるってこと!」

 

「そうだな。お前たちが頑張ったのは認めている。だが───」

 

 茶柱先生は不敵な笑みを浮かべ、赤いペンで一本のラインを引く。それは英語のテスト結果、俺の名前の上だ。

 

「お前は赤点だ。残念だったな鳴海」

 

「なっ!」

 

「どうして……」

 

 茶柱先生の宣告に須藤が驚きの声を上げ、堀北ちゃんも声を漏らした。俺自身、どういうことか理解が及んでいない。

 

「ふかしてんじゃねぇよ!鳴海が何で赤点なんだよ!」

 

「赤点は32点のはずですよね?鳴海君はクリアしてると思います!」

 

 須藤が食って掛かり、櫛田がそれに同調する。

 

「誰がいつ32点だといった?今回の赤点ラインは40点以下だ。つまり、1点足りなかった。これは紛れもない事実であり、お前らが何を言っても無駄なことだ」

 

「ふざけんなよ!40点以下だ?そんなん聞いてねぇよ!」

 

「先生、判断基準を聞いてもよろしいでしょうか」

 

「いいだろう」

 

 茶柱先生は黒板に簡単な数式を書く。そこに書かれたのは81.6÷2=40.8という数字。

 

「前回、それから今回の赤点基準は各クラス毎に設定されている。そしてその求め方は平均点割る2。その答え以上を取ること」

 

 つまりは少なくとも41点は必要だということだ。でも、()()()()()()()()()()()

 

「赤点は40点を超えないはずでは?」

 

「何を言っている、鳴海。誰に聞いたのかは知らんが、そんな基準はない」

 

 茶柱先生の返答を聞いて、全てを理解する。完全に油断していたわけだ。

 

 平田が採点ミスを指摘し、俺の答案用紙を見せてもらうも、すぐに暗い表情を見せる。当たり前だ。俺は確実に40点を取っている。前情報どおり、赤点になるギリギリを取った。

 

「クズを助けるために点数を削ったようだが詰めが甘かったな。お前なら全教科満点は取れただろう」

 

「……」

 

「須藤は鳴海に感謝しておけよ。仮に鳴海が満点を取っていたら、退学になったのはお前だからな」

 

「なっ!?」

 

 茶柱先生の発言に須藤の顔から血の気が引いていく。須藤のせいで俺が退学になったと言っているようなものだ。本当に性格悪いな。

 

「納得いったならこれでホームルームを終わる。鳴海は放課後職員室に来い」

 

 茶柱先生の言葉に誰も反論することができない。反論の余地は残されていないからだ。

 

「茶柱先生、少しだけよろしいでしょうか」

 

 沈黙が教室を支配する中、手を挙げたのは堀北ちゃんだった。

 

「前回のテストは32点未満が赤点だと仰いました。それは平均割る2で算出したもので、前回の算出方法に間違いはありませんか?」

 

「ああ、その通りだ」

 

「それでは一つ疑問が生じます。前回のテストの平均点を私が計算したところ、64.4点でした。それを2で割ると、32.2点になります。つまり赤点である32点を越えているんです。にもかかわらず、赤点は32点未満だった。つまり小数点を切り捨てている。今回の求め方と矛盾しています」

 

「た、確かに!それなら40点未満が赤点になって、鳴海君は赤点回避になる!」

 

 堀北ちゃんの考えを聞いて櫛田が喜ぶ。しかし、それは杞憂に終わるだろう。

 

「残念だがお前の計算方法は1つ間違っている。赤点を導き出す際に用いる点数、小数点は四捨五入で計算される。前回のテストは32点で扱われ、今回のテストは41点で扱われる。それが答えだ」

 

「っ……」

 

「堀北、お前は内心気付いていたはずだ。少ない可能性を信じて進言してきたのだろうが、残念だったな」

 

「それなら───」

 

「それくらいでいいよ堀北ちゃん」

 

 なおも食い下がろうとする堀北ちゃんを制止する。これで堀北ちゃんにペナルティが課せられるようなことは是が非でも避けなければならない。

 

「良いわけないわ。このままだとあなたは退学になるのよ。それでもいいって言うの?」

 

「もちろん退学は嫌だよ。でも、これ以上はどうにもならないよ。そうですよね?」

 

「その通りだ。()()()()()覆ることはない」

 

 そう言って茶柱先生は教室を後にし、教室は静寂に包まれた。相変わらず含みのある言い方をする先生だな。まるで覆る方法があると言っているかのようだ。それならまだ諦めるには早いな。

 

「すまねぇ。俺のせいで鳴海が」

 

「何言ってんだよ。これは俺のミスだ。ギリギリのラインを見誤った俺が悪い」

 

「けどよ」

 

「何だそのしおらしさは。気持ち悪い。そもそも、俺がお前のために動くわけないだろ。好き好んで野郎のために身を削るかっての」

 

「じゃあ、なんで点数を削ったんだよ!」

 

「それはもちろん……俺の気まぐれだ」

 

 やってしまった。何とか誤魔化せれたか。

 

「違うわ。私のためよ」

 

「何言ってんの堀北ちゃん。俺の気まぐれだってば」

 

「私が退学者を出さないようにしているから、点数を削って平均点を下げるようにしたんでしょ。最初からそうするつもりだったみたいね」

 

「そんなわけないじゃん。あ、でもその方法を使えば堀北ちゃんの好感度が爆上がりだったのか!しまったなー。今からでもそういうことにしようかな」

 

「ふざけないで!」

 

 堀北ちゃんの怒鳴り声で教室は再び静寂に包まれる。完全に失敗したな。俺が勝手に自滅しただけなのに、これじゃあ堀北ちゃんのせいで俺が退学になるみたいに捉えられかねない。

 

「おい、綾小路。どこいくんだよ」

 

「トイレ」

 

 清隆はそう短く答えて教室をでていった。この空気が嫌になったか、あるいは……。

 

「ごめんね堀北ちゃん。退学者を出さないように頑張っていたのに、俺のミスでこんなことになってしまった。せっかくの努力を無駄されて怒るのは当然だ」

 

「……ふざけないでと言ったはずよ」

 

「ふざけてなんかないよ。俺の勝手な自己満足で退学者を出してしまった。堀北ちゃんのためにとか考えながら、結局足を引っ張ってしまってる。結果的に堀北ちゃんを目標から遠ざける形になってしまった。本当にごめん。でも、なんとか───」

 

 乾いた音が教室に響き、右の頬に痛みが走る。遅れて堀北ちゃんに頬を平手打ちされたことを理解する。

 

「それを本気で言っているのだとしたら、あなたは私の事を何も分かっていないわ」

 

「え?」

 

 そう言って堀北ちゃんは教室を出ていった。悔しさが溢れ、どこか悲しそうな表情を浮かべた堀北ちゃんの顔が頭から離れない。

 

「大丈夫か?」

 

「ああ、完全に怒らせちゃったみたいだな。まぁ、俺にとってはご褒美みたいなものだからな」

 

 須藤が心配そうに声をかけてきた。いつもなら本当にご褒美に感じるのだが、今回のはそうは思えない。やっぱりあの表情を見てしまったからだろう。

 

「堀北さんが怒る気持ち、少し分かる気がする」

 

「どういうことだ?やってきたことを無駄にされたから怒っているんだろ?」

 

 櫛田が神妙な面持ちで俺に話しかけてきた。急に何を言い出すかと思えば、堀北ちゃんが怒っている理由なんてそれしかないだろ。しかし、俺の考えとは裏腹に、櫛田は首を横に振る。

 

「堀北さんは、鳴海君が退学になるから怒ってるんだよ」

 

「だからそう言ってるだろ。俺が退学者を出してしまったから」

 

「違うよ。他の誰でもない、鳴海君が退学になるから、堀北さんは怒ってるの」

 

 櫛田は、いつにもなく真剣な目を俺に向ける。俺が退学になるから?俺が言ってることと、どう違うのだろう。

 

「いつもは変に鋭いくせに、自分の事となると鈍くなるよね。堀北さんは鳴海君が退学になってほしくないの。それは自分の目標の為とかポイントの為とかじゃなくて、一人の友人としてなんじゃないかな?」

 

「ありえないな。自慢じゃないが、堀北ちゃんに人として見られたことの方が少ないからな」

 

「それは本当に自慢にならないね。でも、堀北さんは鳴海君に気を許してると思う。前にも言ったけど、きっと信頼してるよ。そうじゃなければ、あの堀北さんが鳴海君みたいなウザ……騒がしい存在を許すわけないもん」

 

 こいつ今、俺みたいなウザイ奴って言おうとしなかったか?訝しげに見やるも、胡散臭い笑顔で有耶無耶にしようとしてくる。

 

「と、とにかく、そういうことだよっ。それでもし、堀北さんや、綾小路君、それから……私とかが、退学になりそうだったら鳴海君はどうする?」

 

「理由にもよるが、理事長室に乗り込んででも退学を阻止するだろうな」

 

 堀北ちゃんが退学なんてことになったら、俺の存在意義がなくなってしまうと言っても過言ではない。清隆や櫛田も、いなくなったら寂しいからな。

 

「鳴海君が思った同じことを堀北さんも感じてるんじゃないかな」

 

「え、俺が堀北ちゃんという存在の一部になりたいってことをか?」

 

「ごめん。それは違う」

 

 真顔で即答する櫛田。無駄に期待させやがって。

 

「そうじゃなくて、堀北さんも鳴海君に退学してほしくないの。それなのに鳴海君は人の事ばっかりで、悔しがったり怒ったりしないでしょ。だから堀北さんは怒ってるんだよ。私だってちょっとムカついてるもん」

 

 櫛田はそう言って、わざとらしく頬を膨らませる。

 

「鳴海君の退学をどうにか阻止しようとしているのに、当の鳴海君が諦めてたら怒りたくもなるよ」

 

「別に俺は諦めたつもりはないぞ」

 

「そう見えるのっ。いつもなら堀北さんと離れたくないって馬鹿みたいに喚き散らすのに、妙に静かで悟った顔してるもん」

 

 呆れたように溜息をつく櫛田。言葉の節々に悪意を感じる。非常に腹が立つが、言っていることは正しい気がする。俺は諦めたわけではないが、今考えると冷静に対処しすぎて、退学を受け入れているように見えても仕方がないわな。

 

「でも、それだけ冷静ってことは何か考えがあるんだよね?それを早く堀北さんに話して、誤解を解いてきたら?」

 

 櫛田は、「いつものお返し」と呟きながら、俺の額に軽くデコピンをした。考えがあるわけではないが、これがあいつの狙い通りの展開なら、何らか術は残されている。

 

「ははっ、そうだな。堀北ちゃんが寂しがってるなら俺が傍にいてあげないとな」

 

「別に寂しがってはいないと思うけどね」

 

「んじゃ、ちょいと行ってくるか。サンキュー、櫛田」

 

「うん。って、え?いま、名前で呼んだ!?」

 

「よっしゃー!待っててね堀北ちゃん!」

 

 勢いよく教室を出ていく俺の背中に櫛田が何かを言っていたが、俺の耳には届かなかった。堀北ちゃんはおそらく茶柱先生と話をするために追いかけたはずだ。俺も急いで職員室へ向かおう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。