倉庫に到着。
ろくに整備もしていないせいで半ば廃屋のような様相を呈しているが、少なくともまだ実用に耐えるレベルの耐久性は保持している。
私は倉庫には不釣り合いな程に重厚な扉に手をかけ、そのまま腕に思い切り力を込めた。
ギギギギギィ……と壮絶な音を立てながら、ゆっくりと倉庫の中に光が射し込んでいく。
「はあ……」
相変わらず固い。そろそろサビ取りなりなんなりした方がいいのだろうか。
というか、いっそ丸ごとリフォームすべきなのだろうか。幸い資材は譲渡分を加味しても十分にあるし、やるとすればいい頃合いだろう。
まあ、それは後回しだ。私は脇に放置してあるボックスから、工具を引っ張り出す。
「うわあ広い……っていうか本当にぎっちり詰まってる……」
「……大型建造何回できるかな」
「おっとVector、それ以上はいけねぇ。なぜならこの司令部において代用コアを使う作業は全部禁止されてるからな。リーダーの意向で」
倉庫の中を覗き込みながら話す
「? そうなんですか?」
「そ。だから大型建造も出来ないし、編成拡大も出来ない。まあリーダーの考えだからあたしらは従うだけなんだが、ぶっちゃけそろそろ火力不足になるんじゃ──イッテェ!?」
ガツン、としたりげに語るMAGの額に工具が直撃──ナイスショット、私が投げたヤツだ──し、たまらずひっくり返る。しかしそこは戦術人形のスペック、何事もなく起き上がってこちらに文句を言ってきた。
「編成拡大なんて許可出来るわけないでしょう。これ以上トリガーハッピーを増やしてもろくな事にならないのは目に見えてる」
「うっへえ辛辣。しかも実際その通りだから何も言えねえ」
苦い顔をするMAG。
その場にいる全員の脳裏を過ぎったのは、5人がかりでマシンガンを乱射しまくるMAGの姿。その表情は一様に、輝かしい笑顔で満ち満ちていた。
『やっちまえー!』
『ひゃっはー!』
『わははははっ!』
『撃て撃て撃てぇーっ!!』
『気持ちいいぜぇえええええっ!!』
…………。
地獄絵図としか表現のしようのない地獄絵図だった。こんな事になる可能性が容易に想像できる以上、編成拡大を許可する訳にはいかない。
かと言ってP90なら許可できるかといえば、これもノー。許可した暁には戦場・司令部問わずありとあらゆる彼女のテリトリーが煙幕に沈む。私達502小隊はともかく、他の戦術部隊に優しくない前後不覚の感覚的迷宮を作り出す訳には行かないのだ。
ならばリーダーの私ならいいかと言えば、当然それもない。部下が拡大なしで戦っているのに、どうして私だけが出来るものか。独断専行は上等だけれど、そこまで非情になった覚えはない。
だから結局、私達はよっぽどの事がない限りはダミーリンクなしで頑張る……つもりだ。
「MAG。はいこれ」
「おう……おう?」
さっき投げつけた工具とともに、『制作』用の工具を投げ渡す。P90にもだ。
そして、倉庫から鉄材と弾薬を大量に引っ張り出す。うん、これだけあれば足りるだろう。
それらを手に取って渋々ながらも加工し始めたMAGに、恐る恐るといった調子でその光景を眺めていた二人が問いかけてきた。
「……何が始まるんです?」
「大惨事大戦だ」
接合、溶接、固定、分解、点検。
そのプロセスを何度も繰り返し、日の落ちる頃に漸く
「──出来た」
額の汗を拭う。
目の前に積み上がるのは、大量の焼夷系トラップと戦略兵器の数々。
不味い、笑みが止まらない。こんな数の罠を作ったのは久しぶりだ──これで、これでこれでこれで!!
「これだけあれば、ヤツらを殲滅できるはず……うふ、うふふふふふ」
「ヘイそこのプロゲリラ、怖ぇ顔して悦にひたってる所悪いけどよ──」
MAGが自分の背後をくいっと親指で指し示す。
そこには、榴弾、閃光手榴弾、発煙手榴弾……とにかくありとあらゆる爆発系アイテムが山となっていた。これを全部使って罠を作れば一体どれだけの──あっ、ヤバい濡れる。
「これどうやってアイツらの所まで運んで『設置』する──って聞こえてねぇな、完全にトリップしてやがる」
「MAGさん……あの人大丈夫なんでしょうか」
「ん? ──ああ、大丈夫だ。あたしが火力キチでP90が煙幕キチ、じゃあリーダーは? 答えはご覧の通り、末期の罠キチって訳だからな。あれもただの発作だ」
「発作!? っていうかフリークしか居ないんですかこの小隊は……ッ!?」
「逆接、むしろ周りが擁護できないレベルのフリークだからこそここに居るんだよなあ。どうよVector、お前もあたしらと同じ香りがするんだが、良ければウチに来ねぇか? 今なら焼夷手榴弾投げ放題だぞ?」
「サラッとウチの部隊員を勧誘しないでくれる!?」
「……迷う」
「Vectorも迷わないで!? お願いだからNoって言って!?」
後ろで何かが騒いでいるが、そんな事はもうどうでもいい。
──仕掛けたい。ただひたすらに、誰にも邪魔されること無くこのうず高く山と積まれた手榴弾たちをブービートラップにして陣地に張り巡らしてしまいたい!
無意識の内に右手が手榴弾へと伸ばされていく。
しかし、すんでの所で私の理性が好奇心を上回った。
バッ! と私の左手が蠢き、今まさに手榴弾を手に取ろうとしていた右腕を引っ掴む。
「くうっ……静まれ私の右腕……!」
「リーダー、急に厨二病みたいな事言ってどうし──ああ、発作ね。ていっ」
「あいたぁ!?」
P90が私の後頭部を空のマガジンで殴りつける。痛い!
だけど、お陰でようやく冷静になれた。
とにかく、私は努めて上気した顔を冷ますようにしながら、指揮下及び共闘状態にある全員の方向へと向き直った。
そして、とびきりの笑顔を浮かべて言う。
「さあ、始めましょう。これで、あのにっくき鉄血兵共を皆殺すわよ」
UZI「あの、ところでMAGさん」
MAG「どした?」
UZI「……あの鉄血兵は一体……?」
パチ公『ワン』
MAG「ああ、あれか? ウチのペットだ」
UZI「飼い慣らしてる!?」