ほんの少し思い出してもらうだけの話   作:氷陰

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小説媒体読んでないって言いましたけど、岸辺露伴スピンオフシリーズの「赤い栞」と「シンメトリールーム」だけは友人から付録の小冊子を貰ったので読んでます。友人に感謝。




岸辺露伴の場合

 

 目が醒める。

 何があったのか少しずつ『思い出す』。俺が露伴にすごく怒っていたところに、康一君がやって来て俺を眠らせたのだった。

 

 起き抜けに『前世を蔑ろにされたこと』への怒りで思考が真っ赤に染まりそうだったが、一度意識を手放したせいで先ほどよりは客観的なものの見方ができた。どう考えても悪いのは露伴だが、康一君は何故俺を眠らせたか。

 

 烈火の如く怒る俺が()()()()()()()()()と判断したのだろう。康一君は(身長を除く)成長が早い。自分の住む街に悪いことが起こりそうな時や、実際に事件が起こった後、自分と家族や仲間の命を守る時なんかは特に強靭な精神力をさらに強くして立ち向かう。

 

 スタンド使いの性とでも言うのか。彼らは例外なく精神力が強い。弱ければスタンドを上手く扱えず、最悪死んでしまうからだ。強くならざるを得ない。そしてそれに従い思考も複雑化していく。

 

 康一君は頭がいいし察しも悪くない。「藤堂一茶が相手に本気の殺意を抱いている」ことにいち早く気づいた。

 だから多分、康一君は「露伴先生がちょっかいかけて藤堂先輩を怒らせたんだろうけど、勢いで殺してしまっては問題だ。少し頭を冷やして話を聞かせてもらおう」なんて考えたのではなかろうか。

 俺の予想だから間違っている部分もあるかもしれないが。

 

 

 露伴邸のソファに寝かされていたらしく、少し肩が固まっている気がして腕を回す。掛け時計によると、俺が眠っていたのは20〜30分ほどのようだ。

 

 

 

 俺が起き上がったことに恐れ慄いたのは部屋の中にいる座高の高い方…露伴で、やや慌てつつも落ち着いて声をかけてきたのは俺を眠らせた康一君だった。随分と申し訳なさそうな顔である。露伴の方は話しかけてくる気はないらしい。

 

「あっあの、起きましたか…。眠らせてすみません。…さっきまでの事はある程度先生から聞きました。一応、念のため! 先輩の話も聞きたいな〜って…」

 

「……そうか。で、何故君に話をしなければならない?」

 

 康一君は仲裁に入ることにしたようだ。しかし当事者に彼は含まれていない。本来ならこの件に首を突っ込むのはお門違いというものだ。問いかけると一瞬怯んだが、次の間には覚悟を持った瞳をこちらに向けてきた。

 

「う…。ぼくに関係ないっちゃないけれど、放っては置けません。

 この町で殺人が起こることも、ましてや知り合った漫画家や学校の先輩が加害者と被害者になるなんてことも…絶対にあっちゃあいけないんです」

 

 ()()()()()()()()()()()()という意思を感じる。これは俺のことじゃない。俺のことでもあるけれど、きっと、もっと違う…殺人鬼のことだ。まさか、もう小道に行ったのか。

 

 俺の能力的に誰かがあれを教えにくると思っていたが、まだ俺は町に潜む『犯人』の話は聞いていない。もう目の前の彼らが他に伝えた後で最後に俺の所へ来たのか、それとも仄暗い話を真っ先にここへ伝えに来たのかイマイチ判別がつかない。

 

 どちらでも大して変わらないが、俺が『犯人』について無関係でいることはできない。俺は死者を呼び出せるからだ。

 

 

 とにかく、既に話は進み始めているらしい。ならばと俺は、先ほど俺と露伴の間で起こったことを康一君に話すことにした。まだ心の中では火が燻っているが、露伴の反応を見るに俺の目つきが悪くなるくらいで済んでいるらしい。

 

 

「…で、俺が切れたわけ」

 

「うん…齟齬はないね。やっぱり露伴先生が全面的に悪いんじゃないですか!」

 

「…まさか『あれ』がスイッチだなんて思わなかったんだよ。いや、悪いとは思ってるさ。また休載しては困るしな…。

 …悪かった、君の根源を侮辱したことは謝る。もう言わない」

 

「…許しはしませんよ、読んだ内容は後で『忘れて』もらいます。

 あんたと俺は畑は違うが、お互い人生で一番に考えているものがある。あんたが漫画で、俺が『あれ』だった、それだけです。…次は無いからな」

 

 

 露伴は『忘れる』と言った時少しだけ残念そうな顔をしたが、引いた方が良いと判断したらしい。らしくないとは思うが俺も譲れない所である。これが妥協点だ。ちなみに説明する時には康一君にも知られないよう『あれ』と指した。二の轍を踏まれても収拾がつかないしな。

 

 また、前世の話とは少しズレるが、承太郎さんの『日記の内容の記憶』を知られてはいけないように、俺の記憶も知られてはいけないことだらけだ。本当に今回は俺も迂闊だった。それは俺のミスだから受け止めよう。

 

 

 露伴のスタンド、『ヘブンズ・ドアー』でも対象のページを破ることで一時的に記憶を消すことができるし、『忘れる』と書き込めばずっと忘れたままにできる。鮮明な記憶とは、余程のことがない限り完全に消えることはない。『忘れた』ことはいつか『思い出し』てしまうから、封印と言えるかもしれない。

 

 

 

 俺と康一君立ち会いのもと露伴自身の手で書き込んでもらい、俺が重ねがけで『忘れさせる』ことで出来る限り強く『記憶の封印』をして初めて、一応の和解をした。

 

 

 

 

 

 

「そういえば、なんの話だったんですか? アレは露伴先生の暴走で、依頼があったっぽかったですけど。

 仕事なら請け負いますよ」

 

 気を取り直して、俺から話を振る。向こうは話し出しにくそうだったが、俺の方は大分落ち着いたため、仕事モードで対応できるくらいの余裕ができていた。

 俺から話を振ると、精神的にはどうかはともかく、大人に分類される露伴先生が返事を返してきた。まあさっきの俺にとって都合の悪い事情だけ『忘れた』からな。

 

 

「ああ! そうだった。君の『相談所』、幽霊を呼び出すなんて謳っているんだろう。何人か呼び出してほしい。もしかすると()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「? 行方不明者の捜索か何かですか…」

 

 

 …ああ、言ってて気づいた。『犯人探し』をする気か、彼ら。

 

 俺の能力は死人に口をつける。前にちょっとした出来心で、捜査が難航しているらしい事件で死んだ被害者を呼び出した。犯人が誰かとか、証拠はありそうだとか、警察に教えれば1発で解決しそうな情報をもらったことがある。その被害者は怒っていたために何でもかんでも話してくれたから俺も全容を把握できた。

 

 その時は、俺にどこぞの名探偵もいなかったし、警察に教えられるような信用もコネも持っていなかったために、俺が何かすることはなかったのだが。

 

 要するに俺が殺人事件の死者を呼べば、死者の分かる範囲での情報を得られるのだ。犯人の顔を見ていれば完璧だ。探偵の真似事ができる。

 

 

「実はそうなんです。他人ですけれど、皆この町の人たちです。藤堂先輩はこの町の行方不明者数をご存知ですか」

 

「正確な数は知らないけれど、他の町の7〜8倍とは聞いている。改めて考えるとかなり大きい数だな。全員が同じ事件に関わっていると考えているのか?」

 

「…全員かはわかりませんが、多くの数の被害者が行方不明者に数えられているはずなんです」

 

「リストはあるか? 顔と名前がわかれば一応呼べるが」

 

 

 リストならここに、と康一君が学校指定の鞄からクリップでまとめられた5、6枚のプリントを取り出す。そのまま受け取って目でなぞると、成る程たしかに、いつか新聞や地元のニュースで見たことのある顔が並んでいた。時折男性も混じっているが、ほとんどが女性のようだ。

 

 

「全員が関わりのある『被害者』なのか? 何故この人たちだと断定した」

 

「…あー、えーっとですねそれは…」

 

「『被害者の幽霊』にあったんだ。そこで『犯人』のことも行方不明者との関係も知ったし、魂が飛んでいくのを見ていたらしく被害者の擦り合わせはした。捕まらずにこの杜王町にいるとも」

 

「それは怖いな。…実に怖い」

 

「あとこれは個人的な依頼だが、この『杉本鈴美』という少女も呼び出してくれ。被害者の1人なんだが、こいつはぼくの知り合いでね。最近知ったくらいに昔の記憶だったが」

 

「……なら、この人から先にやりましょうか」

 

 

俺はここで『犯人』について聞いたことを全て知ることができた。これよりボロは出にくいと思う。というか全員確実に死んでるじゃないか。

 

 杉本鈴美とは、『幽霊』だ。彼女は『振り返ってはいけない小道』において存在し、生きている人間にも触ることも会話することもできる。

 

 本来ならこの世界では『幽霊』とは簡単に生者に干渉できないはずだが、彼女はごく普通の人間のように存在している。俺は生まれてからあの小道へ迷い込んだことはないから前世の知識しかない。『デッドマンズQ』では地上で魂のみで存在する幽霊は苦労すべき、といった『ルール』が存在したはずだ。

 

 彼女は魂の形が維持できない地縛霊のようでもないし、何より生者に干渉してくる。波長が合わない人間では声も聞けないようではあったが、とにかく普通の幽霊の定義に収まらない。

 

 俺の予想では、彼女は『屋敷幽霊の一部』という扱いではないかと思っている。幽霊屋敷ではない、『屋敷幽霊』だ。あの『小道』には彼女の自宅がある。恐らく殺されたのも部屋の中だし、強ち間違いではないと考えている。6部の描写で、あの中のものは生きた人間にも扱えていたからだ。

 

 

 そんなわけで、俺は「屋敷幽霊の魂を呼べ」と言われているようなものだ。向こうは初めて見た幽霊が彼女だから、判別がつかないだろうが。

 俺に呼び出せるだろうか。死んでいるから呼べはするが、どうなるかわからないから怖い。

 

「で、出来るのか? さっさとやってみてくれ」

 

 そういう露伴先生はごく真面目な顔をしているが、手にはスケッチブックとペンを準備している。取材する気満々らしい。俺が死人を呼び出せるのは知っているが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が気になるのだろう。

 

 まあ…俺もそういうのは完全に初見だから気になっている。

 

「すぐ呼びます。プリーズ・リメンバー」

 

 

 

 

 

 

 結果的に言うと、15歳程の少女は呼び出すことができた。しかし、やはりいつもとは違った。

 

 

「 」

 

「今、何か言ったか?」

 

「 ? !」

 

「…声が、聞こえない? でも億泰君のお兄さんの時は…」

 

「…いつもと違うな。心当たりはあるか?」

 

「…現世にいる『幽霊』だからな。自分のテリトリーから離れてしまったからこうなったんだろう」

 

「最初からそう言え。多分さっき言ってた人ですよね? 緊張したでしょうが」

 

 

 鈴美さんはと言うと、何故いつもと違う場所にいるのかわからないと言った風に焦っている。露伴先生や康一君に状況を聞くために話しかけたのに声が伝わっていないことがわかって、少しパニックを起こしているらしい。

 

 

「落ち着いて、鈴美さん。今は勝手が違うけれど、ここは杜王町だから。あとで小道へ説明に行くよ」

 

「 」

 

 

 康一君が冷静に説明すると、鈴美さんはコクン、と頷く。ここに居させ続けるのは負担が大きいだろうと、とりあえず今は戻ってもらった。話をつけるための能力なのに、幽霊でいるより話ができないなんて無意味にもほどがあるからな。

 

 

「俺も勉強になったよ。幽霊を呼び出すと話すら出来なくなるんだな」

 

「…そうか。まああそこに行けばいつでも会えるしな」

 

 なんだろう、何かしたいことでもあったのかな。何故か残念そうだ。まあ露伴先生の考えることはよく分からないし、一生知ることはないだろう。

 

「じゃあ、こっちのリストから1人ずつ呼んでいきますね。一応確認ですけどこのリストの中にスタンド使いはいませんよね?」

 

「え? ああ、ぼくたちが調べた限りではいないと思います」

 

「じゃあまとめて何人か呼ぶか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は何度も驚く日だ。2回目だぞ。映像にしてショッキングなのは間違いなくこちらだが。怒ったり驚いたり、今日は忙しい日だ。またいろいろ能力について検証しなければならないかもしれない。

 

 他の2人も言葉を無くしている。それで済むなら不幸中の幸いかもしれない。こんなものみたら最悪吐いたっていいくらいだ。俺でも絶句したのだから。

 

 

 

「アアウ…」

 

「ヴア…グゥゥ…」

 

「アガギギィ」

 

 

「なんだ…これ…」

 

 

 手始めに呼び出したのは3人。辛うじて全て人間の形は保っているが、肌の至る所にびっしりと裂傷のような傷が走っている。服で見えない部分も酷い有様だろう。場所によっては血を吹き出し、床を赤色で汚している。喉というか臓器や器官なども全て傷ついているらしく、まともな声も出せず、動くこともできないようだ。

 

 それなのに俺にフィードバックはない。つまり()()()()()()()()()()という事だ。呼び出した彼らは名前と顔と、「誰かに殺された事実がある」という情報のみでここにいる。それほど死ぬ瞬間が凄惨だったのだろうか。むごいことを。

 

 康一君は耐えきれなかったようで、一度立ち上がったソファではなく、床にへたり込んだ。その拍子に血にでも触れたらしい。しかもその血は沸騰した湯のように熱かったようで…。

 

 

「うわあっ…熱っ!?」

 

「何だ、この傷は…切り傷じゃあない。高所から落ちたり、首を絞められたわけでもない。…引き裂かれたような…これは…ッ!」

 

「スタンド使いの仕業でしょうね」

 

「…!! スタンドだって!?」

 

「細かい能力はわかりませんが多分、爆発させる能力です。でもこの辺で爆発音なんて聞こえやしない。もし音もなく、死体も残さず爆死させられるとしたら…」

 

「…スタンド使い以外には有り得ないね、間違いなく」

 

「それに、こんなに損傷している状態で呼んでしまったのは初めてです。今までこんなことなかった」

 

「…じゃ、じゃあ承太郎さんたちに言えば、動いてもらえる…! スタンド使いが関わっていることがはっきりわかったんだから!」

 

「そうだね。はやく伝えておいで」

 

 

 康一君は腰が抜けていたというのに何とか玄関まで辿り着いたと思うと、すぐに靴を履いて走っていってしまった。本来より早く調査に着手できるなら、また違った()()になるかもしれないな。犠牲は少ない方がいい。

 

 俺は既に呼び出した彼らを消している。滴り落ちた血も無くなっている。見た目もグロッキーで可哀想だし、スタンドとはいえちょっと掃除しなきゃダメかなとか頭によぎるくらいの出血だったから少しだけビビっていた。

 

 

 

 それにしても、まさか()()()()状態とは。魂が破壊されて天に昇るような描写があったことを覚えていたが、呼び出してもなお破壊された状態で顕現するとは予想していなかった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もちろん俺は知っている。だが本来俺が知らないことだから、誰かに言うわけにはいかない。さっさと被害者から情報を引き出せたなら第4部完! だったのに。

 

 確か『犯人』は死に行く相手に名乗っていた…はずだ。ただのイメージだったか、今はもう判別がつかないが、きっと被害者たちは知っている。名前か、顔か、どちらかでも。なのに、生きている人間に伝える術を奪われていた。

 

 悔しい。こんな大事な時に俺の能力が使えない、役に立たないことが。『犯人』がスタンド使いだということは、遅かれ早かれわかることだ。俺はちょっと早めただけ。俺すらも『運命の奴隷』とでもいうつもりだろうか。

 

 やっぱちょっと腹立ってきた。吉良には何かしら報復したいと思う。帰って作戦でも練るか。

 

 

「では露伴先生、お邪魔しました。町に関わることなので、今回はお代はタダにしておきましょう」

 

「ぼくに貸しでも作らせたつもりか?」

 

「いいえ、これは町に関わる重要な案件ですからね。金がどうとか言ってられないなって思ってるだけです。それに…」

 

「それに?」

 

「俺は死んだ後くらい嫌な思いをして欲しくないんですよ。どう死んだとしても、どんなに嫌いな奴でも、穏やかであってほしい。俺が呼び出した時には、優しい時間を過ごしてほしい。…まあ、出来る限りですけど」

 

 

 戦闘や俺の好奇心などで呼び出すことはよくある。悪いとは思うが、その度に一緒に美味しいもの食べに言ったりとか遊びに行ったりとか、サービスをお礼として返すようにしている。

 生前出来なかったこととか、やり残したことが見えてしまうからそう思えてくる。どんどん死者に入れ込んでしまうのだ。

 

 

「それなのに、『犯人』に殺された奴らには安寧がない。呼び出してあれなのだから、天国なり地獄なりあの世にあっても、生まれ変わっていても、魂が破壊されたままなのでしょう。それが死ぬほど許せない」

 

 

 そう言い残して俺は露伴邸を後にした。

 

 

「…いまいちわかりにくいキャラクターだな、藤堂一茶」

 

 

 馬鹿な、俺より単純なわかりやすい人間は億泰くらいだぞ。あちらは本質や痛いところをついていく勘があるけど。

 

 





露伴先生が忘れた記憶は、「本」の内容と「主人公が前世を信じている点」くらいですかね。前世の話自体を馬鹿にしてブチギレキチを生み出したことは覚えてます。

爆破された魂はこういう形になりました。SPW財団を早い段階で捜査に協力させられたのは大きいかもしれない。(主人公は直接はち会いたくないけど)

1、2話は別の話挟んでから、吉良その1かなあ。
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