あと途中から4部アニメ完走した影響で爽やかな気持ちで執筆した箇所があり、なんか雰囲気ちぐはぐだなと感じるかもしれませんがご了承ください。
ビッグニュースだぜ。なんと康一君と山岸由花子が付き合い始めたんだと。
仗助君も億泰君もいたく驚いていたが、俺は2人の因縁を詳しく『覚えて』いないし、恋愛沙汰の時に深く関わったわけでもない。俺にとっては既に付き合っているイメージの方が強かったから、改めて驚くことではなかった。むしろ今まで付き合ってなかったのかよ、とすら思ったぞ。
前置きはこの辺にしておこう。『シンデレラ』にて辻彩と山岸由花子が出会ったというだけの話だ。本題はこれに続く話が『シアーハートアタック』、つまりまた吉良吉影戦ということだ。すぐにでも始まるだろう、そう思って個人的に洋服屋を探し回っていた。
確か…名前は前世に忘れたが、靴屋だ。洋服の修繕もやってくれる靴屋で戦闘に入っていた。生まれてこの方杜王町に住んでいるから、何処に何があるかはおおよそわかる。
とはいえ、何となく通っていない道だってある。近道を知らないとかはよくあることだ。吉良邸すら見つけられないんだが、どうなってんだ。
それらの条件の中で当てはまるのは「靴のムカデ屋」。今日はその店に向かおうとしたのだが、道中声をかけられてしまった。ジョセフさんの時もこんな感じだった気がする。ムカデ屋はもう角をひとつ曲がるだけで見えるし、ちょっとくらいいいかと、無論俺も声がした方へ顔を向けた。というかまさにその角から尋ねてきた。
「やあ…そこの君、ちょっと聞きたいんだが」
「え? はい、何でしょう」
声をかけてきたのは男で、体型は標準、何処にでもいるサラリーマンだ。曲がり角の塀の後ろからこちらを覗き込むような体勢で話しかけてきた相手の、
「エステ『シンデレラ』という店は…この通り…だったかな?」
「いえ、最近出来たところですよね、もうひとつ彼方の道を曲がってすぐですよ」
「そうかい、…親切に、どうも」
息も絶え絶えなサラリーマンは、ゆっくり教えた方向へ歩みを進めていく。
会社の同僚の反応にも通常の顔で応えるような人間ではあるが、そもそも、質問してきた割に
俺の表情なんてこの男にとってはどうでもいいのだろう。俺自身、今どんな顔をしているかよくわからないが。
『呼吸を整えて』、背後からゆっくりと構える。腰を落として、右手を左手で覆って、落ち着いて、一撃入れる準備。
「ところでそんな所に行くより先に病院に行かれては?」
「…ああ…あとで行くさ」
「そうか。それじゃあ…死んでから行くんだな!」
「なっ…ぐはあッッ!!??」
男が俺の方へ振り向く前に重い一発を叩き込んだ。少々吹っ飛ばしてしまったが、問題はないだろう。ゆっくりと距離を縮める。
俺の顔が大人しそうに見えるらしく、カツアゲしてくる奴らが多いため喧嘩はそこそこの頻度でやっているが、殺すつもりで他人を殴ったのは初めてだ。
波紋込みだが、人間相手だと少し怯ませるくらいにしかならない。修行も互いに攻撃できない死人相手だから威力がどんなものか自分ではわからない。人を殺したことなどないが、いずれやらなきゃいけない予定があるから、躊躇なくやったはずだが、さて。
「あ…何だ………一体、何が…?」
「死者の安寧の為にお前を倒す。それだけの話だ」
「き、貴様も『ジョータロー』たちの仲間かっ…!? 」
「少なくともお前の敵だよ。彼らから逃げてきたのか? すごいじゃないか。次の相手は俺だよ、ほらかかってこい……『吉良吉影』!」
「おまえも、わたしのことを知っているのかッ…! 『キラークイーン』!」
「うおっ! …と」
憎々しげに吉良が叫ぶと、『キラークイーン』自らが殴りかかってくる。本体と近いが故に生身で食らうと、かなりダメージが来るため避けなければならない。
追い詰められて力が出にくい吉良の攻撃なんて余裕で避けられる。サッと身を翻して距離を取る。通行人が見えるが、まだ大通りに出ていなかったので邪魔も入らない。
ドゴ、ボゴ、バゴン!
『キラークイーン』の空振った拳が壁へ、ガードレールへ、地面へと無差別に当たる。俺には1発も当たらない。スピード自体は俺にも見切れる速さだ。
この分には俺は余裕を保てるが、『キラークイーン』の射程距離ギリギリまで後退する吉良にはほんの少しだけ焦らざるを得ない。
「ほらよっくらえ!!」
「ぐっ……」
動きが緩慢な『キラークイーン』に数発拳を叩き込む。俺はラッシュができるほど速いパンチを繰り出せないが、1発に出来うる限りの力を乗せることならできる。殴っているのがスタンドなので、生身の俺では大したダメージにはならないが、今の吉良相手なら地味な嫌がらせくらいの効果はある。
……というか、ピンポイントでかち合うとも思ってなかったし…。俺の計画的には、『靴のムカデ屋』の時点で承太郎さんたちに合流してからボコるつもりだった上に目的地もすぐそこだと思っていた為、スタンドとして誰も呼んでいなかったりする。
今も余裕がない。というか俺の能力は相手にとって相性が悪い人間を呼んだ方が効果が高い為、最善手として『呼び出す死人』が思いつかないと逆に誰も呼ばない、という悪手をとってしまうようだ。まともなスタンドでの戦闘なんてやった事ないから少し混乱しているのも理由の1つかもしれない。
本当は『シアーハートアタック』対策としてアヴドゥルさんを呼んでいたのだが、よくよく考えると悪手な気がして能力を解除したのだ。「…あれ、炎のスタンドである『マジシャンズ・レッド』に向かってこない? 至近距離で爆破されたら悲惨なことになるの俺じゃん!」と。そして直後にこれである。
それにしてもわかりやすい挑発が効くわ効くわ。本当にあちらさんにも余裕がないらしい。それでも状況的に承太郎さんたちにボコボコにされた後の筈なのに、スタンドを出せるほどの余力が残っているとは驚きだ。なんて精神力だろう、敵だが思わず拍手でも送りたくなる。
前世では随分と漫画で楽しませてもらったキャラクターで、今世では俺自身にとって倒すべき、忌むべき殺人鬼。本当に物語のキャラクターとしての魅力は素晴らしいのだが、当事者になるとそんなこと言ってられない。
やらなきゃやられるとはこういう事なのだろうか。いやまあ友達にしたいキャラですらないんだけど。お断りだよ、『キラークイーン』のデザインは好きだけど実際に見るとマジで不気味だよこれ。
俺が避ける為に動いたせいで、先程より俺と吉良との距離が遠くなっていた。まあそこまで不利になったわけではないだろう。
しかしその考えは甘かったのだ。『
「何だよ殴るだけなら俺だってできるぞ」
「誰がただ殴るだけだと言った! 間抜けめ、『キラークイーン』はすでに攻撃を終了している!!」
「あ? ……ッ! やべ…」
先程『キラークイーン』は俺を攻撃しようとして拳を振り回していたんじゃあないッ! あれは…
「『歩道の一部』を『爆弾』に変えた! これでおまえは迂闊にこちらは近寄れない!! 」
「クソッ! 待てっ! …迂回した方が安全だが、間に合うか…」
当然、『キラークイーン』が触れた箇所は見ていたからわかる。全て『覚えた』。それがちょっと避けて通るだけでは回避できない配置でさえなければ、真っ直ぐに走り抜けただろう。
確か『キラークイーン』の能力で使える爆弾はひとつずつだった筈だが、確実な情報ではない。しかしどの道殴った箇所の何処が爆弾になったのかは俺には全くわからない。
スタンド能力で『爆弾』になった舗装のレンガは、俺が触れたら一瞬で死ぬ地雷だ。本物以上に、よりピンポイントに対象だけを消す。この場合、吉良が爆破させるタイミングもあり近づけない為、地雷よりもタチが悪い。
地面だけでなく、両壁にも『触れて』いる。無理をすれば壁を伝って移動できるかもしれないが、足を滑らせれば即死の可能性がある。試すくらいなら回り込んだ方が楽だ。爆弾になった場所を『覚えて』いても、俺のミスが起きないわけじゃない。
早く逃げた吉良を追いかけなければ。ああ、遠回りなんて非効率的な! 細い抜け道もないのに。
ここで、俺の後方から『手』が飛んできた。不自然に宙を舞う骨ばった左手。恐らく、というか確実に『クレイジー・ダイヤモンド』で『治して』いる途中の『吉良吉影の手』だ。咄嗟に俺はその『手』を掴んだ。
「…こっちだ!」
「………! 仗助君ッ!!」
すぐに角から味方が飛び出してきた。先頭は仗助君で、後ろから億泰君、承太郎さん、康一君も走ってきている。声をかけた俺に気づいた彼らは何故ここにいるのかという表情を見せるが、今重要なのはそれじゃあない。
「とっ藤堂先輩!? どうしてここに…」
「それより…『爆弾魔』に会った! 奴は『シンデレラ』に向かっている。だがこの道はすでに『爆弾』が仕掛けられた、迂回しろ!」
「『シンデレラ』って、由花子さんの時の!? どうして…!?」
「あの野郎、たぶん『顔を変える』つもりだぜ。あと『手』はちょいと気持ち悪いだろうが、しっかり持っておけよ」
「ちょ、先輩っ! その手にも自動操縦型のスタンドがついてるんすよ、危ないから手ェ離せって!」
「コッチヲミロ!!」
「えっあっうおっ!!」
手を持っておくメリットよりデメリットの方が大きいらしい。成る程、『手』を捕まえておきたくても『シアーハートアタック』があるから近づけないのか。確保しておけば
つい離してしまった『手』は宙を浮いて『シンデレラ』へ向かっていく。俺に向かってきたキャタピラみたいな音を立てる『シアーハートアタック』は、射程距離はあるはずなのに『治している途中の手の軌道』を優先するらしく、手と共に角を曲がっていった。
これでまた『手』を追わなければならないのだが。
「しかし迂回してちゃあ逃げられてしまう…ッ!」
「…やれやれだぜ。全員受け身をとれ、『スタープラチナ ザ・ワールド』!!」
「!! 力づ───」
瞬きもしていない内に、瞬間俺たち学生は全員大通り側の歩道へ勢いよく放り出されていた。
「───くですねえ!!」
「「「うおおおっ!!!?」」」
「さっさと追うぞ」
ドタンバタン、となんとか着地する。康一君は俺がキャッチしておいた。軽いから車道まで飛ばされそうだ。
スタープラチナ ザ・ワールド。
時を止める、承太郎さんのスタンド。最強のスタンド使いたる所以だ。3部から4部の頃だと、2秒くらい止められたのだったか。
…えぇ? 読者目線だと絶対それ以上止まってる? 逆に考えろ、止めた時間の感覚は止めた本人の感覚なんだから2秒と言えば2秒だし、1時間と言えば1時間になるのだと。10秒くらい止まっていても本人が2秒といえば2秒だ。
この間、止まった時の中へ入門していない者は、止まっている間の事を知覚出来ず動くこともできない。いつの間にか腹に風穴が空いてるなんて体験も起こり得るぞ。
冗談はさておき。
既に承太郎さんのお陰で、そのまま吉良を追うことができるようになった。承太郎さんも地雷地帯は飛び越えている。『手』はちょうど『エステ・シンデレラ』のドアを潜り抜ける所だった。
「急げッ! 中に入ったのなら袋叩きに出来る!」
「待ってろよ、吉良吉影!」
俺はこの時点で急いでこそいたが、少なくとも重ちー君の時より焦ってはいなかった。何故なら吉良には『入れ替わり先』が無い
吉良吉影は杜王町から逃走する気は全くなく、それでいて静かに暮らしたがっている。殺人を犯してなお、だ。だから顔を変えるだけでなく、『既に存在する誰か』に成り代わるのが今の奴にとってのベストとなる。
『原作』では背格好の似た男を捕まえて、その男の顔と指紋を奪い何食わぬ顔で他人の家に帰っていくのだ。しかし、俺の見えた範囲では人通りがあったとはいえ、奇跡的に吉良と背格好が同じ男などいなかった。
だから、『吉良は誰かに成り代わることができない』と断じた。そう断言する為の描写は足りないというのに、そう思い込んだ。
「いるんですかッ! 辻彩先生ッ!」
店のドアを勢いよく開けて、仗助を先頭に全員が中へ入る。ネクタイ、靴、上着、果ては免許証まで。そこには血だらけの床と散乱した衣類、少し奥にこの店の主人たる女性が倒れていた。
「な…なんなんだよ!? お…おい、これはいったいなんなんだよォ〜!!?」
「何が起こったんだ?」
「彩さんが……」
進む『手』の行方を追う為に視線を奥へやると、施術室の椅子には半身に服を纏っていない
1番冷静になるのが早いのは、やはり承太郎さんだった。
「死んでいる…!? なんで吉良吉影が死んでいるんだ!?」
「………ッ」
「待て! その男、『左手』がある!」
「え!?」
承太郎さんの指摘から触れないように気をつけつつ、机に突っ伏している男を確認していく。顔がない、指紋もない。この男が誰なのか、個人を特定する身元や特徴は全て失われていた。
俺はというと、その傍らで誰かに気づかれることなく自問していた。
──何故『背格好が同じ男』がいる?
───何故ここにいた?
────吉良はすでに入れ替わった?
─────何故、何故。
通りを歩く人間の中に条件が揃う男はいなかった筈だ。俺はしっかりと行き交う人々をこの目で見ていた。いなかった、絶対に吉良に近しい背格好、体型の男はいなかった。ややふくよかでもっと年のいった感じの人しかいなかった。
…ならば、俺達がこの店付近を通るより前に、中にいた? それこそこのご時世、男がエステに行くのか? 仮にそうだとしても、一体どんな確率だ、というかなんの目的だ?
頭の中で完成しきらない仮説ばかりが渦巻く。なぜ、なぜ、何故。
動揺していた俺の耳にも、弱々しい声が届く。
「背丈かっこう……が、同じ男」
「!! あ、彩さん! 生きてるッ!」
「
「………!?」
「
その死に体の辻彩の口から、今さっき起こったであろう事実が途切れ途切れに語られていく。その後も言葉を続けるが『顔』を変換させられた事まで伝えると、彩さんは無残にも『爆破』されてしまった。
「あっ彩さん──ッ」
「! 左手がドアの向こうへ!」
「逃すかてめーっ」
また、仗助君達が動き続けていた左手を追おうとしたが、ドアの先に広がっていた帰宅時間の通行人達の海に阻まれてしまった。康一君が怒りを乗せて出てこいと叫ぶが、当然奴が姿を見せるはずもなく。
『吉良吉影』には逃げられたというわけだ。
俺はまだ店の中にいた。逃げられた事よりも、『原作』との少しの違いに動揺していたのだ。
つまり、吉良が入れ替わり先として誰かを連れてきた訳ではなく、『シンデレラ』にいた
…いいや、これは奴の幸運云々の話じゃない。俺が自分の記憶を活かせなかったという失敗だ。実に忌々しいことに、俺は別人になる事を知っていたのに防げなかったのだから。日時がわからなくてタイミングがズレたことなど言い訳にもならない。
吉良の作り出した『地雷地帯』を無理やり抜ければ良かったのか。誰でもいいから『呼び出して』、さっさと殺してもらうのも…いや、死人に生者を殺させるべきではない。これは生きた人間がやらねばならない事なのだ。
さらに言えば、元とシチュエーションが変わった。吉良自身が入れ替わる為に連れてきた川尻浩作ではなく、偶然ここにいた他人と入れ替わったのだ。……恐らく川尻浩作に成り代わっているとは思うが、もし違うならかなりマズイ。俺のアドバンテージが消し飛ぶ。
とにかく、せめて『奴の親父』くらいはどうにかしなければ…。幸い追跡中に康一君が奴の個人情報を教えてくれたので、1人でも殴り込みに行ける…この流れでそんな真似はしないが。
別荘地帯の、山の方よりの場所だったんだな、吉良吉影の家は…。
「奴の住所は…わかったんだよな」
「藤堂」
「行きましょう。何か『手がかり』があるかもしれませんし…」
「…帰ってるわけは…ねえよな」
殺人鬼の名は吉良吉影。住所は杜王町浄禅寺1の28、年齢33歳。スタンドは近距離爆弾、『キラークイーン』。杜王駅から車で約15分の別荘・リゾート地帯の
家は木造平屋で歴史のありそうな武家屋敷のつくりのようだ。やや立派だという事以外は何の変哲も無い。部屋の中は障子や襖で区切られている。
奥へと進んで、廊下の角部屋に行き着く。手入れされた庭が部屋からよく見える配置だ。タンスや桟の上にはトロフィーや表彰状が飾られている。勿論全て3位だ。
低い座り机には健康に関する本が几帳面に並んでいる。紙とペンがあるが、特に何か書かれているわけではなくただ鎮座している。
康一君と億泰君はキッチンの方から、仗助君と承太郎さんはそのトロフィーが飾られている部屋を探索する。仗助君がやたら騒いでいるが、あまり意識して聞いてないのでわからない。
「せんぱぁ〜い、ボーっと突っ立ってないで、探すの手伝ってくださいよォーッ!」
「あ? ああ、すまん…」
「具合が悪いなら先に帰ってもいいんだぜ〜先輩?」
「いいや…ちょっと考え事をしてただけだ。ちゃんと探すよ」
「おれじゃあ風邪は『治せ』ねーからなあ…」
どうやら先ほどの動揺をまだ引きずってしまっているらしい。後輩の気遣いが身に染みるぜ。先ほどよりは冷静だと思うんだが。
どれかはわからないが、『弓と矢』はタンスの引き出しの中だ。俺はガタガタガタッ!!! っと、勢いよく下から引き出しを開けていく。手当たり次第片っ端だ。
『弓と矢』もだが、『親父の写真』もさっさと処分したいのだ。最後の方まで邪魔してきた気がするからな。まあ今の俺は自分でもわかるくらいにはイライラしてるから、ただの八つ当たりになるかもしれないが。…いや正当な怒りってやつだな。
アルバムは見つかったが、後でいい。ジョースター2人に渡しておいた。吉良の部屋には机の引き出しもあったが、そっちには入ってないはずだ。他の部屋に行く。
襖のヘリをまたいだ瞬間に、後ろから「バシャアッ」というシャッター音が聞こえた。すぐに振り返って部屋に手を伸ばすが、部屋に入る事なく、まるで手だけワープしたように、反対側の空間の面に貫通していた。
「仗助君、承太郎さん。部屋に入れなくなりました!」
「あ? ……な、何ィ!? 腕が!」
「見てくださいよ、反対側に出てしまうんです。…断面どうなってんだろ。この部屋だけ区切られたみたいに中は入れません」
「スタンド攻撃…」
「だな」
「藤堂、お前は億泰と康一君にこの事を伝えたら、そのまま捜索してろ」
「承太郎さん?」
どういう意図か正確には読み取れないが、隠そうとしてるであろう物をさっさと見つけてこいって言われてんのかな、これは? たぶんそうだと思いたい。
決して俺がポルナレフ並みに突進していきそうな心理状態だから無闇に戦闘させないようにしている、という訳ではないと信じたい。
「…んー、死にそうになったら言ってくださいね」
「藤堂先輩まで!?」
「仗助君と承太郎さんなら多分大丈夫だよ。それでもどうにもならなかったら呼べ」
「…そりゃ〜余裕っすよ、先輩の手を借りることなんてないですってゼッテー」
とりあえず2人を残して、急いでキッチンにいるであろう億泰君と康一君を呼ぶ。と言っても、すでに区切られた空間の外からはどうこうできないんだと思うと憂鬱だ。幽霊なら俺の管轄なんだけどなあ…。
ありのままに伝えたら、2人は廊下を駆けていった。呑気してそうな俺に怒ってたけど、とりあえず急かしておいた。俺は捜索に戻る。
「わしは『写真の中』に『生きる』幽霊! わしはわしの写ってる写真の空間を支配できるのだッ!」
俺が『弓と矢』を見つけて合流した時には、吉良の親父が自身の能力についてご高説を垂れているところだった。億泰君のリアクションに対してさらに煽るような台詞を吐いている。
「この2人を殺したら、次はおまえらと、もう1人もまとめて閉じ込めてブッた切ってやるからな〜〜〜ッ!」
「『生きてる幽霊』なんて、たいそうな口を叩くジジイだな」
「! 先輩ッ」
「さっきのガキだなッ! おまえもすぐにこ〜ろ〜す〜…」
「おまえの隠したかった宝物は既に俺が見つけたぜ」
「…な、何だと〜ッ!!?」
『弓と矢』を見せびらかすように掲げると、吉良の親父は目に見えて焦っていた。「こいつ仲間が殺されそうだって時に1人で物色してたのか!? 卑しい奴め」とか、「おまえから先に殺す」とか言っているが、俺の知ったことではない。
そうやって俺が吉良の親父の意識を向けられている間に、承太郎さんがちゃっかり新たな別の写真に親父だけを閉じ込めた。包丁を持ち出した直後だったそうなので、少しヒヤッとしたと言うのは仗助君の愚痴である。
「『弓と矢』…か」
「なんでこんなところに…」
「…恐らく『エンヤという老婆』から手に入れたのだろう。それでここに保管していたんだ」
「多分これで吉良もこの親父もスタンドが発現したんじゃあねえか?」
「これが見つけて欲しくなかったものでしょう」
この2つの、住宅にそぐわない異物から、各々が意見を交換する。ちなみに『吉良
「これもSPW財団管理っすね」
「そうだな。藤堂、渡してくれ」
「あ、はい」
「…? 『矢』だけじゃあなくて、『弓』も寄越しな。おまえが待ってても仕方ねえだろう」
ただ手から手へ物を渡すだけなのに心臓が握りつぶされる感覚だった。そういえば今のところニコイチセットで見つかってるから、『矢』だけじゃ不自然だった。片方だけ渡したことがただの悪ふざけに見えていることを祈る。
スタンド使いを生み出す原因である『弓と矢』だが、必要なのは『矢』の方だけだ。もっというなら鏃部分だけ。鏃ならば例え破片でも効果を発揮する。この時点じゃ何となくはわかってるけど確定情報じゃない。
俺にとっては初めて手にする重要アイテムだ。感動半分恐ろしさ半分といった心境である。持っていたくない気持ちと取り返しがつかないボロが出そうだという焦燥感が押し寄せてきたので、さっさと押し付けよう。
しかしこの『矢』、なんだか違和感があるのだが、なんだろう。初めて見たものにそう感じるのは奇妙な事だが…。
受け渡しは邪魔されることなく終わり、吉良の親父の対処の話となる。まあ、焼けばいいんじゃね、という雑な結論に至りいざ固定した柱を見ると、
攻撃に使い損ねた包丁で器用にテープをきったようだ。そういうガッツは評価するがな…。
「あ〜〜ッッ!!! 写真のおやじが!」
「マヌケどもが! 『弓と矢』は返してもらうぞッ」
「へえ、出来るもんならやってみろ」
「てめーが『弓と矢』を見つけなきゃあ死ななかったのによ〜なァ藤堂!」
「藤堂先輩ッ」
写真の親父が包丁を構えたまま真っ直ぐに向かってきた。5メートルくらいの距離があり、遮蔽物も特にない位置関係だった為何もしなければ俺は刺されていただろう。
「『プリーズ・リメンバー』ッ!!」
でも、俺のスタンド能力を忘れてもらっては困る。杉本鈴美の時は、『小道』に幽霊として存在したにも関わらず能力で呼び出すことが出来た。そして、意思の伝達も万全にできない状態だった。
「〜っ! ……〜〜〜!?」
「何言ってるのか聞こえないね…。言いたいことはわかるけどさあ」
「死ねっ! ……な、何故動かない!?」といった事を言っているようだ。包丁を持った手は俺に届く前に不自然なくらい宙にピタリと静止した。吉良の親父は、俺へ攻撃出来ないことに大変ご立腹だ。訳も分からない内に負けていた事を悟っているようで、顔を真っ赤にしている。
「まさか、写真のおやじを『スタンドにした』んすか?」
「そ。こうすればこいつは俺に危害を加えられない。そして…」
「ん?」
「億泰君、この写真を削り取ってくれないか」
「おお、わかったぜ。『ザ・ハンド』!」
ガオンッ!
先程まで吉良の親父が写っていた写真を拾い上げて、億泰君へ渡す。まだ何か喚いている吉良の親父は俺の手で捕まえている。俺以外には攻撃出来るしな。
彼も即座に俺の言った通りに写真を『ザ・ハンド』で処分してくれた。削り取ったものは異空間へ飛ばされるのだから、文字通り跡形もない。本当に異空間に行ったのかは定かではないが、まあいいだろう。
「これで戻るべき元の写真は無くなった、っと。……承太郎さん、こいつは多分口を割りませんし、いいですか?」
「ああ、親子共々途轍もない執念を持っているしな。またとないチャンスだが」
「では解除します」
「………」
「…もう死んでるんだから大人しくしろ。お前はあの世へ魂の形を保ったまま逝けるが、お前の息子のせいで苦しんでいる『死人』もいるんだぞ。俺は、吉良吉影を、許さないからな」
基本的に死人や幽霊には寛大だと自負しているが、今回のは無視できない案件だ。厳しくもなる。
能力を解除すると、捨て台詞を吐く暇もなく、奴はこの世から消滅した。手元にある戦利品は、なぜか違和感を感じる『弓と矢』、『写真のおやじ』の撃退。吉良と会う時の戦闘が楽になる事を祈る。
『写真のおやじ』、吉良吉廣。
──────
「…もし、あの父親が『矢』を持ち去っていたら、間違いなく
「ちくしょ〜〜今度会ったらタダじゃあおかねえぞ、吉良吉影!」
「さっさと見つけなきゃあヤバいな…」
「でももう手がかりが…」
たしかに、奴を探し出すための新たなヒントは今のところない。しかし子どもが吉良のことばかりに気を詰め過ぎずにいつも通りの生活をしてろ、とは承太郎さんの言だ。もし何か異変を察知したら必ず誰かに伝える事だけは全員の意識として共有された。
とりあえず吉良邸の捜索は終了させて、全員帰路につく。このメンバーの中では俺が1番家が遠いため、バス代があったか財布を漁るが、小銭とオーソンのレシートしか入っていなかった。こういう時に限って口座から金を下ろすのを忘れていたらしい。
時間外手数料も払いたくないので、歩いて帰ることとする。夏間近だしそこまで暗くないからな。
1番近い分かれ道であるグランドホテルの近くで承太郎さんとはお別れだ。後輩達も帰っていくが、俺はさっきから頭の中に残っている『矢』の違和感が無視できない程気になったため、承太郎さんを呼び止めた。
「承太郎さん、すみませんがさっきの『矢』、もう一度見せてください」
「ここでか? 何故見ようとするんだ」
「なんか、最初に見た時から違和感があって」
かなり渋られたが、少しだけだと言って承太郎さんは内外どちらからも傷つけられないように巻いていた布を取り払って、鏃の所を見せてくれる。
なんか、もうちょっとでピンと来そうなんだよな、こういう考えが喉で突っかかってる感じ。『なんでも覚えられる』今世では、全くと言っていいほど無縁であるから、凄くモヤモヤするんだよ。
『矢』を承太郎さんの手ごと持って右から左から、上から下からとあらゆる角度から見回して数分。やっと違和感の正体に気づいた。
「あ、これ! この『矢』の鏃、この面が削れてる」
「何?」
「ほら、水平にして鏃を自分に向けて見てください。右と左で厚みに差があります」
範囲が小さく、僅かな差だ。刃の部分も一緒に欠けているため、欠片があるとしたら、やや不恰好な形だと予想がつく。承太郎さんは無言でものを細かい所まで見ることのできる『スタープラチナ』を呼び出した。一拍置いて、俺の意見に承太郎さんが頷く。
「自然に欠けたにしては不自然な断面だ。まるで誰かが、別に破片がある事に気付いて欲しくなくてヤスリで整えたと言ったところか」
「…だれか…吉良吉影…? 欠片は吉良が持っている…いやでもそんな」
「可能性はある。もしかすると、奴らは既に刺客として新たなスタンド使いを増やしているかもしれん」
承太郎さんはSPW財団に連絡を取ると言って、そのままホテルへ戻っていった。明日にはこの見解が他の味方にも共有されるだろう。
さて。しばらくは大人だけで動きそうだし、俺は俺でなんかしておこうかな。今日は怒ったり、焦ったり、動揺したり、他人の家の中を探索したりと、精神的に疲れた。
能力はそんなに使っていないはずなのに…危険な非日常の刺激というのは、なんで疲れるんだろう。俺だけなのかな。他の奴はむしろなんで平気そうなんだよ、俺、何食わぬ顔で学校生活送れる気がしないんだけど。
歩いて帰ったら俺は直ぐに寝た。眠りが深すぎて次の日学校に遅刻しかけたが、いざ授業を受け始めると、昨日殺人鬼にあった緊張感など空の彼方へ消えてしまった。人間、意外と図太いようである。
かなり間が空いてしまいました、すみません。補足しとくべきところだけします。ちょっと文字多めです。
○スタンドに生身で触ってる
波紋も人間の生み出すエネルギーだから干渉くらいは出来るかな、という感覚で書きました。攻撃自体は通ってないです。
○川尻浩作どうなってんのか
入れ替わり先は変わりなく川尻浩作です。 女性向けっぽい『シンデレラ』にいたのはしのぶさん関係で思うところがあったんじゃないですかね。
しのぶさんのためにリサーチしてたのか、妻とうまく行ってないといった話から彩さんが男の方にプランを勧めようとしていたのか。
でもアニメ見てたらお父さんも昇進とかばかりで、そんな甘い感じじゃなかったようですね。
○吉良の親父のせいでスタンド使いになった人たちは?
本来はここから逃げた後に味方を増やしていましたが、ここでは不穏な空気を察知した親父が先手として、スタンド使いを増やした感じに変えています。と言うわけで過不足なく揃っています。
○第3の爆弾ないの?
ありますあります。忘れそうなので言っときますけど、最後の欠片って言うのが伏線です。
以上、とりあえずの補足でした。次の更新はリアルが忙しいので1月後くらいになります。ハイウェイ・スターまでを想定しています。