対戦車ライフル、無反動砲、艦砲……多種多様な砲がもたらすオーバーキルな砲声のハーモニーが、辺りに撒き散らされる。
──その様子を眺める、不気味な影が一つ。
鉄血兵……だろうか? 少なくとも、ワンサイドアップにされた髪の色や顔にかけている紫のバイザーからは、鉄血工造の自律人形であるDragoonが連想される。
彼女は、巨大な蛇型自立兵器とマシンガン持ちの戦術人形の戦闘風景を眺め──
その視線は最初から最後まで、ある一点に固定されていた。
「……あれは……」
『鉄血工造のハイエンドだろ? 俺は詳しいんだ』
『アイエエエ! テッケツ! テッケツナンデ!』
『しまった
『取り押さえろ! なんなら始末しちまえ!』
そこには彼女しかいない筈なのに、彼女の周囲からにぎやかな声が聞こえる。
老若男女問わず、十人十色で多種多様な声が──彼女の周りを囲んでいた。
彼女はそれに対して鬱陶しげな表情を浮かべると、
「頼むから少し黙れ……全く、忌々しいガラクタがこんなところまで紛れ込んでいたとはな」
そう──彼女の視線は徹頭徹尾、
その視線とそれに込められた感情を知ってか知らずか、姿なき声は軽佻浮薄な調子を崩そうともせずにこう嘯く。
『ま、仕方ねぇだろ、アイツらはアリとかハチとか、そういう虫の類みてぇなモンだからな。本丸を叩かない限りはポコジャガ湧き出てきやがる』
「アリ……ハチ……?」
彼女は首を傾げる。メモリやアーカイブの中を漁ってみるが、該当するモノは存在しなかった。
声は「んー?」と彼女のリアクションに対して疑問気な声を発し、その後に何かに気付いたようで、
『ああなるほど、お前さんは知らねぇのか。まあ、今となっちゃあその手の類の虫はほとんど絶滅しちまってるからな……』
『まあ、あったとしてもミュータントかビークル位ですよね。現代まで残ってる、そういう系の名前がついてるのって』
『ともあれ、だ。……どうやら、あのでっかい蛇はあのハイエンドモデルの支配下にあるっぽいな。あのハイエンド見てみろよ、ポケモンよろしく指示出しまくってやがる』
ポケモン……? と彼女は再び首を傾げた。
『そうかー知らないかー……。──ま、少なくともあのネグリジェロリがヘビ野郎の司令塔だってのは間違いねぇだろ。あのヘビ野郎もアイツをぶちのめしただけで止まるとは思えねぇが……ま、多少の隙をあのマシンガンっ子が突いてくれりゃあ万々歳だ』
「……12ゲージで狙撃でもしろと?」
『そういえばアナタってショットガンの戦術人形だったわね……』
手に持つショットガンに視線を落とす──その時、流れ弾の13mm弾が彼女の顔めがけてまっすぐに飛来してきた。
あわや大惨事か──と思われた、その時。
『ンッンー、甘い!』
ギャリッッ!! と甲高い音が響く。
いつの間にか、彼女の前には一枚のシールドが浮遊していた。どうやら接地面を斜めにして受け止めたらしく、その表面には銃弾によって削られた跡が一直線に残っている。
声は彼女に向けて、
『ふーん美味しい……! もう少し反応遅れてたらお前さんの頭スクラップになってたぜ。ホラホラ、なんか俺に言うことあるんじゃあないかい?』
などと言ってきた。
彼女はそれに対して短く一言、
「そうか、とっとと成仏しろ」
『辛辣すぎる訳だが!?』
『草』
『草』
『草ww』
『m9(^д^)』
『うっぜぇこいつらここぞとばかりに煽ってきやがる! あと草に草生やすなぶっ殺すぞ!!』
そんな声を引き連れて、彼女はその場を後にする。
彼女の立ち去った後には、受け流された銃弾の着弾した弾痕と──
──
【ギギギギギギギガガガガガガガガガッ!!!】
「ぬおぉおおおおおおおっ!!!???」
『キャン! キャイン! キャイァアアッ!!?』
咆哮。砲声。逃亡。
えー、現状を説明しようか。あたしは今、大量の砲弾に襲われて逃げ回っている。
いやいやいやこれはどう考えてもオーバーキルすぎんだろ!? こんなん喰らったら肉片一つ……ちょい訂正、ケーブル一本残らねぇぞ!?
「くっそ調子乗った! マジで調子乗った! とっととマシンガンでハチの巣にしときゃよかった!!」
『ワンワフワオン!(特別意訳:言っとる場合かーッ!)』
「やめっ、やめろパチ公! 悪かった! あたしが悪かったからさあ!」
べしべしとパチ公があたしの頬を叩く。痛い痛い、機銃の銃身で叩くんじゃねえ!
くっそそれにしてもこの状況はどう打開すりゃいいんだ!? リロードの隙を突くにしても装弾数がバラッバラなせいでタイミングも滅茶苦茶だし、っつーか基本単発の艦砲が混ざってる時点で無理だろ!
となると、狙い目は弾切れか……?
何にせよ、しばらくは走り続けたほうがよさそうだよなぁ!?
「Run! Run!! Run!!!」
【アァアアアアアア──!!!!】
咆哮と共に、狙いが修正されていく。
これデフォルトの移動速度じゃとっくの昔に逝ってるなあたし! リーダー謹製の外骨格装備しといてよかったわマジで!
「ったく、少しばかりノってくかぁ!?」
ギシィッ!! と外骨格のスプリングを大きく軋ませ、ヘビ野郎めがけてあたしは一直線に駆ける。
途中、対戦車ライフルの弾頭だとか艦砲の徹甲弾だとかがすっ飛んできてたが、まあ当たらなけりゃあ別段どうということはねぇ。かすっただけで逝けるけどな!
「ハリーハリーハリーッ!!」
迫りくる砲弾の悉くを躱し、ついにあたしはヘビ野郎の真下にまでたどり着いた。その過程で至近弾の衝撃波に煽られたパチ公が脱落しちまったが……まあ、アイツの事だしどうにかなるだろ。コラテラルダメージだ。
「捉えたぜェこの野郎!!」
ジョイントがイカれたせいで地面に突っ伏していた一本の首にへばりつく。
当然、残りの首は一斉にあたしの方へ向けて照準を合わせるが──かかったなアホがッ!
「緊急回避ィッ!!」
あたしがローリングでその場を離脱した直後、全開の火力を受けた首が跡形もなく消し飛んだ。微妙に心苦しい気がしないでもないが、どうせ中身はボフォースじゃなくてRPGだったし別にいいわ! 機関砲以外興味ねぇわ!
──とまあそんな所感はさておき、ここで誤算がひとつ。
あたしもうっかりしてたもんで、砲弾そのものを回避する計算はきっちりしっかりしてた訳だが……粉々になった首の破片をどうするかまでは全然考えてなかったわけだな。
んで、その結果。
ビシィッ!! とあたしの右半身に、破片がショットガンみてぇに直撃した。
下半身の方はほとんどが外骨格に弾かれたお陰でそこまででもなかったが、問題は上半身だ。
──簡潔に結果を言えば、右腕が逝った。
人工皮膚がほとんど削り取られて、なおかつ中身の電子部品が直撃くらってスパークしてやがる。こりゃあたしも修復必須だわ。幸い、マシンガンは左手に持ってたから無事だった。
さらに、直撃の勢いに引っ張られて、あたしはバランスを崩して派手に転倒。
「オイオイオイ死んだわあたし」
上下が逆になった視界の中で、ヘビ野郎がゆっくりあたしの方に照準を合わせていくのが分かる。
チッ、あたしはここで脱落かよ……全世界にマシンガン布教するまでは死なねえって、あれだけ豪語してたのにな。情けねぇ限りだ。
その時、あたしの脳裏を過ぎったのは──マシンガンではなく、在りし日の光景だった。
ボロボロだったあたしに向けて手を差し伸べる、一つの影。
そいつは──いや、
『──全く、世話が焼けるわね。貴方の終わりは此処じゃないって、あれだけ自分で言ってたじゃないの?』
──ああ、そういやそうだったな。
そうだよな……ここで諦めるなんざあたしらしくはねぇよなあ、
──そして。
とてつもない轟音が、耳朶を打った。
──その時、P90は1発の銃声を耳にした。
「えっ? ……えっ!!?」
音源を探すP90。敵の自律人形は全滅させたはずなのに、一体どこから聞こえてきたのかと。
──彼女は気付かない。リヤカーに設営されたテントに、小さな穴が空いていることに。
そして、110BAが昏睡したまま持っていた銃が──
『502 UX外骨格Type.MAG』
回避+25
命中+25
移動速度+3
110BAが開発した特殊外骨格。
義体の稼働を制限しないギリギリのラインを攻めた設計が為されており、使いこなせればスペックシート以上の性能をたたき出す。
MAGのそれはマシンガン突撃に適した移動特化型仕様になっている。