その通り、決戦はすでに始まっています。いい加減パイソン出てくれないとM870掘りが間に合わない。
所変わって、ここはとある基地。
そこでは、ある指揮官が人形たちに追い掛け回されていた。指揮官が仕事から逃げたのか? いや違う、逃げているのは仕事からではない──
「なんで逃げんだ大将! 俺だ、試製三式だ!」
「ンなこと百も承知だボケナス! 俺が逃げてんのはテメェが分かりやすく血塗れで生首と返り血付きの武器まで持ったスリーアウト仕様だからに決まってんだろどうにかしろそれェ!!」
──嬉々とした表情で自身を追いかけ回してくる第一級危険人形からだ。
彼女の名前は試製三式軽機関銃……その名の通り今はなき大日本帝国が生み出した最初にして最後の『汎用機関銃』とされているけど別段名の知れている訳でもない銃が元となっている。
古今東西マシンガンと言うのは後方から銃案をばら撒いて火力支援を行うことが主目的のはずなのだが、開発元の常軌を逸した変態性ゆえか旧帝国陸軍の消せども尽きぬ執念の賜物か──コイツは見ての通り銃撃戦よりも接近戦を好む異端と化していた。
で、そんな悩みの種な試製三式は今、ハイエンドの生首を片手に大槍掴んで肩に銃を担いで自分の指揮官を追いかけまわしている。
「そーんなつれねぇこと言うなってー! 俺と大将の仲だろ! な!」
「お前とそんな深い仲になった覚えは欠片もないわけだが!?」
今の発言から察するに恐らく本人に悪気の類はこれっぽっちもないのだと思われるが……なんというか、『ブレーキの壊れた忠犬』という表現が見事に適切な有様だった。
そして、こういう時に限って数少ないブレーキ役である三八式歩兵銃が不在となっている。というかコイツがいると必ずと言っていいほど厄介事が起きるから、二人まとめて後方支援へと放り出したはずなのだ。その筈が、何故かコイツは生首片手に指揮官へと迫っている。もしかしなくても三八式は道中に置き去りだろう。
全く、どうしてこうなった?
「大変じゃ! 指揮官、緊急の通達じゃぞ!」
「へばらっ!?」
噂をすればなんとやら──バァン! と扉が勢いよく開かれたと思えば、試製三式を弾き飛ばす形で三八式が飛び込んできた。なんだ、今度は一体何が起こった。
見れば、三八式は青い顔で手に分かりやすく時代錯誤なパンチカードを握っていた。そしてそれを指揮官の方に差し出して、
「これを、これを見てたもう!」
「いや読めるかァ! 機械通さずにそれが解読できるのはこの基地じゃお前だけだっつーの!」
「おおそうか。儂としたことがうっかり」
「いっつつ……ついに電脳に方が来たか妖怪ババァ……」
「あ゛ぁん?」
「ナンデモゴザイマセン」
ダウンした状態から起き上がりつつあった試製三式の心無い一言に、三八式の毛がにわかに逆立つ。地雷を踏んだと即座に察知した試製三式は即座に発言を撤回した──彼女は年のせいで自分が役立たずになったと思われることをとんでもなく嫌うのだ。実際今この基地で働いている指揮官よりもここで働いている時間は長いし、定期的にメンテナンスに通っているとはいえいつガタが来てもおかしくはないのだが。
さて、一連の流れはさて置いて、指揮官は実際の内容を確認すべく司令室へと戻った。試製三式は風呂に叩き込まれ、本基地におけるお目付け役②兼執行人であるDSRの手によって丸洗いされている。時折無線で甘い声が聞こえてくるのはきっと気のせいだろう、そうに違いない。
実際に自分で通信ログを確認してみたところ、その内容はあまりに常軌を逸したものだった。
「……鉄血工造の大攻勢。おまけに未知のハイエンドが多数確認された、か……」
「正直かなりまずい状況じゃぞ。ここはあ奴らが通る推定侵攻ルートのすぐ真横に位置している──なんの対策も講じなければ、道中につまみ食い感覚で蹂躙されるのがオチじゃ」
「そんなこた分かってる……が、しかしなぁ……」
「あるいは、わしらが死ぬ気で突撃すれば多少の足止めは出来るかもしれんがの。それとも籠城戦か? ……どのみちこの基地の戦力では半日と持たぬだろうし、さすれば待っているのは必然的に無辜の民の虐殺じゃて」
……正直言って、この基地は戦力があまりに足りない。
曲がりなりにも前線に近い場所に位置しているため、それ相応の軍備はあってもいいはずだったのだが……不在防衛線が機能していた時、つまり『働き方改革』が行われていた時は、地区周りが比較的平和だったことにかこつけて製造しても維持できるだけの資源供給がなかったのだ。改革が行われ、中引きしていた資材の類を密かに私物化していた上層部が軒並み魂を解放された今では一般的なそれよりも多い量が運び込まれてきているが……それでも、現状鉄血工造の攻勢を食い止めるには大きく不足していた。
「……どうするのじゃ、指揮官。決断するときじゃぞ。華々しく戦場で散るか、逃げ出して守り抜くか」
「だが、どうする……?」
「儂は何も言わんよ。外野からはどうとでもいえる……お主が後悔しない選択をするがよいさ」
そうか、と短く答えて、指揮官は椅子に座って腕を組んだまま俯いた。
そして、次の瞬間には顔をあげる。その表情は決意で満たされていた。
壁に掛けられていた電話機からひったくるように受話器を取り外し、がなり立てる。
「総員傾注!! 本日この時を以て当地区は非常事態宣言を発令する! 全ての設備を放棄し、民間人を連れて速やかに本社へと避難せよ!!」
彼は、特攻して散るという華々しい最期よりも──上に立つ者の義務として、たとえ後ろ指差されれようとも民間人を護ることを是とした。
それを聞いて、三八式は嬉しそうにうなずく。背後から飛びつき抱きついて指揮官の頭を撫でまわしながら、
「──よくぞ言ったぞ小僧! それでこそ儂の指揮官じゃ!」
「うわわっ、急に抱きつくな! 暑苦しい!」
「ははは、よいではないかよいではないかー!」
「離せっての! 他の奴らに見られたらどうする!」
「そうですね、見られたらとっても大変です」
「安心せい、ここには儂とお主の二人しか──うん?」
なんか、今。
しれっと第三者の声が聞こえなかったか?
ぎぎぎぎぎ、と二人そろってぎこちない動きで扉の方を見る。
先ほどまでしっかり閉じられていたはずの扉はいつの間にか半開きになっていて──そこから、頼れる我らがメイド長ことG36が絶対零度の視線をこちらに向けていた。
ぴしり、と二人の体が凍り付いたかのように固まり。
そして、指揮官が恐る恐る口を開く。
「……いや、その、ちゃうんすよ」
「ほう。では何が違うのか、早とちりをしてしまったこの私めに懇切丁寧に説明して頂けないでしょうか? 今、この場で」
「すんませんっしたぁ!!!!!」
「ちょっお主待て、ちゅわぁっ!?」
即座に土下座の体勢に入る指揮官。彼の体に抱き着いていた三八式はそれに引っ張られ、あらぬ方向へと投げ飛ばされる形となった。
そんな様子を冷ややかな目で見ながらG36はするすると執務室の中に入り込み、後ろ手に扉を閉め、ご丁寧にしっかりと鍵までかける。
そして、ここぞとばかりにただでさえ近眼によって悪い目つきをさらに鋭くさせて、
「──二人ともそこに直りなさいッ!!」
「「はい只今!!」」
基地にメイドの怒号がこだまする。
それを聞きつけた人形やスタッフたちは執務室からそそくさと距離をとり、自身の職務に忠実に励んだ。
それが理由かどうかは不明だが、その地区の避難誘導は想定よりもはるかに早く完遂されたという。
今回出て来たのは『士魂の護り』より試製三式および三八式歩兵銃でした。詳しくは別作『ドールズストーリーライン』をどうぞ。
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