おまたせしました。戦闘描写は二度と書きたくない(なお吉良戦)。
本タイトルの本筋と離れてしまいましたが、作者は「仗助にとって藤堂一茶は、本編で数話内で終わるスタンド使いの相手」として、主人公の事情も交えたイメージで書いてるので、この話を入れました。
やっぱ杜王町に住むスタンド使いなら仲間になるとしても一回はメインエネミー回がなきゃな!2次創作だけど!
時折躓きながらも追いつかれない距離を保つ。波紋によってたくさん走っても疲れにくいが、元が筋肉の少ない身体なので、一般人よりいくらかマシってだけだ。しかし先ほどトニオさんの料理を食べた事でコンディションは完璧になっている。
今は何とか育ち盛りの仗助君に追いつかれず済んでいるが、走ってばかりではどうにもならない。
彼の持つ記憶を『忘れさせる』には、ここから奇襲でもしなければその目的は達成されることはないだろう。
追いつかれては困る、見失ってもらっても困る。そう考えながら踏切を越え、大通りを駆けていく。
本来俺は頭を使って戦うタイプじゃない。そういうのはジョセフの十八番だろう。格ゲーでも1発がでかいキャラを使うタイプの脳筋だぞ、俺。
本当はこのまま夜逃げでもすればいいかもしれないが、俺についてのあやふやな情報をいたる組織に拡散されると非常に俺の命が危ない。
俺の事がSPW財団がまとめてそうなスタンド使いのリスト入りするのも困るし、スタンド使いの疑いがある人物として捜索される事態になったら目も当てられない。そうなると残党達に知れ渡らないはずがないから。
かつて、DIOの館を見張ることで九栄神の情報を探り当てたSPW財団の職員がいた。スタンド使いでもないのに、だ。ならば反対にスタンド使いの巣窟みたいなDIOの残党たちがSPW財団の所有する機密を知ることなど容易いと見るのが妥当だ。
たまに背後を確認するが、仗助のやつ、時折スタンド像をフル活用して立体的な経路を使う。塀を
わかりやすい大きい道しか通らないせいか、小道を使って何度か先回りしてきた。俺だって杜王町で育った人間なのだから、地の利に差はないのだが。その度に遠回りして、先へ向かう。
目的地は駅前の商店街。そこで一度撒くつもりだ。
***
「やっぱり逃げるってことはよ〜。疾しいことがあるスタンド使いなんだよな…!」
東方仗助にとって藤堂一茶という、たったひとつ生まれた年が早いだけの男は、複雑な印象を持っている先輩だった。
初めてあった日、億泰の兄、己も一度は対峙した形兆を呼び出した時。仗助の中に藤堂へ対する違和感が芽生えた。
死んだ人間に対する敬意はあると感じた。だが死んだばかりの故人の話を他人に打ち明けさせる所業を、不謹慎といった風な口はきいていたのに、それにしては死んだことに対しては全く残念にも思っていない。そんな印象を受けた。
『
もしかすると死人と話せるものだから、死ぬことに対する倫理観が麻痺しているのかもしれない。(これには彼が一度死んだ自覚のある転生者というのも一因にあるのだが、仗助は知る由もない。)
少なくとも普通に暮らす現代日本人の感性ではない。仗助はそう思った。もちろんそんな人物に相談なんて止めておくべきだとも。結果何も悪いことは起きなかったので、その時は杞憂に終わった。
一方で、話しかければ会話も続くし、質問したら答えを教えてくれる。犯罪者のように目と目が合わないなんてこともなかった。降霊を悪用しているわけでもない。『霊媒相談』を受ける仕事という、世間では相手にされなくなったような類の事実さえなければ、ただの好青年。
この2つの相反する印象が仗助を混乱させた。どちらを信じればいいのか迷った時、仗助は良い印象を優先するつもりだった。
しかし花京院の件で展開された承太郎の意見を聞いて、気持ちが悪い方に傾いた。やっぱり何か悪いことをやってるのかな、いい人そうなのに、なんか嫌だな、と。
それで確かめたいと思った。承太郎が藤堂の本質を暴くのを待っていられない。自分自身が尋ねなければならない。『トラサルディー』で「奢ってもいいけど」と提案された時にはすでに心は決まっていた。
結果として結論を迫りすぎたせいで逃げられているのだが。
『霊媒相談所』があるアパート、藤堂の自宅はすでに通り過ぎているのに何処へ向かうのだろうか。仗助は小道やクレイジー・ダイヤモンドによる破壊と修理の繰り返しで距離を縮めたが、何故か追いつけない。しかし藤堂が道幅の広い道路しか通らないことから、仗助が見失うことはなく、未だ走り続けている。
藤堂は何をしようとしているのか。何処かへ誘い込もうとしているのか。仗助には見当がつかない。
だが藤堂が向かう次の曲がり角の道の先に何があるか、気づいた時には仗助の思考が怒りに染まった。
「あっちは商店街だぞ!? 人通りが多いってのに…まさか、盾に使う気じゃあねーだろうな!!! もしそうなら本気でブン殴ってやるぜ藤堂ッッ!!」
仗助も角を曲がった。藤堂が誘き寄せたかったのはこの商店街だ。その予想は正しい。
すぐにでも攻撃できるような距離に後ろ姿を捉えた。パーカーとズボンを着たごく普通の男だが、こんな服を着ていた、間違いないと。勢いよく拳を振り上げたが、ここが人通りの多い場所だというのがブレーキになったのか、仗助はグーでなくパーで、頭部でなく肩に手をかけた。そしてその判断は正しかった。
「おい、こんなところに逃げやがって! なんのつもり…ッ!?」
「……? なんだ、お前。
振り返った顔は平凡であるが、ぼうっとして、覇気がない。身長もやや藤堂よりも小さい。この男は藤堂ではない。間違えたことに気づいたが、男の言い回しに違和感を感じてそのまま会話を続けた。
「あんた、今ここにお前よりちょっと背の高いやつが走ってこなかったか? あんたのような服装の野郎なんだが…」
「いいやあ? 知らないなあ。それより僕こそ聞きたいよ。ここはどこだ? 何故僕はここにいるんだろう」
「はあ? 知らねえよ。誰だお前」
「僕は中村祐介ってんだが、それが? …だけどそれ以外のことがわからない。ここに見覚えもないし、さっきまで何してたかも知らないし…」
「オイオイ…記憶喪失何て言うんじゃあないよな。俺が知るかよ、交番はあっちにあっから道はそこで聞…」
指をさして教えてやろうと顔を上げてから、初めて違和感に気づく。商店街には日曜日なだけあって子供連れやカップルが何組か道を行き交っている。何も変なところはない。先週よりは人が多いかな? という程度だ。
声をかけた男と同じようにぼうっとして覇気のない顔で立っている人々を除けば。
パッと見ても10人近くいる。周りの通行人も疑問に思うのかチラチラと目線をやるが、声をかける人はいない。それでもなお呆けている集団は、なんだか異様だ。
記憶喪失らしい人間、恐らく全員似たような状態なのだろう。そこまで分析した仗助の頭にひとつの仮説が浮かび上がる。
昨日藤堂を疑い始めた承太郎から聞いた、花京院を呼び出した時に引き出したという『霊能力』の条件を。
曰く、情報は正確であるほど確実に呼び出せる。
曰く、実体がある。
曰く、藤堂の想定していない情報があると、呼び出された人間の記憶に穴ができる。
ならば──────最低限の情報で死人を呼び出したなら、その人は自分が何者かすらわからない状態で出てくるのではないか?
ちょうど、声をかけた男のように。
「藤堂の野郎、どこに行きやがった!」
仗助は、記憶のない死人たちを無視して再び足を動かした。一刻も早く事態を収束させるべきだと思ったからだ。
悪寒を感じながら前へ踏み出した仗助は、死人たちの陰に隠れて伸ばされた手に気づかなかった。
藤堂ははじめ、商店街で、一般人に紛れてほんの少し仗助が見失った瞬間に死角から能力を使おうと考えていた。しかし昼時からやや時間が過ぎていたせいか、思っていたより通行人が少なかった。
これでは人に紛れてもすぐに気づかれてしまうと焦った藤堂は、メモ帳を開く。普通のメモ帳よりずっと膨らんでいるのは、ページというページに別の紙を糊付けし、新聞のスクラップを留めているせいだ。
どこになにを挟んだか、書き込んでいるかを記憶している藤堂は、前から5分の1ほどのページを開いた。記憶から情報を引っ張るより、文字で視界から情報を認識した方が、藤堂が能力を使うのにやりやすいからだ。
開かれたページに貼ってある新聞記事の見出しには『神奈川 玉突き事故で15人死亡』、そう書かれており、下の方には『被害者の名前』と『顔写真』が掲載されていた。
藤堂は事件の被害者を『顔』と『名前』の情報だけで以って、この場に呼び出したのだ。
***
手を伸ばした俺は仗助の頭に触れた。頭といっても顔の左横から額と後頭部を両手で挟んだ形になったが、タッチしたのだからこっちのものだ。
「な……何ぃ〜〜っ!???と…藤ど…!」
「ごめん仗助君忘れてくれ!!!」
俺の能力は、なんの力もない一般人なら10人から15人ほど一度に呼べる。コスト的には30〜45。限界ギリギリまで呼び出すと俺自身が疲弊して動けなくなるからこの人数だが、上手く機能したようだ。
そのため、仗助の記憶を忘却させるために負担の多い死人たちを戻さなくてはならないが、そんなこと言っていられない。次にチャンスがあるとは思えないしな。
『彼ら』の姿を消し、俺は急いで忘れさせにかかる。どこからの記憶を忘れとかなきゃならないんだ…? 俺が降霊できること自体はすぐに齟齬が出そうだし…俺の能力の条件は知ってること全て忘れてもらおう。それと俺をスタンド使いだと思った原因は…昨日多分承太郎と会ってるだろうから、その時か? そっからトニオさんとこからの帰り際で俺に詰め寄ってきたことも忘れてもらう案件だな。
俺の能力は時間指定でも使えないことはないけど、情報指定で操作した方が断然性能がいい。とりあえず昨日の昼からさっきまでの間のことは絶対忘れてほしい。トニオさんとこでご飯食べてたことは覚えとかないと変だよな。
それと、『母親』と、あるかわからんが『課題』でも思い出してもらおう。これで違和感があっても家に戻ろうとするだろうし、俺がすぐに会わなきゃ記憶も薄れてくれる。
あとは承太郎の方もどうにかしなきゃ…。
「おいお前…仗助に何をした?」
駅の方角からえらくドスのきいた迫力ある声が俺の耳に届いた。やや遠くで発せられた声だったが、実際の距離よりとても近く聞こえる。
踵を返して身を隠そうとしていた俺の全身に、尋常じゃないほどの鳥肌がたち、滝のように冷や汗が出る。足もつい止めてしまった。油切れの歯車のような動作で後ろを振り向けば、目だけで人を殺せる眼光を俺に向けるスタンド使いがいた。
嘘だろ承太郎。
緊張でうまく動かない足を何とか移動させて、承太郎と距離を取る。あちらからどう見えたかは知らないが、俺が仗助に何か仕掛けていたと思っているだろう。実際そうなのだが。
この状況で弁明を聞いてもらえると思えるほど俺は馬鹿じゃない。仗助を助けるために、もしくは俺を殴るために歩を進めてくる世界最強は最高に怒っている。帽子を少し下げてしまったため表情が窺えないが、彼を怒らせてしまった以上足掻かなきゃ無惨に殺されてしまう。DIOのように、DIOのように!
承太郎が俺を殺すことは流石にないのだが、俺は冷静ではなかった。承太郎の記憶を忘却させるなんて目的はすでに頭にはない。
「…う、ううん…あれ、承太郎さん?」
「起きたか、仗助。今奴に何をされた?」
「奴…って、藤堂先輩? 別にどうもしてませんけど…何です、スタンド使いですか? でも俺早く家に帰らなきゃ…『お袋にどやされちまう』。
何でかわからないけど、すげー帰らなきゃって考えてる」
「多分な。だが、まだ夕方の4時だってのに『遅くまで遊んできて!』って怒られるのか?」
「………あれ? 俺なんか忘れてるような…」
「『忘れてる』、か。さっきまで何してた?」
意識が覚醒した仗助が承太郎と話し、ついさっき『思い出した』記憶と『忘れた』記憶を呼び覚ましていく。
承太郎に気圧された俺がどうすることもできず、核心に迫っていく。
「億泰と料理店によって…『思い出せない』……」
「その前後でそこの『藤堂に会った』だろう」
「…ああ! 『思い出した』!
そうだ、トラサルディーで同席して…帰るときに俺が言ったんだ、『あんたスタンド使いだろ』って! 何でこんなこと忘れちまってたんだ!!」
「…なるほど、『死者を呼び出すスタンド』ではなく『記憶を操作するスタンド』か。…しかしスタンドは1人1能力だ。
だから…総合してこの藤堂の能力は『思い出させることで記憶や死者までも呼び出せるスタンド使い』ってところか」
「…俺が記憶を忘れてたことは『死者を呼び出す霊能力』じゃあ説明できないですからね」
こうもはっきりと分析されてしまうと、俺が隠そうとしていた努力は何だったのか。心が折れそうになる。
ジョースター一行を殺すために敵対していたスタンド使いの殺し屋たちは、よくこんなプレッシャーで最後まで戦い抜けたものだ。ボコボコにされたり死んだりした奴らに同情しないが、少し見直した。
承太郎も仗助も、こちらに敵意を向けている。こっちはビビって立つのもやっとだというのに、主人公どもめ。
もう2人の中では俺はスタンド使いということで確定らしい。
だが、心は折れそうだったが、まだ俺の心は折れきってはいなかった。だってここで負けを認めたらあれよあれよという間にSPW財団で保護という名の軟禁とかされそうだ。絶対にやだね。
せめてここで、利用しにくいと思わせなきゃ。
「観念しろよ、藤堂」
「何を考えてるかは知らんが、抵抗しない方が得策だぜ」
「嫌だね。そしたらSPW財団にでも引き渡すつもりだろう。それは困るんだ。
だから抵抗させてもらうぞ」
────────────拳で。
まあ、その、俺の拳ではないんだが。
「プリーズ・リメンバー…!」
俺はなけなしの精神力をスタンドに注いだ。
***
「…もしかすると君たちにも何か事情があるのかもしれないが…この子、足がガクガクだ。だから、ぼくはこの子のために君たちの前に立ちはだかろう。紳士の名に恥じないために!」
「なっ…なんだ。誰だ、あんた!」
「………」
瞬きをするほどの一瞬で、ガタイのいい外国人が2人の前に現れた。ややラフな格好だが、歴戦の戦士の気配を漂わせている。身長は承太郎と同じくらいなのだが、鍛えられた筋肉によって身長以上の迫力を持つ男。平常時ならば、何処と無く承太郎や仗助に雰囲気が似ていることにすぐ気づけたかもしれない。
また、肩の辺りに星型の痣があることも。
彼の者こそは、ジョナサン・ジョースター。
第1部、ファントムブラッドの主人公。ディオとの因縁の始まりである初代のジョジョ。最期には愛する妻をディオから守らんとするために船上で亡くなり、首から下の体を死してなお奪われた奇妙な人生を辿った紳士である。
また、まさに今対峙している男たち、承太郎と仗助の先祖にあたる。
藤堂はすでに意識が朦朧としており、地べたに座り込んでしまった。しかし彼を倒すには、立ち塞がる重機関車を乗り越えねばならない。
「攻めてこないならこちらからいくぞ!」
未だ互いが同じ血が流れる者だとは気づいていないために、ジョナサンが体の重さをものともしない走りで間合いを詰め、パンチを放つ。異常だが、振りかぶる右腕は光っているように見えた。
奇妙な光景に対する混乱をよそに、突如繰り出された攻撃から身を守るべく、2人はスタンドを出して回避する。スタンドを初めて見たジョナサンは驚きに目を見開いてほんの少し、隙を作ってしまった。
敵の隙を見逃す承太郎ではなく、直ちにスタープラチナのラッシュを叩き込む。腕でガードするが、数発胴体に当たってしまった。
ダメージはあるようだが、それでも大した外傷には至っていないらしい。
「ガッ…!」
「ぐっ…! なんだ、その幽霊のようなものは!しかもぼくを殴ってきた! 触れるのか、人間に」
「…てめーで殴ってくるということはスタンド使いではないんだな。しかし…」
「承太郎さんっ」
承太郎は自身の分身に、仗助は承太郎本人の左腕へ目を向ける。先ほどのジョナサンの拳がかすっていたのか、スタープラチナの腕が麻痺したように痙攣していた。
連動している承太郎の腕も例外でなく、同じようにビリビリと痙攣している。仗助が治そうとするも…。
「なんだこれ、怪我じゃない?」
「波紋は元々屍生人や吸血鬼に対する力だ。だから普通の人間に使っても大して害にならない。君のあおい幽霊にも効くようで安心したが」
「スタンドを攻撃した? スタンドはスタンドでしか倒せない、もとい触れられないはずだが…」
仗助は、先ほどの攻撃の応酬の際、自身が狙われなかったために、相手をよく見ることができていた。ジョナサンにとっては仗助も子供で殴りにくかったのと、向かって右側に位置していた承太郎の方が踏み込むのに適していたからというのが主な理由だ。
この間に仗助はあることに気づいていた。
「承太郎さん、スタープラチナであの人を攻撃した時に鈍い悲鳴が聞こえませんでしたか。…それは、俺じゃあなくて、あっちの藤堂です」
座り込んでいた藤堂は、腹を庇うように手を当てて咳込むのに忙しいようだ。攻撃の手を止めたこちらの状況には気づいていない。
「あちらさんと同じところにダメージを受けてるみたいだ。…つまりそっちの人は、藤堂のスタンドってことじゃあないですか。だからスタンドにも攻撃できる」
「……!」
「何だって、彼が怪我を?」
ジョナサンは知らない間に助けようとした子供が怪我をしたことをいたく心配して後方へ向かう。さらに振り返った際に、肩の付近から覗く痣を、承太郎は見逃さなかった。
承太郎にしては珍しく驚いた顔を出す。
「仗助、あれは…」
「承太郎さんにも見えましたか、つまり、そういうことです」
「…話をするしか…ないか」
2人は弱っている子供を心配してしゃがみこんだジョナサンに近寄る。それを敵対行為とみなしたのか、瞬時に身構えた。
「…なんだ、まだやるのかい」
「いいえ、話がしたいだけです。それで、ちょっと治すんで退いててください」
「トドメを刺す気じゃあないだろうな?」
「そんなこと思ってませんよ、信じてくださいご先祖様」
「…何だって? 今君は何といった? もし聞こえた言葉がそのままの意味なら…」
「それも交えて話がしたいんです」
「…わかった、信じよう」
仗助がクレイジー・ダイヤモンドを呼び、服を捲って藤堂の腹の傷を視認してから『治す』。内出血だけで外に血は流れていない。精神的な疲労と相まって藤堂にとっては本来よりかなりのダメージだったらしい。気絶はしていないが、すうすうと音をたてて寝ている。
図太いやつめ。やれやれだ。
仗助と承太郎は呆れてものも言えなかったが、そう思ったとのちに語った。
***
「うん…? ここは…」
「気づいたかい? 君の家だよ。気分はどうかな、傷は治したそうだけど…」
目を覚ますと知ってる天井だった。いつも見てる自分の部屋の天井だ。しかし今日は優しげな眼差しで見つめてくる巨躯の男のおまけ付きである。異常なことだ。でもなんか見たことある気がする。覚醒しきっていない頭で考えるが、思考が追いつかん。
とりあえずずっと上から見つめられると優しげな目に耐えられないから、起き上がってから考えよう。
「んん…傷? 治す傷なんてないと思うんだけど………ってうわあああああ!!??」
そんな悠長な考えは消し飛んだ。部屋の中にいるはずのない2つの人影を俺の目が捉えた瞬間、凄い勢いで飛び起きた。
「よう、邪魔してるぜ」
「さあて、どこから聞くべきか…」
「いやいやいや!? な、な、なんであんたらが俺の部屋にいるんだよ!?
…ハッさっきまで戦ってたじゃん!」
「戦ってたって言ってもご先祖様だけで、お前は寝てたけどな」
「え? ご先祖?」
ご先祖ってなんだ。EoH的に考えると承太郎のいうご先祖って…。そこまで考えて、先ほどまで何をしていたかを明確に思い出す。そういえば最後に呼んだ人、やたら紳士な感じだったな。じゃあもしかして俺を覗き込んでた人ジョナサンかあ。
昔呼び出したことあるから顔は覚えてたけどよりによってジョナサンかあ。
ここまでくると、焦りもなく冷静になれてきた。もうリカバリー不可っぽいけど、彼らに戦闘続行の意思はとうになくなっているようだし。ここまできて俺だけ焦る必要はなくなった。
話を聞くってか尋問でも始まりそうな雰囲気だけど、俺の意見聞いてくれるかな。
「それで、わかっていると思うが、聞きたいことがある」
「……」
「お前がスタンド使いだということは俺達もわかっている。だからこそ今こうやって君の意思を聞いている。
今言わなければSPW財団へそのまま引き渡すことになってしまうが、それでも?」
「…そうですね、どこから話せばいいかわかりませんが…」
どうやらできる限りは意見を聞いてくれる様子だ。
俺は俺がスタンド使いだと気づいたこと、自分の能力が危ないものだと理解していること、SPW財団がジョースター家に影で協力していること。とある筋から、悪いスタンド使いたちの集団、というかDIOの残党の話を聞いて、俺の能力がバレたら利用されて殺されると懸念していること。敵の敵は味方だとしても、それ故に俺の情報を他人に渡すことで俺が危ないと考えていること。全部話した。
転生したことや、前世に関わる詳しい話は"話せない"と明言した上で、DIOとは無関係で、なおかつDIOの残党とは敵対することも考えていると説明した時は信じられない様子だったが、一応納得してくれた。
まあ納得しなきゃ話が進まなかったらね。
俺の話を聞く星型の痣を持つ血族は、真剣そのものだった。時折それぞれに思うところがある単語に反応していたが、ほとんど口を挟まれることなく説明は終了した。
「…以上で話は終わりです。何か質問はありますか」
「1つだけあるんすけど」
仗助くんが手を挙げる。俺を敵とみなしてた時は俺のこと呼び捨てで本来の話し方に戻っていたけれど、もう敬語になってしまうのか。ちょっと寂しい気もするが、仕方ないか。
「話はわかりました。俺からはSPW財団とかそういう他人には言いません。
でも、そこまで考えてるのになんで『霊媒相談所』なんてやってるんです? 今は地元民しか知らないけど、いずれ辿り着くスタンド使いもいるでしょうよ」
「さっき言ったろう。最終的に残党どもとは敵対することも考えてるんだ。噂の広まるスピードを考えたら相当先の話さ。
そして俺はもっと自分の力をつけたかったんだ。DIOの残党が俺の存在に気づくまで依頼を受けて、他人の知る誰かを呼び出すことでな」
試行回数を増やし、呼び出せる死者の数も、例え一般人だろうと増やす。我ながら外道だとは思うが、これが俺のスタンドのやり方だと思っている。それに…
「やっぱさ、皆死んだ人にもう一度会えるなら、何度でも会いたいんだなって感じるんだ」
一度だけ困った事態になったことがある。上流階級のお嬢さんが事故で亡くなったからと、母親に泣きつかれ、依頼を受けたことがあった。あるはずのなかった再会に、親子は感動の涙を流し続けた。
しかしそれも束の間、引っ込めようとすると母親が「うちに来てずっと娘を現世に留まらせ続けろ」と言ってきた。何を言ってもヒステリックを起こし、ついには金に物を言わせて雇ったSP達に拉致されかけたので、俺についての記憶を全て消す羽目になった。
今のところ更なる害はないので、今も忘れているらしい。
「そんなことがあっても俺がこの仕事を続けるのは、あの涙ながらの再会が見たいからかもしれないな」
結局は俺のエゴ。俺の自虐を感じ取ったのか、ジョナサンがフォローに回った。
「ぼくもツェペリさんやスピードワゴンにまた会えるなら、感謝の1つも言いたいよ。それに、君がぼくを呼び出さなかったら、ぼくの子孫がディオに苦しめられていることも知らなかった。それを教えてくれて、ぼくの子孫に会わせてくれて、ありがとう、イッサ君」
ありがとうございます、そう言った俺の言葉は彼に届いただろうか。なんだかうまく喉が動かなくて、言葉がつっかえてしまったから。
「ところで仗助、君の父親に話があるんだけど、どこにいるんだい?」
「なんかさっきより闘志がみなぎってないっすかご先祖様!?」
「ジジイはアメリカだが、もし会ってもだいぶ耄碌してるから、手加減頼むぜご先祖様」
「そこは止めないんですね…」
こいつら俺の寝てる間に何話してんだよ…金取るぞ…。
なんだか今までひとりで怯えていたのが嘘みたいで、この日の夜はこれ以上なく快眠だった。だから目覚まし時計もかけ忘れて、学校に遅刻したのはご愛嬌と思って欲しい。
主人公のスタンド技『最終兵器ジョースター/ジョナサン』
破壊力A スピードB 射程距離D 持続性C 精密機動性A 成長性E の可視スタンド扱い。
死んでるので成長性はないがアホみたいにパワーだけは強く、波紋で戦う。本人がスタンドとして機能するので、普通に戦っても相手のスタンドを殴れる。
サブタイトルの主人公が藤堂のことだけとは言っていない。そういうことです。
主人公は少々気を張りすぎていたようです。大人はバンバン頼りましょう。
今回は他の話から伏線というか情報を引っ張ってきたのでめちゃくちゃな部分があると思います。誤字報告か感想でそっと教えてください。
次はちゃんとほんの少しだけ思い出してもらいます。時系列的にできる人がやってくるので。