ほんの少し思い出してもらうだけの話   作:氷陰

10 / 17
※既読範囲の問題で、8部が考慮されていません。



馬乗り達の場合

 

「まだ引くか?」

 

「いいや引かない」

 

「じゃあ俺はもう1枚引いとくわ」

 

 

 テーブルの上には表を下にして積まれたトランプが鎮座している。重ねられた山札はもう残り少ない。そのテーブルを挟んだソファに腰掛けているのは、2人の男。

 1人は現代の学ランを着ており、もう1人はハットを被った金髪の男だ。どちらも至って真剣な顔で、手札を増やすか考えている。

 

 彼らは現在トランプゲームに興じているのだ。自分の手持ちのカードの数字の合計が21か、それに近いプレイヤーが勝ちとなるルールの遊び。チップの代わりなのか、包装された飴玉がテーブルの端に転がっている。飴玉はどう見ても学生の方に多く寄せられている。

 

 

「19! これでどうだ!」

 

「21。ピッタリで、俺の勝ちだな」

 

 

 またもや学生が勝ち、かけられた飴玉という名のチップは学生へと流れていく。金髪の男は負けた事が信じられないのか、しばし呆然としていた。

 

 

 勝負に勝った学生は藤堂一茶と言う名の、『何でも覚えられる』スタンド使いである。長く続いたゲームの間に消費された数字を記憶し、残された数字を予測する事は造作もない。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 俺の『プリーズ・リメンバー』は『思い出す』スタンドだ。この能力により、俺は今世において5歳以降の記憶は全て『覚えて』いる。

 もちろん普段生活する上で必要ない部分は『忘れていて』、必要になったらすぐに『思い出す』ように出来ている。頭がパンクする事は今のところない。

 

 俺の前世から今までの記憶を…とは言ったが、完璧に記憶しているのは能力と今の俺の自我が芽生えた5歳からに限る。前世で忘れてしまった思い出はどうあがいても取り戻す事はできない。

 

 生まれ変わる前に家族に愛された記憶はあるが、もうどんな顔だったか、どんな会話をしたかなんて些細な記憶は消えてしまった。辛くはないし悲観するわけでもないが、寂しい事だとは思う。

 余程嬉しかった事や悔しかった事といった鮮烈なエピソードは今も思い出せるから、今の俺の人格が出来上がっているのだが。

 

 

 逆に、『忘れる』事は、ほんの少しだけ苦手だったりする。苦手と言っても自分の感覚だけの話だし、俺以外にその違いはわからないと思う。

 

 能力で自分自身が『忘れる』使い方をするのは、嫌な事があった時や一時的に情報を知らない事にした方が都合のいい会話がしたい時くらいだ。俺がモテない事実だとか、スタンドという単語だとかがそう。それでも、関係するキーワードがあれば簡単に『思い出して』しまう。

 

 仗助君の時もそうだ。「藤堂一茶がスタンド使いだ」ということを仗助君に『忘れて』貰った事があったが、承太郎さんがきっちりと状況を整理させるために仗助君を質問責めにした結果、速攻で全部『思い出して』しまった。軽い暗示というべき代物なのだ。

 露伴先生に使った時も、恐らく俺の能力だけではすぐ思い出されると思って、『ヘブンズ・ドアー』で二重がけしてもらったのだ。

 

 

 俺は多分、『忘れたくない』気持ちが人一倍強い。故に吉良の第3の爆弾が恐ろしいし、リンゴォの()()()に怯える。神父が引き起こす、一巡した世界を認識した時、俺はどうなるのだろう。

 

 アレはむしろ『強制的に未来である出来事すら()()()()()』ものではある。しかし同時に『過去を振り返る必要などない』と言われている気がする。一巡後では、デジャヴの様な啓示で、自身の未来の行動を知る描写があったはず。

 

 それはつまり『一度()()()()()』事に他ならない。俺が一番恐れるべき事象ということになる。

 

 

 話が逸れた。今回俺が言いたいのは、俺の前世の記憶は、俺自身がスタンド能力の範囲外で思い出せて初めて、今の俺(藤堂一茶)の記憶として『覚える』事が出来るということ。そうやって俺が俺を形作っているという事だ。

 

 

 

 そしてもうひとつ、『ジョジョという作品の概要』を知っているが故に、この世界で俺しか知らない事が存在するということ。例えばパラレルワールドとか、一巡後の世界だとか…スティール・ボール・ランのことなどである。

 

 

 

 

 

 

「だあぁっ! 何で一回も勝てないんだーッ!?」

 

「だーかーらー、ブラックジャックじゃ俺には勝てないぜって言ったろうが! 大人しくポーカーにしようぜ」

 

「いーや、どうしてもゲームを変えるっつーならダイスゲームにしよう。21(トゥエンティワン)はわかるか?」

 

「自由自在な出目を出せるやつにダイスゲームで挑む馬鹿は、ここにはいないね」

 

「ニョホホ、おまえさんには出来ないもんな! ちょっとカワイソーになって教えてやったのに、ちっとも『回転』させられなかったもんな」

 

「はーッ! どうせ俺には才能なんてないっての!!」

 

 

 今日も今日とて俺は『霊媒相談所』のリビングで客を待っている。今は平日で、放課後でもある。いつもなら少しくらい人が来るのだが、珍しく1件も依頼が来ない。暇を持て余してしまったので、ジャイロを呼び出して一緒に遊んでいるのだ。

 

 彼曰く「図体だけ大きくなったガキの面倒をみてやってる」そうだが、俺が精神的にガキということか? 同世代の子たちよりは流石に大人だと思っていたからとてもショックだ。思わず悪態をついてしまう。

 

 

 

 ジャイロ・ツェペリ。

 第7部、スティール・ボール・ランの主人公の1人。『鉄球』を操る力を持ち、もう1人の主人公であるジョニィに力の使い方を教えながら共にレースに参加。ちなみに一応スタンド使いでもあるため、呼び出すときのコストがお高めだったりする。

 

 また、ネアポリスの法務官で、国家反逆罪で捕まった幼い男の子の無罪を信じ、「国王の恩赦」を得る為に優勝しようとする誇り高き男だ。もしくは冤罪か否かを『納得』する為、とも言う。

 

 7部におけるツェペリ家は、肉体を動かさないまま掌の物体に「回転」を加える特殊技術で『鉄球』を回転させる。その振動によってできた『波紋』は攻撃・治療に使用された。

 

 

 

 その回転の技術が波紋と近しい、同じものならば、とジャイロが実演したのを覚えてアレコレ練習したのだが、俺は全くもって回転させる事ができなかったのだ。『覚えた』だけでは実際に出来ないことも、才能がそもそもないこともわかっているが、悔しくはある。目の前に鉄球があったら試してみたくなるに決まってるじゃん?

 

 ジャイロは、自ら回転の技術を他人に教える質ではないが、俺の稚拙な波紋と見様見真似の回転を見かねて、ほんのちょっとだけ俺に教えてくれたのだ。まあその結果、彼に腹筋が引き攣るほど笑われたのだが。

 「おまえそこまで出来て何で回転しないんだよ!」と言われたので、もしかするといい線いっていたのかもしれない(希望的観測)。

 

 

「イカサマはそこまで得意じゃあないんだぜ?」

 

「得意そうな雰囲気はしてるけどなあ…」

 

 

 戯けたように言われても、カジノで大儲けできること知ってんだぞ! もうゲームを続ける雰囲気でもなくなったため、トランプを掻き集めてケースに入れる。次は何して時間を潰そうかと考えていると、俺のケータイの着信音が鳴った。

 

 携帯電話は、まだ会社員に支給されるようになったとか、そんな時代だ。かかってくるのは大体固定電話か、公衆電話からになる。今回は公衆電話だな。

 

 

「はい、こちら藤堂霊媒相談所で…」

 

「あ、藤堂先輩。東方ッスけど」

 

「ん? 仗助君か、珍しいな。電話より直接会いに来そうなのに。なら急用…まさかスタンド使いか? それなら俺より先に承太郎さんに言っとけよ?」

 

「いや違うって! …ああ、まあスタンド使いは見つけたんですけど、そいつは今んとこ大丈夫、安全っス。それより、聞きたい事があるんですけど…」

 

 

 仗助君は俺より色んなことをよく知っていると思っている。俺は1度見聞きして大体のことはわかるが、経験したものの数や質になると、恐らく仗助君に負ける。2000年代の常識に引っ張られて、はっちゃけられない事が多いのだ。

 

 そんな仗助君が俺に聞きたい事とは? いくらひとつ年上だからといってなんでもは知らないんだけど…。

 

 

「宝くじの換金方法って普通どんな感じかわかります? あ、えーと、例えば一等が当たった時とか!」

 

 

 興奮を抑えたようなやや震えたような声が俺の耳に届いた時、スタンド使いと会ったという情報と合わせて、俺は気づいてしまった。多分これは…。

 

 

(『ハーヴェスト』じゃん…ちょっと関わりたくないけど…)

 

 

 これは確かに大人や優等生に分類される康一君には言いにくいだろう。俺なら安心させる言葉を何か吐いてくれて、後輩の不利になることはしないと思われてるな。懐かれたもんだ。

 

 思い返してみれば、特に仗助君には甘く対応していたような気がする。あいつテレビゲーム持ってるから家に遊びに行くの楽しいんだよなあ。これは打算か、主人公、ジョースターって印象が強いからなのか。

 

 確か拾った当選くじを換金に行くのは、駅前の銀行のはずだ。もしカメユーデパートに来いとか誘われたら何が何でも行きたくない。

 杜王町に住んでいる以上完全に避けることはできないが、必要以上にあの辺りへ近づきたくないのが本音だ。殺人鬼の活動圏内なんて好き好んで長居したくない。

 

 杜王町に生まれ育ったと自覚して、1番に警戒したものだ。一方的に奴を確認出来るのが理想だと思って、コソコソ嗅ぎ回った事もある。なのに遭遇した事がない。()()()()()()()()になるのだろうか。スタンド使いは引かれ合うとかいう話は何だったんだ。

 

 

「ふむ、値段によるけど…確か裏に名前記入欄あるだろ。高額当選なら多分、名前が一致するかとか見るんじゃない?」

 

「あっ…本当だ。電話番号もある…」

 

「…お前それ自分で買ったやつなんだな? 拾ったんなら大人しく警察にでも届けた方が安全だぞ、多分」

 

「おっおれが買ったやつなんで! だ、大丈夫っス!」

 

「…おい仗助、誰に電話かけようってんだあ? これ以上分配する人数が増えるのはごめんだぜ」

 

 

 ほんの少し吃りつつも返事が返ってくる。また、遠い所から仗助君に呼びかける声も聞こえる。他にもガヤガヤと聞き取れないが、何かを言い合っている喧騒は耳に届いた。全く、本当はバレたらヤバイやつなんじゃないのか? それ。

 

 

「…俺も黙っといてやるから、あんまり他に言いふらすんじゃないぞ。

あとスタンド使いの方だけど、一応会っときたいから場所教えてくれないか。後ろで億泰君ともう1人、声が聞こえるし、一緒にいるんだろ?」

 

「え!? 今っスか…?」

 

「今から換金しに行くんだろ、なら俺とは会うだけだし時間は取らない。今から俺が家を出ればちょうどいいだろ、多分」

 

「…それなら、まあ」

 

 

 大体後から来て何も関わってないのに取り分を要求するほど、愚かではない。金はあればあるほどいいが、俺には稼ぐ力もあるしな。

 後輩に教えられた待ち合わせ場所は、やはり駅前の銀行だった。

 

 

 

 

 

 

「? あれ、いないな。銀行の真ん前で待っとくって言ってたのに」

 

「手続きで揉めてまだ中にいるか、複数人で高額を受け取ったのなら裏切り者が出たか、どちらかだな。まあ俺には関係ないが」

 

「いいからちょっとだけ手伝ってくれよ。多分群体型のスタンド使いがいるんだ。あんたのは手数を増やせるからさ」

 

「フン…報酬につまらんものを寄越したらお前に不利になるようにその辺で暴れてやろう」

 

「ハードル上げるのはやめてくれ」

 

 

 すでに俺は銀行に着いたのだが、後輩達の影はない。忘れたわけはないはず。なら何かしらトラブルがあったのだろう。

 

 『犯人』の話が出てからは、外を1人で歩くのは危険と思っている。だから俺は誰かしら呼び出して、もし犯人と出会っても1人で戦わないように戦闘配備を整えている。

 

 今回は戦闘に参加しない可能性の方が高いが、一応『ハーヴェスト』対策にこのやや高飛車な、金髪の男を呼んでいる。金髪ではあるが、先ほどまでいたジャイロではない。

 

 よくわからない網目の柄が入ったハイネックに、頭を守るヘルメット。理解できないセンスだが、それには「DIO」という文字装飾がなされている。

 

 ただし、日本の街中には適さないので、ヘルメットは脱いでもらい、顔が隠れるキャップ帽を着用させている。それが彼を不機嫌にさせる要因の1つだとはわかっているが、彼以外の適任がわからなかったから、許してほしい。

 

 

「じゃあ、どっちに俺の後輩君たちがいるかわかるか、ディエゴ」

 

「誰にものを言っている。数軒離れたあちらのビルの屋上に酔っ払いが2人いるな。やたらフラついている、多分これだろう」

 

「…アルコールを注入されたか…。連れて行ってくれ」

 

「仕方ないな…」

 

 

 

 

 

 

 ()()()()・ブランドー。

 この男は「Dio」であり「DIO」ではない。第7部、スティール・ボール・ランに出てくるレース参加者。レース中、他人の能力が定着してしまった形でスタンド使いとなる。主人公に対するライバル枠だ。

 

 スタンドは『スケアリー・モンスターズ』。自身を含めた対象を恐竜にして使役する能力。小型化も可能で、作中では索敵・情報収集などに使っていた描写がある。また、自身を恐竜化させると五感も強化される。

 

 今回はこの小型化の部分と、使役できる恐竜の小回りが利く点に期待しての召喚だ。本当に数が多いって利点だよな。

 

 

 

 そもそもSBRとは、1部から6部までとは世界線が違うというか、『一巡後』というか…。とにかく、パラレルワールド、平行世界と呼ばれる世界の出来事だ。

 

何処までメタなことを言うべきか悩むが、他の部で見たようなキャラクターや、関係するものが登場する部なのだ。読者の為のエクストラステージ、1部から見てifのような世界といったところか。

 

 そのため、「ジョナサンにあたる人物」と「ディオにあたる人物」が存在する。そこが始まりだから、存在しなければならない。その「ディオにあたる人物」と言うのがこのディエゴ、通称「Dio」と呼ばれる男だ。

 

 俺も『プリーズ・リメンバー』で呼べるのは『死んでいる』存在だけだと思っていた。しかし7部の人間を呼べたことで『この世にいない存在』が呼べるのだと実証したのだ。俺も検証して気づいたが、ちょっぴり解釈がズレていたらしい。

 

 

 といっても、あまり差し支えがなかったりする。はるか遠くの未来や別の世界を観測できる存在がいないからだ。居たとしても、俺の元に来る理由もない。

 

 俺の『藤堂霊媒相談所』のコンセプトは、()()()()()()()()()()()。この世界に存在していない人間にどうして会いたいと思えるのか。いるとするなら、俺のような存在くらいなのだが、今の所俺以外の転生者とは会ったことがない。

 

 俺以外に、騎手達の事を知っていて会いたいと()()生者は居ないのだ。SBRにおける死者に対して、俺に依頼する生者など存在しないから、俺が見たい『感動の再会』も見られないわけだ。…まあ、俺自身が会いたいから今も呼び出しているのだが。

 

 

 

 俺はDIOの顔をはっきり見たことはないが、恐らくディエゴの顔と大差無いとは思っている。違ったとしても承太郎さんが見れば何かしら感づくだろう。説明が面倒にも程があるから、見られないようにはするが、ただの人間でかつ、能力が『ザ・ワールド』ではないとわかれば何とかなる気がする。

 

 長々と零してしまったが、要するに「彼らを呼び出したいと願う依頼人は当然居ないが、俺が会いたいから7部キャラを呼び出してる」ということだ。バレなきゃセーフの理論である。

 

 

 

 …最近、思考回路が杜撰になっている気がする。あの殺人鬼とは誤差はあれど近々会う羽目になるのだから気を引き締めなければ。ああ怖い怖い。

 

 俺が殺人鬼への恐怖心を噛み締める傍ら、ディエゴは脇に俺を挟んでビルの側面を軽々と登っていく。…俺、身長も体重も人並みにはあるつもりなんだが。

 

 外壁を登りきると、屋上に仗助君と億泰君、それから見覚えのない中学生が1人見えた。その周りに小さな蜂のようなものが蠢いている。中学生は見覚えはないのに、とても特徴的だった。

 

 

 …何だその頭!!?? 本当に肌色のトゲトゲが頭部に付いてる。お前の元の頭蓋骨の形だと言うなら、1回病院に行ってこい!

 

 面識のある後輩たちの心配より、俺は「重ちー」、もとい矢安宮重清の頭に気を取られた。その後すぐに気を取り直して仗助君たちに目をやると、どちらも何箇所か怪我をさせられたようだ。億泰君は『クレイジー・ダイヤモンド』で治せるが、当の本人、仗助君の抉られた瞼は治せない。後で処置が必要だな。

 

 

 

 俺が2人の状況を把握する間に、ディエゴはというと、『ハーヴェスト』を見て不機嫌さを思いっ切り噴出していた。

 

 

「…矮小な虫けらの集まり。()()()()()()のためにおれを呼んだと言うのか貴様!」

 

「なっなんだと!? おらの『ハーヴェスト』が見えるってことは、おまえもスタンド使いだなっ!! 500万は渡さないど、やれ『ハーヴェスト』ッ!」

 

 

 すみませんこの借りは必ず何かで還元します…。

 仗助君と億泰君を拘束していた個体も含めた『ハーヴェスト』は一斉にディエゴに群がろうとするが、本人の恐竜化と、道中に虫やら猫やらから変質させた『スケアリー・モンスターズ』で振り払う。むしろそれぞれが反撃しているらしい。『ハーヴェスト』よりも手数は劣るが、恐竜達の方がパワーは上のようだ。

 

 

「こんなものか…まだやるのか?」

 

「ぐぐぐ…くっそぉ〜っ!」

 

 

 とりあえず時間稼ぎはしてくれるらしい。殺さないように言い含めてはいるが、レース参加者はだいたい容赦ないから、早めに決着をつけてもらおう。

 

 俺は2人の背中を支えて立たせる。もう作戦は考えてあるようだし、俺がやることはもうなさそうだな。え? 重ちーを撹乱しているのはディエゴ? 俺が呼び出したのだから、俺の手柄でもあるのだ。

 

 

 

 それから、億泰君の『ザ・ハンド』により奪い取った小切手を仗助君が破り、破片を街へ捨てた。それを人質として『ハーヴェスト』に追いかけさせて、無防備になったところへと億泰君が殴りかかって平和的解決となったのだった。詳しいことは原作でも見てくれ。俺は転生したからもう読めないけど。

 

 

 

「仗助さん、億泰さん! おら、目が覚めたど。ちゃんと金は分配するど!」

 

「…はああ〜終わった…」

 

「全く、手こずらせやがって…」

 

 

「イッサ、報酬は次にしろ。おれはもうこんな茶番に付き合っていられないぜ」

 

「すまないディエゴ。今回は杞憂だったみたいだ。最悪の事態にはならなかったし、助かった」

 

 

 迅速に死ぬほど不機嫌なディエゴを消す。重ちーはともかく、仗助君と億泰君はアルコールによる前後不覚状態だったため、ディエゴがいたことすら気づいていないようだ。足止めしていた存在を感知していたが、俺の存在を認識したせいか「藤堂先輩が助けた」みたいな思考になっているらしい。

 

 

「イテテ…重ちーの野郎、瞼を抉りやがって…。これは病院に行くしかねえな…」

 

「『クレイジー・ダイヤモンド』で仗助自身は治せねえってのは、不便だよな〜…」

 

 

 重ちーも億泰君もそこそこ外傷はあったが、仗助君に治してもらったらしく傷は無くなっている。今怪我があるのは仗助君だけだ。

 

 

「…ん〜、そうだな。うん、うん。仗助君、ちょっとこっちにこれるか?」

 

「…いやまだアルコール抜けてないんでキツイっす…。これ下に降りれるかも心配だな…」

 

「わかった。せめて傷は治そう、な」

 

「いや話聞いてました? 俺は俺自身を…」

 

「分かってるって。治せる人を『呼ぶ』んだよ」

 

「えっ」

 

 

 プリーズ・リメンバー。そう呟くや否や、肌の露出が少ない男とも女とも判別がつかない人物が出現した。上着の丈はやや長く、髪は薄く赤みのある色で、綺麗に切り揃えられている。被っている帽子はイヤーマフ付きのいわゆる鹿撃ち帽(ディアストーカー)

 

 

()()はホット・パンツと言う。正確には怪我した部分に肉を詰める形の修繕だけど、ないよりマシだろ?」

 

「彼の目に吹き付けてやればいいのか?」

 

「ああ、頼む。こいつ他人の怪我は治せるけど、自分には使えない力だから」

 

「わかった。ほら、目を閉じろ」

 

「は、はいっ!」

 

「他に怪我があるならH・Pに言えよ」

 

 

 仗助君は大人しくする事にしたようだ。後から考えると赤の他人といきなり接触させたことで、余計な警戒をさせてしまったかもしれない。

 

でも俺が呼び出せる人の中で唯一と言える回復役なんだよな。波紋使いも似たようなことはできるけど、『クレイジー・ダイヤモンド』より治療特化な人物は選択肢にない。

 

 

 

 ホット・パンツ。

 彼女も7部、スティール・ボール・ランにてレースに参加しているスタンド使いだ。とある贖いをする為に他の参加者と協力したりしなかったりと暗躍していた。

 

 罪を許されたいと願う修道女。彼女の罪というのは、他人から見ればただの「罪悪感」足りえるが、こういうのは本人が納得しなければいけないのだ。俺や他人がとやかくいうべきではない。彼女はこのことから、「清らかなもの」を手にしようとしていた。

 

 そしてある意味、俺はこの気持ちを利用している。

 

 

 

「終わったぞ。これでいいな」

 

「あ、あざっす…」

 

「ありがとうホット・パンツ。何かしたいことがあれば言ってくれよ。あんた、全然報酬を受け取らないから」

 

「私にとっては、私の力で誰かが助かるなら、喜んでおまえを手伝おうと思っている。前にも言ったぞ。私がすでに死んでいるからなおさらな」

 

「……わかった。また頼む」

 

 

 治療処置はすぐに終わり、やるべきことは終わったと言わんばかりにホット・パンツは去っていく。その間周囲は一度も口を開かなかった。というかむしろポカンと口を開けていた。

 

 

「か…カッピョイィ〜!! 先輩、なんすかあの女の人! すげー大人って感じだったぜ!?」

 

「激マブだったなぁ〜」

 

「さっきの人、どこに行ったど? あれ〜?」

 

「あーあーあー! また機会があったら会うって! …というか、そっちの子が、スタンド使いの子だね?」

 

 

 また話が長引きそうだったので、詰め寄ってくる仗助君と億泰君を無視して重ちーに話しかける。元々の本題はこれだったし。

 

 

「おー、そうだど。おら、矢安宮重清って言うんだ。ママからは重ちーって呼ばれてるど。あんたもスタンド使いか?」

 

「そうだぜ重ちー君。俺は藤堂一茶。仗助君たちの先輩だよ。何かトラブルがあったらぜひ頼ってくれ」

 

「わかったど、藤堂先輩」

 

 

「…よくさっきの状態からお近づきになろうと思いますね、先輩」

 

「…まあ、良くも悪くも顔見せはしておくべきだと思っただけさ」

 

 

 重ちー君も、俺の事を先輩だとみなしてくれたらしく、笑いながら手を振って今日のところは解散した。

 

 後日、小切手は換金出来たらしく、3人でやや揉めつつも歓声を上げている姿が確認できた。しかし仗助君に関しては、母親にバレたらしく、口座を凍結されて再び金欠になったとか。ドンマイ仗助君。

 

 …ん、なになに。今回俺は彼らの金に全く興味を示さなかっただって? そりゃ真っ当な稼ぎ口を持っているし、インターネット、IT関係の企業に株投資してるからな。安心感が違う。ここからどんどん上がってくし、便利だからな。まあ2011年以降がまともに時間を刻めば、だけど。

 




1週間くらい空いちゃいましたね。今回めっちゃ確認しなきゃいけない設定が多すぎてアワアワしました。多分どっか公式設定が間違ってる気がするので見つけたら教えてください。

原作ベースの話は時系列で書いてる以上練りこみますが、タイトルの趣旨と外れる部分はかなりカットしてます。吉良戦は流石にやるけど…。今回はつなぎ回でもあるので内容は薄め。

気になる人は単行本か文庫版をチェックだ!(ダイマ)

次は多分吉良戦その1ですね。年始になるかと思います。

追記
重ちーが形兆兄貴の矢でスタンド使いになったという事実を確認しましたので、後半の生まれつき〜という旨の下りはカットしました。ずっと生まれつきだと勘違いしてました。指摘ありがとうございました。

ということは杜王町のスタンド使いはほぼ…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。