ほんの少し思い出してもらうだけの話   作:氷陰

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デイリーランキングの一番上に本タイトルが見える気がします。
恐れ多くも嬉しい限りです。昨日からすごい狂喜乱舞してました。やっぱみんなジョジョ創作に飢えてますね?

誤字報告、ありがとうございます!とても助かりました。
また閲覧、評価、感想、お気に入り登録もろもろ本当にありがとうございます!特に感想は予想や考察も多く、全て嬉し恥ずかしで読ませていただいてます。しかし返信が追いつかず…質問には答えるようにしてますが…。



イタリア料理店の場合

 

 藤堂一茶の朝は早い。

 

 親名義のアパートで一人暮らしの高校生。ラノベみたいで楽しそうという安易な考えで始まった生活は心身に負担がかかる。

 

 寝過ごせない為にセットしていた目覚まし時計のアラームを止め、身支度する。寝呆け眼で朝食を作り、完食。いつもなら時間割と使う教材を確認して後は学校へ向かうだけなのだが、この日は日曜日。学生なら友人と遊びに行く予定を作っているかもしれないが、この男、普通ではない。休みにも関わらず早起きした藤堂一茶には一つ、一般人には絶対にない日課があった。

 

 

 

「ちゃんと波紋の呼吸をしろ! 本番だったら今の一瞬でゾンビどもの仲間入りだった!」

 

「はい!すみませんツェペリさん!」

 

 玄関とは反対にあるアパートの小さな敷地スペースで、奇妙な朝練をしている二人組がいた。甚だ近所迷惑であるが、何故かクレームをつける近隣住民はいない。

 

 

 ***

 

 

 

 ウィル・A・ツェペリ男爵。第1部、ファントムブラッドの主人公ジョナサン・ジョースターに波紋を教え、吸血鬼ディオを倒すため共に行動。しかし道中でジョナサンを助けるために致命傷を負い、最後の波紋を託して死亡した。

 

 この人は人間讃歌の何たるかを波紋と共に次の世代へ伝えた功労者だ。尊敬するに決まっているだろう。ジョナサンは彼の師事で立派な波紋使いへと成長したのだから、ハイテンションのまま俺も波紋教えて欲しい!と思っても悪くないはずだ。

 

 しかし現実は非情である。波紋というのは才能が必要だ。彼曰く『横隔膜の筋肉を刺激して軽い波紋なら作れるようになる』との事で、俺もやって貰ったが、スピードワゴンよりマシってレベルの潜在能力らしい。

 

「お願いですツェペリさん、死んでいる貴方に頼むのはズルいと思います。しかし俺は、波紋で戦えるようになりたいんです! 俺に波紋の使い方を教えてください!」

 

「ウーンそうだなあ〜…。教えるのはいいんだが、君が波紋を習得出来たとしてもジョナサンほどの使い手にはならないぞ」

 

「ないよりマシなんです!!! 波紋は自己回復にも使えるでしょ!」

 

「おいっ上着を引っ張るんじゃあないッ! のびるだろうが! わかったわかった、そこまで言うなら君が波紋をある程度使えるようになるまで面倒をみてあげよう。それでいいな!?」

 

「はいっありがとうございます!」

 

 そんなわけで時折ツェペリさんを呼び出しては修行をつけてもらっているのだ。

 ジョナサンほどにはなれないと言われて落胆したのは事実だが、考えてみれば当たり前だ。彼は波紋に触れた後、治りたての腕で掴んだ木の枝に花を咲かせた。誰かに教わるでもなく自然とやったことから、彼の輝かしい人間性と潜在能力の高さが窺える。そんな初代主人公と俺を比べることが間違っているのだ。

 

 俺はこの世にいない人間しか呼べない。つまり死んでいる他の波紋使い達…ダイアーさんやトンペティ、2部のロギンスにシーザーといった粒揃いの精鋭を呼び出し放題なのだが、やはり波紋を教えてもらうといったらツェペリさんしかいないだろう。

 

 ちなみにストレイツォだが、吸血鬼としてしか呼び出せないようで、実際に呼ぶことは出来なかった。吸血鬼を呼ぶと血反吐を吐くとわかったのはこの時である。さらに余談だが、ロギンスとメッシーナはどっちが作中で死んだ方か分からなかったので、2人分試したのは秘密だ。

 

 

「全く一茶君…もう3、4年は続けているが、本当に体の外に放出するのが苦手だな」

 

「…体内で使う分には問題なくなったんですけどね…」

 

 波紋の呼吸法の習得を始めて早4年。中学から始めたこの修行の時間は今なお続いているが、ツェペリさんの言う通り体外に打ち出すことが出来ない。何度かは成功したが、出来ると胸を張って言えない仕上がりで、去年辺りからツェペリさんを呆れさせている。

 ツェペリさんが言うには、多少才能のないやつでも3年もあれば水の上を歩くくらいは出来るそうな。どんだけセンスが無いのか気落ちしちゃうね、トホホ。

 

 反対に、波紋による防御や自己強化に、痛みを和らげる、もしくは軽い怪我を治すといった自分の体内で完結する使い方は出来るようになった。

 師匠の評価として、呼吸法を『寝ている間も忘れずに行なっている』のがいいらしい。そこだけは褒められた。やったぜ。

 

 まあお気付きの通りスタンドで忘れないようにしているから、当然のことだったり。

 自分で波紋の才能や、喧嘩慣れしてないって次元じゃないバトルセンスのなさというのは自覚しているんだ。スタンドを使ってでも補強せねばならない。

 

 ツェペリさんとの修行は大体ワイン…は家に置いてないので、水を使う。ワインをグラスから溢さずに相手を倒せってやつだ。俺の場合は呼び出したツェペリさんとはお互い攻撃出来ないし、相手になる波紋使いもゾンビもいないので、町内を全力疾走したり、筋トレしたり、シャドーボクシングっぽいことをしたりして代用している。

 

 波紋も外部から流されるのは攻撃とみなされるらしく、例えツェペリさんが回復目的で俺に波紋を流そうとしても傷は治らない。弾かれてしまうのだ。

 

「俺も水の上歩いてみたいのに…」

 

「…そうだな、ちょっと一茶君」

 

「なんです?」

 

「目を瞑って片足立ちしてみなさい」

 

「? いいですけど急になんです?」

 

 いいからいいから、と急かされて理由もわからず言われるままの動作をする。軸足の右足を真っ直ぐするも、バランスが保てず数秒もしないうちに前につんのめってしまった。

 

「フゥム。やはり君は体幹が悪いらしいね。血の巡りが何処かで滞っているようだ。それで体幹も悪く、うまく波紋を外へ出せないのかもね」

 

 今朝の修行は終わり。マッサージにでも行ってきなさい。そんなことを言ってツェペリさんは姿を消した。残された俺の頭にはとても良い解決方法が一つ思い浮かんでいた。

 

 マッサージ屋なんかメじゃなくて、これが最善だと思う。

 

「イタリア料理を食べに行こう」

 

 

 

 

 

 

 杜王町の商店街から西の方におよそ100m先。線路を超えた向こうは霊園があるのだがそれよりは手前。最近になって作られたらしい小綺麗な店が見える。

 看板にはイタリア語とカタカナで「トラサルディー」と書かれており、営業はしている様子。ここまで来て店休日ですって展開は無かったようで安心だ。店の外にも人気がなく、待ち時間の心配もない。

 

 この店はトニオという男が1人で切り盛りするイタリア料理の店で、詳しいことは忘れたが、億泰がここの料理を食べて体の不調を回復させていたはずだ。

 

 俺も血流が悪いようなので、その辺をどうにかしてもらうにはここが一番だろうと思ってきたのだ。今年の4月に入ってから急に原作キャラと会う頻度が上がった緊張からか、肩も重い。

 でもトニオさんなら…トニオさんならこの症状も全て吹っ飛ばす美味しい料理を提供してくれるはず…!

 

 それに昨日・一昨日の空条氏から報酬も頂いているので、金はたんまりとある。俺の体が全快して波紋が使いやすくなるってんなら安いもんだろう。俺は意気揚々とドアを開けた。

 

 チャリーン。ドアベルが控えめに鳴る。それと同時に来訪者に気づいた店主と客がこちらに顔を向ける。

 そのうち2つは最近見たことのある顔だ。

 

「ン〜?ああっ、藤堂じゃあねえかよ!この前は世話になったな!」

 

「藤堂先輩…!」

 

「億泰君に仗助君じゃないか。君たち学生なのに、お金は大丈夫か?」

 

 無駄遣いはするもんじゃないぜ。調子に乗って使ってると電気代止められるからな。

 

 億泰君はひらひらとこちらに手を振ってくるので俺も振り返す。仗助君の方は何だか難しい顔をしているが、何かあったのだろうか。

 

「食べるのに困らない金ならあるからよお〜ダイジョブだぜ! ところでここの飯美味いんだぜ、こっちに座れよ」

 

「おや、ご同席しても?」

 

「…そりゃあイイっすよ。飯を食べにきたんでしょ」

 

「いらっしゃいマセ! オヒトリですか? こちらの席も空いてマスが…」

 

「こちらが知り合いでして、相席でお願いします」

 

「オー、わかりました。大人数で食べると食事もより楽しめまス。準備しますので、座ってお待ちを」

 

「どうも」

 

 あーなんかまた緊張してきた。あんまり本編で出てないとはいえ俺にとっては作中だけだった人だから、落ち着かない。

 

 億泰君はすでに一皿は食べ終えたらしく、次の料理を待ちわびている。一方仗助君は頬杖をついて、そんな億泰君を訝しげに見つめているようだ。

 

「…ところでメニューは何があるのだろう、億泰君はもう食べたのだろう? 教えてくれないか」

 

「いいや、ここの料理は客を見て作るんだってよ! とにかくトニオさんに両手を見てもらえ!話はそれからだ」

 

「ふーん…? 手を見せるのか? ところで仗助君は何も頼んでないのか?何も食べてないようだが」

 

「…ああ、金欠だし、別に今腹減ってないんで。億泰の付き添いでいるだけなんすよ」

 

「そうなのか。一品分くらいなら俺が出すぞ?」

 

「…いや〜そりゃあ悪いっすよ。いーですいりません」

 

 おうおう俺の懐が広いのは大金が手元にある今の内だぜ仗助〜〜ッ! 金に関しては貰えるなら貰っとけって言いそうなイメージだったが、流石にちょっと知り合っただけの先輩に集らないか。まあ本人も何か考え事でもしてるのかレスポンスが遅いし、そっとしておこう。

 

「お待たせしました。ではお客さん、手を見せてくだサイ」

 

「はい。どうぞ」

 

 俺は打算込み込みでここに来たが、単純にどんな料理が食べられるのか楽しみにしているのだ。期待を隠さないまま手を差し出す。

 

「フム…肩がズイブン凝ってまス。何か困りごとでも? 常に小難しい考え事をしているでしょう」

 

「たしかに。個人業の方で問題も多いので」

 

「学生なのに仕事も持ってるんですか、それは大変でしょう。筋肉の状態はいいのにかなり血流が悪くなってます。あとは疲れ目に、足に軽い打撲が有りますね。どこかでぶつけたようデス」

 

「え? マジか」

 

 打撲なんてした記憶はないんだが。多少の傷程度俺の波紋でも勝手に治癒するはずなのに…。思わず右足左足とズボンを捲り上げて己の目で確認する。よくよく確認すると、左足の外側にやたら違和感がある。

 …恐らく今朝の修行の時だ。俺が呼び出したのに知らない間に丸太とか持ってきて修行に使うんだよな、ツェペリさん。我が師が丸太振り回しながら「避けろよ小童!」とか言って、それをひたすら避けるトレーニングをやったのだ。もちろん水の入ったグラスも持ってだ。

 

 

 最初の方で、呼び出した人と俺自身はお互いに攻撃出来ないって話を出したと思うが、抜け道はあるのだ、これが。

 

 とても簡単なことで、飛び道具を使えば攻撃が通る。呼んだ死人が俺に攻撃しようとしたとする。素手はもちろん、手に持った剣や籠手での攻撃は俺に届かない。スタンド能力は俺を対象とすると弾いてしまうし、波紋もピリッとすら来ない。

 しかし、弓で撃った矢や弾丸、投石、手榴弾の類になると俺にダメージが通ってしまう。シュトロハイムが暴れ出した時は攻撃全部が効くわけないと思い込んで油断していたから、死ぬかと思った。あいつ二度と呼びたくない。話聞いてくれないんだもん。

 

 これでわかってくれただろうか。波紋の修行において波紋使いと手合わせも出来ないとなると、あの優雅な男爵が丸太を投げてくる事態になるのだ。みんなも気をつけよう。

 

 

 俺が自分の怪我に納得がいく間にトニオさんは料理を作りにいったらしい。ズボンの裾を下ろした時には厨房に戻っていて姿が見えなかった。大人しく待つとするか。

 

「客の健康状態をみて作るなんて、精進料理みたいだな」

 

「よくわかんねえけど美味かったぜ〜!次はまだかな!?」

 

 億泰君はわりと話相手になってくれるので、間が持ちやすくていい。待つ間に兄貴の遺品整理は整頓されてるから楽だとか、でもそれがチョット寂しいとか。先日の降霊の時から膨らませた話題に始まり、色々と近況を語ってくれた。

 中間テストの点数は悪かったようで、今日も補講のために学校へ行っていたそうだ。今はその帰りだとも。そういえば俺は私服で店に訪れたが、彼らは学ランを着ている。どちらも改造しているので学校の外で見ても違和感がないから気にならなかった。

 

 そうこう話しているうちに俺の分と億泰君の分の料理が運ばれてきた。

 

「では…こちらが『モッツァレッラチーズとトマトのサラダ』と、『娼婦風スパゲティ』になります」

 

 サラダが俺に、スパゲティが億泰君の方へ配膳される。逐一料理の説明をしてくれるらしいが、億泰君が文句を挟んだ。赤トウガラシが苦手らしい。まあそういうこともあるだろう。そちらの会話をBGMに俺はマイペースにサラダを食べ進める。

 

 やっぱチーズとトマトってめっちゃ合うわ。もっと食べたい。でもモッツァレラチーズって家庭用に買うにはお高めの値段なんだよなあ。

 もぐもぐもぐ。もぐもぐ。ひたすら無言で咀嚼する。

 

「…先輩、上着脱いだ方が良いっすよ」

 

「上着? 脱げばいいのか」

 

 食事に比べれば他のことなどどうでもいいが、可愛い後輩の忠告だし聞いておこうか。訳わからんけど聞いといた方が良い気がする。

 

 上着を脱いだ直後に首から二の腕あたりまでがなんだかムズムズする。体の各所にも違和感がある。変な音も聞こえた気がするが、億泰君の分を作ったタイミングと同じ時にまとめて作っていたらしいスパゲティがすぐに出てきたので、間髪入れずに口に入れた。

 

 億泰君は今も辛い辛いと言いつつ食べるのを止められないようだ。億泰君の分とは味が違うようだが、俺のも普通に美味しくて、俺以外に人がいることも忘れて貪った。

 

 

 

 

 

 

 フルコースを全て食べ終える頃には、体の不調は完全に消え去り、まるで長距離マラソンを完走した直後のランナーといった気分だ。清々しい、こんな気分は久しぶりだ。

 

 いつの間にか億泰君は帰っていたようだ。声くらいかけてくれよ。このスッキリした気分を共有できそうだったのに。テーブルや椅子の周りにはよくわからないチリがかなり落ちていたが、あれはなんなのだろう。「あなたの悪かった部位が出てきたものデス」と返されたがそう言えばそんな感じの能力だったな、『パール・ジャム』と言ったっけ。

 

 まあ俺に害はないし、それどころか不調を治してくれて感謝しかない。最大の目的だった体幹も良くなり、心なしか俺の背筋も伸びていると思う。体だけでなく、心も軽い。今なら水の上に立てちゃったりするかな? 今すぐ確認したいし、帰ろうか。

 

 億泰君は帰っていたのに、仗助君は何故か厨房を掃除していた。

 

「皿でも割ったのか?」

 

「…勝手な推測で厨房に入った罰っす」

 

「アハハ。仕事にこだわりがあるんだろうね。今回は君が悪いな」

 

「そうっすね。今度はちゃんと金持って食いに来ますよ」

 

 なんでも億泰君の料理に対する過剰反応をみて薬でも盛られているのかと勘違いして凸ったらしい。確かにすごいオーバーリアクションを取っていた気がする。もっとちゃんと見とくべきだったな、もったいない。惜しいことをした。

 

 

 

 

 支払いを済ませ店を出る。ちょうど仗助君の掃除も終わったらしく、同じタイミングで店を後にした。商店街の方まで行けば、昼食を済ませた人々が動き始めるくらいの時間帯だ。

 

 仗助君は思いのほか絞られたらしく、やや疲れた顔をしていたのだが。会話もないまま同じ帰り道を辿ること数分、仗助君から口を開いた。

 

 

「藤堂先輩」

 

「なんだ、そんなこわーい顔して」

 

「先輩はスタンドって知ってますか」

 

 

 参った。お前が先に聞いてくるとは、想定していない。

 俺は瞬時にピンチを悟り、心の中で焦り始めた。

 

 茶化して返事を返したが、そう言う仗助の顔はとても真剣だ。女だったらそんなイケメンのマジ顔に見惚れていたかもしれない。男なのでそんな仮定は意味をなさないが。

 

「スタンドってなんだい」

 

「こういうやつだよ」

 

 仗助の背後に水色とピンク色の化身が現れる。化身の目は仗助と同じように力強さを秘めている。俺はそれに少しばかり魅入った。

 

「…やっぱり…見えてんだな、先輩」

 

「…驚いた。なんだそりゃ、お前の後ろに出てきたやつなら見えてるけど、それが『スタンド』とやらか?」

 

「そうだぜ。俺のスタンドは『クレイジー・ダイヤモンド』って言うんだ。あんたにもこいつが見えるってんなら…持っているはずだぜ、スタンドを!」

 

 …今までの対峙の中の何処で疑われたのかはまるで見当がつかないが、どういうわけか俺に疑っていることを直接訊くことにしたらしい。しかも内容如何では攻勢にでる構えだ。スタンドなんて出しやがって。

 俺は喧嘩が得意でないので、殴り合いになるとまず勝てない。出来ればバレたくはなかったが、仕方ない。

 そうならないように立ち回らなければ…。

 

「持ってないよ、そんな守護霊みたいなの」

 

「じゃああんたが死んだ人間を呼び出す力はなんなんだよ!?」

 

「それは霊能力で…」

 

「食べて、話せて、呼び出した本人から離れて、自分の意思で行動できる形のハッキリした霊を呼ぶのがあんたの降霊か? なんかスッゲェ生きた人間に都合のいい話だと思うのは俺だけか、藤堂」

 

「………」

 

 確かに。霊なんて普通はっきり見えるものじゃあない。

 降霊と聞いて思い浮かべるのはこっくりさんとか、夜な夜な髪が伸びる曰く付き日本人形のお祓い。どちらも室内のほの暗いイメージがある。この時期にはまだ流行っていないが、一種の降霊術とされるひとりかくれんぼだったり、怪しげな黒魔術を試すオカルト研究部だったり。

 全て、「室内で」、「どことなく薄暗い雰囲気の中」、「その場に当事者が拘束されている」。

 

 対して、俺は。

 まだ日の出ているうちに彼の前で虹村形兆を呼び出した。

 店の前で待ち合わせていた空条氏に会う時、俺は花京院を呼び出してからやってきた。

 

 霊というのはあやふやなイメージでしか語れない。ジョジョ界隈においては、条件下以外で幽霊や魂が視認できることはない。

 しかしそのルールは彼らは知らない筈だし、まだ杉本鈴美にも辿り着いていない彼らにとって霊とは、存在しないもの扱いだ。

 

 俺の『霊能力』は、出てくる実体がハッキリしすぎている。霊魂ではなく、スタンドとして何処かから生き物の意識とか、思念体のようなものを呼び寄せて実体化させているイメージで力を行使しているため、当たり前ではある。

 

 ……空条承太郎ならば、そちらが聞いてきたのならまだ誤魔化せたかもしれない。少なくとも俺の依頼人であったから。

 

 死別とは、理性ではわかっていても、心のどこかに影を残す。でも本来なら一生会えなくなった故人に、もう一度会えるなら。普段の生活では絶対に口に出さないけれど、心の奥に大切にしまっていた『言いたいこと』を、誰もが吐露するのだ。言いたくてもいう機会のなくなった筈の言葉を。

 

 そしてその機会を提供できるのが俺。そんな印象がついてしまうから、優しい人間だと錯覚してしまうから、俺の都合の悪い時はできるだけ黙ってくれようとする。もう一度、もう一度会いたいと。

 

 空条承太郎も、機会を与えられた側になる。だから、最悪俺のスタンドがスタンドだとわかっても、黙っていてくれる筈だった。そういう可能性が高かった。

 

 

 しかし、東方仗助は違う。友人と身内が相談所を利用したが、仗助は一度も利用していない。つまり仗助には俺に対する恩や情けみたいなものは…ない。こちらの思惑など関係なしに話を切り出してくる。そして得た情報は口封じの暇もなく、承太郎やSPW財団に伝わる。

 

 それは困る。それだけは困る。仗助自身にDIOが直接関係する勢力との接点はない。血筋の話があるが、本人は直接的に関わったことがないので置いておく。仗助が俺の正体を知るのは問題ないが、そこから間接的に伝わる先が悪い。SPW財団に俺の情報が保管されると、逆にDIOの残党に目をつけられる可能性が高まる。

 

 仗助は俺の力を一度しか直接見ていない……。いや、花京院にも会ったのかもしれないな。そこから何かあって承太郎と考察でもしていたのか。クソ、気まぐれに会わせる可能性を上げてるんじゃねえ昨日の俺!馬鹿!

 

「…わかった。仮に俺の力がスタンドとやらだとしよう。それで、君はどうするつもりだ?」

 

「敵として戦うってんなら倒すぜ。もっとも、あんたはそういうつもりじゃあねえだろうな。悪意で力を使うタイプだと俺は思えない」

 

 もちろん承太郎さんには報告するがな。

 

 彼はそう言った。意志は固い。

 仕方ない。こうなると俺は何処かで情報を食い止めなきゃいけない。

 

 第一目標は仗助にこの事実を『忘れて』もらうこと。しかしそれには俺の手で『対象の頭に触れる』必要がある。仗助相手に頭触れとかどんな自殺だよ。これだからジョースターは。

 一応額でも能力は発動できるが、あからさまに戦う段になって使える方法では決してない。

 

 …埒があかないので、とりあえず逃げることにした。

 

「っ! 待て!」

 

 突然走り出した俺に反応して仗助が追いかけてくる。とりあえず商店街まで行けば多少勝機は見えてくる。

 後ろから追ってくる存在感に青ざめながら、俺はひたすら前へ足を動かした。

 





承太郎さん?そりゃくるよ。主人公に誤魔化す才能ないから出てきたら1発ですけど。
次回能力の戦闘運用方を兼ねた話になる気がします

3部アニメの最後2話見てから書きましたが、ジョースターに対する疑い方が尋常じゃないDIO様と晴れやかな顔で飛行機に乗る承太郎がハイライトです。
お前死んだやつのこともう割り切っとるやんけ!

みんなもアニマックスで平日21時から4部やるから見ようね。…やっぱり粗が目立ってしまうのでやめて…いややっぱ見て…

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