欠けたることも   作:稲井 水帆

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明滅

果たして「望月」とは何だろうか?

眼鏡の駆逐艦?だらだらしている?……うん。確かに、それこそが「望月」だ。

では、質問の言い方を改めたらどうだろう。

果たして「あたし」とは何だろうか?

 

 

 

司令官の前で首を縦に振り続けていたのも、あたし。

 

『死にたくないから?死を厭う事は許されない筈でしょう?』

 

夕立の前で偽善者ぶって無根拠な励ましをしたのも、あたし。

 

『それがいい結果をもたらすと本気で思っているの?』

 

あたし、あたし、あたし。

 

『お前、お前、お前。』

 

認めたくない事実ばかりが目の前を塗り潰していく。

 

『認めなければいけない事実を眼前に叩きつける。』

 

 

 

……駄目だ。頭が、痛い。酷く痛い。何者かがあたしの頭を叩き割ろうとしている。

誰だか知らないけど、やめてくれ。

あたしは立たねばならないんだ、立っていなければならないんだ!

艦娘として、ひとりの人間として、「あたし」として……!

視界が酷く揺れる。ゆれて、しろく。

 

「もっちー?……もっちー!!大丈夫!?誰か!医務班を呼ぶっぽい!!」

 

大丈夫だ、大丈夫。あたしは此処に居る。まだ此処に。

 

 

 

気付くと、あたしは自室の布団で寝ていた。

……あぁ、倒れたのか。倒れたところを夕立か誰かが運んでくれたんだな。即座に状況を理解しようとする思考回路は、もはや職業病と言ってもいい。自嘲気味に笑う。

横には司令官。あたしと目を合わせると、わずかに笑みを浮かべた。

 

「……目が、覚めたみたいだね。」

 

「何も覚めちゃいないさ。」

 

「……少し、休むといい。次の任務、望月の代わりを卯月に務めてもらう。」

 

「……。」

 

寝返りをうち、司令官に背を向ける。大嫌いだ。司令官、あたし、世界、あらゆるものから目を背けたかった。

不甲斐ない。自分の無力さに打ちひしがれる。こんなの「死ぬのが怖いから逃げた」と言われてもおかしくないじゃないか。

……まぁ、あたしが出撃せずに卯月姉が代わるんだったら、艦隊は大丈夫だろう。あたしがいるよりも数段マシだ。卯月姉よりあたしの方が劣っている事くらい、自分で自覚している。

 

 

畜生。

 

 

「……望月?」

 

「うるさい。あたしはもう少し寝る。卯月姉に『望月がお礼とお詫びを伝えたがっていた』って言っといて。」

 

「分かった。とにもかくにも、今はゆっくり休むこと。いいね?」

 

「わーってるよ。あたしに命令すんな……。」

 

餓鬼みたいだな、あたし。何にも出来ないクセして、口だけは一丁前だ。

 

 

 

卯月姉が任務から帰ってきたら、どんな顔して会えばいいんだろう。布団に潜りこんだあたしの頭は、そればかりをぼんやりと取り留めなく考えていた。

 

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