ほんの少し思い出してもらうだけの話   作:氷陰

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ワアアーーーイ!!!お気に入り数や感想がいっぱいだアー!!嬉しすぎて全返信してしまった。んでもって評価も初めていただいて感極まってます。感謝しかない。今回も閲覧ありがとうございます!いっぱい書くね!

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言い忘れてたんですけど、シナリオとオリジナルスタンドの関係上1〜7部までのネタバレに配慮してません。8部と小説媒体はまだ読んでないので話に出てきません。そこはご了承ください。



空条承太郎の場合②

 花京院が初めに姿を現した時、空条氏は痛みを感じたように表情を固くした。心情を察するに学生姿の仲間に思うところがあったのだろう。

 しかし花京院の方が口を開けば、久しぶりに会ったとは思えないほどテンポ良く会話が進んでいった。

 

「承太郎!DI…奴は倒せたか」

 

「勿論だぜ、花京院。お袋も無事だ」

 

「それは良かった。ホリィさんに何かあったら地獄まで奴を殴りに行かなきゃならないからな」

 

「あいつ地獄に落ちたのか?」

 

「少なくとも死んでからは見たことがないな。奴がこっちに来るのを楽しみにしていたのに」

 

 そもそも天国とか地獄が存在するのか。疑問に思ったが、彼も便宜上そう表現しているだけで、明確にあの世が分かれているわけではないらしい。

 俺もあの世を通った記憶はないから信仰の差とかなんだろう、うん。

 

 最初は本当にDIO戦後の報告だった。真面目だったともいう。

 

「あれから10年経ったのかい? どうりで君がおとなしく見えたと思ったら…」

 

「大人になったと言え。いつまでもガキじゃあねえんだ」

 

「僕はもう大人になれないけどね」

 

「おいやめろ」

 

 当人にも笑えないジョークを叩きつつ、近況の話題に進んだ。空条氏が結婚して、娘がいると聞いた時には、花京院は驚きつつも祝福の言葉を述べていた。

 そうだ。確かこの辺から相撲が好きだったよなとか、新作ゲームの話になって、前回のさくらんぼの話になったのだった。

 

「ううう…承太郎、悪いが今すぐ買ってきてくれ」

 

「やれやれ…そこまで悔しがるとは思わなかったぜ」

 

 本当にな。だがまあ、これは俺にも多少メリットがある話だ。ちょこっと進言してあげよう。

 

「確か百貨店で委託販売していましたね。良ければご一緒に買いに行かれますか?」

 

「!?」

 

「…死んでいるが、大丈夫なのか?」

 

 空条氏が尋ねてくる。当然の疑問だ。幽霊がものを食べられるわけがない。普通ならな。

 

「空条さん、先程から死んでいる彼に触れているでしょう。どういうわけか実体があるんです。食事くらいわけないって事です」

 

「それは助かるが…長時間現世に繋ぎとめられるものなのか、降霊ってのは」

 

 あっ…そこを突いてくるか。俺にもわからない仕様ってもんがあるんだよな…。流石に丸一日ってのは無理だ。俺の精神力が持たない。

 けれどスタンド使いの中でも長時間呼び出せるやつとそうでない奴がいる。花京院は検証の結果、長い方に位置する。

 

 しかし俺も今日は疲れた。犬猫も呼び出したし、スタンド使いは2人と一匹呼び出したのだから。

 

「花京院さんなら、6時間くらいなら持ちます。ただ、今日は時間も遅いので日を改めることになりますが」

 

 外に目を向けると、すでに日は沈みきっており、何処かで吠える犬の声が聞こえる。この世界で動物、特に犬は酷い目に合うイメージしかないのでどこにいるかもわからない他人の犬にすら心配してしまう。

 頭痛のする気がしたので頭に手を当てて、俺は言葉を重ねる。

 

「明日の午後なら授業がありませんから、よければ力を貸しますよ。近くに俺も行きますけどね」

 

 これはサービス、今日のおまけにしておきますよ。そう一押しすると、空条氏より先に花京院が食いついた。

 

「じゃあ頼む。出来るだけ早くがいい」

 

「おい」

 

「では2時にこの町の百貨店の前でお待ちしますね」

 

「…やれやれだぜ」

 

 話がついたのでとりあえず今日は帰ってもらおう。花京院にも帰ってもらった。

 やれやれ、死ぬほど疲れた。今日はさっさと寝てしまおう。

 

「ところで藤堂くん、確認したいことがあるのだが」

 

「なんですか?答えられる範囲ならお答えしますけど…」

 

「提示する情報が完璧でなくても、生前の本人が呼ばれるのか?」

 

「ある程度は。しかし俺の想像が及ばないような記憶をお持ちだと、その辺を忘れた状態で呼んでしまいます。まあそうそうそんなことはないですがね」

 

「なるほど、想像豊かでないと使いこなせない力のようだな。それともう一つ…これはただの賛辞だが」

 

「はい? まだ何か?」

 

「君のスタンドはすごい能力だな。あまり見ないタイプだ」

 

「スタンド?よくわかりませんがそりゃあ霊能力の類ですから一般的ではないでしょう」

 

「…そうか。では明日も頼む」

 

 俺は今日の客人が見えなくなるまで玄関の前に突っ立っていた。

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 ………………………………。

 

「…ふぅあ゛ぁぁぁぁ〜〜ッッ!!!!あっぶねーーーーッッ!!!! バレてないよな?よな?? まだ大丈夫だよな?

 俺生きてる……死ぬかと思った…」

 

 先程頭に手を当てて、『スタンド』という単語を忘れた。それこそ俺のスタンド能力で。こうすれば、俺の使う力と、スタンド能力を俺の中で同一視出来なくなるのだ。また、忘れたはずの単語を聞かなくては俺は思い出すことができなかった。

 

 思い出すにもタイムラグがあるのでこういったやり方ができたのだ。俺は知らないことを知ったかぶりするのは下手だし、知っている事を知らないフリできない。

 必ず最後にカマをかけてくると思っていた。予想は大当たり、俺は一先ず地獄を乗り越えた。

 

 俺は前世の記憶があるために、自分の能力がスタンドの能力だと理解しているが、この世界の俺は生まれつきのスタンド使い。ジョースター御一行に会った時を除いて、一度も他のスタンド使いに遭ったことはなく、『スタンド』という総称を直接聞いたことがなかった。

 

 もし、俺が前世の記憶なんてものがないスタンド使いだったなら。先程初めて『スタンド』という言葉を聞いたことになる。つまり、俺がスタンドが何か知らない状態の方が俺の経歴から見て自然な振る舞いになるのだ。

 

 だが、今回騙した相手は空条承太郎。恐らく二度と同じ手は通じない。次の誤魔化し方を考えておかなければ…。

 

「…まあいいや。今日はもう風呂入って寝よう。何も考えたくない」

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝。

 学校に着くと2年の靴箱の辺りで特徴的なリーゼントの学生が待っていた。なんか俺やっちゃいました? いや、俺は無実だ何もやっていない。どう見ても俺待ちっぽいけど間違ってたら恥ずいし、声だけかけてみるか。

 

「仗助くんじゃあないか。1年の靴箱は列が一つズレているぞ」

 

「おっトードー先輩、久しぶりっスね。待ってましたよ〜」

 

「俺に用か? 何か相談事なら明日以降にしてくれよ。今日の午後は予定が埋まってんだ」

 

「そう! その事なんすよ。昨日、承太郎さんがあんたの所に行ったんだろ? あの承太郎さんが会おうとする相手って想像つかなくて!友人とは言ってたけど細かいことは教えてくれなかったし」

 

「身内なんだっけ。教えてあげたいけど、俺の客のプライバシーだからな。言えないんだな〜これが」

 

「そこをなんとか!」

 

 仗助はなかなか食い下がってくる。お前空条承太郎に会ってからひと月しか経ってないのに、すっかり身内認定入ってるな。それとも頼りになる親戚のおじさんってところか。

 

「ところでそんな事を聞いてくるならこの間の2人も一緒に訪ねてきそうなもんだが、一緒じゃないのか?」

 

「億泰はまだ家の整理が終わってなくて休み。康一の奴は…最近女が出来たからなあ…」

 

 ああ…彼女作りたての友達って遊びに誘いにくいよな…。てかもう山岸由花子と会ってたのね。

 

「ふむ…よし。じゃあ寂しがりの仗助君に一つだけ教えてあげよう」

 

「さっ寂しくねえし! 先輩早とちりすんなっての!」

 

「杜王グランドホテルの道沿いに百貨店があるだろ? 2時にそこで待ち合わせてる。チェリータルトを買うためにね」

 

「……!」

 

「上の方はお高めの店ばかりだが、2、3階までは比較的学生がいてもおかしくない安い店も多い。たまには親にプレゼントでも買ってはどうかな」

 

「グレートだぜ…!サンキュー先輩!!」

 

 仗助は晴れやかな表情で廊下を駆けて行った。まったくやんちゃ坊主め。理由はくれてやったが、後をつけてもバレるのがオチだぞ。

 

 

 

 

 

 

「早いですね、空条さん。お待たせしました」

 

「滞在しているホテルが近いのでね。では早速行こう」

 

「俺は二階のフードコートにいますから、百貨店から出る際に声をかけてください」

 

「近くにいなくて、消えはしないか?」

 

「百貨店の中くらいなら範囲内です。お二人だけの方が何かと楽でしょう。でも遅くても7時には連絡をお願いしますね。これ連絡先です」

 

「わかった。時間内にそちらへ向かう。何かあったら連絡する」

 

 この時代だと学生が持つには値段が高い携帯電話だが、個人営業とは言え俺は事務所を持っているのだ。自由に使える電話があった方が都合がいい。

 相談所を開設した当初はもちろん所有していなかったが、チマチマ金を貯めてようやく今年から契約した。

 

 空条氏と花京院は共に地下の方へ降りていく。俺も腹拵えするためにさっさとフードコートに行こう。暇つぶし用に漫画や小説を持ってきている。

 

 空条氏は昨日初めて会った時と比べると、随分まるい印象を感じる。彼は俺に対して、一度も隙は見せていない…と思う。戦闘経験のない俺の感想なので当てにはならないが。

 きっとかつての戦友と話すことで心のどこかで張っていた気を緩めていたのだろう。彼の相談と俺の行動に明確な意味があったようで、少し嬉しい。

 

 

 少し間を空けて彼らを尾けるように地下へ進むリーゼントが見えたが、無視しておこう。コソコソしているが、間違いなくバレていると思う。あの旅を経験した男たち相手に子供の児戯の如き追跡技術など意味を成すはずもない。

 せいぜい邪魔をしないこった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 承太郎と花京院は予定通り、お目当てのチェリータルトを購入できた。ついでにさくらんぼ単体も買っており、イートインスペースで例の食べ方を披露していたのだが、別行動中の藤堂には知る由もない。

 

「ありがとう承太郎。君がいなければこのタルトを味わうことも出来なかった。生きててよかったと実感するよ」

 

「もう死んでるだろうが。…なんかおめータガが外れちゃあいねえか?」

 

「…そうだね、そうかもしれない。

 この世界に再び地をつけて、君とこうやって、気を張らずに話す機会があるなんて…夢みたいだ」

 

「…花京院」

 

「今を生きている君には悪いが、もう少しだけ僕に付き合ってくれ。自分で思っていたより、僕は此処にいたいと思えてくるんだ。すぐ解散じゃあ勿体ないだろう?」

 

「…そうだな。敷地内なら自由に動けるようだし、少し歩くか。

 ………その前に。仗助、出てきな。ずっと見ていたのはわかっている」

 

 2人が座っている席の真横。不透明な仕切りが立て掛けてある反対側で動揺したような気配がする。取り繕うとしたのか一度は静かになったが、取り繕えないことを理解すると、仗助は大人しく姿を見せた。

 

「へへっ…すみません、承太郎さん」

 

「やれやれ…」

 

 2人に近づいてくる仗助の顔はとてもきまりが悪そうだ。ああ、とかうう、とか小さく唸っている。本人としては何故尾行がバレたのかイマイチ理解していないらしい。

 

「…ああ、君が承太郎の言っていた『叔父』君か! 初めまして、私は花京院と言う。かつて承太郎とは共に旅をした仲間だ」

 

「初めまして花京院さん、東方仗助ッス。承太郎さんは甥ってことになるそうです」

 

「うん。目元がジョースターさんに似ている。いたずら好きっぽいところも」

 

「う〜ん…俺は親父を見たことないからわかりませんが、あんたがいうならそうかもしれませんね」

 

 藤堂は本来の話の順番など覚えていないので、三人称視点の今のうちに時系列を纏めておこう。

 

 4月に空条承太郎が杜王町を訪れた日から、アンジェロを倒し、虹村兄弟戦。5月にエコーズが活躍した日があり、虹村億泰が『藤堂霊媒相談所』に来た後日に間田の『サーフィス』戦と、山岸由花子の『ラブ・デラックス』戦が終了している。

 そして5月下旬、空条承太郎が『藤堂霊媒相談所』を訪問して今に至る。

 

 スタンド使いは引かれ合う。この法則がある限り、というか杜王町にいる時点で戦いから逃げられはしないのだが、藤堂はまだ見て見ぬ振りをしている。

 

 

 片や承太郎の年下の叔父、片や承太郎の戦友。間に共通の話題があるからか、友達の友達というのは一度話し始めるとやたら話が弾むことがある。花京院と仗助にも当てはまったらしく、承太郎を置いて盛り上がっていた。ちなみに話の輪から外された本人は少々拗ねている。

 

「えっ花京院さん、生まれつきスタンド使いなんですか」

 

「ああ、僕はこのハイエロファントグリーンとずっと一緒に育ってきたんだ。この町では少数派らしいね」

 

 そう言って花京院は自分の分身である緑色に輝くスタンドを傍らに呼び出す。スタンドはスタンド使いにしか見えないため、周りに数人いる群衆の目には何も異常を映さない。

 

「おおっ! すげ〜キレーッ! こいつぁグレートですよ!」

 

「褒められて悪い気はしないな」

 

 初対面だったので一人称から取り繕っていた花京院だが、ハイエロファントグリーンを見せるくらいには気を許しているらしい。

 そんな彼らを横で見守っていた承太郎はあることに気づき、2人の話を止めた。

 

「待て花京院、スタンドを出せるのか!?」

 

「ん? そりゃあ僕のスタンドだからな。当然出せるさ」

 

「違う、お前は死んでいるところを藤堂という男に呼び出された魂だ。ハイエロファントグリーンはお前のスタンドなんだから、自在に出せるのが普通なんだ」

 

 本当は幽霊にスタンドは出せないだろうという思い込みがあったのだが故の帰結なのだが、承太郎はそこから更に踏み込んだ答えに迫っていた。

 

「何が言いたいんです?」

 

「藤堂に提示した故人の情報に、スタンドに関する情報は一つもない。だが奴は言った」

 

 

 ────『提示する情報が完璧でなくても、生前の本人が呼ばれるのか?』

 

 ────『ある程度は。しかし俺の想像が及ばないような記憶をお持ちだと、その辺を忘れた状態で呼んでしまいます。まあそうそうそんなことはないですがね』

 

 

「花京院、スタンドについてや、自分の最期について、納得できない記憶の穴はあるか?」

 

「…いいや、ない。全くと言っていいほど完璧に記憶している。だが、この場合、完璧なのが問題…そうだな承太郎」

 

「…つ、つまり、藤堂先輩がスタンドについて何か知っている…。スタンド使いってことかあ!?」

 

「承太郎、君のことだからカマかけくらいやったんだろう。どうだったんだ」

 

「スタンドって言葉は知らないようだった。…彼にとって想像できる超常現象がどれほどかはわからないが、少なくとも…スタンドのことは知っているとみて間違いない」

 

「自分以外のスタンド使いに会ったことがないなら聞かない言葉だろうしね」

 

「…そうか、『スタンド』って総称はてっきりスタンド使いの共通言語だと思ってたが、生まれつきのスタンド使いならその可能性もある…もしくは…」

 

「何故かスッとぼけてるかも…その辺は聞き出せばわかる」

 

 次々に展開される仮説。今呼び出されている花京院を見れば悪意がない事は感じ取れるが、同時にとても厄介な敵にもなるし、頼もしい味方にもなる。

 これから確認しなければならなくなったが、最悪害さえなければいい。

 今日の所は花京院とは別れ、改めて藤堂本人に問いただす方針となった。旧友に会えた歓喜の心から一転。怒りや悲しみはないが、強い疑惑だけが残る、奇妙な雰囲気が彼らの間に流れていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「…っくしっ。誰かが俺の噂でもしてんのかね。どうせなら相談所の噂がいいなあ。俺の懐が潤うなら大歓迎だし」

 

 もうすぐ約束の時間なので帰る準備をしていたのだが、突如として悪寒が走った。軽口を叩いてみたが、もっと悪い前兆な気がする。…まさかおれがスタンド使いってことが誰かにバレたんじゃあないだろうな。ちょっとバレるには早いんだよ。もし神父だったら今すぐ殺す。

 





アニメのDIOの世界①と②を見てから書きました(雰囲気に反映されてない)。推敲が足りてない気がします

この後の藤堂ですが、(仗助が)気まずいままトラサルディー行って弁明しつつレッチリ戦以後の流れの予定です。波紋戦士もどっかで入れたい。

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