ほんの少し思い出してもらうだけの話   作:氷陰

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岸辺露伴の場合①にあたりますが、ちょっと趣旨がずれた上に本筋まで入らなかったので、①のタイトルになってません。




『天国への扉』の場合

 

 

 この前のスケコマシ先輩は、後から来た承太郎さんにすら物怖じせず突っ込んでいった。顔つきからジョセフの血縁だと察したらしい。波紋戦士ってすごい。

 承太郎さんの方も60年来の親友だとジョセフが説明したら状況を把握したらしく、速攻でジョセフの若さ故の失敗談を聞き出そうとするのだからジョセフはかなり焦っていた。

 

 そういえばシーザーの女性に対する感性が垣間見えた時の承太郎さんの目は何か企んでいる風だった。こいつじゃ灸を据えられないと。

 また承太郎さんから依頼が来る日も近いかもな。

 

 

 きっとジョセフは、俺がスタンド使いという事は兎も角、『霊媒相談所』のことは知らなかったと思う。知っていたとしても心に何かが引っかかって、相談所のドアを叩くことはなかったような気がする。

 

 偶然とはいえこちらから提案できたのは良かったと思う。俺は他人に、少しばかり過ぎ去った記憶と、対話をして、向き合って欲しいのだから。どうしてもジョセフ・ジョースターへこの能力を発揮したかった。

 

 

 

 

 

 

 6月になった。そろそろ学期末テストの心配をしなければならない時期だ。俺は暗記なら大の得意だが、『覚えられる』といっても教科書全ての範囲から必要な情報だけを思い出したい時にやや時間がかかってしまう。問題の言い方次第ではキーワードから連想すべき答えを『思い出せ』ないのだ。

 

 というわけで、駅前のカフェでお茶を飲みながら一学期に習った範囲の復習をしているのだが。

 

 

「藤堂一茶と言ったっけ。頼みがあるんだが」

 

「どちら様です? 依頼ならお金を用意してくださいね」

 

「つれないなア、康一君の友達だろう? この漫画家、岸辺露伴の頼みを快く受けてくれたっていいじゃあないか。

 友達に物を頼むときに金をせびるなんて野暮だからな」

 

「…あんたと友達になった『覚え』はないんですがねえ〜」

 

 この漫画家、とても厚かましい。こんなキャラだったっけ。心の広い俺でさえ引くレベルの押しの強さだ。人間関係が嫌になって漫画家にって、絶対にその性格が原因だろうが。

 

 俺は思いっきり顔を顰め、それきり露伴先生を無視してページをめくる。あんたのプライベートに俺の時間を巻き込まないでくれ。

 それに露伴先生はスタンドが怖い。別に見られたってそれこそ『忘れてもらう』が、先に言いふらされるのが怖い。わざわざ誰かに言う性格ではないけれど、人の口に戸は立てられないのだ。

 

 

 岸辺露伴の『ヘブンズ・ドアー』は対象を『本』にする能力。書かれている事柄は本の主の記憶している体験と情報。俺の前世の記憶までは書いてないと思いたい。あくまでも別人だし。しかし前世に基づく俺の思考は絶対に書かれている。

 前世とスタンドのこと以外で特筆すべき事柄はほぼ無いため、先に露伴先生の興味がなくなれば完璧だが、世の中そんなに甘くない。

 

 

「ちぇっ、仕方ないな。じゃあいいよ。ところで…ここに最新話の原稿があるんだが、見るか?」

 

「見ます!!!!!!」

 

「ちょろい奴め、『ヘブンズ・ドアー』!」

 

「しまった! やっべえ!!」

 

 

 原作ファンなら誰もが気になる作品内の作品、『ピンクダークの少年』。もちろんあるとわかった時は連載前だったので、1話目の掲載からずっと読んでいるし、単行本も買い揃えている。今は絶賛休載中だが、今まで一度も休載無しだったのだ。休養が必要とはいえこの機会にちょっとは休んでもいいと思う。

 漫画に人生かけてる先生本人に言ったら絶対変なこと書き込まれるから、言わないけど。

 

 つまるところ、岸辺露伴先生の一ファンなのだ、俺は。生原稿見せてくれるって言われたらそりゃ見るだろ?この時点ではスタンドが成長してるはずだから、見せるのは一コマで充分だったのだろうが。

 

 

 

 だから例え『ヘブンズ・ドアー』を警戒していても、この結果は必然だった。

 

「こんなに上手くいくとは思ってもみなかったぞ。ぼくのファンか? まあいい。『藤堂霊媒相談所』の主、『藤堂一茶』。見せてもらうぞ、君の(じんせい)を!」

 

 

 俺だって思ってなかったわ。くそ、頼むから余計なところは見るなよ。

 

 記憶は5歳の頃からか。

 そう言って動けない俺を『読み』始める。意識が途切れないんだけど、この場合スタンド使いって意識あるまま何も出来ないのかよ。自分が本になってるショッキングな光景見続けなきゃいけないの? それはちょっと酷くない?

 

 ちなみに一瞬見えた生原稿はクッソすごかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎(見開き1ページが黒く塗りつぶされている。辛うじて文字が重なっていることがわかるが、全文はとてもじゃあないが読めない。)

 

 

 次の見開きページには。

 

 

 忘れるな。忘れるな。忘れるな忘れるな忘れるな。絶対に忘れるな。全て、何もかも、俺は忘れてはならない。思い出せ。思い出せ。忘れていることは全部思い出せ。記憶し続けろ。(『思い出せ』か『忘れるな』という言葉が大小様々に、しかし隙間なくびっしりと綴られている。)

 

 

 

 露伴は困惑した。なんだこの異様なページは? 最初からとんでもないページに当たったものだと。

 幸い『黒く塗りつぶされたページ』は見たことがあり、記憶に大きな混乱が起きたことを理解したが。それに混乱の後には『忘れるな』ときた。

 

 期待値が上昇していく。1ページ、2ページ目からこれなら他のページは何が書いてあるのか。他のページをじっくり読むためには人目のつかないところへ連れて行かねば。藤堂には自力で歩くよう命令を書き込んでから、露伴邸へ向かわせた。

 

 

 

 露伴邸に到着し、藤堂をリビングのソファに座らせる。その後藤堂が動くことはない。準備が整った露伴は期待を込めてページをめくっていく。しかしその期待は裏切られた。

 

 

 

 6月3日。7時起床。幼稚園の日。朝はフレーク、牛乳を少なめに入れる。美味しい。母さんが身支度しろという。まだご飯食べてるから待って欲しい。8時12分バスが来る。いつも通りの時間だ。ドライバーに敬礼。それから隣に座った友達の話相手になる。もっぱら朝の特撮番組の話だ。俺はロボットアニメの方が好きだが、特撮も見るから話にはついていける。結構楽しい。某ロボアニメを最初からではないけどリアルタイムで観れるのはラッキーだ。体感はとても早かったが、8時25分。幼稚園到着。子供は可愛い。遊ぶのは楽しい。苦じゃない。俺も皆と遊ぶ……

 

 

 

「やたら描写が細かいが、中身は普通だな。つまらん」

 

 露伴は本当につまらなさそうにパラパラとページを読み流す。藤堂本人としては知ったことではないと理不尽さに声を荒げたいが、保てるのは意識だけで体は自由に動かない。

 

 この文だと劇的な記憶は無いだろうと見切りをつけ、自身を攻撃しないように文字を書き込もうと余白を探す。しかし、同時に不自然さに気づいた。

 

 

「…最初の時点で、5歳だよな? 漢字を使った文になっているとは、知能が高かったのか、黒いページが関係あるのか。…違う、それよりも、もっと気にすべき点がある」

 

 

 露伴が読める内容の範囲は、本にした対象が『覚えている記憶』に限定される。ついでに言えば、この時点では露伴も知らないが、死んだ相手の記憶ならば死後のことは本に書かれないか、「死」の羅列が並ぶかのどちらかである。

 

 つまり、「本人が覚えていないこと・肉体的意識がない間」の記述はない、そのはずだ。

 

「いくらページを繰ってもたった数日しか経過していない! 普通なら20ページもめくれば他の年に飛ぶ。なのにこいつ……いったい人生のどれだけを『覚えて』いるんだっ!??」

 

 

 文字は隙間なく詰まっているのに、1日の記憶でも最低1ページ分はある。しかもそれが日付が飛ぶことなく、次の日も、そのまた次の日も続いていく。

 字も小さく、隙間もなく、ただ行動の記憶が連続したと思えば、5文に1回は藤堂の心情が入る。日付に一度の欠けもなく延々と書かれている文を全て読むのは流石の露伴も骨が折れる。

 

 まるで整理されていない物置部屋のようだ。どこに何があるかわかりやしない。

 

「答えろ藤堂一茶ッ!」

 

「…そりゃそうですよ。俺の意識がない時以外の事は、全て『覚えている』。それだけです」

 

 

 藤堂はとうに抵抗を諦めているのか、素直に応える。納得できなかった露伴はさらに質問を投げかけた。

 

「しかし16、7年とはいえ人生の全ての記憶を、完全に保てるわけがない! 人間はそんなに情報を覚えていられない…!」

 

「別に常に思い出してるわけじゃないですよ。今あんたが見てるところから何処かを抜粋して俺に聞いたって、言われて初めて『思い出せる』だけです」

 

「…いつもは『忘れて』いると、そう言うのか? 本に書いてあるのに」

 

 

「『忘れる』にしても『思い出す』にしても、まず知らなければいけません。

 ものを『覚えて』から必要な時まで『忘れて』、然るべき時に『思い出す』。俺が知ってるんだから、『本』に書かれている。当たり前じゃあないですか」

 

 

 読みきれないことに少々焦っているのか、はたまた興奮しているのか、露伴は軽く唸ったあと、顔を赤くして先ほどより早いペースでページを進めていく。

 

 転生とかいう荒唐無稽な思考をした文が時折視界を掠めていくが、たまたま宗教的死生観に興味を持っていたのだと解釈して読み飛ばす。他の文と比べて状況・心境が不安定でかつ明瞭でなかった。露伴は『黒いページ』に関係があるとみて、この件を本人に問い詰めるのは後回しにしようと思い、本に目を通していく。

 

 

 400ページほど進めたあたりでやっと、はっきりと劇的だと言える記憶にたどり着く。6歳になって数ヶ月経った冬の記憶だ。

 

 

 

(一部抜粋)

 家族旅行2週目。エジプトに到着。俺は絶好調。ピラミッドがとても楽しみ。前は行ったことがなかったから、じっくり見てみたい。治安は心配、だが父が旅慣れしているし、ヨーロッパでも大丈夫だった。ここでも大丈夫だ。カイロはまだ遠いが、父さんと手さえ繋いでおけば安しっ………あれ、父さん? はぐれた? マジに言ってんのか?? こちとら6歳児なんだが??

 

 

 

 エジプトで親とはぐれたらしい。困ってはいるが、子供にしては落ち着きがあるのがうかがえる。

 

『本』に書かれる文章は、本来なら一番記憶に残っている疑問予想や感情が残るものだが藤堂の『本』にはそこに至るまでの変遷すら書かれている。その点だけはリアリティを追求する露伴にとって好都合だった。

 

 本の中の藤堂は、子供ながらに異国の地で父親を探すことにしたらしい。その間に町の風景を見て思った事は、どうでも良いので省略する。

 

 

 

(中略)

 ……よし、わからん。予約してるホテルまで行けば父さんも帰ってるかもしれない。これはナイスアイデアだ。この道を通った記憶がない事を考えなければな! 元来た道を辿ってもいいけど、すごい遠回りになるし、その辺の人に聞いてしまえ。周りを見渡す。遠くに観光客らしき2人組がいた。声をかけ…!?

 

 2人組の縦に整えた銀髪の方から突如、フルプレートを纏った騎士が現れる。2人の影になって見えなかったが、血を流した男が座り込んでいた。そちらは横に伸びた奇妙な髪型で、鈴がついている。世の中には変な髪型の人間がいるものだなあ。…いやそうじゃあないよ!? 怖! 何あの集団! 青い武人も現れて、鈴のおっさんをボコボコにする。

 学ラン着てるやつが声をかけてくる。思わず反応する。

 

 …は? スタンドって何だよ、「見えてたろ」って甲冑のやつは見えるけどそれがあああああ!? 怖! 怖い! 睨むなよ!

 返事をしたあとすごい形相で詰め寄られる。学ランの奴にも銀髪にも。は? DIO? 何言ってんだお前ふざけてんのか?? とりあえず襟を掴むな離せっての!!

 

 

 

「DIO? DIOというと承太郎さん達が倒したという吸血鬼のことか!? 藤堂、どういうことだ! 何故お前の記憶に…」

 

「教えてあげるので本閉じてもらっていいですか?」

 

「いや本を読むからお前は黙ってていい!」

 

「………」

 

 それきり情報を得ようと露伴は躍起になって読み続ける。若干目が血走っている露伴に藤堂は恐怖を覚えた。それから何度か声をかけたが、全く露伴の耳に入っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 俺の、藤堂一茶という少年の昔話をしよう。10年前、エジプトツアージョースター様御一行と一度だけあった時のことだ。

 

 

 今思えばあの銀髪はポルナレフで、学ランのやつは承太郎、横に長い髪型のおっさんは『セト神』のアレッシーだとわかる。しかし、彼らに会う瞬間までは、ただ生まれ変わっただけだと思っていたのだから、誰が俺の立場だったとしても混乱していたと思う。

 

 俺が乱入してしまったのは、ちょうどアレッシーをトドメのラッシュで殴り抜ける辺りだったらしい。

 俺の目線がフルプレートの騎士…『シルバーチャリオッツ』と青い武人…『スタープラチナ』を追っていたことに気づいた承太郎が、いきなり俺に質問してきた。

 

 

「今、スタンドを目で追ったな?」

 

「え? スタンド?」

 

「惚けてんじゃあねえぜ坊主、見えてたろって確認してんだ。質問を質問で返すな」

 

「見えたよ。それが…うわっ!?」

 

 スタンドというのが何を指し示すものかよくわからず答えたが、元から強い目力をさらに強くして俺を睨むものだから縮み上がった。さっさと逃げたかった。

 

 

「てめーはDIOの手下か?」

 

「は? ディオ? 誰だよそれ、有名人?」

 

「おい承太郎、どうしたんだ?」

 

「この子供、スタンドが見えてる」

 

「何、DIOの手下のスタンド使いか? こんな子供が!」

 

「さあな。とりあえずじじいの所へ連れて行く」

 

「えっうわっ!!」

 

 

 後ろから遅れてやってきたポルナレフも会話に入ってくる。彼らは英語で話していたが、英語はある程度わかるので聞き取れた。俺はテンパってたので普通に日本語で話した。承太郎は英語で質問したので、こちらが英語を理解しているのはわかっているだろう。

 

 

 連れて行くってこんないたいけな子供を拉致するのかよ! と思ったが、襟を掴まれて逃げられなかった。あと眼光がすごい鋭いし、タッパがあるから威圧感もすごい。承太郎だけじゃなく、ポルナレフもだ。

 

 ポルナレフは割とおちゃらけたイメージがあるが、その実、妹を辱めた敵を屠る復讐者である。実際ポルナレフが戦ったスタンド使いの死亡率は高い。恐らく御一行の中で一番『敵を殺す覚悟がある』のではないだろうか。そう思えるくらいにポルナレフは俺から目を離さないようにしていた。だから怖いって。

 

 

「DIO」、「スタンド(使い)」、「承太郎」、そしてこの場所「エジプト」。これらの単語から俺が生前見ていた漫画を思い出したが、この時はまだ流石に有り得ないと思っていたので、自分の予想から無理やり外した。今年が1989年になったばかりという事実はスルーした。あの原作に明確な日付表記はなかったはずだ。

 

 

 

 そのまま胴を承太郎の脇に挟まれながら他の仲間と合流した。それまでに多少暴れたが承太郎はビクともせず、ポルナレフには頰をかなりつつかれた。俺の子供特有柔らかほっぺで遊びやがって!

 

 合流したのは老齢の外国人と地元民っぽい褐色肌をした男2人。もうわかっているだろうが、ジョセフとアヴドゥルである。朝食を食べていなかったらしく彼らは俺という新たな問題にため息をついていたが、飯より俺を優先することにしたらしい。道端での尋問が始まった。

 

 

「ふむ、その子供が手下のスタンド使いかもしれない、と?」

 

「可能性は低そうだがな。しかしDIOの手下でないにしろ、スタンドが見えていた。じじい、こいつは英語を理解できている。念のために聞き出せ」

 

「おじいちゃんに向かって聞き出せはないだろう、承太郎」

 

「さっさとしろ」

 

「わかっておる。…では君に聞こう。君には『他人には見えないけれど自分の周りに常にいる』お化けみたいなものはいるか?」

 

「……いないよ」

 

 

 俺は正直に答えた。他にもいくつか質問された。「承太郎たちのような普通の人に見えないものを操る人間を見たことがあるか」「DIOという男を知っているか」「エジプトで怪しい金髪の男を見なかったか」とか。

 

 俺もこの頃には混乱が解けて、「こいつらもしかしてジョースター御一行じゃね?」という予感(というか事実)を心が受け付けるようになっていた。

 俺の答えから、本当に俺がDIOとは何の関係もなく、スタンドについても何も知らない子供だとわかると、ジョセフが次に彼ら自身の目的と合わせてスタンドについて丁寧に教えてくれた。

 

 

「つまり、俺が『スタンド使い』だと言いたいんですね」

 

「ああそうじゃ。君の周りにはスタンド使いがいなかったし、スタンドの像も出したことがないようじゃから、今まで気づくことすらなかったんじゃな」

 

 

「…スタンドかあ、なんだか不思議だ。俺にそんな力があるなんて…俺にもピカピカした鎧のやつみたいなのがいるのかな?」

 

「鎧というと、ポルナレフの『シルバーチャリオッツ』のことか。残念じゃが、全く同じものにはならんぞ。君の精神の形がスタンドになるからじゃ。

 何か、自分が他人と違うと感じたことはあるか?」

 

「うーーん…? あ、俺記憶力は良いや。なんでも覚えられる」

 

「では記憶に関するスタンドなのだろう。…ジョースターさん」

 

 記憶に関するスタンドだと考えたアヴドゥルに合ってたぞと言いたかったな。まあ呼び出せばいつでも会えるんだが。

 

 

 アヴドゥルがジョセフへ呼びかける。なんだか難しい顔をしていたのは覚えている。DIOのことは詳しくは教えてはくれなかったが、『スタンド使いを世界中から集めて悪いことをしている男』に注意しろと言われた。誰かに勧誘されても逃げろと。

 

「本当ならわしが君を保護せねばならん…が、わしらはどうしても先を急がねばならん理由がある。SPW財団という組織に言えば保護してくれるよう言っておくから、ご両親と出来るだけ早く出向いて欲しい。できるか?」

 

 俺に詳しいタイムリミットは分からなかったが、アレッシー戦がこの時だったことを鑑みるに本当に俺のことなど他人に丸投げするくらい急がなければ、ホリィさんを助けられなかったのだろう。

 

 

「よくわからないけど…うん! わかった!」

 

 ものすごく良い返事をしたが、俺の心中はまったくもって穏やかではなかった。俺の中でここが『ジョジョの世界』というのはもう既に確定しており、承太郎達と関わりを持つことは現時点で死亡フラグにしかならないと当時の俺は考えていた。

 そのため何か不都合なことを勧められた気がするが、俺が快諾することで話を終わらせた。全ての情報を照査するには心に余裕がなく、とりあえずホテルの場所を聞いて、彼らと別れたのだった。

 

 

 その後父とは再会できたが、普通にめっちゃ心配された。これが一般人の感性だ。スタンド使いだからといって子供もスタンド使いとしての精神を持ち合わせているとは限らないので、その辺ジョースター御一行はやや感覚が麻痺していたようだ。『デス13』は除く。

 

 俺の住まいが杜王町であることと、俺のスタンドで死人が呼び出せることを知って戦慄するのは、日本に帰国してからだった。

 

 

 

 

 

 

「…というわけですよ。読み終わりました?」

 

「ああ。君が彼らについて大して知らないことだけはわかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もっと敵との戦闘とか見ておけよ」

 

「んな理不尽な」

 

 

 俺からは俺の『記憶』がどう書かれているのか100%はわからない。だが少なくとも10年前、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずだが、前世を持つ故の情報だとわかる書き方ではないらしい。

 でも絶対「前世」とか「転生」とか見られてるはずだし困るなあ。どうしよう。

 

 

「まあ旅のことはいつか承太郎さんから聞き出すとしよう。それで、お前の記憶によく出てくる前世ってのはなんのことだ」

 

 

 やっぱり突っ込んできた。やだなあ、言うのは良いけど信じてくれそうにないしなあ。

 そのまま黙し続けていると、露伴先生は脅しをかけてくる。

 

「言わないならSPW財団にお前を引き渡してやろうか」

 

「ちょっと前世があるだけです!!! …あんたが気にすることじゃあない」

 

「はあ? 本気でそんなこと思ってるのか、高2にもなって!」

 

 

 

 

 

 

「ふざけんなっ!! あんた何言っても信じる気ないだろ! だから、だから言いたくなかったんだ!!!」

 

 

 露伴の当然の感想に腸が煮えくりかえる。自分でも何故ここまで頭に血が昇っているのか理解できない。しかし、どうしても()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()とすら考えてしまう。

 

 

 いきなり激昂した俺に少し怯んだ露伴の頭に手を当てようと手を伸ばした拍子に、互いの体勢が崩れ、『本』になっていた箇所も閉じきる。その勢いで露伴の記憶を消そうとしたが、露伴に触れることができない。

 

「あっ…!? なんで触れないんだ??」

 

「…はっははっ…先ほど既に『岸辺露伴に攻撃できない』と書き込んでおいたッ! 何をしようとしたか知らないが、お前はぼくを倒せない。

 書き込む隙間を探すのには苦労したがな!」

 

「…露伴。あんた、俺のスタンドのことは何と聞いている?」

 

「康一くんや億泰、クソッタレの仗助がうちに来た時にスタンド使いだと言っていた、だがそれだけだ。記憶とお前の『相談所』から見るに、『思い出すことで死者を呼び寄せる』スタンドだろう」

 

「そこまでわかってんなら、俺が何するかわかってるよな?」

 

「まさか、スタンド使いを呼び出そうってのか!?」

 

「そのまさかだぜ漫画家さんよお!」

 

 

 死んでいるスタンド使いのうち、今の状況で俺を助けてくれるやつ。思考が怒りに染まっているが、相性と性格だけは考えておかないと痛い目を見るのは俺だ。

 露伴特攻のような人間がいればいいのだが、非戦闘タイプ相手では誰だろうと一筋縄ではいかない。だから協力してくれる人間を『思い出す』。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』点で、花京院ならば協力してくれそうだ。さて、やるか。

 

「プリーズ・リメ……ッ!!?」

 

「エコーズACT2ッ!」

 

 

 呼ぼうとした瞬間、何かに頰を叩かれた。目線をゆっくりと目の前の露伴から自分の右側にずらす。やや小さめのスタンドだ。『スヤスヤ』? 何の音だ?

 

 いや…『音』…『エコーズ』? まさか、何故!

 

「康一……くん……」

 

「…こんにちは、藤堂先輩、露伴先生」

 

 

 なぜここに。普通自分が襲われた場所に来ないだろう、康一君。そんな愚痴だかただの疑問だかわからない思考と共に俺の意識は沈んでいった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

「…駅前のカフェで学生が変人に絡まれてるって噂が聞こえたから来てみれば、何やってるんです! 反省したんじゃなかったんですか!」

 

「ご、誤解だよ康一君。これは取材だ。許可はとって…」

 

「ないでしょう、まったく! ぼく先輩があんなに怒ってるところ初めて見ましたよ。

 だいたい、鈴美さんの件でぼくが尋ねようとしたのに『ぼくが取材がてら依頼してやるよ』って言った時から怪しかったんですよ!」

 

 康一が露伴を責める。本来露伴は杉本鈴美という幽霊と会った一件について、藤堂を訪ねてきたのだ。それが暴走して、藤堂がソファで眠ったまま転がされる羽目になったのだった。

 

「とりあえず、藤堂先輩が起きる前に、こうなった経緯を話してください」

 

 

 

 広瀬康一、変人に好かれやすく、杜王町一変人の扱いが上手い男により、ひとまず今回は戦闘に入ることはなかった。

 

 






主にスタクルと会った時の話を補完しました。主人公的にはスタプラより鎧を纏った騎士のチャリオッツの方がカッコよく見えたようです。子供だからね。

この話の時系列は岸辺露伴の冒険よりあと、「重ちー」のハーヴェストよりは前を想定しています。この能力まだ使えないじゃんなどの矛盾点ありましたらご報告を。
区切りがいいところまででの投稿ですので、鈴美さんの件は次で。

補足あんまりしないのですが、もう一つだけ。
主人公の逆鱗は『前世を否定されること』です。今世に溶け込んでいても、本人の感性は前世が大きく関わっているが故に、自分の存在を否定されたようなものだからです。
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