前回までのほんの少し思い出してもらうだけの話ッ!
4部に関わることになった転生者藤堂一茶。死者を悼んでるのか弄んでるのか、人によっては評価の分かれる『記憶したり忘れたりさせるスタンド』で本来より早く『写真のおやじ』を倒した。ちなみにこのスタンド、死者を呼び出すこともできる。
また、ベリーナイスメル様より絵をいただきました。掲載許可はいただいています。ありがとうございます……! 思いの丈は活動報告で叫んでます。
【挿絵表示】
お待たせいたしました……(小声)。本当にお待たせしました……
7月も半ば。夏だが、朝の涼しさが妙に肌寒い。ママがぼくを起こしに来たが、すでに起きていたのですぐに1階へ降りていった。
(これから……どうする?)
……ぼくは緊張していた。夜もよく眠れなかった。
なのに、妙な感じがする。胸騒ぎというか、なんというか。もちろんあいつの事を警戒しているからそうなっているというのはわかるけれど……。
全く心が晴れないまま学校に行く準備をして、朝から間違い電話がかかってきて、受話器を取るために急いだママの大事にしているウエッジウッドのティーポットが割れ、慰めのようにあいつがママの頬にキスをした。
ぼくはたしかにパパと会話をした記憶は少ない。気づいた時にはパパとママが話すことも少なくなっていた。ぼくもママになにを話せば良いか分からなくて……最後には家の中での会話はほとんどなくなった。
それでもぼくは知っている。アルバムの中とか、昔ママが話していた中でだけだけど、ぼくが生まれた時は2人とも笑顔だったって。今では信じられない話だけど。
どうあっても川尻しのぶはぼくのママで、川尻浩作はぼくのパパだった。それは変わらない。そして……パパに成り代わっている『あいつ』はけしてパパじゃない。「仲良くしよう」なんて冗談じゃあない!
しかも先に家を出てママのいない外でぼくの帽子を持って待ち伏せしていた。どうやらわざわざぼくに何か言いにきたらしい。
「いや、昨夜の君には実に強い意志を感じたよ。この吉良吉影を逆に脅迫するとはね……」
「き、キラ……ヨシカゲ……?」
上機嫌なあいつがとても重要な、様々なことを喋った。名前、確かに。『キラヨシカゲ』……『キラ・ヨシカゲ』、『キラヨシカゲ』! 覚えたぞ。
「君を殺す必要はなくなった。成長したんだからね……。君がどこで誰に何をしようとわたしは『無敵』になったんだ」
「…………………………」
「親子のように安心しろ」と言って、あいつは駅へ向かった。ぼくはというと、足は動いているのかいないのかもわからなかった。少なくとも座り込んではいないが……。
しかし、どうすればいいのか。家では『キラ』はぼくを監視する。仕事に行く昼の間にこの真実を……伝える? 誰に? 警察へ、と思ったけれど、到底信じがたい話しかできない。
あいつは『無敵』だと言った。敵なし、ということは
どうする? どうすれば。ぼくはいったいどうすればいいんだ?
「君……川尻早人くん、だね?」
焦燥を感じながら歩いていると、声をかけられた。車から出てきたのは随分と奇抜な服装の大人だ。なにか異様な存在感。
……誰だろう、この人は。やや威圧的に、かつ子どもに言い聞かせるように話しかけてくる。
「君を待ってたんだ。ぼくの名は岸辺露伴。ちょいとばかし好奇心で尋ねたいことがあってね……この写真のことなんだ」
「……!」
「写ってるの君だよね? 端っこの君のお父さんをビデオで撮ってるのかい?」
その疑問は『
ぼくはこの時、本当ならこの「あいつをどうにかしてくれそうな大人」に頼るべきだったのかもしれない。しかしあいつにも同じことがバレた昨日の今日で、また知らない人にも嗅ぎつけられた。
その事実が怖くて、逃げ出そうとして、肩を掴まれて────。
「あっ! 露伴先生がまた子ども相手に大人気ないことしてる。ダメですよ〜っと!」
「……君なあ。たしかにぼくは康一くんたちと落ち合う予定にしてたし、君にも連絡を入れたさ。だが見ろ! 今何時だ! 遅いんじゃあないか!?」
新しい人がやってきた。学ランを来てて、岸辺露伴という人と同じくらいの背丈……高校生だろうか。露伴はそちらの男の人の方へ振りむき、ぼくもつられて振り向いたまま会話をじっと聞いていた。
「8時25分ですね。5分前行動の範囲内じゃないですか! 先生が早すぎるんですよ。何時からここにいたんですか」
「8時だ。康一くんたちも仗助たちも来ないしな!」
「早っ……てか、2番目に来たんだからやっぱ俺怒られなくてよくないか……?」
「だがみろ! ちゃんと『川尻早人』はここに来た! それにやはり、何か知っていると見える。これから詳しく
「ん、え……? あっ」
子どもにちょっかいをかけていると思って嗜めたのはその人なのに、岸辺露伴が出したぼくの名前を聞いて動きが固まった。ゆっくりぼくの顔に視線を動かし、目が合ってまた固まった。
「……? どうした」
「………………」
なにを考えているか全くわからない。10数秒経って、
「……マジか、そのままなのか。悩み損じゃないか……聞いてないんですけど……」
やっとそう小さく吐き出した。
なにをそんなに驚いたのかわからないけれど、それよりこの状況をどうにかしてくれないだろうか。そうだ、『キラ』のことで頭がいっぱいだったけど、ぼくは今は学校に向かっているんだった。
「露伴先生、もしかして『
「だから言っただろ、『これから聞くつもり』だって」
「………………あー、露伴先生、露伴先生。その前に俺に任せてくれませんか?」
「ぼくがやったほうが手っ取り早いが」
「いーから! お願いしますよっ! ……あー、そうだな……」
なにやら言い合いをしている2人。もう無視して行ってしまおうと思ったのも束の間、その人はなにかを噛み締めるようにぼくに語り始めた。
急に人が小走りで軒下へ向かうほどの雨が降り始めてもお構いなしだ。
「多分このタイミングで先生が『爆破』されてないなら、一度も戻ってないね。だから君には、俺がなにを言ってるかわからないはずだ。……それでも聞いてほしい、『信じてくれ』」
「…………」
岸辺露伴のように名乗りもしなかったその人は、ぼくの肩と頭を感情いっぱいに強く抑えて続ける。鬼気迫る顔に後退りしそうになったが、叶わない。
「君は『爆弾魔』に何かされて
「え……え?」
「なんだ、藤堂。おまえ……なにを言っているんだ!?」
『トウドウ』は露伴の疑問も、多分ぼくの困惑も気にしちゃいない。トウドウの後ろでは、2人の間に見たことない別の人がいて露伴をたしなめているのが肩口から見えた。「誰だ!?」と言っている声が聞こえるので、完全に部外者かも知れない。見てない間にまた人が増えたらしい。
ペプシの看板に雷が落ちる。はやく雨宿りしないと濡れてしまう。トウドウの話は続く。
「いいか、その爆弾は地雷みたいなもので、常に君を『守っている』。仮に人を爆破すると、君は『今日の朝』を繰り返すことになる。……これは体感しないとわからないかも……」
一瞬考え込むように視線をずらすトウドウ。
言っていることの半分は理解できないし、突然そんなことを全く知らない人から告げられているため、ぼくは混乱しっぱなしだ。しかし無視できない。だって残りの半分は、『爆弾魔』というのは間違いなく『キラヨシカゲ』のことだからだ。
人を消す爆弾は、撮影したから知っている。しかしもうひとつの爆弾は見たことがない。ないけれど、『この人が言うからにはあるのだろう』。
地雷? つまりぼくに地雷が埋め込まれている…。それがきっとあいつの自信の正体なんだ。
「ぼくの……」
「はい、『言わない』」
確認を取ろうと口を開けば咎めるように頭を小突かれる。そうだ、『ぼくから言ってはいけない』。……あれ、じゃあなんでこの人は……。
「なぜ知って……」
「縁があってね。とにかく、俺たちは君に奴に関する質問が出来ないし、君からも話せない。……こんなことするつもりじゃあなかったんだけどなあ……」
ぼくから尋ねるのは大丈夫だったようだ。困ったように肩を落としている。「先に『知っていた』俺の場合はイレギュラーらしいな」とトウドウが呟いた。話は続く。
「……俺たちは奴と戦える力がある。まあ、俺と先生は戦闘向きってわけじゃあないんだが……他にもいる。もっと強い人たちが
「……なんでそういうことをその人たちじゃなくてぼくに言うんですか?」
たくさんのことを伝えられたが、全部覚えている自信がない。ぼくには力が及びそうもない話だったのに、トウドウはすかさず答えた。
「君が『覚悟』のできる人で、君
「覚えて……」
「……まだ君に設置された『爆弾』は踏まれていないはずだけど、
「……ン、あれ、藤堂先輩何やってんだろ。おれらを呼び出した露伴がいるのはモチロンだが、子どもに……誰だありゃ?」
「アレだろ、アメリカっぽい服着てるし先輩のスタンド能力とかじゃねえか?」
「いやいや! それなら観光に来た外国人って方が『ぽい』だろォ〜」
「おい! おまえたち遅いんじゃあないかっ?!!」
「すみませんねー! 寝坊しちゃって!」
「いいから藤堂をどうにかしろ、億泰、仗助! こいつスタンド使ってまで邪魔しやがって……」
少し遠くに見えていた仲間の人たちがやってくる。でもそれもお構いなしに、トウドウはずっとぼくを見ている。しかし、ぼくの頭に触れる手が震えているのはなぜだろう。口をゆっくりと開いて────
「
────カチリと音がした。
「な……なんだとッ!!!?」
次いで、トウドウの体が『爆発』する。ぼくから手が離れていき、何か思い出したように注意した。
「……君は『同じ朝を繰り返す』。奴を、追い詰め、る、ヒントは……家に…あ……」
その場から人が消えてなくなった。ぼくはトウドウの言っていたこと、『訊ねられてはならない爆弾』の一端を理解した。ぼくは驚きや恐怖がまぜこぜになった叫びを上げた。
────そして時間は巻き戻る。
「────うわあああああ!!!??」
ガバリ! と勢いよく飛び起きる。何か悪い夢でも見ていたようで、嫌な汗をかいていた。今は7月も半ば。夏だが、朝の涼しさが妙に肌寒い。
……既視感。そうだ、なにか奇妙だ。『夢』でも同じような……。
「……ちがうッ! 夢じゃない、はず……」
確信には至らないが、
ぼくは漠然とした不安に従って、武器になりそうなものを部屋から探す。しかしせいぜいハサミやカッターくらいしかない。ないよりはマシだとポケットに忍ばせた。……
「他に何か……
……そうだ、屋根裏の『植木鉢』……! あれは使えるかもしれない。
ガサ、バサバサ、ドサリ。ランドセルから教科書やノートを出して植木鉢……『猫のような植物』を入れられるスペースを空ける。
ランドセルからぶちまけた中身のうち、奥でくしゃくしゃになった紙を見つけた。学校でもらった配布物はきちんとファイルに挟むので、大方下校時間に校門で塾勧誘をしているビラだろうと思いつつも広げてみれば、もっとお粗末なものだった。
相談は無料、降霊料は要相談。それ以外には事務所への簡単な経路と電話番号が記載されている。装飾がない、素人か学生が即興で作ったかのような白紙。どう見ても胡散臭い宗教勧誘のビラにも劣る裏紙だった。記憶にはない紙だが、同級生たちにならば紙飛行機として有効活用されていることだろう。
現に文字がプリントされていない白い面には手書きのメモが書かれていた。どこかの家の電話番号らしいが、ぼくは書いた覚えはない。この紙を配った本人が書いたものだろう。
ここまで考えて、なにか引っかかって見出しを見直した。
「……『死んだあの人にもう一度、藤堂霊媒相談所』。……あれ、トウドウ……?」
トウドウ。
「いや、頼まれたのはぼくだ……」
朝の時間が押しているため、再びママに声をかけられて急いで1階に降りた。植物が持つ特性の確認のために日光を当てたものだから時間を食ったが、これがあいつに一杯くわせる一手になると信じて、布にくるめて押し込んだランドセルも下へ持っていく。ママは忙しなく家事をして、あいつは身嗜みを整えていた。まるで我が家のように振舞うあいつが忌々しい。
朝から間違い電話がかかってきて、受話器を取るために急いだママが大事にしているウエッジウッドのティーポットを落とす。ぼくにはそれがわかっていたので反射的に受け止め、驚きながらもママが電話に出た。
『同じ朝』だけど、少しだけ違うところもある。
藤堂はなんて言っていただろうか。……すべては『思い出せない』が、少しは覚えている。『同じ朝を繰り返す』とか、ぼくに爆弾がついてるとか、キラヨシカゲに関することを伝えてはいけないとか。
まだ全てを理解していないが、実感は湧いてきた。ならば『藤堂が爆発する』のは本当に起こりうるのか? ……『違うところのある朝』なら起きない可能性もある。
楽観的な考えへ向かっていると、ママが電話している間になんとあいつが話しかけてきた。
「まるで『落っことす』ってわかってるみたいに……フフ。どうやら誰かを『ブッ飛ばして』戻ってきたみたいだな……早人……」
「…………!」
「いや……わたしにはおまえが何をしてきたのかはわからんのだよ、本当」
奴は上機嫌に『キラークイーンバイツァ・ダスト』の説明を始めた。藤堂から聞きかじっていた通り、ぼくの中にキラを守る爆弾が仕掛けてあるらしい。自動的に爆破され、『戻る』、と。
「誰をブッ飛ばして戻ってきた? ン? 教えてくれよ……」
「ぼ、ぼくはしゃべって……いない」
「ははあ! じゃあきっと『
勝ち誇るように、安心したようにべらべらと事実確認するキラ。消してきたのは『露伴』じゃあないが、わざわざ訂正してやる義理はない。しかし、では、すでに藤堂はこの世から消されたのか?
またもママにキスするあいつを見ていることしかできない。こいつをこのまま自由にさせてはいけない。そんな気持ちがより強くなっていく。
ガチャンッ。
「あ〜〜! あたしのウエッジウッドが!」
拳に力を入れすぎていたらしく、机に当たって割れなかったはずのティーセットが砕け散る。ママがヒステリックに叫ぶのに悪いとは思うが、それどころではない。
『同じ朝を繰り返す』。『朝』に起こったことはタイミングは違えど必ず起こるようだ。それが指し示すのはつまり、雨が降って少ししたら藤堂が爆破されるのも確実だということだ。
混乱はもうないが、恐ろしさは心に大きく巣食う。なにか備えをしなければならないかもしれない。いや、一応装備は整えたが……止められるのか、ぼくに?
(いや……やるしかない! ぼくだけが『覚えている』。藤堂はそんなことを言っていたはずだ)
ぼくの中にあるらしい爆弾。取り外せないだろうか。そもそもぼくが外せるところに付いてるのか? いや、キラは触れただけで人を消すことができる。ぼくの中の爆弾は発動条件が違うだけで、おそらく爆弾の性質自体は同じ『痕跡ごと消す』ものだ。見えないと思った方がいい。
もう家を出る時間が迫っている。玄関から出ようとして、待ち伏せされていることに気づく。窓からこっそり出て行こう。……そうだ、帽子はすでにキラが持っている。『ぼくに被せにくる』はずだ! これを利用しよう。このまま露伴や藤堂のいる場所まで引っ張ってこれるはずだ。それから……それから?
「殺す……のか? でもそれじゃ……」
それでいいのか? さすがにそれはダメじゃないか? もっと、うまい方法があるんじゃあないか? そんな不安ばかり押し寄せてくる。あいつは殺人鬼なのだから慈悲などいるはずもないけれど、本当にそこまでするべきなのか……?
そもそも、カッターや『植物』があっても、ぼくにできる『覚悟』がない。そう気づいてしまってはダメだった。ママだって、ぼくだっていつ殺されるかもわからないんだぞ、ママを守れるのはぼくしかいないんだぞ!? ビビるな川尻早人。
「う……」
そう思っても、どうにもなりそうになかった。
……そうだ、やはりなぜかパパに成り代わったキラのことを知っていた藤堂。彼に相談すべきだ。きっとぼくより何かいい案を出せる。
『同じ朝』だというのなら、8時25分には同じ場所に露伴と藤堂が揃っているはずだ。ぼくからなにも伝えられずとも、藤堂が『知って』いるなら協力してくれるはずだ。
ぼくはいつも使っている、今は露伴の車がとまっている通りを遠回りして藤堂を待ち伏せした。ぼくの家と反対側からやってきたはずだから。
────待機して数分。すでに時刻は8時32分をまわったのに。『同じ朝』なのだから
久々に書いたのでガバがあったらシメてください
バイツァダストの効果ってあくまで正体知った相手を爆破して戻すまでで、行動が確定してるのは別件じゃないかな〜っていう考察が入ってます