ドールズディフェンスライン   作:りおんぬ

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今回は502から少し離れて、前に少しだけ出て来た『彼女たち』に焦点を当てましょう。


The Terror Stalks

――仮称不在防衛線(ドールズディフェンスライン)、その倒壊した旧司令部の付近にて。

ザッ、ザッ、ザッ……と、無数の足が綺麗にそろった歩調で砂を踏む音が響く。その情報だけで考えれば、ただの統率のとれた軍隊か何かだと誰もが捉えるだろう。

だが、その集団の真の異常性はそこではない。

――同じ顔なのだ。全く持って同じ顔が幾つも集まり、顔ごとに分かれて複数の集団となり、整然とした動きで銃を手に持ったまま侵攻を続けているのだ。

そして、その異常極まる集団のうちのいくつかを率いている女が、退屈な表情を浮かべながらこう言った。

 

「……ったく、いつになったら戦えるってんだ? そろそろ嫌気が差して来るぜ、退屈で仕方がねぇ。なぁ、テメェらもそう思うだろ?」

『エルフェルト=ヴァレンタイン、不適格の人形共を殲滅します』

「ああそうかい。テメェらは到着し次第好きに動け、俺はテメェらの動向には一切関知しねぇ」

『エルフェルト=ヴァレンタイン、不適格の人形共を殲滅します』

「……いや、他に何か言うことねぇのか?」

『エルフェルト=ヴァレンタイン、不適格の人形共を殲滅します』

「……マジでそれしか言わねぇんだな、テメェら……ったく、見た目が良くても中身がコレじゃなぁ」

「むしろ言葉を喋るだけマシだと思え『無頼人(ルフィアン)』。こっちは誰一人何一つ喋らんぞ」

 

その言葉を耳にした男装の麗人がそう言って女――ルフィアンを諫める。

麗人の背後には、銀色のヘルメットを被った少女達が整然と並んでいた。誰も何も話すことなく、ただ前方を見据えて粛々と足を動かし続ける。

 

「ンな事言われても一言一句違わず同じ言葉しか返してこねぇんじゃ何も喋ってねぇのと一緒だろうが、バカにしてんのか」

「まあ馬鹿にはしているでしょうね。だって実際に馬鹿なのですから」

「うおっ!?」

 

ぞぶっ! という生々しい音と共に大地に亀裂が走り、そこからコールタールのような粘性の黒い液体が吹き出した。

無秩序に吹き上がっていたその液体は次の瞬間には一塊となり、冒涜的な美しさを持った一人の女性を形作る。

その様子を見ながら、ルフィアンは眉をひそめて言った。

 

「……チッ、何かと思えば『影法師(ミラージュ)』かよ。テメェじゃなけりゃその顔面に1発ぶち込んでたところだぜ」

「ええ、貴方がそんな暴力的な性格であることなど知っています。だからこそやったのですし」

「要するにわざとってことかテメェ!?」

 

反射的に拳を振りかぶるルフィアン。だが、ミラージュはそれでも加虐的な笑みを浮かべるだけだった。

しかしその表情を見て逆に冷静になったのか、ルフィアンは振り上げた腕を下ろす。

そして、拳を振るう代わりに腕組みをして問いかけた。

 

「……で、テメェの部下連中はどこに行きやがった? まさか置き去りにしたとか言うんじゃねぇだろうな」

「置き去りなんてまさか。彼らは貴重なリソースなのです──ちゃんと、丁寧に()()()()運んでいますよ」

 

梱包。そのワードを聞いたルフィアンは、察したような表情を浮かべた。可哀想に、彼女の部下はこの先何があろうと助かることは無いだろう。あるいは、未来永劫に続く苦しみに苛まれるかもしれない。

 

「……らしくねぇが、さすがに同情するぜ」

「むっ、失礼な」

「失礼でもなんでもねぇよ、こいつぁ正当な評価っつーんだ」

「……まあ、否定はしないかな。肯定材料しかないし、そもそも本人に自覚がないっていう点で救えないし……」

「何を言います『不眠家(インソムニア)』!? 私はこんなにも優しいのに! 苦痛なき死を、精神の消失を優しいと言わずしてなんといいますか!」

「オイ速攻で馬脚見せてんぞこのアホ」

 

ミラージュの言い分に、銀の髪の少女がさりげなく、しかし致命となる一撃を差し込んできた。その何処を見ているのか分からない目の下にはくっきりと隈が刻み込まれている。

ぎゃいぎゃいと言い争う二人を見ながら、ふと女は言う。

 

「……ま、こう言う自分のことを『優しい』とかなんとか評するような自称博愛主義者のオンボロから死んでくんだろうな? 戦場ってなそういうもんだ」

 

ルフィアンが言い放った挑発的なその言葉を耳にして。

──ミラージュの顔から、一切の表情が抜け落ちた。

同じハイエンドモデル、それも『成功か失敗かでいえば成功だが、大成功か大失敗かでいえば致命的大失敗』と言わしめる二者が至近での睨み合い。

これには流石の低級汎用AIと言えども危機感を覚えたのか、これを制止するべく彼女たちの間に一体の自律人形──廉価版ハイエンドモデル『殲滅者(アナイアレイター)』が割り込んだ。

 

『エルフェルト=ヴァレンタイン、不適格な人形共を殲滅──!?』

「「邪魔だ」」

「あーあー、かわいそうに……」

 

次の瞬間、哀れなウサギは頭を砕かれ、全身を切り刻まれてスクラップと果てた。

ガシャガシャと残骸が地面にばらまかれる。

そのまま両者はインファイトでの殺し合いを始めるかに思われたが──次の瞬間、彼女たちの周囲が一気に暗くなった。

天気が崩れて来たのか──そう思い上を見てみれば、しかし空は見事な快晴。では、暗さの原因は何処に?

それに気付いた両者がその場から大慌てで飛び退いた瞬間、ドズンッ! と言う轟音と共に、先程まで彼女たちが立っていた場所を巨大な足が踏み抜いた。

 

「うおぉッ!? くっそテメェちゃんと周り見て歩け――あ、ダメだこれ聞こえてねぇわ」

「……まあ、でしょうね」

「聞こえるどうこう以前に、そもそもアレこっちのこと見えてるの?」

 

改めてそちらの方を向いてみれば、そこに屹立していたのは巨大などという表現では足りない質量の巨躯。

その姿は言うなれば――かつての威容を取り戻せし大いなる爬虫の覇者……『恐竜』と呼称すべきだろう。

そして、機械仕掛けの王種が、おもむろ口を開く。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!』

 

その口から放たれた咆哮は大地を揺るがし空を引き裂く、さながら天変地異の如しもの。

その体を構成する自律人形、推定総数400万以上。

大小無数の群によって破綻した個を成す前代未聞のハイエンドモデル、『集合体(アグリゲイター)』が進撃を始めた。

その知らせはG&K、IOP、ひいては正規軍の耳にまで届き――危機感と言う名の炎を大きく燃え上がらせることとなる。




――ミッション概要を説明しましょう。

本作戦の目的は侵攻を開始した鉄血工造、これの撃滅にあります。
最優先目標は不明な超大型個体、通称『集合体(アグリゲイター)』……状態を問わず人形を取り込むことにより自らの血肉と成す異色の存在です。
その戦闘能力は未知数ですが、その性質上今までに類を見ないほどの継戦能力を有していることは確かです。
他、既存のハイエンドモデルの他にも未知のハイエンドモデルが多数確認されている模様。
これらの撃滅無くして、人類の生存はあり得ないといっても全く過言ではないでしょう。

――色の良い返事を、期待しております。
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