『撃って撃って撃ちまくれ!! ヒャッハーッ!!!』
「突然何なのよこれは……っ!!?」
戦場。
小銃片手に雄叫びをあげながら突っ込んでくる敵兵を撃ち抜きながら、私はブランクに苦言を呈した。これは一体何ごとなのかと。
だが、ブランクは光学銃を乱射しながらにべもない返事を返してきた。
『言ったろ、記憶の追体験だってな!! 此処は昔にテメェがいた場所、これは昔にテメェがした経験だ! ハハッ、それにしてもマジで強えぇなコイツ! この時に持ってりゃもっと楽が出来ただろうぜ!!』
「場所……経験……!?」
戸惑いが私の心を満たす。
どういう事だ、私は、私の記憶にはこんな戦場はない。だが、ブランクはこの戦場が私の記憶であるという。
……何がどうなっている?
私の知らない何かが私の中にあるとでも言うのか?
──その時、激しい頭痛が私を覆い、大量のノイズに満ちた光景が浮かび上がってきた。
そこは、一見して今私がいる場所と同じ場所に見える。向こうも戦闘中なのか、塹壕の中でブランクが泥まみれになりながら悪態をついていた。そんな彼の周りには、名前も知らない誰かの血肉と機械の残骸が所狭しと転がっている。
『おいおいおいおい! なんだこりゃ聞いてねぇぞゴラァ!!? ただの哨戒任務じゃねぇのか!? ええコラ!?』
『落ち着きなさい■■■! もうなんか後暗い点しかないって最初から分かってたでしょう! 騙して悪いがってアレよ!』
『俺別にイレギュラーでもなんでもないんだがー!? ……待てよ、つまり狙いは十中八九こいつなんだからいっそ生贄に捧げちまえば──』
『この場で二階級特進をお望み? 結構、実にいい事ね』
『待て! 分かった! 俺が悪かった! だから銃を下ろせ! 下ろしてくださいお願いします!』
『……チッ』
──舌打ちとともに、記憶映像の中の『私』が銃を下ろす。
その時、断末魔の叫びのようにも何かの機械の駆動音のようにも聞こえる金属音が響き渡った。
ブランクは慌てて手に持つ銃──光学銃とは大分見た目が違う。あれを手に入れる前に使っていたものだろうか──を構え、スコープを覗き込む。
そして、新手の姿を認識し、叫んだ。
『……なっ、なんぞ〜……!?』
『今度は何よ!』
『分かんねぇ! なんというか、死体に機械くっつけたみたいな感じの奴らが団体様でお越しだ!! っつーかあれもしかしなくともELIDだよな!? なに!? マジでどうなってんの!?』
それを聞いて、『私』は大慌てでスコープを覗き込み、その実態を目の当たりにした。
──元がどのような意匠だったかも判別できないほどボロボロの服。生気を感じさせない白濁した瞳。皮膚が硬質化し、ひび割れた四肢。肥大化した頭蓋骨。半開きの口から垂れる涎。
そして、その体を覆うようにして装備された、白塗りの大掛かりなパワードスーツ。
それを見た『私』は思わず銃を下ろしてポツリ、
『……What the hell?』
『言っとる場合かーッ!』
ブランクが半ギレで銃を構え、バレルに装着していたグレネードランチャーを発砲するところで、映像はブツリと途切れた。
そして、私はノイズのない、今まさに『私』ではない私がいる戦場を見る。
……いまさっき見た怪しげな兵隊(?)は一人もいない。居るのは小銃を持った歩兵やあちこちにサビや損傷が見える旧式の自立人形だけだ。
「……ブランク。今、私は非常に嫌な予感がしているわ」
『おっ、どうしたどうした。
「あの光景が私の知らない『私』が体験したことなのなら、きっとそうなるんでしょうね。つまり──来るわよ」
私がそう言った時、新たな敵が大挙して姿を現した。私はライフルのスコープを覗き込み、その実態を改めて認識する。
──元がどのような意匠だったかも判別できないほどボロボロの服。生気を感じさせない白濁した瞳。皮膚が硬質化し、ひび割れた四肢。肥大化した頭蓋骨。半開きの口から垂れる涎。
そして、その体を覆うようにして装備された、白塗りの大掛かりなパワードスーツ。
どれもこれもが、私の見た光景と一致している。
『ハッ、ようやくお出ましかメカエリチャンどもめ!!』
「メカエリチャン!?」
『そうだろ?
「……センスないわね」
『なにおう!?』
私達を認識したらしく、敵性体──仮称『メカエリチャン』の動きが早くなる。
背部ランドセルに搭載されたバーニアを吹かしながら猛接近するその姿をスコープに収めながら、私はトリガーに指をかけた。
──ELIDは規格外の膂力と耐久力を持った存在だ。それを外部からの力だけでコントロールするには、当然ながら相応以上の負荷をかける必要がある。
つまり。
「弱点はあのパワードスーツそのもの。それさえ無力化してしまえば、あとは向こうが勝手に制御を失って自滅する、そうでしょう?」
『ハッハァ、大正解だぜハニー』
「ぶっ飛ばすわよダーリン」
『当たりが強い!? しかもなんだかんだ言ってノリノリだなテメェ!』
「当然でしょう? 窮地な時ほど痛快に、よ」
『おっ、そうだな?』
互いに顔を見合わせ、笑う。
……未だに失った記憶とやらは戻ってきていないが、こうしていると不思議と落ち着くのだ。
そして、私は余裕を失わないまま、大群を成すメカエリチャン、もとい機械化ELIDへと銃口を向ける。
「抜きつけ、構え──行くわよ、ブランク!」
『おうよ! 俺が天下のブランク様だ、死にたい奴からかかって来いやぁ!!!』
「もう死んでるけれどね」
『確かに!』
リンクスの問いかけに対して、MAGが言う。
P90もその言葉に頷いて、
「まあ、降りかかるキノコの代金は……いや間違えた、やっぱいいや」
「どーしてそこで諦めんだテメェは。そんなんだからP90なんだぞ」
「人の名前を罵倒用語にしないでくれる? いくら温厚なことに定評のあるボクでもキレるよ?」
「短気の子だな」
「ねぇ、今からキレるよ? やかましい!」
「なら単キノコか」
「リーダーに無断で
「いや緑の方かよ」
「はい、分かったのでとっとと黙ってください。それともそんなに啓蒙高めたいんですか?」
「「アッスミマセン」」
いよいよ話があらぬ方向へと逸れ始めたため、MGLが諌める。完全なる無の表情で仮面に手をかけ、返答次第では精神的に殺す気満々だった。
ただならぬ威圧感と共に突きつけられた要求に、MAGとP90は反抗することなく素直に従った。そりゃそうだ、誰だって命は惜しい。
「……さて、そんじゃあ計画を説明するかね。っと、その前に」
パチン! と再びリンクスが指を鳴らす。
すると、彼女の背後で低い駆動音とともに天井からスクリーンが垂れてくる。
それが一番下まで届いた時、照明が自動でゆっくりと暗くなっていった。
そして、これまた天井から姿を現したプロジェクターが、セットされたスクリーンに光を浴びせる。
そこに映っていたのは……、
「……ヒゲオヤジ?」
「ヒゲオヤジだね」
「歴戦の勇士感がすごいですね」
「ヒゲオヤジ……鉄腕か?」
『そーらーをこーえてー、ラララほーしーのかーなたー』
『ゆくぞー、くるーうーがーあ、マッチョのかぎーぃりー』
『……私のことを10万馬力のロボットか何かかと思っているのかね?』
シワのよった眉間を揉みほぐしながら、スクリーンの向こうのヒゲオヤジが嘆息する。
『さて、早速だが本題に入ろう。私はベレゾヴィッチ・クルーガー。G&Kの最高責任者であり、彼女──リンクスとは依頼人と請負人の関係にある』
「オイオイ、そんな所でオブラートに包む必要なんざねぇだろ? 大人しくゲロっちまいな、
カラカラと笑いながらリンクスが言う。ヒゲオヤジ──クルーガーはその言葉に眉をひそめて嘆息し、
『……まあ、別段隠し立てする必要も無いか。その通り、私と彼女は今現在共犯関係にある。彼女には実務を、私は主に書類方面での外堀埋めを行っていた。まあ、バレてしまえば弾劾罷免は免れんだろうな』
「オレの方もちょっとヤバいかもな? もし何かの間違いでEN-17が潰れちまったら一大事だ、あの性癖性別捻転ヤローが会社という名の檻から解き放たれちまう」
(((性癖性別捻転ヤロー!!?)))
「いや、そういやもうこっちに向けて出発してたなアイツ。もう遠からず鉢合わせるな。ハハッ、ウケる」
あまりにも衝撃力の強すぎるパワーワードが突如として飛び出し、502小隊+αの面々が戦慄する。しかも、リンクスの目がマジだ。あれは嘘を言っている目ではない。
果たしてそれがどんな人物だというのか──それを知るのがお察しの通りそう遠い未来ではないということを、今の彼女たちは知る由もなかった。
さて、
『……では、具体的なプランの話をしよう。リンクス』
「あーいよっと、任せな」
リンクスが懐からファイルを取り出し、パラパラとページをめくる。ファイルの側面にはでかでかと『O&C』の文字が書かれていたが、深入りしたら絶対ろくなことにならないので四人は黙っていた。曲がりなりにも裏側に属する部門で『
「えーっと、どれどれ? あーでもないこーでもない、あれでもないこれでもない──あった、コイツだ」
ガサゴソとファイルの中を漁り続けること暫し、目的のものを見つけた様子のリンクスはファイルの中から冊子の形に綴じられた紙束を取り出した。
その表紙には、やたらとゴシックなフォントで『サルでもわかる働き方改革~ブラックからホワイトまで〜』という題が記されている。
「ったく、本家と違ってあんまり整理されてねぇのが難点だな……後で中身も1回チェックしとくか、っと」
「(……冊子にしてるんだったらファイル要らなくね?)」
「(しっ! 静かに! わかっててもそういうこと言うな!)」
「(あ、あははは……)」
「(O&C……確か旧合衆国で同名のファイルが厳重に保管されていたという話があったな)」
その様子を見ていた彼女達は思い思いの感想を抱く。
リンクスは用済みのファイルを閉じてから机に放り出し、ページをパラパラとめくり始める。
そして、どうやらお望みのページにたどり着いたらしく、「おっ、見つけた見つけた」と呟きながらそれを読み上げ始めた。
「えーと、それじゃあ手っ取り早く説明するぞテメェらー、聴覚センサの倍率最大にしてよく聞きやがれー」
「おーう」
「よっしゃー。じゃあ最初にだな……」
そして、リンクスは計画の概要を話し始めた。
最初こそ真面目な顔をして聞いていた一行だったが、すぐさま眉をひそめ、訝しげな表情を浮かべ、首をひねり、最後には呆れたような顔になる。
「……で、フィニッシュだ。上手く行きゃあ一週間とかからずにケリがつく」
「お前もしかしなくとも頭のいい馬鹿だな?」
「ンだとテメェゴラァ!!?」
簡潔に言おう。
──それは、最終的にMAGがかつてない程に真剣な顔つきでリンクスにツッコミを入れるレベルでぶっ飛んだ計画だった。
クルーガーもスクリーン越しに険しい表情を浮かべている。
『……まあ、どのみちもう後には退けない場所にまで来ているのだ。こうなったら多少無理のあるプランでも押していくしかない』
「それでいいのか責任者!!?」
一方その頃、G&K本社の位置する地区から少し外れたエリアにて。
ドルルン!! と爆音を響かせながら、大型のオフロードバイクにまたがって疾走する影が一つ。
長い白髪とマントを風に棚引かせ、オレンジ色の双眸は溢れる好奇心によって爛々と輝いている。
そして、腰の両脇にセットさっれたホルスターには、それぞれサブマシンガンが1丁ずつ収まっていた。
「はっは! 待っていたまえよリンクス、君の上司が今行くぞーっ!」
元気よく叫ぶと、彼女(?)はただでさえ開き気味だったアクセルを一気に全開にした。
ひときわ大きくエンジンが吠え、スピードが一気に上がっていく。
……さて、先ほど彼女(?)と表記したのには理由がある。
というのも──彼女、もといサブマシンガンの戦術人形たるAR-57は──元男なのだ。
「さあさご照覧あれ!! この私、EN-17現所長、アリアンロッド・アレサの珍道中をな!! 今度は何が待っているのかねぇ!? ふふっ、ふふははは、ファッハッハッハァ! 考えるだけでワクワクが止まらねェ!!!」
自分で珍道中と言い切ってしまうあたり、AR-57──アリアンロッドもまた、立派な狂人であった。
彼女(?)、もとい彼女は新天地を見つけた某コンキスタドールのような威圧感溢れる笑顔を浮かべ、より一層速度をあげて疾駆する。
──邂逅の時は近い。