所変わって、此処はMAGとUMP9が激突していた階の一つ下──いわゆる『地下倉庫』にて。
彼女たちは仲間と同様に激戦を繰り広げていた。
「しっつこいなぁもう!」
「……邪魔……!」
現在、地下階層は過剰な量の煙幕によって極度の視界不良に陥っている──この事実だけで、ここで戦っている戦術人形が誰か大体の想像はつくだろう。
そう、『
それに対するは404小隊の腕利き狙撃手、G11。
眠たげに細められた目からこれまたハイライト皆無の瞳を覗かせながら、彼女は手に持つ銃を取り回す。
──発砲。
パリン! という甲高い音とともに、光源がまた一つ消失した。
それに伴って、煙幕のどこかから声が届く。
『あっ! くそっ、やりやがったなー! 資材だって無限じゃないんだぞ、ただでさえ蛍光灯は作るの面倒なのに!』
「……そんなこと知らないし……」
小太鼓を叩くような音とともに、5.7mm弾の雨がG11に襲いかかる。
しかし彼女は物陰に身を潜めてこれを回避し、返す刀で銃弾を叩き込んだ。
手応えはない。
まあ仕方ないだろう──G11はそう考え、煙幕の中をゆっくりと動き始めた。
それにしても、
『おーにさーんこっちら、手ーの鳴ーるほーうへー♪』
「……、」
ウザい。ただひたすらにウザい。
煙の中からどこからともなく届いてくる煽りが、G11の額に静かに青筋を浮かばせる。
だが──
「──手の鳴る方へと言ったな、あれは嘘だ」
「ッ!!?」
背後から突然低い声が響く。
咄嗟に振り向き発砲するが、やはり視界は煙幕一色で何も見えない。
そして、
『あれは嘘だ──と言ったなそれも嘘だ! ダイナミック・ハンマーッ!!』
今度は正面からの一撃。
あろう事か、持ち手に『100t』と印のされたハンマーが複数すっ飛んできた。こんなものを喰らえば戦術人形だとしてもただでは済まないだろう。
横っ飛びに回避するが、その脇でとんでもない轟音が響いた。見れば、表記に偽りなし──重力によって落下したいくつものハンマーが、それぞれ床にクモの巣状のヒビを走らせている。
唐突に訪れるシンプルな命の危機。なんという事だ、ここで死んだら指揮官と同じ布団でにゃんにゃん出来ないではないか──その思考が、G11の眠気を遥か彼方へ追いやった。
カッ!! とその双眸が見開かれ、ハイライト不在&瞳孔全開の瞳があらわになる。
「邪魔……邪魔、邪魔、邪魔!!」
乱射。
目に付いた怪しい場所へと手当たり次第に発砲する。ただでさえ弾痕まみれだった地下改装がより一層ズタボロになっていく。
そんな修羅場の中、P90が何をしているのかと言うと……。
(うわぁー……これは後が面倒そうだな……)
乱射しながら進軍する彼女の背後に悠々とついて行っていた。吐息が届きそうな距離にいるのにどうしてバレないのだろうか。
答えは簡単──煙幕の視界不良に加えて、彼女は隠密行動に特化した装備をしているのだ。某戦争屋式TRPGでいえば隠秘ガン振りである。
ゆっくりと歩くG11の後ろをついていきながら、P90は時折発煙手榴弾を放り投げる。
新型発煙弾『ミラーハウス』──通常の煙幕に加えてチャフと特殊フレアを複合した、お手軽妨害兵装だ。
チャフによって特殊フレアによる熱と非可視光線を乱反射させるため、煙幕の範囲内において既存の照準器はほぼ全てが使用不可能となる。使えるのはせいぜいがアイアンサイト程度だが、しかしそれも煙幕の存在によって妨害されるのだ。
ハンドメイド品なのもあって、一個単価は通常の発煙手榴弾の三倍近くにも上るが……しかし、妨害という面においてこれ以上ないカードである。
そんなわけで、彼女たちは互いに目視で相手を探すしかなくなり──先に相手を見つけたP90が、こうして相手をおちょくりつつも妨害を継続している訳だ。
「へーい! こっちこっちー!」
「!!」
発砲。
しかし放たれた銃弾はあらぬ方向へと飛んでいき、旧司令部の備品を一つ破壊した。
それは、部品の大半を喪失しながらも、歪んだ声でこう話し続ける。
『ヘ-イ! コッチコッチ-!』
「……スピーカー……?」
そう、それこそがP90の打ち出した対策──その名も『全包囲スピーカー』。名前が安直? 大変結構、わかりやすくていいではないか。
これは、404小隊の相手をするにあたってP90が
という理にかなってるんだかかなってないんだか分かりゃしない思考によって生み出された奇策だ。
現在、地下階層には破壊された分を除外しても二桁個数のスピーカーが待機している。
それをフル活用すれば、
『どこ狙ってんのー! こっちだってば!』
『バーカこっちだよ!』
『ヘイヘーイピッチャービビってるー!』
『こっちだと言ったなあれは嘘だ!』
『と言ったなそれも嘘だ!』
『粉バナナ!』
『パパパパウワー(ドドン!』
──このような地獄を生み出すことすら容易い。
あちこちから聞こえだした標的の声に、G11は焦った表情で辺りを見回す。
「なんだよ……なんなんだよ、お前ら! 指揮官と私の邪魔なんだよ、とっとと顔だして殺されろよ!!」
『顔出せだって!』
『きゃー! 週刊誌にスキャンダルぶち抜かれるかも!』
『どうする?』
『どうしよう?』
『出しちゃう?』
『出しちゃおっか?』
『じゃあ、お言葉に甘えて!』
「──やあ」
「えっ──?」
振り向くと、そこにはスタンロッドを振りかぶったP90の姿。
G11が発砲するよりも早く、首筋目がけてそれが振り下ろされた。
そして、
「ぁばばばっばばばバンドウエイジィ……!?」
不思議な悲鳴とともに、少女の矮躯が崩れ落ちる。
その様子を見ながら、P90はスタンロッドを振り下ろした体勢のままでため息をついた。
「……はあ。全く、ぜーんぜん隙見せないでやんの。何とか虚は突けたけど……不殺とか面倒な制約なければ背後とってズドンで一瞬だったんだけどなー」
そして、G11を縛ろうとして、手元に縄がないことに気づく。というか、あったらさすがに用意周到がすぎる。
しかし。
縄を探し始めた彼女の背後で、ゆらりと立ち上がる暗い影。
それに気付いたP90は、驚きで目を見開いた。
「──アハハ。なーんて、言うと思った?」
「……わお」
G11は狂気的な笑みを浮かべながら、その双眸でP90の姿をしっかりと捉える。
しかしハイライトは相変わらず不在、瞳孔全開。おまけに先程の電撃のダメージもまだ残っているようで、ピントもあっていない。それによって余計に恐怖度が増している。
「この程度──想定の範囲内だよッ!! アハッ、ハハハ! ヒャハァア!!」
「だーめだこれ、ショックで完全にトンじゃった」
諦念の篭もった声でそう嘯きながら、P90は己の半身である銃を構える。
こうなってしまっては、もう加減は出来ないだろう。向こうが殺す気で突っ込んでくる以上はこちらも殺す気で行くしかない。
「──邪魔をするな、理不尽に死ね──!!」
「かかってこい、この拗らせ恋愛狂──!」
──第二ラウンド、開始。
502小隊隊員の装備スロット
・110BA
『アタッチメント』
『アタッチメント』
『人形装備』
・MAG
『弾倉』
『人形装備』(※外骨格装備可)
『人形装備』(※外骨格装備可)
・P90
『アタッチメント』
『人形装備』
『人形装備』
・MGL
『弾倉』
『弾倉』
『アタッチメント』