「鳴海くん、協力しなさい」
「うん、わかった。何をすればいい?」
「……」
「え?俺なんか変なこと言った?」
あれから数日が経った今日、登校してきてすぐに堀北ちゃんに声をかけられた。堀北ちゃんの方から声をかけてくるのは珍しい方なのでシンプルに嬉しい。朝からテンションが上がる。
「私が言うのもあれなのだけれど、二つ返事で了承するのはどうなのかしら」
「だって、堀北ちゃんは俺の力が必要なんでしょ?」
「まぁ、簡単に言えばその通りね」
「じゃあ、俺に拒否する理由はなくね?」
そもそも、堀北ちゃんが俺に頼って来るって時点で発狂もんだ。今なら魔王を倒してきてと言われても余裕で倒しに行ける気がする。
「とりあえず理事長室に殴り込めばいい感じか?」
「あなたは何を言っているのかしら。そんなことをしたら退学よ」
「それは困る。堀北ちゃんとイチャイチャできなくなるじゃん」
「それは一生できないから安心しなさい」
何を安心しろと?安心する要素が皆無なのだが。
「んで、Aクラスに上がるために協力すればいいのか?」
「……その察しの良さはいったい何なのかしら」
「一言でいえば愛だな」
「それで、協力の話だけれど」
「あれ?スルー?」
すごいキメ顔で言ったんだけど完全にスルーされた。まぁ、いつものことだから気にしない。いちいち気にしていたら俺のメンタルが持たない。
「鳴海くんの他にも綾小路くんにも協力してもらうことになっているわ」
「おい、オレは協力するなんて言ってないぞ」
「いいえ、私には聞こえたわ。しっかり協力するって言ってた」
「それはお前が心の声が聞こえたとか電波みたいな発言をしただけだろ」
「うぬぬぬぬ」
堀北ちゃんの隣の席である、綾小路。おそらくだが、堀北ちゃんが先生に話を聞きに行った後に何らかの形で協力するように綾小路に言ったのだろう。
「何を唸っているの気持ち悪い」
「だってさー、うぬぬぬぬ」
「なぜオレを睨む?」
綾小路清隆。こいつとは数回話したことがある程度なのだが、俺の中では一番警戒すべき人物である。
「質問たーいむ!」
「は?」
「はぁ、また変なのが始まったわね」
綾小路は目を丸くさせ、堀北ちゃんは額に手を当て溜息をついた。
「問一、黒髪は好きか?」
「あ、ああ。どちらかといえば好きだな」
「問二、気が強い子は好きか?」
「別に嫌いではない」
「問三、小ぶりな美乳は好きか?」
「嫌いな男なんているのか?」
やはりこいつは危険だ。俺が綾小路を警戒していた理由は堀北ちゃんと俺の仲を邪魔する存在になり得る可能性が一番高いからだ。席が隣ということもあり、堀北ちゃんと話していることは何度も見ている。というか、聞き耳を立てている。堀北ちゃんとまともに話せるのは、今の段階で俺と綾小路の2人だけなのだ。堀北ちゃんと話していて惚れないことがありえようか。否、ありえない。そして、今の質問ではっきりわかった。綾小路は黒だ。
「最後の質問だ。この返答次第では俺はお前と殺し合わなければならない」
「物騒だな」
「問四、ぶっちゃけ、俺と堀北ちゃんのことどう思う?」
「……お似合いだと思うぞ」
「マイベストフレンド清隆、お前は今日から俺の親友だ」
清隆は白だった。まるで新品の白いシャツに漂白剤を丸ごとぶち込んで洗濯したかのように真っ白だった。彼を疑うなんてどうかしていた。清隆は良い奴だ。
「茶番は終わったかしら?」
「へへっ、聞いたか堀北ちゃん。俺とお似合いだってさ」
「ええ、非常に不愉快だわ。特に今のあなたの顔は見ているだけで吐き気がする」
「まったく、照れんなよなー。ホント、堀北ちゃんは照れ屋だグハッ」
話している途中で脇腹に手刀が突き刺さった。堀北ちゃんはこちらを蔑んだ目で見ていた。ゾクゾクするな。
「少しスッキリしたわ。話を戻すわよ」
「はい、すいません」
「怖いな」
さすがにここでふざけにいくほど馬鹿ではない。引き際というものが大事なのだ。
「絶対引き際間違えてるぞ」
「そんなことはない。俺にとってはご褒美だ」
「鳴海はドМだったのか」
「いや、俺は基本的にSだ。ただ堀北ちゃんに構ってもらえるのが嬉しいだけだ」
「なんだその可愛い理由」
そろそろ黙ろう。堀北ちゃんの顔が怖い。何をやればいいかもまだ聞いてないし。と思ったら始業のチャイムが鳴った。
「誰かさんのせいで無駄な時間を過ごしたわ。話はまたあとね」
「ごめんなさい」
「別にいいわ。元々お昼の時に話す予定だったし」
ということは今日は合法的に堀北ちゃんとお昼ご飯を一緒に食べることができるということか。今日は何ていい日なんだろう。
「鳴海くんが奢ってあげるから好きなものを頼んでいいわよ」
「よし、きた。何でも頼んでいいぞ清隆」
「ナチュラルに奢らされてるけどそれでいいのか?」
「問題ない。あわよくばこれで堀北ちゃんの好感度が上がればいいなって思ってるから」
「下心満載だな。しかもそれを言ってしまうあたりバカなんだろうな」
お昼休みになり俺たち三人は食堂へと足を運んでいた。清隆は高めのスペシャル定食を選び、俺は普通にから揚げ定食を買う。
「堀北ちゃんは何にする?」
「私は自分で買うから結構よ」
「いいから、いいから。ここは俺に奢らせてよ。数少ない男をアピールするチャンスなんだからさ」
「だから、それを言ってしまったら意味が無いでしょう」
「別にいいんだよ。俺がやりたくてやってることなんだから」
「……そう。それなら遠慮なくいただくわ」
「おう。あ、今ので俺に惚れた?」
「調子に乗らないで」
「残念」
堀北ちゃんの分も買って席へと座る。いただきますをして食べ始めるも、堀北ちゃんは手を付けず、じっと清隆を見ている。当の清隆も見られているのを何か裏があると考えて手を付けられないでいる。
「清隆も食べなよ。別に裏なんてないさ。それに奢ったのは俺なんだからさー」
「ああ、そうだな」
そうして清隆は恐る恐るコロッケを掴み、一口かじった。
「早速だけど話を聞いてもらえるかしら」
「圧倒的に嫌な予感がする」
「食ったんだから話は聞かなきゃダメだな。うん」
「おい、さっき裏はないって言っただろ」
「堀北ちゃんこそが正義だ」
「マジかよ……」
堀北さんの話は中間テストの件だった。Aクラスに上がるために中間テストでいい点を取ってクラスポイントを少しでも上げたい。しかし、うちはDクラス。勉強ができない生徒を多く抱えている。そのため、クラスのリーダー平田が勉強会を開いているのだが、アンチ平田勢がそれに参加するはずもなく、赤点まっしぐらだ。そこで清隆の出番である。アンチ平田勢は清隆と親しいらしく、説得してほしいとのことだった。
「無茶言うなよ。オレにそんなリア充も真っ青な行動ができると思ってんのか?」
「食べたわよね?私のおごりで。スペシャル定食、豪華で良かったわね」
「そんなこと聞いてない。そもそも奢ってくれたのは鳴海だ」
「鳴海くんのポイントは私のポイントよ」
「何そのジャイアン的発想。鳴海も何とか言えよ」
「俺のポイントが堀北ちゃんのポイントだと……。それは夫婦みたいでいいな!」
清隆にこいつはもうだめだって顔で見られた。でも別にいいさ。俺はこの幸福の余韻を楽しんでおくから。
「よし、じゃあポイント分俺も奢る。それでチャラだ」
「私、人に奢られるほど落ちぶれているつもりはないからお断りします」
「今食べてるのは奢られたもんだろうが」
「これは奢ってもらったんじゃないわ。貢がせたのよ」
「何それ怖い」
俺は堀北ちゃんに貢がされていたのか。堀北ちゃんの手の上で踊らされている気がして中々そそられるな。
「はぁ、わかったよ。でも集められる保証はないぞ。それでもいいか?」
「あなたなら集めれると信じているわ。これ、私の携帯番号とアドレス。何かあったら、これで電話して」
「なぬっ!」
「ああ、わかった。それじゃあな」
清隆はメモを受け取って食堂を後にした。俺が余韻を楽しんでいる間にとんでもないことになってるぞ。
「清隆に番号渡したの!?」
「ええ、何かあったときに連絡とれなかったら困るでしょ」
「そうだけど、俺もまだ教えてもらってないんだけど!」
「当たり前でしょ。あなたに教える必要はないもの」
何故だ!清隆に教えて俺に教えないなどありえないだろ。
「それにあなたに教えると電話とかメッセージとかかなり送ってきそうだし」
「うん。10分に一回は送るな」
「絶対に教えないわ」
「嘘!今のは嘘だから!1時間に一回だから!」
「嫌よ」
そんな……。いつかは聞こうと思っていた連絡先をゲットするチャンスを逃してしまった。これから先、俺は堀北ちゃんの連絡先をゲットすることは出来ないのか?
「消えてなくなりたい……」
「そ、そんなに落ち込まなくてもいいでしょ」
「そりゃ落ち込むよぉ。好きな子の連絡先をゲットできないなんてさ……」
そのまま机に突っ伏す。ああ、終わった。俺の薔薇色高校生活はここで幕引きだ。
「はぁー、もう!分かったわ……教えるわよ」
「え?ええ!?い、いいの?」
「その代わり、鬱陶しいメッセージとか送ってきたら拒否するわ」
「オッケー!気を付ける!よっしゃー!」
好きな子の連絡先をゲットした。それだけでめちゃくちゃテンションが上がる。やっぱり今日はいい日だ。
「うるさい。黙らないと教えないわよ」
「ごめんなさい」
そして番号を教えてもらって携帯に登録する。ああ、幸せだ。俺の携帯に堀北ちゃんの名前があるってだけでご飯3杯はいける。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「何かしら?」
「堀北ちゃんは清隆が好きなの?」
「は?急にどうしたのよ」
急に真面目なトーンで話し出した俺に少し困惑している堀北ちゃん。でも、俺にとってはこれは大事なことだ。
「今回の件も俺より先に清隆に協力を頼んだみたいだし、好きなのかなって」
「もしそうだとして、あなたに関係があるの」
「ある。俺は堀北ちゃんが好きだ。だからこそ堀北ちゃんには幸せになってほしい。堀北ちゃんが清隆を好きなら俺は全力で応援する」
正直、諦めるのなんて嫌だ。だけど、堀北ちゃんに好きな人がいるなら俺はそれを応援する。
「勝手ね。勝手に絡んできて、勝手に身を引くとか、何様なのかしら」
「ごめん」
「別に恋愛感情は全くないわ。綾小路くんに協力を仰いだのはたまたまその場にいたからよ」
「そっか」
「それに、あなたなら私の頼みごとを断らないと確信していたから、後回しにしたのよ」
堀北ちゃんがボソッと呟いた。俺はそれを聞き逃しなどせず、しっかりと聞こえた。何というか信頼されていた気がして、泣きそうになる。
「んじゃ、遠慮なく堀北ちゃんにアタックしまくるわ」
「綾小路くんに恋愛感情はないと言ったけど、あなたにもないわよ。むしろマイナスね」
「照れんなって」
「照れる要素がどこにあったのよ」
呆れながらも薄っすら微笑む堀北さん。今日はこの表情が見れたことが一番嬉しかった。やっぱり今日はいい日だったらしい。
「さ、教室戻ろうか」
「ええ、その前に鳴海くん」
「な、なに?」
堀北さんの顔を見ると笑っていた。しかし目が笑ってなく、どす黒いオーラが出ていた。
「小ぶりで慎ましい胸って誰のことかしら?」
「え?いや、小ぶりの美乳って言ったんだよ。決して貧乳だとかは……あっ……」
「ふーん」
「違くて、俺は美乳派だから、大丈夫だよ!グハッ」
本日二度目の手刀が脇腹に刺さる。しかも朝のとはくらべものにはならないやつ。堀北ちゃん胸のこの気にしてたんだな。めちゃくちゃかわいいな。
堀北ちゃんとの距離が少し近づいたと思ったら、また遠のいたかもしれない。まぁ、それでも少しずつ縮めていけばいいさ。