ほんの少し思い出してもらうだけの話   作:氷陰

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飛ばし気味なので原作既読推奨です

あらすじ
 川尻早人バイツァ・ダスト2周目、1周目にいたはずのオリ主が見当たらない。



負けて死ぬ話②

 

 

 岸辺露伴はすでにそこまできている。しかし、同じ朝であるならいるはずの藤堂がいない。幻覚……? ならば藤堂が殺されたのもただの錯覚だったのか? 

 それ以外は全て同じだ。

 

 頼りにするはずだった人間がいない。いないものは……どうしようもない。安否は気になるがとにかく、藤堂に頼るわけにはいかないらしい。

 

 カッターは持った。ランドセルにはあの植物も入っている。()()()()()()。ママを守る覚悟は決めた。

 

 キラを殺すことは……僕にできるのか? 自信は、ない。でもやらなくちゃあいけない。ぼくがやらなければ、キラはこれからも人を殺すだろう。

 

 家を出た瞬間からだんだん弱気になっている気がする。ダメだ、ダメだ。確かにうまくいかない可能性は残っている。でも出来ることは全てやったんだ。

 

 これは『賭け』だ。

 

『キラヨシカゲがぼくに帽子を被せに後ろからくる』。これは決まっていることだ。

 

 

 

「……」

 

 10秒……キラは来ない。

 

 

「……ハア……」

 

 30秒……キラは来ない。

 心臓がバクバクなり始めた。

 

 

「まだ来てないのか……!?」

 

 1分……キラは来ない。

 焦りが生じる。

 

 

 

 さらに10秒……後ろを見れば、やつが居た。

 

 

「……!」

 

 

 しかし、やつは木陰に隠れてこちらを監視しているようだった。これではあの植物の空気砲を当てられない! 

 

 どうしようどうしよう。こちらから動くのは……ダメだ。ただでさえ警戒されているようだし、こちらが近づけば感づかれる。

 

 どうか。どうか木陰から出てきてくれ。一矢報いさせてくれ。

 ……そう願えば、やつは聞こえたように引っ込んでしまった。

 

 

「……っ! これじゃあ……」

 

 

 ダメかもと思ってはいけないのに、心が挫けているのを示すように、足元がふらつく……。

 

 

「ぼくではあいつを……倒せないのか?」

 

 

 ぼくが()()()()()()()()()()()()?? 

 依然としてキラは木陰に隠れてぼくの様子を見ているようだ。

 

 どうすればやつに攻撃できるのか、頭を死ぬ気で動かして考える。帽子以外にやつを引きつけるものはないのか? 

 

 カッター、ハサミ、危険を察知される。

 屋根裏の植物、本命の攻撃に気づかれてはいけない。

 チラシ、ここでは使えない。

 

 考えれば考えるほど、選択肢が無いことを思い知らされる。

 絶望的だった。

 

(今取れる手段が……ない…………)

 

 

 

 ……時間は現在8時29分。藤堂と露伴(ロハン)は待ち合わせをしていると言っていた。遅れて来るという彼らに電話はかけた。待ち合わせになんとか間に合うように、30分を目指してここへ来るはずだ。

 

 彼らに……『賭け』てはいたが……最終手段だった。

 

 藤堂が今どうなっているかわからないが、繰り返された『同じ朝』に彼が爆破されることが追加されていても、あと数分の猶予はある。

 

 しかしキラは同じように不思議な力を持っている人間を殺そうとしている。露伴もそうだし、藤堂もそうだ。遠目にしか見ていない『遅れてきた人たち』も……。

 

 

 ————視界の端で場が動く。

 

 気が落ち込んで俯いていたせいか、キラはぼくが『諦めた』と思ったらしい。やつが木陰から出て、こちらへ悠々と歩み寄って来る。

 キラは慢心した……! 

 

「忘れていた帽子を……届けにきたよ、早……」

 

 この『同じ朝』でその人たちが殺されないとは限らない。そうなってしまえば生き残るのはキラだけになってしまう。それだけは阻止しなくては。

 

 萎えた心に力が入る。これは闘志だ。

『ぼくがやらなくちゃ』。

 

 そう思ったと同時に手も動いた。猫草の攻撃の軌道がキラヨシカゲに向かうよう、ランドセルを向けて……! 

 

 ボゴォッ!! 

 

「な……なにィ!?」

 

「や……やった…………ッ!!!! 命中したぞッ!」

 

 

 キラへの攻撃は成功した……! ドサリと倒れるキラ。しかし高火力とはいえ、当たったのは心臓などの急所ではない。

 はやくトドメを刺さないといけない!! 

 

 もう一度猫草の攻撃を確実に当てようと近くへ行って標準を合わせ———-。

 

 

「……心臓にさえ当てていれば、わたしは死んでいただろうなあ……」

 

「……!」

 

 緩慢な動きで立ち上がるキラ。ダメージは負っているが、大の大人が動けないほどではないらしい。攻撃はやつのスーツを破るだけに止まった。

 

「小僧! 『猫草(ストレイキャット)』のことまで知っていたとはッ!」

 

「ひっ!」

 

「……思い切り引っ叩いてやりたいが、『バイツァ・ダスト』は自動でお前を守るからな……」

 

 

 失敗した……。殺しきれなかった! 

 キラは叩くかわりのように、前と同じくぼくに帽子を被せた。ぼくは負けた。勝者は得意げに語り始めた。

 

 

「猫草を使うことを思いつくとは、4回……いや、3回は往復したな」

 

 実際にはたったの2回だ。()()()から必死に考えた結果だった。

 

「雨に足を取られた? 緊張で手が震えた? ……いいや違うね。お前は『覚悟』出来ていなかったのだ。この吉良吉影を殺そうという意志がまるで足りていなかった!」

 

「…………」

 

「あっちには岸辺露伴もいるな……3回戻っているなら他にも爆破させたのだろう? なら、奴らが死んでから『バイツァ・ダスト』を解除するとしようか。広瀬康一か空条承太郎あたりが死んでいてくれると助かるがなァ……」

 

 

 本当はたった1人しか死んでいない。さらに、また爆破されることもない。————それより早くキラは『バイツァ・ダスト』を解除するから。

 

 

「今……名前、言った」

 

「おっと……わたしの『本名』を言っちゃったかなァ〜!! そう……わたしの名は『吉良吉影』……フフフ、ハハハハ! 誰かに喋っても構わないよ……」

 

「ぼくは……しゃべっちゃいない。一言だって……」

 

「……ああ、『バイツァ・ダスト』は質問されても作動するのだ」

 

 

 確かにぼくはそのことを知っている。意図的に質問したであろう人を、1人だけ。その人が言っていたんだ。

 

 

「遅れて来るから……。朝、そうならないように『コール』しただけなんだ」

 

「なんのことだ……何を言っているんだ?」

 

「喋ったのはあんた自身だ……。ぼくは待っていただけ……」

 

 

 ランドセルにねじ込まれていたうさんくさい相談所のチラシの裏に書かれていたのは走り書きされたらしき電話番号だった。

 

 ぼくは相手のことなど、前の同じ朝で少し声を聞いた程度の認識だった。この時のぼくは電話先が仗助と呼ばれていた人だとはわかっていなかった。

 電話番号の上には『東方』と書かれていた。

 

 

 

 

 ————『賭け』に勝った。

 

 

「こいつ……今言ったぜ! 自分が『吉良吉影だ』ってな!!」

 

「な、何ィ!? 本当か仗助?」

 

「確かに聞いたぜ……!」

 

 

 時はもう戻らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今日だったのか、着信に気づかなかった……。露伴先生だったかあ……!」

 

「露伴ちゃんから?」

 

「だいぶ前ですけどね……」

 

 

 留守電には何も伝言がないため、なんの用事かもわからない。……とはいえこの時期なので用事はほぼひとつなのだが。今は7時25分。走ってもここからでは集合場所に間に合わない。

 

 ……もしかして、俺がいることによるイレギュラーとか差異とか、そういうのは無かったのだろうか。原作の具体的な時間は最初から覚えていないが、朝だったことと、露伴先生が最初に爆破される事くらいはわかる。その点に関して違いがないから、いわゆる原作通りというやつかも……。

 

 

「ああああぁぁ…………俺ってば自意識過剰! 運が無い……!」

 

 

 正直この小道に来るつもりではなかった。しらみ潰しに、と道を1本ずつ確認して川尻家を探している途中で入ってしまっただけ。ここ数日の登下校時間はずっとそんな感じで色んなルートを探していた。

 俺の記憶の関係上、無意識に移動してなければ1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ともかく、その結果がこれだ。

 

 一周目かそれ以降かもわからないが、少なくとも今の俺は、最後の戦いの現場へ間に合わないことが確定した。

 着信があった、つまりお呼ばれしていたのに見逃した俺に非がある。ハブられたなんて八つ当たりも出来やしねえ……!! 

 

 

「まだあいつは見つからないのよね……」

 

「……もしかしたら、今日、もうすぐ……見つかるかもしれません」

 

「え? なあに、今日の星座占いの順位でもよかった? フフ、それとも慰めてくれてる?」

 

「ええと、勘。そう……勘です」

 

「そうなるように願ってるわ」

 

「あ、そうだ。どう決着するかわからないですけど、もし吉良吉影が死んだら……ここに来ますよね」

 

「そうね……。あいつが死ぬなら杜王町だもの、来るでしょうね。その時は私が行くべき場所へ送ってやるわ」

 

「はい。ぜひお願いします。ただ、もし今日しばらくして奴がここへ来たら、少しだけ俺も手伝わせてください」

 

 

 もしもの話ですけれど。

 

 不確定なのに分かったような口ぶりの俺に、鈴美さんは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吉良吉影は追い詰められ、爪を噛んでいた。

 名前を東方仗助に聞かれ、やむなくバイツァ・ダストを解除してキラークイーンを手元に戻し。共にいた虹村億泰へ能力を発動したり仗助に大ダメージを負わせて反撃したが、本来いるはずの写真の親父もおらず。ついには広瀬康一や空条承太郎も合流し、じわじわと後退しては大通りへと逃げ。

 スタンド使いではない人間に接触し、バイツァ・ダストを発動しようとした。

 

 追い詰められて追い詰められて発動できるスイッチを————。

 

 

「……フフ、ハハハハ! 戻ったぞッ! やつらに勝った! これでわたしは自由になれるッ!」

 

 ハハハハと高らかな笑い声が住宅地に響く。しかしその歓喜はすぐに途切れた。

 

 低く飛んでいたスズメがヒュンと()()()()()()()()

 

 

「——————?」

 

 

 ずいぶん人間の近くを飛ぶな、という違和感。しかも身体をすり抜けなかったか? 気分が良くなって幻覚でも見たのか。

 

 吉良吉影はさらに疑問を抱く。

 

 

「……ここはどこだ? いつもの通勤路じゃあない……いま、何時だ? …………!」

 

 

 時間が巻き戻っているならば、吉良……川尻浩作は現在通勤途中なのだ。時計を確認した吉良は信じられないものを見た。

 

 8時29分……ではない。1時間ほど進んでいる。妙なことに秒針は動いていない。

 

 とにかく吉良にとって重要なのは『巻き戻っていない』ことだ。

 

 

「なぜだッ!? バイツァ・ダストは作動したのだ!」

 

「気づいてないの? 自分に何が起こったのか……」

 

「……誰だ、お前は?」

 

 

 吉良は後ろにいる女に見覚えがなかった。新手のスタンド使いかとすら思う。しかしその女は吉良に追撃をかけた。

 

 

「気づかせてあげるわッ! 既に自分が死んでしまっているということを!!」

 

「なんだと?」

 

「ここにいるのは! 死んだ殺人鬼のドス黒いただの『魂』だけっていう証明なのよ! スタンド能力なんかじゃない!」

 

 

 その女が自分に触れたかと思うと、吉良自身の体をすり抜ける。「自分は死んで幽霊になった」と思わせるには十分だった。

 さらに言えば自分の死んだ瞬間すら思い起こさせる。言うなれば『事故』だった。仗助たちと戦ううちに全身血まみれになって、スタンド使いの戦いとは別な要因で死んだのだった。

 

 

「うわああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

 自分が死んだ瞬間を思い出し、姿もその時同様に血みどろになっていく吉良吉影。女は極めて冷静にその光景を見ていた。

 

 

「思い出したようね……」

 

「何者だきさま!? 誰なんだ!」

 

「この背中の傷に見覚えはない!? それとも『手』を持っていき損ねて印象薄いのかしら!?」

 

「おまえ……は…………たしか、杉本鈴美……ここで『15年』もッ! 何をしている!?」

 

 

 この戦いの終止符を、藤堂は遠目から見ていた。

 

 

 

 

 

 杉本鈴美の『傷』は、酷いものだった。確実に殺す意志だけが、殺したい気持ちだけが見えた。吉良吉影がスタンド能力で消した人々の幽霊を見たときのような憤りを感じる。

 

 俺が沸々と怒りを蓄積させている間にも、鈴美さんはこの小道で吉良を『振り向かせよう』としている。

 

 俺もこれを手伝いたかったが、下手に手を出すと振り向くことも出来ない霊体が出来上がってしまう。うまく出来るなら吉良吉影の手足の1本や2本を欠けさせることも出来るが、やつと距離の近い鈴美さんがそうなる可能性もある。

 

 

「この町には『死者の魂』の通り道があって、そこには決して振り向いてはいけない場所があるそうだな……。『おやじ』から聞いた時はバカバカしいと思っていたが……ひょっとして……」

 

「…………」

 

「わたしを嵌めようとしているのではあるまいな? ……おまえが振り向いてみろ? ン? どうなるか見てみたい!」

 

「……」

 

「幽霊か。生きてる時より、わたしの求める安心した生活が、ここにこそあるかもしれないしな……」

 

「悪くないかもしれない?」

 

「ああ、そうだな……」

 

「そうじゃないかもしれないぞ? 本当に安心できると思うのか、恨んでるやつは多いのに?」

 

「……お前は誰だ」

 

「気になるなら後ろを向いてみろよ」

 

 

 後ろ姿しか見えないが、やつはいつか見た吉良吉影の姿になっていた。魂が川尻浩作から剥離して元の形になっているらしい。結局川尻浩作の顔は見る機会がなかったな……。

 

 

「お前を最後に殴れなくて残念だ」

 

「……おまえは、さっき仗助たちといなかった……藤堂か……」

 

「なあ、自分で殺したやつらが吉良吉影を恨まない理由はないと思わないか?」

 

「また殺せばいい」

 

「もう死んでるのに? 面白いことを言う」

 

 

 まあ、出来なくはないだろうが。

 

 俺が話し始めても、振り向かせ合いは続く。

 

 

「俺はな、あんたがキラークイーンで殺した人たちが、死んだ時の酷い姿のまま幽霊になってるのを見たんだ」

 

「それがどうした」

 

「俺が許せないだけだ。死者の安寧は何よりも優先されるべきだ。お前の『安心した生活』よりも、ずっとだ。許せない、許してはいけない。だから、俺がここにいるのは運命なのかもしれないな」

 

 

 だからその手を離せよ、吉良吉影。

 

 

「わたしたちは15年……あんたがここに来るのを待ってたのよ……ねえ、アーノルドッ!!」

 

「ガルルルルッ!!」

 

「うう……ッ!」

 

 

 アーノルドの大きな牙が、鈴美さんの顔を掴んでいた吉良吉影の手首を噛みちぎる。咄嗟に後ろを振り向かないよう努めた吉良だが、アーノルドが体勢を崩し、さらに(生者)が足に触れ転倒させた。

 

 

「裁いてもらうがいいわッ! 吉良吉影!」

 

「なんだこいつらは!? キラークイーン! こいつらを爆破しろォーッ!!」

 

 

 吉良吉影がうしろを振り返る。反射的にキラークイーンを呼び出すが、吉良自身もキラークイーンもただの魂と化している。なすすべなく魂を崩され、暗いところへ引っ張られていく。

 

 

「ああ……どこに……連れていかれるんだ……?」

 

「さあ、でも安心なんてない所よ。少なくとも……」

 

 

 ひとつも残さず吉良吉影が消えていく。後ろへ後ろへ。

 鈴美さんより後ろにいる俺には、引っ張られていく吉良の顔がよく見える。

 

 

「なあ、人が本当に死ぬのってどう言う時だと思う? 

 ベタだけど、俺はこの世の誰にも忘れられた時だって思うんだよ。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? さらに言えばだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「何が……言いたい……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 忘れて死ね、吉良吉影。

 俺が呼び出せないくらい深く死んでくれ。

 

 そう願いながら、俺は吉良の頭に指を突き刺した。

 

 





(デッドマンズQルートは綺麗さっぱり)ないです。

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