きみの背中に憧れた。   作:ぜろさむ

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書かない書かないって感想欄であれだけ言っておいてこのザマですからね。物書きなんてちょろいもんですよ。豚もおだてりゃ木に登るってことですよね。

というわけで、木戸愛久視点です。


きみの瞳を覚えてる。

 熱狂のるつぼに、私は立っている。

 雄英体育祭、最終種目。その決勝の舞台。空はからりとした快晴で、体育祭の最終章を盛り上げてくれている。

 向かい側の入場ゲートから、彼はゆっくりと歩いてきた。私が決勝を争うファイナリスト。正直、全く予想していなかった相手だ。それは私だけでなく、誰もがそうだったと思う。

 彼がゆっくりとリングに上がり、私と向かい合う。津波のような歓声が、全方位から私たちの立つリングへ押し寄せてきて、中央でぶつかって渦を巻く。会場のボルテージは天井知らずだ。

 彼は少し俯けていた顔を持ち上げて、日陰になっていた表情を見せる。ああ、久しぶりだ。彼と最後に会ったのは、もう六年前のことになるだろうか。二言三言、互いに距離感を探るように言葉を交わす。砕けた口調が妙にくすぐったい。久方ぶりだというのに会話は弾むようで、それが過去を思い起こさせて少し懐かしい気持ちになった。

 いつのまにか、試合が始まっている。でも、彼はまだ動き出す様子はない。彼は躊躇うように一拍置いて、それから視線で私を捕まえた。

 

「おれさ」

 

「ん?」

 

「君に勝つためにここに来たんだ」

 

 今まで見たこともないくらい切なそうな笑みを浮かべて、目の前の男の子はそう言った。

 その言葉に、一体どれほどの感慨が込められていたのか、私は正確に知ることはできないけれど。私を射貫く彼の瞳はこっちが恥ずかしくなるくらいに真っ直ぐで。

 だから、ほんの少しだけ申し訳なくなる。私はきっと、彼の期待には応えられない。応えられるような人間じゃない。心のなかで苦笑して、でもそれを表には出さない。

 

「それは、光栄かな」

 

 なけなしの自信を表情に貼りつけて、私は正面から彼の双眸を見つめ返す。吸い込まれるような瞳。その奥に篝火のように灯る、自負の炎。

 ――ぞくり、と。「怪物」が目を覚ます気配がした。

 

★★★

 

 手のかかる子供だったと、両親にはよく聞かされた。

 私が個性を発現したのは、四歳の頃だった。方針として個性が発現するまでは自宅で子育てをすると決めていた両親は、私の個性を知って悲鳴をあげた。個性「激情」は、子育てに慣れていない新米夫婦の二人にとって天敵とも呼べるものだったからだ。

 正負に関わらず、感情をエネルギーに変える個性。

 その天与の権能を活かして、幼い私は邪智暴虐の限りを働いたそうだ。ピーマンを食べたくないと言ってはテーブルを叩き割り、昼寝をしたくないと言っては毛布を引き裂いた。

 小さなことにいちいち感情を爆発させる幼児期の私は、個性を全くコントロールできていなかった。体の内側で荒れ狂う激情の命ずるがままに、エネルギーを発散させた。

 両親は下手に力ずくで抑えつけて私の体を傷つけることを恐れたため、わがまま放題だったのだ。私が右と言えば右、左と言えば左。勅命に逆らおうものなら器物損壊の刑。私は木戸家に暴君として君臨し、圧政を敷いた。

 

「このまま(ヴィラン)に育っちゃうかもって、本当に心配したのよ」

 

 お母さんは、今ではそう言って笑う。

 同年代の友達はなかなかできなかった。個性の暴走を恐れた両親が私を外に出さなかったからだ。両親は私の興味を巧みに誘導して、私を家庭内に留めようとした。教育に神経質になっていた両親は、その作戦のために豊富に資金をつぎ込んだために、しばらくはその試みはうまくいった。ただ、当然ながら限界はあった。

 個性発現から半年ほど経ったころ。とうとう外の世界への興味を抑えきれなくなった私は、度々両親の目を盗んで外出するようになっていた。家にはたいてい父が母のどちらかがいて私を見張るようにしていたが、共働きだったために監視体制は万全とは言えなかった。

 行き先はもっぱら近くの公園だった。体内に溜まったエネルギーを発散するには絶好のロケーションだったからだ。

 うんていやブランコ、ジャングルジムを縦横無尽に攻略することは、それまでにない爽快な遊びだった。思う存分エネルギーを発散させることができたし、遊具は総じて頑丈で、雑に扱っても壊れなかった。公園は、あっという間に私のお気に入りの場所になった。

 事件が起こったのは、そんなある日の昼下がりだった。

 その日の私は、遊び場に砂場を選んだ。砂場にはすでに何人かの子供がいて、砂山を作って遊んでいた。その遊びがひどく革新的に見えて、羨ましくなったのだ。

 私は砂場に何人かいる同い年くらいの子供たちのうち、同い年くらいの女の子に目を付けた。スコップを持って懸命に砂を集めているその子のところへ飛んでいくと、開口一番にこう言った。

 

「ねえ、それちょうだい?」

 

「いや」

 

 にべもなかった。当然だ。私はその子とは初対面だったし、砂山は完成間近だったのだ。ただ、小皇帝たる幼い私にはそんな事情は関係なかった。

 強引にその子の手からスコップを奪い取ると、私は砂場の一角を思いっきり蹴り上げて、周りで遊んでいた子供たちを追い出した。砂場は私の領土だと主張したのだ。

 子供たちは泣きながら砂場を出て行った。これでよし。広い砂場を一人で悠々と使える。私は強欲で、しかも暴力を使って人を思い通りにする方法を知っていた。個性発現からずっと磨き続けてきた、わがままの技術だ。

 私は追い出した子たちのことは気にせず、早速砂山の制作に取り掛かろうとした。その私の肩を、ぽんぽんと叩く誰かの手。驚いて振り向くと、私がスコップを奪い取った女の子が立っている。

 なぜ砂場を出ていかない?他の子はみんな出て行ったのに。

 怪訝に思う私に、目元に大粒の涙を浮かべながら、その子は言った。

 

「そのスコップ、返して」

 

 そのときの衝撃は、今でもよく覚えている。この世に、私の思い通りにならないことがあるなんて。私の力を見て、ひれ伏さないやつがいたなんて!

 常識が覆されたような気分だった。なにせ私の個性は、お父さんやお母さんみたいな大人でも絶対に逆らえない「権力」なのだ。まして私と同じくらいの子供が、思い通りにならないはずがなかった。それなのに。

 私は面白くなかった。当たり前のことが当たり前に起こらない状況にいらいらしていた。いや、この子はちょっとよそ見をして、私の力をよく見ていなかっただけかもしれない。きっとそうだ。もう一度見せてやれば、他の子と同じように私に砂場を譲るだろう。

 いらいらの分をエネルギーに変えて、さっきよりもちょっとだけたくさんの力を込めて、私は握った拳を砂場に叩きつけた。

 粉塵が舞い、砂場の縁で恐る恐るこちらを伺っていた子たちが悲鳴をあげて逃げていく。さあどうだ。これで思い知っただろう。

 

「そのスコップ、返して」

 

 砂埃の中でも、毅然と私を睨みつけて。その子はもう一度、そう言った。

 

★★★

 

 それから、私と夢子ちゃんがどうやって友達になったのか、実はよく覚えていない。第一印象が互いに最悪だったのは間違いないはずだが、初対面の次の日にはもう一緒に遊んでいたような気もする。私にとっては初めての友達だったから、浮かれていたのだろう。一人で遊ぶことに飽きていた私は、すぐに二人で遊ぶ楽しさの虜になった。

 毎日夢子ちゃんの家に入り浸り、いろんな遊びを教えてもらった。夢子ちゃんのお母さんは私を暖かく迎え入れてくれた。子供とお菓子作りが大好きな人だった。私はお菓子が大好きだったので、一瞬で彼女に懐いた(彼女の作るブルーベリーのタルトは絶品だった!)。彼女のお菓子作りを見学させてもらったこともあった。夢子ちゃんが妙に誇らしげに工程の一つひとつを解説していたのが、今でも印象に残っている。

 

「私、将来はお母さんみたいなパティシエになるんだ!」

 

 きらきらした瞳でそう語る夢子ちゃんはとても生き生きしていて、私は羨ましくなった。

 「羨ましい」というのはもどかしい感情だ。四歳の私はもどかしいのが嫌いだった。だから、羨ましいと思ったものは次の瞬間には両親にねだった。そしてそれらは大抵の場合きちんと手に入った。ふわふわのケーキも、可愛いぬいぐるみも、なんでもだ。

 しかし、この時ばかりは勝手が違った。夢とは人から与えられるものではないからだ。お金で買えるわけでもない、自分で見つけるしか手に入れる方法のないもの。いくら私が「権力」を振るっても、こればかりはどうしようもなかった。

 だから余計に夢子ちゃんが羨ましくて、その思いは尊敬に変わった。私が手に入れられないものを持っている人。私の「権力」に屈さない人。それが私の初めての友達だった。

 夢子ちゃんは私にいろんなことを教えてくれた。そのなかでも最も大きかったのは、みんなで遊ぶことの楽しさだった。実は、私が幼稚園に通うことを両親が許してくれたのも、夢子ちゃんの存在があったからこそだった。私がどこの幼稚園にも通っていないことを偶然知った夢子ちゃんは、持ち前の恐るべき行動力を発揮し、その日のうちに私の家に乗りこんできて両親に直談判をしたのだ。

 私は最初、無駄だろうと思っていた。幼稚園に行きたいという要求は、他のわがままと違って私がいくら言っても聞き届けられることはなかった。夢子ちゃんが言ったところでそれは同じだろうと思っていたのだ。

 案の定渋った私の両親に対して、夢子ちゃんは言い放った。

 

「愛ちゃんが暴れたら私が止めるよ。私なら愛ちゃんを止められるもん」

 

 両親はとても驚いていたようだった。たぶん、夢子ちゃんは私の個性について何も知らないのだと思っていたのだろう。大人相手に一歩も引かず堂々と交渉する夢子ちゃんに、お父さんとお母さんは明らかにたじろいでいた。

 砂場で私を止めたときもそうだった。普段はどちらかといえば引っ込み思案なのに、ふとした時に異様なまでの強さを見せる。そういうときの夢子ちゃんは何か熱のようなものを放っている。瞳の奥に灯った炎から発せられる、人を圧倒する気迫のようなもの。魔法のようなエネルギーだ。

 私が泣いても喚いても暖簾に腕押しで首を縦に振ろうとしなかったお父さんとお母さんが、まるで呪文にかけられたみたいに、いつのまにか頷いていた。夢子ちゃんは今の時代には珍しく個性を持っていなかったけれど、代わりにとても素敵でかっこいい力を持っていた。自分を信じる才能。他人に自分を信じさせる才能だ。

 そうして、私は小学校に入る前の一年間だけ、夢子ちゃんと同じ幼稚園に通うことになった。夢子ちゃんは私みたいな「権力」も使わずに、私にも叶えられなかったことを成し遂げたんだ。

 

「これで毎日一緒に遊べるね!」

 

 夢子ちゃんはそう言ってきらきら笑った。

 幼稚園に入ってからは、毎日が発見の連続だった。世界が一気に広がり、そこには私の知らないたくさんの楽しいことがあふれていた。たくさんの遊び場。たくさんの先生。そして、たくさんの新しい友達。

 私は夢中だった。試しに私の個性を見せてみると、みんなが褒めてくれた。先生たちは知らないことをたくさん教えてくれた。友達とはヒーローごっこをして遊んだ。一人では絶対にできなかった遊びだ。

 毎日が楽しいことだらけだった。家に帰ると明日が待ち遠しくて仕方がなかった。明日も楽しいことがいっぱいだと、信じて疑わなかった。隣には夢子ちゃんがいて、周りを友達に囲まれて、悲しいことなんて一つも無くて。小学校に入っても、中学校に行っても、こんな日々がずっとずっと続くんだろうって思っていた。そう、思っていたんだ。

 

★★★

 

 理想の世界が崩壊したのは、私が小学校五年生のとき。あのときの私の周りには幼稚園の頃と変わらずたくさんの友達がいて、でも、そのなかに夢子ちゃんの姿はなかった。

 一番最初の友達だというのは確かだけれど、それ以上でもそれ以下でもない。そんな、なんとも言えない微妙な関係だった。学校には夢子ちゃんよりも趣味の合う友達はたくさんいて、夢子ちゃんにも私より趣味の合う友達がいた。夢子ちゃんとはクラスも離れてしまっていたから、特に不自然なことでもなかった。

 それでも、たまに廊下ですれ違えばおしゃべりはするし、私のなかで夢子ちゃんを尊敬する気持ちが消えたことはなかった。それでなにか問題があるとも思えなかった。

 だから、私は遅れた。気づいたときには全部終わっていた。

 学校で、夢子ちゃんに会えない日が続いた。最初は偶然だと思った。違うクラスなんだし、夢子ちゃんには夢子ちゃんの都合があるだろう。そう納得していた。

 

「あの子、不登校らしいよ」

 

「え?」

 

 いつも私と一緒にいるグループのひとりが私に教えてくれた。面白い噂話をするという体で、とても弾んだ声だった。

 

「三組のあの子でしょ?あの――無個性の」

 

 その言葉を口にしたとき、その子の口元がわずかに歪むのを、私は見てしまった。

 なんだ、この雰囲気。私は気分が悪くなった。目の前の女の子から漂ってくる感情のにおいが、腐臭に似ていたからだろう。周りの子もみんな、同様に笑っている。みんな笑っているのに、全く楽しくなかった。胸のあたりがむかむかして、私は思わずその場から駆けだしていた。なにか、とても嫌な予感がしていた。

 その日のうちに、私は夢子ちゃんの家に走った。訪れるのは久しぶりだったが、かつて足しげく通った道のりを、体はしっかり記憶していた。インターホンを鳴らすと、ドアを開けてくれたのは夢子ちゃんのお母さんだった。

 

「愛ちゃん、久しぶり」

 

 昔と変わらず、夢子ちゃんのお母さんは私をもてなしてくれた。そのはずだった。なのに、私は怖くなった。彼女が纏う雰囲気が、ドアの向こうにたたずむ沈黙が、私の悪い予感を後押ししているようだったから。

 

「夢子ちゃん、いますか」

 

 夢子ちゃんのお母さんは、私の口ぶりで何かを察したようだった。多くは語らず、私を家の中へ招き入れてくれた。焦りが全身にまとわりつくようだった。私はそれを振り払うように小走りで夢子ちゃんの部屋へ向かった。

 

「夢子ちゃん?」

 

 呼びかけ、ドアをノックする。返事はない。だが、人がいることは確かだった。人間の息遣いのようなものが、向こう側から感じ取れた。ドアノブに手を掛ける。鍵がかかっているようで、ドアは開かなかった。

 拒絶されている。その意思がはっきりと伝わってきた。夢子ちゃんが私を拒絶している。あの夢子ちゃんが。

 

「いじめが、あったみたいなの」

 

 夢子ちゃんのお母さんは、沈んだ声で教えてくれた。ある日を境に、日に日に元気がなくなっていった夢子ちゃん。それから、いたずらされてぼろぼろになった教科書やランドセル。学校で何かあったことは確かだったが、夢子ちゃん自身はなにも語らず、学校側に問い合わせても埒が明かなかったという。

 翌日から、私は学校で調査を開始した。少し調べれば、三組でいじめがあったということはすぐに明らかになった。三組の生徒を捕まえて一人ずつ話を聞いていけば、彼らは簡単に口を割った。

 

「夢子ちゃん、『女王様』に逆らったんです」

 

 そう説明してくれたのは、夢子ちゃんと仲が良かったという女の子だ。小動物みたいに、つねにおどおどしている子だった。

 

「女王様っていうのはあだ名です。何でも自分が中心にいないと気が済まない性格で、みんな裏ではそう呼んでるんです」

 

 夢子ちゃんがいじめの標的になるまでの経緯は、容易に想像できた。夢子ちゃんは、理不尽に立ち向かえる人間だ。なんの力が無くても、たった一人でだって、嫌なことは嫌だと言える。言えてしまう。普段は引っ込み思案な分、プライドの高い『女王様』には彼女の強さが我慢ならなかったのかもしれない。だからこそ、いじめの標的になった。ただでさえ目立つ無個性というレッテルは、彼女の強さを浮き彫りにしたことだろう。彼女の強さが、彼女を孤独にしたのだ。

 そして、夢子ちゃんは簡単には折れなかった。抵抗すればするほど、いじめはさらに苛烈に、陰湿になっていった。より大勢の人間を巻き込んだ、手の込んだ内容になっていったのだ。そうして次第に、夢子ちゃんに味方をする人間はいなくなっていった。

 

「ねえ、夢子ちゃん」

 

 私は、夢子ちゃんの家に通い詰めた。毎日学校が終わると、一番に教室から飛び出して夢子ちゃんの家に走っていった。

 

「覚えてる?私たちが初めて会った日のこと」

 

 いつのまにか、季節は巡っていた。時間は矢のように過ぎ去り、夢子ちゃんが学校に来なくなってからすでに数か月が過ぎようとしていた。

 

「あの頃の私、すっごいわがままでさ。人のもの奪って平気な顔してるひどいやつだったよね」

 

 今日も、扉は開かない。私はいつもどおり、廊下の壁に背中を預けて後ろ向きに声を投げかける。なんでもないような話を、たくさんした。

 

「そんな私を初めて正面から受け止めてくれたのが、夢子ちゃんだった」

 

 扉越しの会話も慣れたものだった。返事は無く、話すのはいつも私一人だったが、私たちの間には確かに「会話」が成立していた。

 

「あのとき夢子ちゃんが止めてくれなかったらさ、私今ごろ(ヴィラン)になってたかもしれない」

 

 控えめなノックみたいに、ゆっくりと言葉を浸透させていく。それが、私にできる唯一のことだった。

 

「ねえ、夢子ちゃん」

 

 個性を使えば、ドアを無理矢理こじ開けることもできただろう。でも、それをする気にはならなかった。

 

「あなたが私を変えてくれた」

 

 きっと夢子ちゃんにとって、あのドアは最後の防壁だったのだ。傷ついた心を外敵から守るための、一番最後の守りだった。

 

「あなたが私を救ってくれたんだよ」

 

 だから、それを開けるのは夢子ちゃん自身の役目。そうでなければならなかった。

 

「私、ずっと尊敬してた。私にはできないことをできる人だって思ってたの」

 

「そんなあなたが、苦しんでいるなら」

 

「今度は私が、救ってあげたいよ」

 

 ぽろり。我知らず、涙がこぼれた。

 ――かちゃん、と。音がして。閉ざされていた扉がゆっくりと開いていった。

 その日、私は実に半年ぶりに夢子ちゃんと顔を合わせた。久しぶりにみる夢子ちゃんは憔悴しきっていて、目も淀んでいて、まるで別人のようだった。

 夢子ちゃんは一言ずつ、時間を懸けながら私に全てを話してくれた。その苦痛も、孤独も、恐怖も、憎悪も。ずっと抱えっぱなしにしていた、膨大な感情の全てを、余すことなく私に託してくれた。

 溢れる感情を持て余すように、私に縋り付いて泣く夢子ちゃんを、私はただじっと受け止め続けた。全部吐き出してしまうべきだと思った。彼女はもう十分すぎるほどに耐えてきたのだから。これ以上背負う必要などないはずだ。

 やがて、疲れ切った夢子ちゃんは私の膝に頭を預けて眠りについた。幼子をあやすように、私はその頭を撫でる。

 

「待っててね、夢子ちゃん。私がなんとかする。――なんとか、してみせるから」

 

 気づけば、そう呟いていた。腹の底には、熱くてどろどろしたものが、静かに渦を巻いていた。

 

★★★

 

 そして、私はあの事件を起こした。

 夢子ちゃんの告白の翌日。あの日は朝から風のない快晴で、空気はよく乾いて軽く、私の足取りはふわふわしていた。

 緊張はしなかった。大それたことをしようとしている自覚はあったが、後ろめたい気持ちは無かった。

 早朝、一番に登校し、ラインカーで「声明文」を書き上げた。いじめっ子たちへの一応の建前のつもりだった。意味がないことは知っていた。

 朝八時。一時間目が始まる頃合いで、学校全体へ向けて演説を開始。その後、個性を全開にして「恫喝」を行った。

 瓦割りの要領でグラウンドに叩きつけた私の右拳は、容易に大地を陥没させた。私のやったことは、れっきとした犯罪だった。暴力を背景に自分の要求を無理矢理押し通そうとしたのだ。世間を騒がす(ヴィラン)たちと同列の行為だ。だから、その対処としてヒーローが駆けつけたのは妥当だったと言えるだろう。

 最初の一撃を放ってから五分もしないうちに、私は完全に包囲されていた。後から聞いた話では、私は複数のヒーローたちを相手に大立ち回りを繰り広げ、大いに苦戦させたという。病院で目を覚ました私の記憶は曖昧で、そのときのことはよく覚えていなかった。数時間ぶっ通しで戦っていたような疲労感があったが、実際には数分だったのかもしれない。私が辛うじて覚えているのは、とても息苦しかったという感覚だけ。

 

「……」

 

 そう、とても苦しかったんだ。感情をエネルギーに変えるのがあんなに辛かったのは、あのときだけだった。

 拳を振るうたびに私の脳裏をよぎったのは、夢子ちゃんが私に言った言葉だ。

 

『無個性だって呼ばれるのが怖くなったの』

 

『汚い言葉も、暴力も、ひとりぼっちにされるのだって怖くなかったのに』

 

『無個性だって指を差されて笑われるのだけが耐えられなかった』

 

『〝こんな時代に無個性で生まれるなんてよほど運がなかったんだ〟って』

 

『何も悪くないお父さんとお母さんまで笑われるのが、嫌で嫌で仕方なかった』

 

『私のせいでお父さんとお母さんまで馬鹿にされてる気がして、恥ずかしくて、申し訳なくて、堪らなかった』

 

『でもね、私、学校を嫌いになりたくもない』

 

『楽しかった思い出だってちゃんとあるはずなのに、全部嫌な思い出で塗り潰されたくないの』

 

『だから、ねえ、だから、愛ちゃん』

 

『たす、けて……!』

 

 嗚咽を漏らしながら、私に縋り付いて泣いていた夢子ちゃん。その慟哭が頭の中に浮かぶたび、次から次へと力が湧いてきて、私の中でナニカが喚き立てた。「外へ出せ、外へ出せ」と、輪唱のように声を響き渡らせたのだ。

 声に当てられて、私の身体は燃えるように熱くなっていった。頭は割れるように痛くなって、声が枯れるまで叫び出さずにはいられなくなって。

 最後の力を振り絞って放った一撃が、誰かに受け止められた感覚を最後に、私の意識は闇に閉ざされた。

 そうして、気づけば私は白い病室にいた。

 

★★★

 

 目を覚ましたとき最初に気になったのは、いつもと違うベッドの感覚だ。妙に強いスプリングに押し返され、横になっていても体がふわふわとしていた。見覚えのない天井は目もくらむような潔白。白い蛍光灯が視神経を焼いて、少しチカチカした。

 体を起こし、部屋を見回す。初めての環境に五感は浮足立っているようだ。前後の記憶が曖昧だったせいで多少混乱はしたけれど、事態を理解するまでにそう時間はかからなかった。論理的に考えたなら事の顛末は明らかだったからだ。

 負けた。私は負けたのだ。ヒーローたちに敗北して、恐らくは気を失った私は、そのままこの病院に搬送されたのだろう。

 不甲斐ない。死ぬほど情けなかった。いじめをやめさせるだなんて息巻いて、感情に任せて暴走した結果がこれでは、まるっきり赤子のようではないか。かみしめた唇が切れて、口のなかに鉄の味が広がった。

 こうして、私の病院暮らしは幕を開けた。

 入院生活は退屈を極めた。部屋の中には暇を潰せるものは何もなかった。テレビも、小説の類も一切ない。娯楽の手段は徹底的に排除されていて、その中で私は無味乾燥した毎日を強要された。

 病院内を見て回るなんていうこともできなかった。出入り口には見張り役の職員が立っていて、トイレに行くときもいちいちどこへ行くのかと質問をされた。囚人のように管理された生活。おかげで私は、これが「入院」とは名ばかりの「収監」であることをすぐに理解できた。

 無機質で静謐な空間は、私をいっそう孤独にした。病室への来訪者は極端に少なかった。両親とカウンセラーを除けば、顔を出してくれたのは二人だけだった。私が学校でいつも一緒にいた「友達」は一人として見舞いに来てはくれなかったし、担任の先生からも特に連絡は無かった。

 それは自然なことだった。彼らが非情なのでは無い。私だって、学校で突然個性を使って暴れ出したやつがいたら近づきたいとは思わないだろう。いわばこれは身から出た錆。「普通」な彼らが「異常」な私から距離を取った。ただそれだけの話なのだ。

 人が来ない日は私にとってルーティンを消化するためだけの時間だった。朝七時起床、九時消灯なんていう規則正しすぎるスケジュールを、無心でこなす日々。そこはまるで人生を浪費するために存在するかのような空間だった。時間が、私の昂った心を漂白していくみたい。退屈はまさしく私の個性の天敵だ。感情の揺らぎが生まれなければ、私はエネルギーを生成することができなくなる。白い無機質の独房は、これ以上ないほど理想的に私の「権力」を封殺していた。その箱の中では、私はただの無個性の無力な少女に過ぎなかった。夢子ちゃんと同じように、なんの力も無いただの一人の人間でしかなかったのだ。

 

「……」

 

 結局、夢子ちゃんはあのあと小学校を転校してしまった。夢子ちゃん本人も、夢子ちゃんの両親も私には何も言わなかったけれど、その理由の一端があのいじめにあったことは誰もが知っていることだった。ずっと病室にいた私にそのことを教えてくれたのは、ある一人のクラスメイトだった。

 赤瀬巡くん。授業中に何度か言葉を交わしたことがある程度の、知人以上友人未満の男の子。良くも悪くも「クラスメイト」という言葉でしか表現できない関係の相手だった。

 彼は週に何回か、何故かとても熱心に私のお見舞いに来てくれた。私の「友達」はみんな離れて行ったのに、彼だけは距離を取るどころか逆に詰めてくるようだった。それが不思議で、私はほんの少しだけ彼に興味を持った。

 彼はあまり積極的に喋る方ではなかったので、彼がお見舞いに来た時のおしゃべりはたいてい私が話し役、彼が聞き役で進行した。彼は聞き上手だった。私が話したくないことは尋ねなかったし、私が話したいと思うことは先回りするように訊いてくれた。心の慰めになるものが何も無い病室では、彼との会話は貴重な安らぎの機会だった。

 それが、二人の訪問者のうちの一人。

 そして、もう一人。彼が私の病室にやってきたのは「収監」からちょうど一週間がたったころ。

 真っ黒の喪服みたいなスーツに、厚みのある肉体を窮屈そうに押し込めた仏頂面の大男。病院にはあまりに不釣り合いに見えるその男が、病室のドアを潜るようにして入ってきた。

 一目でわかった。彼はあの日、私を捕まえたヒーローの一人。唯一、私の一撃を正面から受け切ったヒーローだったから、印象に残っていた。

 彼ははじめ、私に何と言葉をかけるべきか迷っているようだった。明らかにこのような場面に慣れていない様子。当然といえば当然だ。傷心の患者に向き合い慰めるのはカウンセラーの役目。彼は日夜凶悪な(ヴィラン)と戦うヒーローだ。彼がこのような場所に来ることがそもそもお門違いなのだ。

 ではなぜ、彼はわざわざ私のところまで足を運んだのだろう。彼にとって私は、癇癪を起こした子供以上の存在ではないはずだった。真剣な表情で言葉を一つひとつ選んでいく彼の姿から、彼が真摯に私に向き合おうとしてくれていることは一目瞭然だった。

 

「なんで私にここまでしてくれるの?」

 

 あなたには、そんな義務はないのに。私は不思議だった。

 

「私が、そうしたいと思ったからだ」

 

 即答だった。なぜか、その答えは私の胸にすとんと収まった。

 だからこそ、彼には吐き出すことができた。両親にも、担当のカウンセラーにも、赤瀬くんにも言えなかったことを。

 暴走した私が、自分の個性の中で見たもの。際限なくあふれ出す力への恐怖。何より、初めての友達が苦しんでいるときに、気づくことができなかった悔しさ。

 きっと安心していたのだと思う。また個性が暴走したら。そんな不安に駆られて、両親の前でさえ心の奥をさらけ出すことに躊躇いを覚えていた私は、私の本気を正面から受け止めてくれた彼の前でだけは、それを露わにすることができた。

 

「どうすればよかったのかな」

 

「それは、わからない」

 

「私のしたこと、意味あったのかな」

 

「意味ならあった。君は友達のために、自らを犠牲にして動くことができた。それはとても尊いことだ」

 

「結果が伴わなくても?」

 

「行動に結果が伴うというのは、稀なことだ。我々プロヒーローであっても、行動に対し百パーセントの結果を得ることは難しい」

 

「私が『ヒーロー』だったら、夢子ちゃんを助けられたのかな」

 

「そうかもしれない」

 

「私が『ヒーロー』じゃなかったから、夢子ちゃんを助けられなかった?」

 

「そうかもしれない」

 

 彼は気遣いが下手くそだった。だが、そのときの私はその場しのぎの慰めではなく確かな指標となる啓示を欲していた。だから、彼の実直すぎる言葉が私には嬉しかった。

 

「人は誰しも、生まれながらにヒーローであることはできない。だからこそ学び、己を鍛える。ヒーローを志す者が同じ場所に集い、互いに研鑽し合う。そうすれば、一人では乗り越えられない壁も乗り越えられるかもしれないから」

 

「乗り越えられないかもしれない?」

 

「その通りだ。だが、元来ヒーローとは挑むもの。一生越えられないかもしれない壁に挑み続ける馬鹿者たちのことだ」

 

「なにそれ、意味わかんない」

 

「今はそれでいい」

 

 そう言うと、ヒーローはその場で深く息を吐いた。瞑目し、唇を微妙に歪ませる。

 

「Plus Ultra、さらに向こうへ」

 

「へ?」

 

「覚えておくといい。この言葉は、私を育ててくれた学び舎の合言葉だ」

 

 そこで初めて、彼はほんの少しだけ誇らしげに、その仏頂面に微笑を浮かべた。

 それきり彼が私と会うことはなかった。彼はメディアにも顔を出さないマイナーなヒーローであるようで、あれ以降テレビでも彼の顔を見たことはない。彼は私に、ヒーローネームさえ告げなかった。もう二度と会うことはないのかもしれない、とぼんやり思った。だが、彼はその一度きりの対話で、とても大きなものを私に遺してくれた。

 Plus Ultra、さらに向こうへ。その言葉が、発芽を待つ種子のように私の胸の中に埋まっていた。

 

★★★

 

 照りつける炎天の下で、彼は紅潮した身体をさらして大の字に倒れている。息は荒く、ジャージが破れて露わになった胸元は、空気を取り込むために大きく上下していた。

 十分だ。十分の間、私たちは休むことなく拳を交え続けた。拳撃を叩き込むたびに、私の力は増していった。この感情は知っている。興奮だ。そして狂奔。闘争がもたらす原初の感情。剥き出しの、野生の激情。

 私は荒れ狂う会場のボルテージに感化され、個性によって無尽蔵のエネルギーを手に入れていた。会場を包み込む、熱狂という名の竜巻。その全てが私に味方したのだ。

 彼はなすすべもない。できたのは、辛うじてリング上に留まることだけ。何か策を仕掛けるそぶりもない。真っ向からの格闘戦だ。

 格闘技術自体には、さほどの開きはなかった。対人格闘は私が雄英高校に入学して以来最優先で鍛え続けてきた分野だ。人を倒すためというよりは、()()()()()()()()にではあるが、間違いなく最も情熱を注いできた。その得意分野で、「彼」、赤瀬くんは私に引けをとっていない。驚くべきことだ。だが、だからこそ露わになるのはパワーの差。すなわち個性の差だ。

 拳が交差するたびに、彼だけが一方的にダメージを追っていった。彼の体は何度も地面に叩きつけられ、そのたびに新しい傷を作った。

 私は容赦なく勝ち目の無さを見せつけた。ひたすら堅実に徹し、付け入る隙を与えないことで心をへし折ろうとした。「あなたは勝てない」と、その体に教え込むようにして、丁寧に着実に圧倒した。

 ――それでも。

 それでも彼は屈しなかった。決して自分から負けを認めようとはしなかった。体力は明らかに限界を迎えている。そのはずなのに。

 

「どうした」

 

 砂埃の向こう。ゆらりと立ち上がる人影。ジャージはボロ切れ同然。傷のない部分を探すのが困難なほどに満身創痍の、赤瀬くんの五体。それでも、その双眸は爛々と煌めいて、自負の炎は僅かの陰りも見せない。

 

「もう終わりか?」

 

 そう言って、あくまで不敵に、獰猛に笑う。

 不撓不屈。

 にわかに、感情の源泉にさざなみが立つ。熱狂一色だった水面に混ざり込んだのは、畏怖の色だ。理解の及ばないものに対する、生存本能の警鐘。

 

『ここで仕留めなければならない』

 

 強迫観念が私を支配しようとする。だめだ。感情に身を任せるな。個性はあくまで力であって、それを使うのは「木戸愛久」自身だ。

 彼が右拳を握り、ハンマーのようにして自らの胸を叩く。ドクン、というひときわ大きな拍動音とともに、彼の露出した皮膚が紅潮し、全身の筋肉が盛り上がっていく。

 

 赤瀬巡、個性「心血」。

 

 彼の個性について、私は詳しく知っているわけではない。ただ、これまでの戦い方からある程度の推測は可能になる。ヒーローにとって、少ない情報から(ヴィラン)の個性を割り出すのは必須技能のひとつだ。一年間を通して経験を積んだヒーロー科生のアドバンテージである。

 

「(拳で心臓あたりを叩く動作、たぶんあれが鍵なんだ)」

 

 試合中に幾度か見せていたあの動き。恐らくはあのドラミングのようなルーティンが、個性発動のスイッチになっているのだろう。あの動作の後、彼の体は全身が紅潮し、身体能力が跳ね上がる。強化の度合いは紅潮具合におおむね比例しているようだ。紅潮は促進された血流によるものだろう。胸を叩く動作が心拍を加速させるためのものなのだとしたら、彼の個性は血流の促進によって身体能力を強化する増強型個性の一種だと推測できる。

 

「(なら、当然反動があるはず!)」

 

 私の「激情」も増強型だ。増強型の特徴については一通り修めている。身体強化が自らの感情に依存するという点で、増強型のなかでも際立ってピーキーだと言われる私の個性に対し、彼の「心血」の特徴は強化度合いを任意で変更できる点だ。使い勝手や汎用性はあちらが上だと言っていいだろう。代わりに、出力では私に軍配が上がる。彼はその差を埋めるために、普段よりも無理をして身体強化を施しているはずだ。つまり、持久力を捨てているのである。彼が自らの個性の反動に耐えきれなくなるまでが、この試合のタイムリミットだ。

 

「(このまま防御に徹して時間切れを狙うべき?)」

 

 いいや、それは悪手だ。戦いには流れというものがある。現状それは私に味方をしているが、受け身になりすぎれば容易く河岸を変えるだろう。

 立場で言えば、私はチャンピオンで彼は挑戦者。あくまで向かってくる彼に対して、私は堂々と迎え撃たなくてはならないのだ。何より、時間切れ狙いなどというつまらない選択肢を、私の個性が許すはずもない。

 正面からの圧倒。このほかに選択肢は無かった。

 ステップを踏み、逸る衝動にリズムを与える。感情に理性の手綱をかけるのだ。鼓動はすでにうるさいくらいに高鳴っている。彼が放つ強烈な戦意に当てられて、私の中で「怪物」が外に出ようともがいていた。

 ――六年前のあの日、憎悪のままに拳を振るったあの日に、私の中に「怪物」が生まれた。感情を餌に成長し、暴虐を撒き散らす魔物。破壊の意思とでも呼ぶべき、私自身の感情の化身。以降、他者の強烈な感情に感応して個性が発動すると、私の中で「怪物」は覚醒するようになった。そして、感情から得たエネルギーをぶち撒けたいとがなりたてるのだ。あの日以来その存在が表に出ることは無かったが、個性を発動するたびにそれは私に語りかけてきた。

 これを手懐け制御すること。それが、この一年の私の至上命題だった。私の出した答えは短期決戦型の戦略だ。格闘技術を学び、より効率よくエネルギーを運用する事で、暴走状態に突入する前に(ヴィラン)を倒しきる。この回答は、理想に限りなく近いものだった。この一年、私はあらゆる現場で個性を発動したが、一度として暴走状態に陥ることなく全ての課題を達成してきた。一度の使用で五分の継続発動すらまれなほどだった。

 だから、大丈夫だ。私はできる。「激情」を制御できる。もう二度と、「怪物」にとらわれたりしない。そう信じられていたんだ。目の前の彼が、現れるまでは。

 

「おおおおおおおおお!!」

 

 咆哮を上げ攻勢に出る彼に対し、私も自分から距離を詰める。残り時間がいくらあるのか正確に測るすべはない。彼の方も限界が近い筈だ。ここから先の勝負は、躊躇った方が負け。

 助走の勢いを乗せた彼の拳が、頰を掠める。すかさずカウンターを放つ私。彼は身を翻し、そのまま蹴り技へと派生させる。それを固めた腕で受け止め、地に残された軸足を蹴り払う。倒れ込んだ彼の顔面めがけて右の打ち下ろし。首を捩って逃れた彼の蹴り上げで、顎を吹き飛ばされる。

 少しでも気を抜けば、意識がちぎれてしまいそうだ。思考が原型をとどめていない。目まぐるしく流転する状況と、感情の制御の両方に同時に対応しなければならない分、私が一手遅れをとっている。

 いや、それだけじゃない。彼の攻撃も鋭くなっている。回数を重ねるごとに、私の防御をかいくぐる確率が上がっているのだ。

 あれだけ打ちのめされて、どこにそんな余力がある?焦りが首を締めあげるようだった。

 掠めた彼の拳が額が裂いて、流血が右眼を覆う。一瞬、視覚情報が滞る。思考のラグ。我知らず、打撃が大ぶりになった。乳酸が腕を重くしていた。寒さでかじかんだみたいに感覚が鈍くなっていた。

 その隙間を縫うように、彼の拳が再び私の顎を捉える。かくん、と。膝が落ちた。息が止まった。時間も止まったみたいだった。意識の空白。とっさガードを上げたのは、先の二発が印象づけられていたからだ。

 戦斧のような蹴りが、がら空きの腹部を薙ぎ払った。

 

「がっ、ああああああああ!!?」

 

 初めてクリーンヒットを貰う。悶絶し、息をうまく吐き出せなくなる。辛うじて受け身を取り、左腕で腹をかばいながらなんとか立ち上がる。朦朧とする視界の先で、赤瀬くんが、胸の中央を叩いた。

 ――また、ギアが上がる。

 ボロ切れ同然だったジャージは完全に引きちぎれて、赤瀬くんの上半身があらわになる。いまや真紅に染まり切った皮膚からは、うっすらと蒸気が立ち上っている。体温で汗が蒸発し始めているんだ。彼の身体はいま、膨大な熱量を消費し続けている。個性は、もう長くは持たないはずだ。それでも、赤瀬くんはボサボサになっていた前髪を掻き上げて、犬歯をむき出しにしてみせる。

 

「……なん、で」

 

 なんで笑っていられる?何が彼をそうまでさせている?今でさえもう身体はボロボロなのに、これ以上どうして自分を追い込むことができる?あの瞳の奥に灯った炎は、一体なんなんだ?

 額に、冷たい汗が滲んだ。じわりじわりと、自分の中に畏れの感情が広がっていく。圧倒されていた。今にも倒れ込んでしまいそうな、満身創痍の男の子に。

 その立ち姿が記憶の蓋を引っ掻いた。私は、この光景を知っている?絶対に折れないあの強さ。瞳の奥の炎。そうだ。私はあれを、ずっと昔に見たことがあったはずだ。獰猛に笑う彼の姿が、一瞬、私の初めての友達と重なる。

 滲む恐怖が、身体の奥底で熱を持つ。勝てない?私は、勝てないのか?恐怖を餌に、また「怪物」が力を増す。意識が侵食される。均衡が、崩れ始めた。理性の制御も限界だった。私は知らなかった。恐怖という感情は、あまりにたやすく膨張する。

 もはや残りの体力など気にした様子もなく、赤瀬くんが仕掛ける。流れが変わったことを、彼も感じ取ったのだろう。勢いに任せた怒涛の攻めだ。圧倒的な手数を前に、私は後手後手に回る。

 つまらないミスが重なる。身体が急に精彩を欠き始めた。まるで他人の身体を操っているみたいだ。身に染み込ませるまで鍛え上げた格闘術がどこかへ消えてしまったような感覚。拳から、術理の制御が失われていた。丁寧に塗り込んだはずのメッキが剥がれて、獣の本性が露わになっている。恐怖に侵された私の個性は、理性のくびきを逃れて暴走を始めている。

 ああ、いやだ、いやだ、いやだ!私の身体が、私の手を離れていく。熱狂の渦はとどまるところを知らない。恐怖が私の足を絡めとり、私は身動きが取れない。それがさらに個性を暴走させる要因になっていく。悪循環の歯車は加速度的に回転する。呼吸が浅くなる。歓声が遠くに聞こえる。この感覚は知っている。よく覚えている。身体と意識が乖離する感覚。理性の鎖が引きちぎれる音がして。意識がどす黒く染まっていく。

 ――「怪物」が、私のすべてを乗っ取った。

 おもむろに振り抜いた拳。合理性のかけらもない獣の暴力。それまでとは異質な攻撃に、赤瀬くんは対応しきれない。吹き飛ばされ、膝をつく赤瀬くん。ここに来て過重強化のツケが回ってきたのだ。

 四足獣のように低くした姿勢から、「怪物」が走り出す。

 だめだ。

 猛獣のごとき動作で、間合いを潰す。

 逃げて。

 「怪物」は、有り余るエネルギーを完全に使いこなしている。この場、この時の熱狂すべてを集約した右拳。これは、人間の体が耐え切れるものじゃない。辛うじて残ったなけなしの理性が絶叫をあげる。

 止められない。止まらない。殺してしまう!私の力が、人を殺してしまう!!

 

「ああああああああ!!」

 

 喉を枯らす咆哮。空を切り裂く音。踏み込む左足。そして、やはり獰猛に笑う赤瀬くんの表情。一瞬ののち拳が交差して、私の記憶はそこで途切れた。

 

★★★

 

 ――あの日から、ずっと考えていた。仏頂面のヒーローが私に預けたあの言葉の意味。Plus Ultra、さらに向こうへ。向こうってどこだろう?向こうへ行って、何をするんだろう?

 考えても、答えは出ない。輪郭さえ見えなかった。でも、考えることをやめる気にはならなかった。

 中学に入ってからは、ことさらに一人でいる時間が増えた。私が通った中学校には同じ小学校の人が何人かいて、例の事件の噂がすぐに広まったことが原因で、友達はできなかったからだ。とはいえ噂が噂だけにいじめられるようなこともなかったし、いろいろ吹っ切れていたこともあって辛いとは思わなかった。

 一人でいるのは寂しかったが、楽でもあった。人との関わりが薄くなれば、感情の起伏もなだらかになる。自身の個性にトラウマじみた苦手意識を覚えていた私にはちょうど良いリハビリ期間になった。

 ずっと一人でいると、自然と考え事をする時間が長くなった。とりとめもないようなことを考えていると、まるで誰かに誘導されるみたいに、思考はいつもあの日に遡っていった。悔悟の念と決別するには、まだ時間が必要だった。

 個性に対して苦手意識を抱いたのは、薄々気づいていたからだろう。私とあのいじめっ子たちとの間に、本質的な違いなど無いということを。結局、巡り合わせの問題でしかないのだ。私があいつらみたいにならなかったのは、私の意思が強いからでも、私が生まれつき善性だからでもない。たまたまそういう風に事が運んだだけ。

 逆に言えば、私だっていつあいつらみたいになってもおかしくないということでもあった。そして、あのいじめっ子たちと違って、私がそうなったとき、私のことを止められる人間はそう多くない。そのことが、どうしようもなく怖かった。夢子ちゃんをぼろぼろにした奴らと同じになることは、私にとって死よりも恐ろしい堕落に見えた。それを防ぐ手段が、どうしても必要だった。いつ訪れるとも分からない「そのとき」を、ただ震えながら待つのは性に合わない。だから、自分から動く。私がはそう決めた。

 風穴を開けてくれたのは、仏頂面のヒーローが私に預けたあの言葉。Plus Ultra、さらに向こうへ。その合言葉が、私を雄英高校へ導いてくれた。

 

★★★

 

「なんか、懐かしいな」

 

 思わずそう呟いたのは、以前にも一度似たような状況を経験していたからだ。白くて清潔なベッドの上で、急に目を覚ますという経験。あの時と同様に、バラバラの記憶を組み合わせていく。

 

「そうだ、決勝戦」

 

 雄英体育祭。最終種目。赤瀬巡くん。そして、「怪物」。

 

「あ、起きた」

 

 そう呟いたのは、ベッドの傍らに腰掛ける彼。全身包帯だらけのくせに、やたらとピンピンした赤瀬くんの姿が、そこにはあった。

 

「なるほど」

 

「うん?」

 

「負けちゃったんだ、私」

 

「ああ、そして勝ったのはおれだ」

 

 冗談めかして、彼は笑う。本当に、心の底から嬉しそうに。

 

「そっかあ」

 

 ひんやりしたシーツが、背中に心地よい。かつての病室で味わったものとは真逆の、清々しい敗北感だった。時間をかけて味わうために、目を瞑ってみたり。

 それから、少し彼と話した。あの病室での対話とは違って、彼は自分のことも饒舌に語ってくれた。

 

「おれさ、君に憧れてたんだよ」

 

 照れ臭そうにそう言う彼は、決勝で見せた鬼気迫る様相とはかけ離れていて、年齢よりずっと幼く見えた。

 

「きみに会いたくて、ヒーロー科に行きたいと思って、頑張ったんだ」

 

 聞き方によっては愛の告白のようにも聞こえる言葉を、顔を真っ赤にしながら言い切る。個性を全開にしても、こんなに赤くはならないんじゃないかってくらい茹っていて、聞いてるこっちまで恥ずかしくなってきた。無論、彼にそのようなつもりはないのだろうが。

 

「……ねえ、聞いてもいい?」

 

「え?うん」

 

「どうして真っ向勝負でいこうと思ったの?」

 

 それは、試合中もずっと気になっていた点だった。個性の関係上、真っ向勝負では私に分があったはず。それを彼が考慮しないとは思えなかった。

 

「……見栄も、ある」

 

 また、恥ずかしそうに俯く赤瀬くん。

 

「だけど、自棄でやったわけじゃない。それが一番勝算が高いと踏んだから」

 

「どうして?」

 

「僕は過去に一度だけ、君の全力を目にしたことがある。その時のことを思い出したんだ」

 

 私が全力を出したのは、過去に二度だけ。一度は先程。もう一度は、あの事件のときだ。

 

「作戦の着想はそこから得た。仮に君の強すぎる個性に弱点があるのだとすれば、まさにその〝強すぎる〟点だろうと考えたんだ」

 

 つまり、彼は私の自滅に賭けたのか。感情を飽和させ、過剰強化に追い込むことで、かつての事件の日のようなスタミナ切れに追い込もうとした。

 控えめにいっても、正気の沙汰ではない。彼は私の全力がどれほどの威力を持つか知っていながら、その上で私に全力を出させようとしたのだ。

 

「きみはもっと慎重というか、策士なタイプだと思ってたんだけど」

 

「間違ってない。おれは小心者だから、どんなことにもふさわしいロジックがないと動き出せない。だから、色々と遠回りもした」

 

 それでも、赤瀬くんは動いたんだ。遠回りをしたのかもしれないけど、歩き続けて、掴み取った。

 

「最後のカウンターも、作戦の内だったの?」

 

 あの決勝の最後。私は、全力の右を叩き込む一瞬前に、彼の左フックを貰っていた。的確に私の顎先を掠めた理想的なカウンター。私の全力と彼の余力すべてを乗せた起死回生の一撃は、一瞬にして私の意識を奪い去った。

 

「まさか。思いつきだ」

 

「でも、狙ってたでしょ?」

 

 思い出されるのは、記憶の一番最後に見た光景。誰もが赤瀬くんの敗北を予感したあの一瞬、彼だけは自分の勝利を確信していた。

 

「……去年の体育祭の記録映像は、ヒーロー科対策のために浴びるほど見たんだ。A組とB組、合わせて四十人分、記憶に焼き付いている」

 

「だろうね。君はそういう戦い方をしていた」

 

 そう。彼は私以外のどの相手に対しても、明らかに勝つべくして勝っていた。だからこそ、私との試合で見せた愚直とも言える特攻作戦に違和感を覚えたのだ。

 

「去年のガチバトル。君はすべての試合で相手の切り札を受け切ったあと、必ず右拳の一撃でノックアウトしていた。世代最強にふさわしい横綱相撲だと、世間もマスコミもそう囃し立てていた。でも、そのパフォーマンスじみた一連の流れに、然るべき理由があるのだとしたら?そう考えたんだ」

 

「それで、名探偵くんの推理は?」

 

「相手の攻撃をあえて受けるのは、自らの感情を刺激して反撃を強化するため。右拳による一撃は、感情の昂りを発散するときの、ある種の癖なのではないか」

 

 私は、頷く代わりに天井を仰いだ。

 

「その癖をもしも任意のタイミングで引き出すことができれば、カウンターを叩き込めるかもしれない。出力で劣るおれがきみを上回る瞬間があるとすれば、その一瞬だと思ったんだ」

 

 脱帽だった。類稀なる推理力に、ではなく、推測に推測を重ねただけの代物に、自分のすべてを賭けられる精神性に、だ。

 去年も今年も、ヒーロー科の誰もが私との真っ向勝負を避ける中で、普通科の彼が最も早く最適解を導き出し、あまつさえそれを成功させてみせた。偉業だ。間違いなく、彼以外にはできなかったことだ。改めて、実感する。目の前の男の子は、私が越えようとも思わなかった壁を、いくつも越えてここまで来たんだと。

 Plus Ultra、さらに向こうへ。私の中でくすぶっていたその言葉の意味が、更新されたのを感じる。

 彼は、私とは全く別の道のりを踏破してきたんだ。私にはない強さで、私の強さを超えていった人なんだ。嬉しさが、体の奥から込み上げてきた。

 そうだ、彼だけじゃない。私と同じ道のりを歩いてきた人なんて、本当はいるわけない。みんな全く違う境遇に生まれて、全く違う個性を持って、全く違う起源(オリジン)を抱いてここまで来たはずなんだから。

 彼は、私にそれを教えてくれた。()()()()()()()()()

 

「そっか、そうだったんだ」

 

 私のなかでいろんなものが繋がって、辻褄が合った。

 ああ、私はまだはっきりと覚えている。赤瀬くん。きみの瞳は、あの日の夢子ちゃんの瞳だったんだ。

 

「赤瀬くん」

 

「なに?」

 

「ありがとう」

 

 私に大切なことを教えてくれて、私に大切な人を思い出させてくれて、ありがとう。今度こそ恥ずかしさが閾値を超えたのか、赤瀬くんはにひひと照れ笑いをしたのだった。

 一人になった保健室で、私はいろんなことを思い出している。私の人生を決定づけたいくつもの瞬間。私の価値観を決定づけたいくつもの言葉。たった十六年。何事かを為せたわけでもない人生だけれど、思い出してみれば記憶は繋がるものだ。

 明日からは、何をしよう。もう私は「最強」ではない。何から始めよう。ああ、わくわくする。こんな胸の高鳴りは、いつぶりだろう。今なら、どこへでも行ける気がする。私。私はどこへ行くのだろう。私にとっての「向こう側」はなんだろう。「向こう側」の反対側、「こっち側」には何がある?起源。私の起源(オリジン)はなんだろう。私が、最初に憧れたもの。瞳の奥の炎。

 

「元気に、してるかな」

 

 積み上がった記憶の一番上で、彼女がきらきら笑う。そうだ、まずは、もう何年も会っていない私の初めての友達に、会いに行ってみようか。




個性「心血」は主人公くん改め赤瀬巡くんのために考えた個性。考えた後に思ったけど、ぶっちゃけギアセカンドだよなあ、これって。

あと、本作の夢子ちゃんと賭ケグルイの夢子ちゃんとは何の関係もないのです。ただの偶然の一致。悪しからず。
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