ようこそ堀北至上主義の教室へ   作:かわらまち

8 / 16

壁]д・)Ξスッ


第8話

 

 

 色々ありながらも再結成することができた勉強会は意外にも順調に進んでいる。

 

 皆が退学しないために嫌いな勉強に立ち向かい続けていた。黒板に書きだされた問題を繰り返し見て、必死に理解しようと何度も首を捻ひねる三バカトリオの姿は似合わないと思いつつも、見ていて悪い気分ではない。須藤に至っては、時折意識が朦朧として、首が前後するが、それでもギリギリで踏みとどまっている。やればできるんだから最初からやればいいのにな。あいつのバスケにかける情熱には一目を置くところがある。夢に向かってひたむきに頑張る姿は決して不良品なんて呼んでいいものではない。まさに俺が堀北ちゃんにかける情熱のようにな。

 

「というわけで、ぶっちゃけ本当に退学なんてあると思う?」

 

「どういうわけか全く分からんのだが」

 

 昼休みのチャイムが鳴った瞬間に清隆に質問をする。急に話しかけられた清隆は呆れたように返答した。ちなみに須藤たちは昼のチャイムが鳴ると同時に、一目散に食堂へと駆けて行った。昼休みは全部で45分であり、その内20分間で全員が図書館に集合して勉強をする約束になっているので、全力で食事をとりにいったのだろう。

 

「清隆は俺の心が読めるんだろ?」

 

「変な設定をつけないでくれ。鳴海は表情に出やすいから考えていることが分かり易いだけだ」

 

 天下のホワイトルーム出身者でも人の心を読むのは無理なのか。実際のところどうか分からんがな。実際に心を読めていたところで話のつながりが全くと言っていいほどなかったのは気にすることではない。

 

「いやさ、実際に赤点を一つでも取れば退学なんて本当ありえんのかね。ちっと厳しくない?」

 

「さぁな。だが制度自体は嘘ではなく、存在しているのは事実だ」

 

「そこが引っかかるんだよねー。だってそこまで学力に重きを置く学校なら、最初から須藤達(あいつら)みたいな馬鹿は入学させないだろ」

 

「言い方はひどいが、その点は同意だ。学力以外の才能を評価して入学させたのだとすれば、この退学制度は矛盾している」

 

 清隆の言う通り、おかしな話なのだ。仮に勉強はできないが、その他の秀でたものを見出し、入学をさせたのならば、それを赤点を一つでもとれば退学だなんて制度を作る意味が分からない。

 

「あなたたち、お昼は食べないつもりなのかしら?そんなに悠長にしている時間はないと思うのだけれど」

 

「俺と清隆が仲良さげに話してるから嫉妬しちゃったのかな?かわいいなーもー」

 

「綾小路君はどうするの?」

 

「え?スルー?」

 

「そうだな。一緒に食堂ででも───」

 

「綾小路くーん。お昼、一緒に食べよ? 今日は予定空けてきたんだ」

 

 華麗なスルーを決めた堀北ちゃんに清隆が一緒に食べることを提案しようとするが、横やりが入った。

 

「出やがったなミス腹黒」

 

「へ、変な呼び方しないでくれるかな?鳴海君」

 

「お前の性格を表した完璧な呼び名だと思うが?」

 

「もうっ、冗談はやめてよね」

 

「ははは。冗談はお前の性格だろ」

 

「あはは。鳴海君はいつも面白いねっ」

 

 横やりを入れてきたのはミス腹黒こと櫛田だ。可愛らしい笑顔の下にどす黒い俺に対する怨念が隠されていることはお見通しだ。その横で堀北ちゃんの不機嫌ゲージが一気に上昇したことも俺は分かっている。堀北ちゃんの変化を見逃す俺ではない。モテる男は女の子の些細な変化も見逃さないのだ。

 

「じゃあ櫛田も入れて4人で───」

 

「それじゃ。私は予定があるから、これで失礼するわ」

 

 堀北ちゃんは足早に一人で教室を出て行ってしまった。それにしてもに連続でセリフを遮られた清隆が不憫でならない。心なしかしょぼんとしている清隆の肩にそっと手を置いて優しく微笑んであげたら嫌な顔をされた。

 

「ごめんね……私、お邪魔だったかな?」

 

「いや、そんなことは───」

 

「間違いなく邪魔だったし、邪魔だと分かって入ってきた君には腹黒グランプリの称号を上げよう」

 

 堀北ちゃんに続いて俺も清隆のセリフを遮ってしまったが、許してほしい。ほら、俺と堀北ちゃんってお似合いの似た者同士だからさ。清隆には後でジュースでも奢ってあげよう。

 

「そんな称号いらないよ!てか、さっきから腹黒腹黒うるさいんだよ。他の人にばれたらどうしてくれるのさ」

 

「おい、櫛田。本性が出てるぞ」

 

「随分とお前の仮面も緩くなったものだな」

 

「うるさいっ!」

 

 腹にグーパンを決め込もうとしてきたので、軽く躱してデコピンをお見舞いしてやった。地味な痛みに涙目になる櫛田。俺に勝とうなんて百億光年早いわ。あと、心底どうでもいいが、櫛田は本性を出しても上手くやっていけるのではないだろうか。

 

「さて、お前らに構っている時間はもうない。櫛田は清隆に用事があるみたいだし、是非二人で昼食をとってくるといい。俺は早急に堀北ちゃんを追いかけねばならんのでな」

 

「相変わらず鳴海の行動の中心は堀北だな」

 

「ホントぶれないよね」

 

「当たり前だ。世界は堀北ちゃんを中心に回っているといっても過言ではない」

 

「それは過言だろ」

 

 清隆のツッコミと未だに額を押さえながら俺を睨む櫛田を軽くスルーして、全速力で堀北ちゃんを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

「堀北ちゃんはA定食にするんだ。じゃあ俺はBにしようかな。もちろんこっちのおかずが食べたくなったらあーんしてあげるから安心してね」

 

「あなたが食べているものなんて汚物にしか見えないからその必要は全くないわね」

 

「え?それは食堂のおばちゃんに失礼だよ」

 

「何で急に真面目になるのよ」

 

 堀北ちゃんは先に食堂のおばちゃんから定食を受け取り、俺のことは気にも留めず空いている席に腰を下ろした。いつもの事なので焦ることなく堀北ちゃんの正面の席に座った。堀北ちゃんの隣も捨てがたいが、やはり綺麗なお顔を観ながら食べる飯は最高なので正面が最適解。

 

「正論をぶつければあーんを出来る確率が上がるかと思って」

 

「するわけないでしょ。あなたに食べさせられるくらいなら地面に落ちたものを食べた方がマシね」

 

「それはお腹壊すから止めた方がいいと思う」

 

「だから何で急に真面目なのよ」

 

「そりゃ、堀北ちゃんにはいつまでも健康でいて欲しいからね」

 

 その返答に堀北ちゃんの箸を持つ手が止まり、不思議そうにこちらを見る。

 

「……そう思うなら私に話しかけないでくれるかしら?」

 

「いや、何でさ」

 

「あなたに話しかけられるとストレスで胃に穴があきそうなの。著しく健康が損なわれているわ」

 

「ふっ、それはね、恋という病さ」

 

「そういうのがストレスだと言っているのよ」

 

 興味を失ったかのように俺から視線を定食の白米に移した。白米を食べる堀北ちゃんもいいな。育ちがいいのか箸の使い方が綺麗だ。大和撫子という言葉は堀北ちゃんのためにあるのではなかろうか。

 

「そんなことより、さっき綾小路君と話していた件についてなのだけれど」

 

「清隆と?ああ、清隆が俺の心を読めるかって話?」

 

「そんなどうでもいいことではなくて、その後の話よ」

 

「その後って退学がありえるかって話か」

 

 俺が清隆と心が読めるかの話をしていたことを知っているということは最初から盗み聞きしていたということなのだけれど、それを指摘すると本格的に機嫌を損ねそうなので口を噤んだ。

 

「あなたはどう考えているの?」

 

「んー。赤点で退学ってのは嘘じゃないと思うよ」

 

「先生が発破をかけるために嘘をついた可能性は?」

 

「茶柱先生がそんな殊勝なことをするかね」

 

「ないわね」

 

 自分で聞いておいてすぐに否定するあたり、言ってみただけなのだろう。まぁ、あの担任だから仕方がないよね。

 

「なんにせよ、赤点さえ取らなければ問題なしだね」

 

「それが一番問題なのよ」

 

「試験までに間に合えばいいけどねー。もしや赤点を回避するための裏技があったりして。探してみる?」

 

「そんな不確かなものを追い求めている暇はないわ」

 

「さすが堀北ちゃん。堅実だね。いいお嫁さんになるよ」

 

 俺の嫁にねという意味を込めてウインクをしたら舌打ちで返された。

 

「……もし裏技のようなものがあったとしたら、今やっていることは完全に無駄になるわね」

 

「そんなことないと思うよ」

 

 俺に否定されると思わなかったのか、堀北ちゃんは意外そうに俺を見る。食事をしていて初めてまともに目が合った気がするけど、悲しくなるので気付かなかったことにしよう。

 

「今のあいつらに立ちはだかっている壁は、いずれは乗り越えなければいけないものだと思う。だから、必死になって壁を越えようとしているあいつらの努力を無駄と吐き捨てるのは早計なんじゃないかな」

 

「それで退学になったとしても無駄じゃなかったなんて言えるのかしら」

 

「さぁ?そんなもん知らん」

 

「知らんってあなた……」

 

「無駄かどうか決めるのはあいつら自身だし、無駄にするかどうかもあいつら次第だ。他人が人の努力が無駄かどうかを決めるものではないと俺は思う」

 

「短絡的な考えね。世の中結果がすべてよ。結果が伴わない努力なんて無駄でしかないわ」

 

「世知辛い世の中だね」

 

 堀北ちゃんはまるで自分に言い聞かせるようにそう言って立ち上がり、食べ終わった食器を返却口へ返しに行った。

 

「どうして人ってのは結果ばかり求めるんだろうねー」

 

「昔の自分を見ているようですか?」

 

「……急に話しかけてくんなよ。ちびるだろうが」

 

「ふふっ、そう言う割には驚いている様には見えませんよ、幸くん」

 

「俺はポーカーフェイスなんだよ」

 

 振り返ると、案の定、俺の後ろの席に銀髪の少女が座っていた。俺の幼馴染である坂柳有栖だ。

 

「盗み聞きはいい趣味とはいえんぞ」

 

「偶然、偶々、聞こえただけですよ。盗み聞きなんて心外です」

 

 プンプンと、わざとらしく頬を膨らまして怒る有栖。幼い容姿も相まってとても可愛らしいのだが、俺は堀北ちゃんにしか眼中にないし、妹みたいな存在なので何とも思わん。とりあえず、頭は撫でておこう。

 

「ふみゅう。やっぱり幸くんは頭をなでるのが上手ですね」

 

「事あるごとに撫でさせられてたら上手くもなるわな」

 

「それで、今回の試験はどうするおつもりですか?」

 

「どうもこうもねぇよ。堀北ちゃんは()()()()()()()。俺はそれについていくだけだ」

 

「まるで()()()()()()()()()()があるように聞こえますが」

 

「まるでもなにもそう言ってんだよ」

 

 悪い笑みを浮かべた有栖にデコピンをお見舞いする。有栖は涙目になりながらも嬉しそうに笑みを浮かべる。何こいつ変態なの?

 

「では、幸くんも気付いているのですね」

 

「あの小テストがあっての今回の件だからある程度は想像がつく。まぁ、確認をしたわけじゃないから何とも言えんがな」

 

 つい先日にやらされた小テストには解けるはずのない問題があった。それに茶柱先生の意味深な発言。それらを合わせるとおのずと答えが出てくる。

 

「その辺は清隆とかが上手くやるだろ。俺は堀北ちゃんに身も心もゆだねるぜ」

 

「そうですか。後悔だけはなされないように気を付けてくださいね」

 

「そんなもんするわけないだろ。俺は堀北至上主義なんだから」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。