ドールズディフェンスライン   作:りおんぬ

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Signal Red

「うーし、粗方片付いたか」

 

ガシャン、と音をたてながら、MAGはマシンガンを下ろす。あまりに長時間連射し続けた故か、その銃身は赤熱し、煙をたなびかせていた。銃だけでなく彼女本人の立ち姿も凄惨で、全身を余すことなく煤と返り血で汚していた。

しかしMAGは自分の姿など気にもとめず、手に持った愛用のマシンガンに対し目線を向ける。白煙を立ち上らせる愛銃の姿に顔を僅かにしかめ、

 

「あーあ、やりすぎた。こりゃ帰ったらオーバーホールだな……」

「あ、あの!」

「んあ?」

 

気の抜けた声を発しながら振り返るMAG。

そこには、自身に負けず劣らず血と煤に汚れた二人の少女。誰であろう、自身が先程まで守っていたVectorとUZIである。

しかしMAGはコテンと首を傾げると、

 

「……誰だ?」

「「ええ!?」」

 

まさかの発言に、二人は思わず叫んでしまう。

どうやらあまりに長い時間マシンガンを撃った──≒長い時間トリップしていた──結果、マシンガンを撃つ直前の記憶がトんでしまったらしい。マシンガンさえ撃てれば何でもいいのかコイツは。

しばらく首を捻っていたMAGは、ようやく得心が行ったとばかりに手を叩く。

 

「……む。 むむっ? ──あーあーあーあーあー! お前らかさっきの救援要請! そうかすっかり忘れてた!」

「思い出すの遅すぎません!?」

「いやー悪いな、マシンガン撃ってると記憶回路が埋め尽くされちまうんだわ。スローモーションとか俯瞰視点とか、とにかく色々マシンガン撃ってる光景で」

「どういう記憶回路してるんですか……」

「史上稀に見る純トリガーハッピーだね……」

 

平然と言い放たれたトンデモ発言に、二人は思わず嘆息。助けが来てくれたのは本当に嬉しいが、こんなイカレ人形に来て欲しくはなかった。

……ところで、乱射し始める直前に『リーダー』と無線に呼び掛けてた気がするのだが……。

ポン、とMAGの肩に手が置かれる。マシンガンの撃ちすぎでやや蕩け気味だった彼女の表情が一瞬にして凍りついた。

ぎぎぎぎぎ、とぎこちない動きで少女が振り返ると、そこには怖気が走るほどに()()()()を浮かべた黒軍服の少女が。

そして、全身から滝のように冷や汗を流す(ような感触を覚えている)MAGは一言、

 

「……てへぺろ?」

「ハイクを詠め! イヤーッ!!」

「アバーッ!?」

 

そしてその腹に突き刺さる怒りの鉄拳。哀れMAGは速やかに気絶昏倒。

そして黒軍服は崩れ落ちたMAGを脇に抱えると、突然の事態に困惑する二人に声をかけた。

 

「……こっちに拠点がある。ついて来て」

 

■ ■ ■

 

旧司令部、通称『ポイント0』、その一室──かつて『司令室』と呼ばれていた部屋。

そこで、502小隊と先ほど救助された二人組──偵察部隊γ("焼夷同好会")が対面していた。

 

「……で、どういうことなの? なんか見慣れない面子が増えてるけどさぁ……」

 

ジト目でそう零すのはP90。その背中には戦利品と思しき弾薬・部品類がぎっちり詰まったバックパックが背負われていた。

そして彼女の疑問はもっともなものだろう。敵を仕留めて帰ってきてみれば、なんか拠点に見知らぬ人形が二体。疑わないわけがない。

しかし、私もMAGもリアクションを返さない。返す余裕が無い。

怪訝に思ったP90はその片方に声をかけるが……

 

「ねえ、大丈夫? なんでそんな暗いの?」

「……実はな」

 

重苦しい口調でMAGが口を開く。

すわ鉄血との総力戦か──と身構えるが、

 

「マシンガン壊しちまった……直るまで当分の間撃てねぇ……」

「もういい分かった、キミに訊いたボクが馬鹿だったから黙れ」

 

うおおん、と嘆く馬鹿に対してP90が冷たいまなざしを向ける。

そして次に、私に視線を向けてきた。今まさに号泣しているマシンガンキチはともかく、大分悩んでいるのであとにして欲しい。

 

「リーダー。事態はE-D(過去形)、それともI-N-G(進行形)?」

「……言いづらいけど、I-N-G(進行形)ね。それもとびきり面倒なのが」

「マジかあ……」

 

空を仰ぐP90。天井に覆われていて空模様は伺えないが、きっと彼女の心象は哀しみの雨が降り出していることだろう。

しかし泣き言は言っていられない、502小隊のモットーはMAGに曰く『長期戦万歳ブラック上等』なのだ、ひとまず対策を打たなければならないだろう。

 

「……敵は? どんな奴? リーダーが面倒っていうくらいだからハイエンドは当然いるでしょ」

「ええ。これを見て頂戴」

 

ピッ、と手に持つリモコンを操作する。私の知る所ではなかったが、P90は毎度の如く疑問に思っていた。

 

(……どうやったら視線を向けている相手に(しかも自分と同じく熟練の戦争屋にだよ)欠片も気取られない動作ができるんだろう……?)

 

ほどなくして、低く唸るような駆動音と共に天井からスクリーンが下りてくる。おそらく旧司令部の備品だったものだが、施設ごと放棄されて久しいのにも関わらず問題なく動作していた。少なくとも私は整備した覚えはないけれど、どれだけ頑丈なのだろうか。

そして、これまた備品であるプロジェクターが起動する。

そこに映し出されたのは、本体下部にドラムマガジンを、本体上部にロングマガジンを取り付けた狂気の銃を振り回す黒い人形。その後ろには、無数の鉄血兵が控えていた。

それは。P90にとっては忘れられない、忘れるはずのない因縁の相手。

 

「鉄血工造のハイエンドモデル、コードネーム『侵入者(Intruder)』。これが、私たち502小隊が今回戦う相手よ」

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