本編の進捗については聞かないでください。
10月31日。
ハロウィンというイベントが実は前夜祭であると知っている人はなかなか少ない。特に総人口自体が激減した今となっては殊更にそれが顕著になっている。
さて、何が言いたいかと言うと……G&Kでも、元々のハロウィンがどんな祭典だったかなど知ったこっちゃねえと仮装大会が始まっていた。
老若男女人形人間問わずの仮装祭り──もはや誰が人形で誰が現地民なのか、性別が違ったりでもしない限りは判別がつかないレベルで混沌とした有様が広がっている。
そして、そんな喧騒を本社脇にある臨時拠点の窓から見下ろしながら、私は自身の頭を苛む頭痛に悩まされていた。
『リーダー。ヤバい、抜けなくなった』
「開幕早々何やってるのよ……」
目の前には、顔の形にくり抜かれたカボチャを被ったまま途方に暮れているアホが若干約一名。
どうやらこのアホ──MAGはジャック・オ・ランタンの仮装をしたらしいが、途中でこれだと個性が弱いと思ったらしい。そこで私は素の状態が一番個性強いんじゃないかと思ったが、本人のあってなきが如しな名誉のために黙っておいた。
そして、いの一番に被ったカボチャを脱ごうとして事態が判明したのだとか。
「そもそもなんでその仮装にしようと思ったのよ」
『少し前にカボチャ食ったから余った皮を有効活用したんだよ。ちょうどハロウィンの時期も近かったからな』
「ああもう、こういう時に限って変な行動力を!」
ちなみにだが、ハロウィンでよく見るオレンジ色のかぼちゃは本来食用ではなく観賞用。食べれないことは無いだろうがあらゆる方面において保障はできない。
もう微妙に考えるのが嫌になってきた私は、袖捲りをしながら座っていた椅子を立った。
「……もう面倒だから物理で解決してもいいわよね?」
『待て! 落ち着け! リーダーの馬鹿力でぶん殴られたらあたしの頭まで逝っちまう!?』
「誰が馬鹿力よ誰が」
『イデデデデデデ!? ちょっ、カボチャ越しにアイアンクローはやめっ、アッー!!?』
ギリギリとカボチャ頭に負荷をかける。いっその事このまままとめてかち割ってしまおうかとも思ったが、それをやるとメンテナンス部門から文句を言われるので既のところで思いとどまった。
『逝ったかと思ったぜ』
「本っ当に面倒ね……」
私がため息混じりに呟いたその時、ガチャりと臨時拠点の扉が開かれた。
そして、道化師の服装をした何者かが踊り狂いながら拠点へと入り込んでくる。
「真のネオカオス! 我が胸の内にハロウィンがほとばしる! 絢爛たるカボチャ細工達は道を狭しと駆け巡り魑魅魍魎の行列が生ける人を恐怖に誘う! 踊れ踊れよ愉快に踊れ、そうさ世界はファンタジィ!!」
「……また随分と楽しんでるわね、MGL?」
「あ、やっぱりわかります?」
私が話しかけると、道化師──MGLは顔に付けていたピエロのマスクを取る。今は特殊メイクか何かで誤魔化している様で、いつも付けている顔の半分を覆う仮面も外して整った素顔を晒していた。
「いやぁ、特殊メイク様々ですね! まさかまた仮面無しで外を出歩ける時が来ようとは!」
「……何回も聞くけど、別に直ったわけじゃないのよね?」
「そりゃまあ、16Labの太鼓判ですよ。これを直すとなるとフレーム諸共総とっかえになりますからね──そんなお金ありませんよ私」
「……一応G&Kの所属なんだし、頼めばどうにかなるんじゃないの?」
「曲がりなりにも前科持ちなんでその辺の保険が使えないんですよねー。あと
「私が悪かったわ」
「賢明な判断ですね」
よっ、と道化師の衣装を脱ぐMGL。一体外で何をしてきたのか、その下の下着しかつけていない体がほんのり上気して赤くなっていた。
そして、今度はスーツにネクタイと比較的かっちりした服装に着替えていく。果たして今度は何に仮装するつもりなのか。
「……で、MAGさ……MAGは一体何してるんですか?」
『お前そのいちいち敬称つけようとしてやめるのどうにかならねえの? 地味に心にくるんだけど』
「だったら自分の日頃の行いを鑑みてください」
『いやあたしなんも悪いことしてねえだろ!!』
「「即答(ですか)!?」」
驚いた、まさか自覚がなかったとは。あそこまでやらかしといてこれとは一周回っても生やすは清々しい。
私達が戦慄している時、またも臨時拠点の扉が開かれる。
今度は何事かとそちらを見ると……目を回した
私は頬がひきつるのを自覚しながら、面倒事が増えるのを承知で問いかける。
「……それは一体?」
『……、』
スッ、とナイフを逆手に構えるマイケル。同時に、どこからか非常に聞き覚えのあるピアノのフレーズが聞こえてきたのは気のせいであると信じたい。というか
「……“消えゆく灯”? それとも“傷ついた鏡”?」
『やたらといい匂いのする髪束。あとでっかい墓石』
非常に殺意を感じる組み合わせだった。そうまでして殺したい相手がいるのか。
XTRの殺意の行き先はさて置いて、私は彼女の担いでいるチャッキーに扮装したP90に目を向ける。
「で、そっちは一体どうしたのかしら」
『褐色赤毛の不審な女に追いかけ回されたそうだ』
「オーケイ、通報しておくわね」
サブマシンガンの戦術人形の中でも上位に入る足の速さを誇るP90を此処まで追いつめるあたり、非常に執念を感じた。一体何がその変質者をそこまで駆り立てたというのか。
とりあえず私は上司に報告することを心に決めた。
『……それで、コイツどうすればいいのよ』
『ああ、誰かと思えばMAGだったか。てっきり前衛的なインテリアか何かかと思ったぞ』
『誰がハロウィン限定家具だぶっ殺すぞ!! 何百枚コイン積まれたってそっちには顔見せねぇからな!!!』
『そこまでは言ってないし一体何の話だ!?』
突然トンチキなことを言い始めたMAGにXTRが当惑する。だが、私達はいつもの事としてスルーした。この程度で困惑しているようでは502小隊は務まらない。
さて、そろそろ真面目に解決策を考える必要がありそうだ。このままではこのバカ騒ぎが終わった後に面倒だし、いつまでもこの状態が続くとなると色々なものに支障をきたす。
そこで、私は考えた。これをハロウィンに乗じて解決する方策を。
──その時、私の電脳に閃光走る。
「……閃いた」
数分後。
「これで行くわよ」
『マジで言ってる? ねえそれマジで言ってる???』
臨時拠点の玄関前で、チャッキーとマイケル・マイヤーズ、ジョーカー、そしてゴーストフェイスが顔を突き合わせていた。内訳は前から順番にP90、XTR、MGL、私。
そして、肝心のMAGはというと地面に置かれた重量級のトロッコに雁字搦めに拘束されている。彼女の被った南瓜頭に縛り付けた縄の先端を私達が持つ格好だ。
『え、マジで? 何しようとしてるか大体想像はつくんだけどマジで?』
「大丈夫? 介錯する?」
『終いにゃはっ倒すぞドチビィ!』
『……哀れな』
『ガチで悲しんでるような口調やめろや! え、マジで!? 嘘だろ!?』
「……R.I.P」
『まだ死んでねえっつーの!
「準備は整ったわね? じゃあ逝くわよ」
『全然整ってねえわ! むしろこれで準備がどうとかねえだろ! あとなんか字が違う気がしたんだがマジで大丈夫なんだろうな──ッ!?』
有無を言わさず出発。
頭を引っ張られて悲鳴をあげるカボチャを搬送しながら道を歩く不審者の集まりを目にして、仮装軍団は速やかに私達の進行方向から退いていった。まあ残当ではあるのだが、なんか悲しい。
──その後、MAGの被ったカボチャ頭は5キロ程引きずり回したあたりでようやく外れた。
勢い余ってカボチャがXTRの後頭部に直撃したり、砕けたカボチャによって辺りが悲惨なことになったり、『毎年ハロウィンの時期が来るとカボチャ頭を生贄に捧げる儀式が行われる』という噂がまことしやかに囁かれる様になったりしたが……まあ、それは蛇足というものだろう。
ハロウィンが強盗の隠語だと思っていた時期がありました。
ほら、