見えるのは無数の手。その全てが、あたしを指さしている。
聞こえるのは笑い声。憎しみも入り混じった、嘲笑の音。
感じるのは暗闇の冷やかさ。凍てつく空気が突き刺すようだ。
「お前さえいなければよかった」
「お前さえいなければ」
「あの時お前が」
「お前が」
「お前が」
「お前が」
「……ッ!」
飛び起きた。夢を、見ていた。
熟睡していたようだ。その割に、体は重りを付けられたかのように怠い。
眠い目をこすりながら、時計の時刻を見る。午前零時。
なぜこんな時間に起きてしまった……?
そこで初めて、辺りが騒がしい事に気が付く。
寝間着さえそのままに、あたしは自室を出た。灯りが強い方へ向かえば、騒乱の中心に行けるような気がした。
「……司令官?」
着いたのは母港だった。そこに見つけたのは、さっきあたしの部屋に居た顔。そして、帰投した艦娘たちの姿。
「望月……っ!」
「んあ、司令官?……どうしたのさ、そんなに慌てて……。」
刹那、状況を把握する。
出撃したのは四人。神通さんを旗艦として、夕立、弥生姉、それに卯月姉。
今この場に居るのも、あたしを除いて四人。司令官、神通さん、夕立、弥生姉。
あれ?
「卯月姉は何処に?」
「望月!」
司令官からの怒号。
……あぁ、そうか。心の何処かで理解していたが、やはりそうか。
「もしかして……。」
辺りを静寂が包んだ。
沈んだ、のか。
そっか、強い敵艦がいるって言っていたもんな。
突如あたしの中に、恐怖が巻き上がった。
敵艦に対する恐怖ではない。卯月姉が沈んだことに対する恐怖でもない。
「……望月?」
「あぁそっか、分かったよ。ごめんね、野暮な事聞いて。あたしは部屋に戻るよ。」
あたしが恐怖したのは、他でもないあたし自身だった。
卯月姉が沈んだのに涙一つ流すことが出来ないでいる、あたし自身への恐怖だった。
悲しいかと言われれば、確かに悲しい。だが、それ以上に「仕方のない事だ」「艦娘が沈むなんて当たり前だ」という思考が、悲しみの邪魔をする。
あたしが出撃していればよかったのかな。
そうしたら、自分と向き合わずに済んだのかな。
頭が痛いなんて言い訳を無視して、あたしが身代になっていればよかったのかな。
弥生姉に失望されたくないし、明日は泣いてみせよう。嘘泣きは得意なんだ。
大きく息を吸って、吐いた。
あたしは、どうして生かされているのかな。
あたしは。
あたしは。
あたしは?
「お前がいなければよかった」
「お前さえいなければ」
「あの時お前が」
「お前が」
「お前が」
「お前が」
夢を、見ていた。