作者は特にチョコをもらう予定はありませんが、特にありませんが(強調)、マクドナルドの三角チョコパイを食べました。おいしかったです(小並感)
Doll's Valentine
ある日の事。
「……バレンタイン? なんだそりゃ」
「ジャパニーズの行事らしいわよ。なんでも、意中の相手にチョコレートを贈るとか」
「なんだそりゃ……」
旧司令部にて。
MAGが呆れたような声を発した──いや、恐らく実際呆れているのだろう。実際、私も同じ気分だ。
バレンタインデー。なんでも昔いた聖人とやらの名前を冠している行事らしいが、バレンタイン氏はそんなおかしな名前をつけられて嫌だったりはしなかったのだろうか。
で、その古きよきキラキラネームの話はさておいて、なぜ私がそんなことを言い出したかと言うと。
「なんでも
「言いたいことは分からんでもないが、まず
言われてみればそうだ。
502小隊はヘリアントスの(一応の)指揮下にある独立遊撃部隊。まあ滅多に指令も来ないので好きにやらせてもらっているが、本来ならこんなイベントの通知は来ないはずなのだが……。
「ヘリアンから連絡が来たのよ。なんでも、『今日くらいは大人しくしといてくれ』らしいわ。そう言われると騒ぎたくなるものだけれど」
「確かに。じゃあちょっくらマシンガン撃ってくるわ」
「待て。行くな。座れ」
「急にドスの効いた声出すんじゃねえよ……」
よっこらせ、と椅子に座り直すMAG。その横では、P90がソファで丸まって熟睡していた。どうやら昨夜はお楽しみだったようだ。
「で、あたしを呼び止めてまで今度は何の用だ? 言っとくが、バレンタインなんぞに興味はねぇからな。チョコレート贈るくらいだったら弾丸ブチ込んでやるっつーの」
「なんで相手に贈る事前提なのよ……。そうじゃなくて、はいこれ」
私は簡素なラッピングが施された箱をMAGに押し付ける。
彼女は二、三度瞬きをし、手に持ったそれに視線を落とした。
そして私の方を見て、
「……電脳のメンテだったらあたしには出来ねぇぞ?」
「はっ倒すわよ。見ればわかるでしょ、ハッピー・バレンタインよ」
「はぁー……マジか。マジでか」
手元の箱をまじまじと見つめるMAG。少し気恥ずかしい。
そして、何かを思い至ったかのように顔を上げた。
「っ、そうか。ちっと待ってろリーダー!」
「は?」
「なぁにすぐに済む、少しばかり座ってな!」
そう言って、慌ただしく司令室から出ていってしまった。
突然の事態に状況がつかめない私。
首を傾げながらその場で停止していると、開け放たれたドアからMGLが入ってきた。
どうやら先の光景をばっちりと目撃していたらしく、困惑しながらソファに座り込む。P90が踏みつぶされて「むぎゅっ」と声を上げたが、よっぽど動揺しているのかそれに気付いた様子はない。
「……見てない見てない、ワタクシ何も見てませんの事よ? ええもう本当、リーダーがMAGにチョコをあげたなんて、そんなまさか」
「しっかり見てるじゃないの」
「うぐっ」
「……そんなに意外だったかしら?」
「まあ、そりゃあ。私はこれでも人を見る目には自信がありますけど、これは流石に予想外でしたね。いやぁ、リーダーにそんな乙女な一面があったとは」
「乙女で悪かったわね。じゃあ、貴方にも──ハッピーバレンタイン」
隠し持っていた箱を押し付ける。
MGLもまたきょとんとした顔でそれを受け取り、見つめて意味を理解したのか、ボンッ! と顔を真っ赤に染め上げた。
「わっ、わわわワタクシに? 僕に俺に私に拙者に──チョコレイト!!!?」
「ええ。で、それが何か問題?」
「あわ、あわわわわわ」
右往左往するMGL。私がチョコをあげることがそんなに意外なのだろうか。そして、恥ずかしさが最高潮に達したのだろうか──「御禁制ですーーっ!!」と叫びながら部屋を飛び出して行ってしまった。
割と真剣に自身のイメージについて疑問に思い始めたその時、P90がのそりと起き上がる。
「っあー……よく寝た」
「ええ。昨夜はお楽しみだったわね?」
「そりゃもう楽しかったよ。煙幕ぶち撒けながら無双してたんだから」
「相変わらずで何よりだわ。それでだけど──」
「あー、ちょっと待って」
私が箱を取り出そうとすると、P90は片手でそれを制した。
そして、懐から怪しげな袋を取り出し、私にずいっと押し付ける。
「はいこれ」
「……?」
「今までのお礼。ま、言いたいことはいろいろあるけど後でそれ開けて確認してよ。それじゃ、ボクはちょっと出かけてくるから~」
「え? あっ、ちょっと……!!?」
それだけ言って、彼女はさっさと出て行ってしまった。あの様子ではまた鉄血を狩りにでも行くのだろうか。
残されたのは、何やら意味深な袋を渡されて呆然としている私だけ。
数分ほどそのままフリーズし続け、そこでようやく我に返った私は、いそいそと袋を開封した。
中に入っていたのは──
「……これって」
その中に入っていたのは、古ぼけた外骨格のパーツ。
これは見覚えがある。確か、私が彼女を保護した時に身に着けていたものだ。まさか、今の今まで捨てずに持っていたというのか。
そこで私は、その脇に折りたたまれた紙が入っているのに気付く。
それは、一枚の手紙だった。
『これを読んでるってことは、ボクはもう死んでいるじゃなくて。死んでない死んでない。とにかく、一緒に入ってたものが何かは分かってると思う。プレゼント、気に入ってくれたかな? ま、しがない感傷みたいなものだけどさ──これでも感謝はしてるんだよ。あの時、ボクを拾ってくれてありがとう。面と向かっては流石にこっぱずかしくて言えないけど、この体が動く限りはボクはリーダーの力になるとここに宣言しよう!
P.S. お礼は別にいいよ。バレンタインデーとか言ってるけど、ボク辛党なんだ』
……。
不覚にも少し不安に感じたりもしてしまったが、蓋を開けてみればどうだろうか。
どうやら、私はちゃんとリーダーとしてやれていっているらしい。
「よっすリーダー、待たせたな……っておい、どうした!?」
「泣いてる……ん、ですか?」
「……え?」
気が付くと、扉の前にはMAGとMGLの二人が立っていた。どうやら、見られてしまったらしい。
「っ、大丈夫よ」
「いや、そうは見えねえんだけどよ……ったく、まあリーダーがそういうんならそうでいいか」
「ええ、お願いするわ」
「そうかい。んじゃ、あたしからのお返しだ、受け取りな」
そう言って、MAGは私にやたらと大きな箱を渡してきた。
見た目に違わない重量だが、一体何を作ってきたのか。
箱を開けて中を見てみると……。
「……ナニコレ」
「見りゃ分かんだろ? あたしの分身、『FN MAG(1/10スケールフルチョコレート仕様)』だ。だいぶ急ピッチで仕上げたから、クオリティに関しちゃ何も突っ込まんでくれ」
「……いや、完璧な造形だと思うけど」
「わー、ちっちゃくてかわいらしいですね」
「えっ?」
「え?」
見てみれば、MGLは台車を引いていた。
そこに乗せられていたのは、戦術人形が一体丸々収まりそうなほどに大きなプレゼントボックス。
彼女がそれを開封すると、そこには驚愕の代物が収まっていた。
「……いや、どういうことなの?」
その中に収まっていたのは、私、MAG、P90、MGL……502小隊の姿を形作った、巨大な彫像だった。材料は100%チョコレートだが。
私とMAGが呆然としていると、作った張本人であるMGLは恥ずかしそうにしながら、
「いやぁははは……実は私、銅像の類を鋳造するのが趣味でして。
「……これを、全部ひとりで?」
「はい? はい」
「……信じらんねぇ」
……なんか言いたいことは色々あるが、まあそれは置いておこう。
私は無線機を手に取り、この中で唯一外回りに出ている仲間に話しかける。
「……P90」
『はーいリーダー。どったの?』
「喜びなさい、当分チョコレートには困らないわよ」
『あっ、やっぱりボクも食べさせられるのね……』
「当然」
『はあ……まあいいや。ハッピーバレンタイン』
「ええ。ハッピーバレンタインね」
すっかり日は沈み、濃霧に包まれた夜闇が辺りを包み込んでいる。
それでも、その日だけは──旧司令部の明かりは、夜遅くまで煌々と灯り続けたという。
・もし司令部に502小隊がいたら
バレンタインデーのチョコレートお返し編
110BA『502小隊のチョコフィギュア』
FN MAG『シルバー・バレッツ』
P90『古ぼけたX2外骨格』
MGL『一発きりの特別弾頭』