ドールズディフェンスライン   作:りおんぬ

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真のネオカオス……


502 Got Their Days(後)

自信満々に異世界交流を宣言してからわずか30分。

珍しいことに『CLOSED』の看板を掲げた『喫茶鉄血』の店内は、見たことの無い新手の地獄と化していた。

 

「おっしゃいくぞー!」

「かかって来いぜ真正面から不意打ったるわァ!!」

「「はい最初はグーッ!!」」

「ハハハッ、アーッハッハッハッハッ!!」

「さて、お次は『リングリングゲーム』のお時間ですッ!!」

「楽しいわ楽しいね楽しいよ!! ああワタシ様の胸の中でビューティーが迸る!」

「『合唱コンで大地讃頌、ただしクラス全員宇宙人』みたいなっ!」

「ハッ! エイリアンかお前!」

「っつーかなんでこここんな暑いんだよ! 熱帯か? それともジャングルなのかコラー!」

「オッケーじゃー私熱帯魚!」

「「ハハハハハ!」」

 

G&Kも鉄血もそれ以外もお構いなしで、呑めや歌えやどんちゃん騒ぎ。

いつの間にか特に関係のなさそうなメンツも乱痴気騒ぎに加わって、場はもう制御不能の混沌に陥っていた。

そんな中、私はカウンターで一人くつろいでいた……というより、頭の中がしっちゃかめっちゃかでそれどころじゃない。

 

「……頭が痛い」

 

並行世界論、発生していない国家間戦争、存在しない病『E.L.I.D』、旧国家群の延長線上の装備の正規軍、人類と共存している鉄血人形、17Lab、ハイエンドモデルが恋人の戦術人形、etc……。

今まで生きていた世界との食い違いが、私の電脳を強く苛む。

カウンターにうずくまってうんうん唸る私の目の前に、横からグラスが滑り込んできた。

 

「あちらのお客様からです」

 

エージェントの声に横を見ると、そこにはしたり顔でこちらを見るアルケミスト。

彼女は私の隣の席に座り直すと、友人に話しかけるようなノリでこちらに声をかけてきた。

 

「よお。あんまり気負うモンじゃないぞ? 割り切れば楽になれる」

「そんなあっさり出来たら苦労しないわよ……」

 

アルケミストはそういうと、私の目の前で止まったグラスを手に取り、中身を一息に飲み干した。

……いや、お前が飲むんかい。

カン、と空になったグラスの底でカウンターを叩き、彼女は言う。

 

「ま、確かに言うほど簡単じゃないよな。私だってエージェントがちんまくなったって時は耳を疑った後に大爆笑したもんだ」

「ちょっとなにいってるかわからないかなぁ……」

「まあ、だろうな」

 

彼女はそう言うと、急に私の頭を持って自分の方へ向けさせた。え、なに? なに??

そして。

──ちゅっ。

 

「──?」

 

気が付くと、私の顔のすぐ前にアルケミストの顔。そして、唇の触れる柔らかい感覚。

えっ、えっ。こ、これってももももしかしなくても、き、キス──

 

「──? ──!? ──!?!?!?」

 

じたばたと暴れるが、ハイエンドモデル特有なのかなんなのか分からない化け物じみた膂力でガッチリとホールドされているため、逃げようにも逃げられない。ってうわちょっと待っておい馬鹿やめろ舌は流石に──ッ!!?

 

「──ッ! ────!!!」

「んっ……」

 

そして、さんざん私の口の中を蹂躙して、アルケミストはようやく口を離した。

 

「──くっふふ、ご馳走様?」

「──、……」

 

なんかもう、もうだった。

正直何も言えない。さっきから電脳がハラスメント警告だとか思考回路に尋常じゃない数のエラーが出現したとか騒ぎ立ててるけど、なんかもうそんなのどうでもいい。

とりあえず、目の前でしたり顔をしているコイツをどうしてくれようか。

 

「……エージェント。ここで一番強い酒って何かしら」

「はい? ──ああ、誰も飲まないので半ば死蔵状態のテキーラが何本か」

「もうこの際それでいいわ、一本くれるかしら」

「はあ」

 

コトン、とカウンターの上に特徴的な形の瓶が置かれる。

私はそれを手に取り、蓋を開け──中身を全て、一息に飲み干す。

カァ、と体が熱くなり、途端に世界がぐにゃり歪んでぐるぐる回り始めた。

 

「──ぷはぁ」

「お、おい……?」

 

そして、席を立ち、アルケミストの両肩を掴む。

外野が何やら騒ぎ立てているが、そんな雑音はもはや私の耳には届かない。

 

「お、おい待て分かった私が悪かったちょっとやめ──!!?」

「──お覚悟」

 

そして。

おぼつかない足取りで、私はアルケミストに襲いかかった。

力任せに押し倒し、くんずほぐれつ大乱闘。

 

「よっしゃやっちまえリーダーッ!」

「負けるなよアルケミストぉ!」

「そこだ、右! ワンツー叩き込めぇーい!」

「カウンターだぁ! 容赦なくシバキ倒せーっ!!」

 

そして、その脇でP90が粛々と荒れた店内を掃除していた。

 

「……ゴメンね、ウチの仲間(バカ共)が」

「……まあ、トラブルメーカー二人が同席してる時点である程度は覚悟してました」

「……面倒な仲間を持つと辛いね」

「そうですね……」

 

遠い目でため息をつく二人。

そんなボクらを置き去りに、舞台は進行していく。

この今日限りの喜劇(グランギニョル)は、真夜中に突然訪れたイントゥルーダーが大騒ぎしている全員を(特に502小隊を重点的に)シバき倒すまで続くのであった~。

……なーんてね?

 


 

翌朝。

銃火器の点検が終わったため、私達は人形義体のフルメンテナンスをされていた。MAGのメンテナンスを担当していた研究員が一人オープンボルト教団に入信したり、P90の記憶領域を覗いた研究員が発狂したりとまあ色々あったが、全体的に見れば恙無く完了したと言えるだろう。

 

「いや最後に関しては何があったんだ……」

「MAG。世の中には知っていい事と悪いことがあるんだよ? ちなみにボクの頭の中はバリバリの後者だ」

「マジでどんな経歴持ってんだテメェは!?」

「はい黙秘しまーす」

 

素知らぬ顔でそう嘯くP90。まあ、私達502小隊は実力のあるはぐれ者であれば誰でもウェルカムの窓際族だ。経歴に関しては一切考慮しないし、そういう過去があってもおかしくないだろう。詮索する気は微塵もないけど。

そして、私達は再び『喫茶鉄血』を訪れた。

 

「いらっしゃいませ──おや。本日はどのような用件で?」

「特には。……ま、今日で向こう側に戻るから、最後の顔出しね」

「それはそれは」

 

エージェントはこちらを見ることなく、設備の手入れをしていた。取り敢えず、店の奥の方で血走った目をしてエージェントをガン見している戦術人形については触れないでおこう。絶対ろくな事にならない。

 

「昨日はなかなか楽しめたわ。ありがとう」

「バルカンとか言うやつに会えなかったのは残念だけどな」

「まだ言うか」

「掃除楽しかったよー、じゃーねー」

「見かけないと思ったらそんな事を……」

「新しいグレネードのアイデアありがとうございましたー! 完成したらいくつか送り付けますー!」

「公共の場で危険すぎる密談が行われていた!?」

 

それだけ言って、私達は店を後にする。最後に見たのは、こちらへ向けて優雅に一礼するエージェント。

そして、我慢の限界を迎えたのかそこに襲いかかる変態(NTW-20)の姿だった。台無しだよ。

 

「さあ、帰りましょう。私達の不在防衛線(ふるさと)へ」

 

──S09地区を後にする。

相変わらず殺意しか感じないガッチガチの装備に、検問のお兄さんは悟ったような顔をしていた。

帰り道も、それはそれは平和だった。特に大過なく、私達は旧司令部へと帰還する……はずだったのだが。

 

「撃て撃て撃てぇええええっ!!」

「ヒャッハー久々のマシンガンだー! きもっちぃぃいいいいいッ!!」

「まさか帰り道で元の世界線に戻るとは予想外だったわ……ッ!!」

「ウィッヒッヒィ! 撃ちますよ? 撃ちました! 今こそワタシの出番です! さあするのです自らを解放、目に映る鉄血共を薙ぎ払え!!」

 

──どうやら、帰投するには少しばかり時間を食いそうだ。




えー、アルケミスト√が解放されましたがクロスオーバーなので没シュートです。
お疲れ様でした。という訳で次回から本編へ戻ります。

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