ようこそ堀北至上主義の教室へ   作:かわらまち

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第4話

 

 

 みんなは見てはいけないものを見てしまったらどうするか。固まってうごけなくなる?その場からバレないように立ち去る?それとも雄たけびを上げる?

 

 俺はそのどれでもない。俺が選択するのは証拠を押さえるだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ピピッっと携帯カメラの電子音が静かな階段に響き渡る。その音を聞いていたのは、音を出した張本人の俺と、こちらを驚いた顔でみる美少女と、いつも通りの無表情な俺の親友である。異常なところをあげるとすれば、美少女の胸に親友の手が触れているところだ。それはもう、がっつりと。

 

「問題ない。続けてくれたまえ」

 

「な、なな、なんで鳴海くんがここに……」

 

 櫛田は顔を青ざめて俺に消え入りそうな声で聞いてきた。質問には答えてやらなければいけない。

 

「エロい空気を察してな。俺のことは気にするな。続けてくれ」

 

「何言ってんだよ!とにかくそのカメラを下げろ!」

 

 怒られた。携帯で続きを撮ろうと構えていただけなのに。というか、櫛田ってこんな口調だったっけ?

 

「はっ!?怒鳴ってごめんね鳴海くん」

 

「別に気にしてないが続きはしないのか?」

 

「お前はどれだけ続きが見たいんだよ」

 

 我に返った櫛田さんと、無表情でツッコミを入れてくる清隆。男は性欲で動いているから仕方がない。しかし、いまいち状況がつかめん。

 

「あ、あのね鳴海くん、今のは綾小路くんが無理やり触ってきたの」

 

「え、そうなん?清隆も男だね。でも無理やりはいかんぜよ」

 

「いいの鳴海くん、それで写真なんだけど……」

 

 俺に近づいてくる櫛田。なおも無表情な清隆。ますます意味が分からん。清隆が櫛田を無理やり襲っていたってことか?

 

「くっそ!俺があそこで撮らなければ、もっとエロい瞬間を見れたってことかよ!」

 

「最低だな」

 

「ばーか、男はエロの前では無力なんだよ」

 

「堀北がされていてもか?」

 

「は?そんなやつ八つ裂きにして肉片が残らないまでぐちゃぐちゃにしてやるわ」

 

 想像しただけでもムカついてきた。堀北ちゃんの貞操は俺が守る。そして、ゆくゆくは俺が奪うのだ。もちろん合意の上で。

 

「そんな事より写真を」

 

「ああ、そうだったな。こんな写真あっても何の得にもって……あれ?」

 

 先程撮影したものを改めて見返すと違和感を覚える。これって清隆が襲っているというよりも、その逆じゃね?

 

「櫛田はビッチの痴女だったってことか」

 

「ち、違うわ!」

 

「えー、だってこれ、櫛田が清隆の手を胸に当ててんじゃん」

 

「それは、その……綾小路くんに命令されて」

 

「ふーん。まぁ、俺には関係ないしどうでもいいけどね」

 

 俺にとって堀北ちゃんが関わっているかいないかが問題であって、関わっていないのであれば興味はない。別に櫛田が痴女だろうが、清隆が変態さんだろうがどちらでも構わない。

 

「それじゃあ、その写真は消してもらっていいかな」

 

「だが断る」

 

「え?」

 

「え?」

 

 俺が断る事を想定していなかったのか、櫛田が固まる。さっきも同じようなやり取りをした気がするな。

 

「もぉ、冗談やめてよねー」

 

「あはは、冗談抜きで消さないけどなー」

 

「……」

 

「おっと」

 

 無言で俺の携帯を強奪しようとしてきた櫛田を寸の所でかわす。それを三度繰り返して櫛田がちょっと涙目で俺を睨んできた。

 

「避けるなよ!」

 

「いや、普通避けるでしょ」

 

「いいから携帯をよこせ。それが嫌なら写真を消して」

 

「断る!」

 

「なんでだよ!」

 

 どうやら櫛田は写真を消してほしがっているようだ。それはそうか、自分の痴女行為がバレてしまうからな。優等生がこんなことをしていたとあっては株が大暴落だ。

 

「俺は期せずして櫛田の弱みを握ったということか。ちなみにこれは写真じゃなくて動画な」

 

「なんで動画なんだよ」

 

「いや、エロを静止画で楽しめるのは小学校までだぞ」

 

「そんなこと知らねーよ!」

 

 さすがのビッチさんも男の性事情は知らないらしい。

 

「落ち着け櫛田。さっきから本性が出てるぞ」

 

「はっ!?」

 

 清隆の指摘でようやく気付いたらしい。なるほど、こっちが櫛田の本性だったのか。

 

「清隆の口封じのための行為だったってことか。それにしてもお粗末だな」

 

「うるさい!さすがに慌てたっていうか、一瞬パニックになって……と、とにかく動画を消せ!」

 

「それを聞いて俺が消すと思うか?」

 

 この動画があれば櫛田を抑止することができる。仮に堀北ちゃんに牙を向けるようなことがあれば、有意義に使わしてもらおう。

 

「あーもう!本当にムカつく。優しくしてればつけあがりやがって。堀北さんに付きまとうことしか能のないドМの変態が調子に乗らないで。堀北さんに全く相手にされてないくせに、きゃ!」

 

 完全に本性を現した櫛田だったが、バンという音に言葉を遮られる。その音は俺が壁に手のひらを打ち付けた音であり、今の俺は櫛田を壁に追い込み股の間に足を入れている。いわゆる壁ドンの体勢。しかも逃がさないようにかなり密着している。

 

「調子に乗ってんのはお前だよ。俺はドМじゃない。堀北ちゃんに対してだけだ。それに堀北ちゃんに全く相手にされてないんじゃなくて、うざがられているだけだ!相手にはしてもらえてる……はずだ!」

 

「ちょ、ち、近いっ」

 

 先程までの威勢はどこへやら、櫛田は目を逸らして弱弱しく話す。心なしか頬が赤くなっているようにも見えた。

 

「俺は堀北ちゃんに相手にされてはいる。分かったか?」

 

「わ、わかったから、離れろ」

 

「うむ。分かればいいんだ」

 

 櫛田から離れて満足げにうなずく。櫛田は何故か息切れをしていた。

 

「動画は消さんがこの事は誰にも言わないから安心しろ」

 

「それを信じろっていうの?」

 

「ああ、てかお前には信じるしか選択肢はないだろうに」

 

「うぐ……」

 

 ここで櫛田が信じようが信じまいが関係ない。選択権は俺にあるのだから。

 

「……分かった。鳴海くんを信じる」

 

「よく俺なんかを信じられるな。もう少し人を疑った方がいいと思うぞ」

 

「どっちなんだよ!」

 

 櫛田は将来、詐欺に気を付けたほうがいい。俺が金に困ったらまず最初に櫛田をカモにしよう。

 

「はぁ、堀北さんが溜息をついている理由が分かった気がする」

 

「お前ごときが堀北ちゃんの領域に達したなどおこがましいわい!恥を知れい!」

 

「何キャラだよ」

 

 櫛田は呆れたように俺を見る。あれ?堀北ちゃんもよくその表情をしている気がする。もしかして、本当に櫛田は堀北ちゃんの領域に達したというのか!?

 

「あの誰とも関わろうとしない堀北さんが鳴海くんには傍にいることを許している。警戒心が強い堀北さんが信頼してるのなら私は鳴海くんが信じれる人だと思う」

 

「へ?」

 

「だから鳴海くんを信じる理由。それに鳴海くんは堀北さんにしか興味がないから言い触らしたりはしないでしょ」

 

「いやいや、そんな理由とかはどうでもいいんだよ!堀北ちゃんが信頼してる?俺を?」

 

「だ、だから近いってば!そういってるだろ!」

 

 櫛田に顔を寄せて嘘かどうかを見極める。こいつは嘘をついてない。ということは櫛田から見て堀北ちゃんは俺を信頼しているということか。

 

「何だ、お前ってば良い奴じゃん。今日から俺と櫛田は親友だ」

 

「はぁ?なんでそうなるんだよ」

 

「オレの時にも思ったが鳴海は単純だな」

 

 単純でも何でもいい。俺が良い奴だと思えば良い奴なのだ。

 

「そういえば、清隆も居たのな」

 

「お前が来る前からな」

 

「すまん、忘れてた。ちなみにおっぱいの感触はどうだった?」

 

「服の上からだからよく分からんが、存在感は凄かった」

 

「櫛田はでかいからな」

 

「本人の前でそんな話するなよ!」

 

 櫛田に怒られたが仕方がないだろ。男としてそれは聞いておかなくてはならない。今後の参考としてな。堀北ちゃんの胸を触る日がいつ来てもおかしくないからな。想像するだけで……。

 

「胸がでかいからって調子に乗るなよ。でかけりゃいいってもんじゃないんだよ。大事なのは形。そして俺は美乳派だ」

 

「急にキレられた!?」

 

「一応堀北ちゃんのためにも言っておかないとな」

 

「もう、疲れた」

 

 そう言って櫛田さんは帰って行った。その後ろ姿は疲労感がにじみ出ていた。

 

「実はお前ら最後までしたのか?」

 

「残念ながらしてない。あれは8割くらいはお前のせいだ」

 

「俺?何かしたかなー」

 

「そういうところだろうな」

 

「よく分からんけどフォローは頼んだ。勉強会はあいつが必要だ」

 

「自分でしろよ」

 

「俺は連絡先知らねーんだよ」

 

 何やら達観した様子の清隆に対してよく分かっていない俺。なんにせよ、清隆に一任しよう。こいつならうまいことやってくれるだろう。

 

「それで鳴海は何しに来たんだ?」

 

「ん?ああ、忘れてたわ。勉強会をどうするかを清隆に聞きに来たんだった」

 

「よく俺の場所が分かったな」

 

「電話でなかったから屋上から叫んで探そうと思ってな」

 

「櫛田があそこに居てくれてよかったと心から思う」

 

 屋上を目指していたら偶然二人を見つけたんだよな。俺ってばナイス判断。

 

「どうするかと聞かれてもな。堀北がやる気がなければどうしようもない」

 

「その辺は俺がどうにかする。本気で堀北ちゃんがAクラスを目指すのなら避けて通れない道だ」

 

「お前は堀北の欠陥に気付いてるんだな」

 

「まぁ、容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群とくればあとは性格面だしね」

 

 堀北ちゃんがDクラスである理由はそこだ。須藤たちを能無しだと決めつけて見下すこと。俺はそんな堀北ちゃんでも問題ないんだけどね。

 

「Aクラスに上がるにはそれじゃあダメだろうな」

 

「まぁね。だからこそ本気で目指すならそこに気付かないといけない」

 

「お前が教えるのか?」

 

「いやいや、人の性格を直させるほど偉くはないよ。できることは欠点を気付かせることくらいかな。どうにかするよ。俺の堀北ちゃんだし」

 

 あとは堀北ちゃん次第だ。俺は堀北ちゃんがどんな選択をしてもいいように土台を整えておくだけ。

 

「鳴海は堀北至上主義だな」

 

「何そのワード。最高じゃん」

 

「最高なのか?」

 

「俺のすべてが堀北ちゃんのためにあるって感じがしない?」

 

「よく分からんが鳴海がそう思うならそうなんだろうな」

 

 清隆のこういうところが好感が持てる。頭ごなしに否定するわけでもなく、顔色を窺って同意するわけでもない。さすがは俺の親友。

 

「てなわけで櫛田の方はまかせるわ」

 

「わかった。スペシャル定食の分は働く」

 

「成功したあかつきにはまた奢ってやんよ」

 

「それは楽しみだ」

 

 そのときは堀北ちゃんも誘おう。お疲れ様会と言えば来てくれるだろう。清隆をだしに使うようで申し訳ないがスペシャル定食が食べれるんだ、そのくらいは大目に見てもらおう。

 

「ときに綾小路くん」

 

「何だ急に?」

 

「ホワイトルームから逃げてこられて幸せか?」

 

「っ!?」

 

 俺の言葉に清隆の表情が驚きに変わる。作りものじゃない本物の顔だ。

 

「その反応はやっぱそうなのかー。いやーどうしたもんかね」

 

「なんのことだ?」

 

「あ、もうはぐらかさなくても大丈夫。清隆がホワイトルームで何をしていたかとか、どうやってこの学校に入学できたかとか大体知ってるから」

 

「……お前は何者だ?」

 

「いや、警戒とかしなさんなって。俺は何かしようとか考えてないからさー」

 

 

「……」

 

 清隆は真剣な顔で俺を見てくる。俺にはそういう趣味はないぞ。俺は堀北ちゃん一筋だ。

 

「何が目的だ?」

 

「なんにも。ただの確認だよ。清隆があいつが言う綾小路清隆なのかの確認」

 

「あいつ?」

 

「あ!口が滑った」

 

「それに俺は何かしようとは考えてないと言ったな。まるで鳴海以外に何かをするつもりの奴がいるみたいだ」

 

「うわー、目ざといなー」

 

 これだから超人との会話は疲れる。警戒心むき出しの清隆。今にも襲ってきそう。俺じゃあ清隆に勝てっこないしなー。どうしたものか。

 

「銀髪の胡散臭いお嬢様には気を付けろ」

 

「は?」

 

「俺が言えるのはここまで。これでも親友だから出血大サービスしてんだぜ」

 

「意味が分からん」

 

「とにかく気を付けとけって。はい、この話はお終い!ここからは質問は受け付けません!」

 

 一方的に話を終わらせる。これ以上は本当に話せないんだよな。清隆もここで引き下がってくれればいいんだけど。

 

「分かった。頭の片隅にでも置いておく」

 

「え?いいの?」

 

「これ以上は話す気はないんだろ?」

 

「いえす」

 

「ならどうにもならないだろ。拷問しても鳴海は話しそうにないしな」

 

 いやいや、俺でも拷問されれば喋るよ。爪でも剥がされそうなものなら一瞬でゲロるね。だって痛いのは嫌だもん。

 

「これだけは言っておきたいんだけど、俺は本当に清隆の事親友だと思ってるからな」

 

「そうか」

 

「そうなんだよ。んじゃ、帰ろうぜ」

 

「ああ、そうだな」

 

 清隆が俺のことをどう思っているかは分からないが俺は清隆をどうこうするつもりはない。そもそも俺がどうこうできる相手じゃないし。

 

「まじで俺を退学にさせようとか考えないでね?堀北ちゃんに会えなくなる」

 

「……ああ、分かった」

 

「ちょ、今の間はなんだよ!考えてただろ!まじでやめてくれよ!」

 

 寮に帰るまでの間、清隆に念を押しまくるのであった。

 

 

 

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