ようこそ堀北至上主義の教室へ   作:かわらまち

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第14話

 

 中間テストを乗り越え、堀北ちゃんとの愛が深まった今日この頃。俺は一つの悩みを抱えていた。

 

「じー……」

 

 理由は全く分からんが、この数日クラスメイトである一人の女子生徒に睨まれている。睨まれているというよりは観察されていると言ったほうが正しいのかもしれない。

 

「……ひゃっ」

 

 俺が勢いよく振り返ると、慌てて目をそらし顔を伏せる。それで俺が視線を外すと再度凝視してくる。あれでバレていないと思っているのだろうか。

 

「……っ!……ひゃうっ、あわわわ」

 

 俺がフェイントをかけて振り返ると目がバッチリあってしまい、お手本のように慌てだし、筆箱を床に落とした。あいつの反応面白いな。もう一回やっておこう。

 

「あなたはさっきから何をやっているの?変な動きをしたかと思えば急に笑い出すなんて気持ちが悪すぎるわよ」

 

「ごめんごめん。反応が面白くってつい」

 

「……拾い食いでもして頭がおかしくなったの?」

 

「俺のこと心配してくれてるの!?堀北ちゃんは優しいね!やっぱり愛だね!」

 

「……頭がおかしいのは元からだったわね」

 

 俺の奇行に物凄く怪訝な顔をする堀北ちゃん。そこにミリ単位の優しさが含まれていることを俺は知っている。堀北ちゃんはツンデレだからね。堀北しか勝たん。

 

 かわいい堀北ちゃんは一旦置いといて、未だに慌ててあたふたしているあいつに話を戻そう。悩みを抱えているとは言ったものの、別に敵意は感じないし、好奇の視線はいつも浴びてるから全く気にならない。問題があるとすれば、堀北ちゃんが勘違いしないかだな。あの視線を勘違いして嫉妬してしまわないかが心配でならない。それはそれで全然ありなんだが。

 

「そこんとこどう思うよ清隆」

 

「いつものことだが、唐突に意見を求めないでくれ」

 

「だって、心読めるだろ?」

 

「当然みたいに言わないでくれ。オレにそんな特殊能力はない」

 

 本人には否定されたが、絶対読めると思う。それくらいの芸当はやってのけるのが清隆という男だ。

 

「過剰評価だ」

 

「読めてんじゃん」

 

「鳴海がわかり易いだけで、櫛田でもできるぞ」

 

「えっ、私?」

 

 急に話を振られ櫛田は目を丸くする。こいつが俺の心を読めるわけがないだろ。この程度の人間に読まれるほど俺の心は単純じゃない。読めるものなら読んでみやがれ。バーカ。

 

「さすがに心は読めないけど、鳴海くんが私のことを馬鹿にしていることだけは分かる」

 

「……そ、そそそんなわけあるかい」

 

「動揺しすぎだろ」

 

 清隆と櫛田は揃って呆れたようにため息をつく。慣れてきたのか、最近は隠そうともしない。俺はその方が好感がもてるからいいんだけど。最近は堀北ちゃん、清隆、櫛田、俺の4人でいることが増えている。まぁ、堀北ちゃんと櫛田はお互いの事を嫌っている節があるけど。

 

「佐倉については害はなさそうだし、放っておいたほうがいいんじゃないか」

 

「私もそう思うな。あまりコミュニケーションが得意じゃなさそうだし、急にこんな変じ……テンション高い人に話しかけられると戸惑っちゃうよ」

 

「おまえ今、変人って言おうとしただろ」

 

「えー?なんの事かなっ?」

 

 ぶりっ子で誤魔化そうとしてくる櫛田にデコピンをお見舞いしておく。躾け大事、絶対。

 

「てか、佐倉って誰だよ」

 

「……鳴海が聞いてきたんだろ」

 

「あー、あいつが佐倉か!」

 

「クラスメイトの名前くらい覚えとこうよ」

 

 合点がいって佐倉と呼ばれた少女を見る。案の定慌てて目をそらし、教科書を読んでいるフリをした。教科書が逆という典型的なボケをかましている。あれはもしかして俺を笑わせるためにわざとやってるんのではなかろうか。とんだコメディアンなのかもしれないな。

 

「あいつ実はコミュ力高い可能性あるんじゃね」

 

「何を根拠に言ってるのか検討もつかないけど、それはさすがにないんじゃないかな?」

 

「オレもそう思うが、見た目と中身が合ってない例を知っているからな」

 

「確かにそうだねー」

 

 二人して俺を見る。俺の顔になんかついてるのかな。まさか、朝ごはんに食べたお好み焼きの青のりが歯についていたか?恥ずかしいじゃん。……もしや、佐倉もそれが気になって俺を見ていたのかもしれない。指摘したいけど傷つけることにかるかもしれないというジレンマであの状態になっているのだとしたら、あいつは良いやつだ。

 

「おし、確認するか」

 

「ちょっ、鳴海くん!?」

 

 佐倉の方を振り向いた俺はそのまま佐倉の席へ歩みを進める。櫛田が制止してきたが、そんなので止まる俺ではない。

 

「おはよう、佐倉」

 

「ふぇっ!?えっ、あの、その……」

 

 話しかけられるとは思っていなかったのか、激しく動揺する佐倉。なんか申し訳ない気持ちになってきた。

 

「一旦落ち着け。こういうときは深呼吸だ」

 

「え、ええと……」

 

「はい、吸ってー」

 

「すぅ~」

 

「吐いてー」

 

「ふぅ~」

 

「吐いてー」

 

「ふぅぅ~」

 

「更に吐いてー!己の限界を超えろ!」

 

「ふぅぅぅ〜……きゅう」

 

 俺の無茶振りに素直に従い続けた結果、佐倉は力尽きた。もちろん死んだわけではなく、酸素がなくなって頭を回しただけだ。こんな無茶振りにも対応するあたり、やはり生粋のコメディアンなのかもしれない。

 

「落ち着いたところで朝の挨拶だな。おはよう」

 

「お、おはようござい……ます?」

 

「覇気がないなー。最初の挨拶さえ決まれば誰とでも仲良く話すことができるんだぞ」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「予想外の食いつきだな。まぁ、見てなさい」

 

 佐倉が食いついてくるとは思っていなかったが、キラキラとした目を向けられた以上、見本を見せてやるのもやぶさかではない。次に教室へ入ってきたやつに挨拶をブチかまして仲良く話してやろうではないか。そう考えていると、さっそく教室のドアが開いた。

 

「おっはよーございまーす!」

 

「フッ。この私に挨拶とは殊勝な心がけなのだよ。今日もあいも変わらず滑稽に踊っているな。愚かな道化師ボーイよ」

 

 よく分からないことを言って、高笑いをしながら高円寺は俺の前を通りすぎていった。なんか滅茶苦茶な悪口を言われた気がするのだが、気のせいだろうか。そういうことにしておこう。あの変人に関わるとろくなことがなさそうだ。変人で変態とか終わってんなあいつ。

 

「え、えっと……」

 

「いまのは気にするな。ただのもらい事故だ。俺に過失はない」

 

「は、はい」

 

 佐倉の目のキラキラが半減したのは気のせいにしよう。気を取り直して次にいこう。たまたまDクラスの中でも最低レアリティを引いただけだ。それ以外であればなんら問題はない。自分で自分を納得させていると次の生徒が教室に入ってきた。

 

「グッドモーニング!」

 

「わぁっ、ビックリしたー。げっ、鳴海じゃん」

 

 驚いた表情を見せた女子生徒は俺の事を認識するなり、心底嫌そうな顔をする。なんでこう、最低レアリティが続くんだろうか。

 

「ちっ、軽井沢かよ」

 

「うわ、あんた今、舌打ちした?意味分かんないんだけど」

 

「お前の空っぽの脳みそじゃ、理解はできんだろうな」

 

「はぁ?あんたこそ頭に蛆でも湧いてるんじゃない?」

 

 俺と軽井沢の間で火花が散る。このクラスの中で相容れない存在の1位が高円寺だとしたら、こいつは堂々の2位にランクインする。

 

「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。喧嘩は良くないよ」

 

 俺たちの間に入ってきたのは、このクラスのリーダー的存在の平田だ。今日も爽やかな笑顔を浮かべているが、俺には劣るな。こいつがミントだとしたら、俺はチョコミントだ。格が違う。

 

「知ってるか平田、喧嘩ってのは同じレベルでしか起こらないんだ。つまり、そういうことだ」

 

「なに?あたしとはレベルが違うって言いたいわけ?」

 

「お前でもそれくらいは理解できるみたいだな」

 

「うざっ。馬鹿じゃないの」

 

「ははは、少なくともお前よりかは頭良いけどなー」

 

「あははっ、赤点とって退学になりかけたくせによく言うよねー」

 

 再び軽井沢との間に火花が散る。お互いに笑顔だが目が笑っていない。それを見てか佐倉が後ろでぷるぷると震えている。

 

「二人ともそこらへんで───」

 

「「平田(くん)は黙ってろ(て)!!」」

 

「えぇ……」

 

 ハモる俺たちを見て「あいつら実は仲いいんじゃね?」とか言い出した池に殺意を込めた視線をプレゼントした。堀北ちゃんに誤解されたらどうすんだ。ちなみに堀北ちゃんは全くこっちに関心を持っていない。

 

「お前ら何を騒いでいる」

 

「おはろーん茶柱先生」

 

「……」

 

「無言はやめて下さいよ。俺が挨拶でスベったみたいじゃん」

 

「みたい、ではないぞ。お前は盛大に滑り倒したんだ。ご愁傷様だな。早く席につけ」

 

「うっす」

 

 何なのこの人、本当に教師なの?悪い笑みを浮かべながら蔑むように話す姿からは聖職者には到底思えないんだけど。

 

「すまねぇ佐倉。だが、俺はこんなもんじゃない。今日は運が悪すぎただけだ。星座占いも最下位だったからな。見てないけど」

 

「え……う、うん」

 

「この借りは必ず返すから首を洗って待ってろ」

 

「えっ?か、借り?わ、私は何も……」

 

「そういうことでアディオス!」

 

 足早に自分の席へと戻る。もうすぐ始業のチャイムが鳴る。それまでには着席をしておかなくてはならないからな。別に逃げたわけではない。断じてない。

 

「結局、お前は何をしに行ったんだ」

 

「そりゃあ……なんだっけ」

 

 清隆のため息交じりの質問に首を傾げる。俺は何をしに行ったんだっけ。忘れるってことは大した用事じゃなかったんだろうな。そんな俺の様子を見て清隆は再度ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一体どういうことなのかな」

 

 昼休み、学食で頼んだラーメンをすすりながら櫛田が発した疑問を考える。事の発端は今日の朝のホームルームでの出来事だ。7月1日である今日はクラスポイントが支給される日であった。俺たちDクラスは5月の時点でクラスポイントをゼロにしてしまい今日まで支給がされていなかった。しかし、マイナス査定の要素である遅刻や欠席、授業中の私語などを無くすことに尽力し、中間テストを乗り越えた俺たちDクラスのクラスポイントは87ポイントとなっていた。

 

「87クラスポイント、入学時に1000ポイントがあったことを考えるとまだまだだな」

 

「しかも最低100ポイントは支給されることになってたらしいから、実質-13ポイントだからな」

 

「それでも得るものはあったわ」

 

 堀北ちゃんはそう言って、可愛い口でうどんをすする。うどんになるにはどうしたらいいのだろうか。

 

 それは後で考えるとして、堀北ちゃんが言う『得るもの』はクラスポイントに負債がなかったということだ。今まで積み上げてきた負債がポイントをマイナスにしていなかったのだ。仮にマイナスになっていたとしたら、100ポイントが支給されても0ポイントのままだったかもしれない。それがないと分かっただけでもかなり大きい。だが、問題はその先にある。

 

「なぜ、ポイントが振り込まれなかったのか」

 

 清隆が呟いた一言に一同は頭をひねる。本来であれば8700のプライベートポイントが生徒に配られてなければいけないのだが、残高を見ても増えてはいなかった。

 

「茶柱先生がトラブルで支給が遅れてて、それが解決すれば支給されるって言ってたけど……」

 

「最後の意味深な発言がなければ何の心配もないのにな」

 

「ポイントが残っていれば、ね」

 

 あの教師は回りくどい言い回しとか、悪い笑みを浮かべるのが本当に好きだよな。中二病でも患ってるんじゃなかろうか。

 

「まぁ、考えても仕方がないし、なるようになるだろ。それよりもどうやったら俺が堀北ちゃんの食べているうどんになれるか考えようぜ」

 

「それこそ考えても仕方がないよね」

 

「仮になれてもその時にはお前は死んでるぞ」

 

「堀北ちゃんの一部になれるなら良くね?」

 

「私が食べる前提で話しているけど、絶対に食べないわよ。速攻ゴミ箱行きね」

 

「食べ物は粗末にしちゃダメだよ、堀北ちゃん」

 

「うんうん」

 

「何故、私が責められているのかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「堀北ちゃんごめんね!今日は一緒に帰れないんだ!」

 

 放課後になり帰り支度を整えているといつものごとく騒がしい男がやってくる。

 

「どうでもいい事を言わないでくれるかしら」

 

「寂しい思いをさせてごめんね」

 

 相変わらず人の話を聞かない男ね。否定したりするほうが面倒になることはこれまでの経験で嫌というほど味わっている。放置して早急にこの場を去るのが一番ね。

 

「そこで、清隆!今日だけは特別に堀北ちゃんと下校をともにする栄誉を与えよう」

 

「は?」

 

 私と同じように早くこの場を去ろうとしていた綾小路君に飛火がいく。また勝手なことを。

 

「本当に仕方がなくだからな!」

 

「いや、結構だ」

 

「そういうことで、お先に!ちゃんとエスコートするんだぞ清隆」

 

「おい……全く、勝手な奴だな」

 

 綾小路君の反論を聞くことなく、鳴海くんは嵐のように過ぎ去って行った。残された私達の間に微妙な空気が流れる。余計なことをしてくれたものね。

 

「はぁ、帰るか」

 

「そうね」

 

 どうせ帰り道は一緒だし、わざわざ断る必要もない。綾小路君については色々見極める必要もある。

 

「堀北も随分丸くなったな」

 

「……なに?馬鹿にしているの?」

 

「違う。悪い方向で捉えるな」

 

 良いも悪いもないと思うのだけれど。言葉の意味が分からず、無言で睨みつけ続きを促す。

 

「入学当初の堀北だったら、昼飯を一緒に食べることなんて想像できたか?」

 

「必要があっただけに過ぎないわ」

 

「今だって一緒に帰ってる。前の堀北なら有無を言わさず先に帰っていたはずだ」

 

「……そうだとして何が言いたいのかしら」

 

「別に何もない。ただの雑談のようなものだ。気楽に聞き流してくれればいい」

 

 聞き流せとは言うがその言葉を鵜呑みにしていいのか分からない。本当にただの雑談なのか、それとも別の何かがあるのか。

 

「気を張るだけ無駄ね」

 

「そういうところも丸くなったところかもな。あいつの影響か」

 

「うるさい。そういうあなたこそ彼に影響されてるんじゃない?」

 

「オレが?」

 

 そんなことなど有り得ないとでも言いたげな反応ね。

 

「表情が乏しいあなたが、彼と話すときは普通の高校生みたいよ」

 

「オレは普通の高校生なんだが」

 

「本当にそう思ってるのなら笑いものね」

 

「オレは鳴海と違って罵倒されても喜ばんぞ」

 

 ある種の意趣返しのつもりでの発言だったが、嘘入っていない。他の人と話すときより表情を出している。まぁ、それは綾小路君に限った話ではないわね。彼と関わると何かが変わる。そんな馬鹿みたいな言葉が脳裏に浮かぶが、すぐさま振り払った。

 

「オレが変わる……ありえないな」

 

「何か言った?」

 

「いや、案外鳴海は凄い奴なのかもしれないな。人の懐に入るのが上手い」

 

「何も考えてないだけでしょう。警戒や用心するだけ無駄だとみんな気づいているだけね」

 

 自分に正直に動いて周りを巻き込みまくる嵐のような男は警戒心など寄せつけない。警戒する方が割りを食うことになる。

 

「それがあいつの計算の上の行動だったら?」

 

「それは……ないわね」

 

「ああ、ないな」

 

 神妙な面持ちからすぐに呆れ顔に変わる。綾小路君も自分で言っておきながらすぐに否定した。あの男が暗躍する姿なんて想像できないわね。

 

 

 

 

 

 

 

「ぶえっくしゅ!」

 

「あら、風邪ですか?」

 

「違う違う。堀北ちゃんが俺の噂してるんだよ」

 

「随分ピンポイントですね。ほらチーンしてください」

 

 

 

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