深淵からの復讐者   作:豊田

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久しぶりの投稿です


走る疾風

 鬱蒼と生い茂る木々に陽の光遮られ薄暗い森の中。それらを掻き分けながら、ディーはチーグルの森をかれこれ数時間も彷徨っていた。

 

「ああ、もう疲れた。帰って酒飲んでゴロゴロ寝てえのに、ここ何処なんだよ」

 

 ブツブツ悪態をつきながらも歩くディー。

 この数時間。森を彷徨ううちに何十頭というライガルが襲ってくるせいで、思うように前に進むことが出来ず、ライガルの巣があると思われる森の奥に一向に辿りつけないのである。

 だが。

「ん? 光りが差してきたな、そろそろ抜けるかなっと」

 目の前の木々を掻き分けると、視界が開けディーの目の前には巨大な樹木が存在していた。

 

やっと抜けて出したから安堵の表情を浮かべると思いきや、ディーは巨大な樹木を見て深い溜息をついた。なぜならこの数時間、ディーが何度か森を抜けだすと必ずこの樹木が現れるのだ。樹木を目印にしたのだろうか、樹木の根元には切り傷がついている。何十個もの切り傷がついているのだ。

 

「なんで毎回ここに出るかねえ。迷いの森かここは」

 

 根本に腰を下ろし深い溜息をつくディー。余談ではあるがこのチーグルの森は迷いの森なんかではない。ただたんにディー自身が極度の方向音痴だからなのだ。……ディーはそのことを認めていないのだが。

 これからどうするか、そんなことをボーと考えていると微かにだが綺麗な譜歌がディーの耳に入って来た。その譜歌の旋律から、どうやら戦闘中のようだ。

 

「なんでこんな所で戦闘をってのは疑問だが、もしかしたら目的が一緒の奴かもしれねえからな」

 

 よいしょと呟いて立ち上がるディー。譜歌が聞こえる方へと駆け出した。

 

 

 

 

 譜歌が聞こえる場所へと駆けつけると、どうやら考えた通りのことが起こっていた。

 

「ん~アレ(・・)、ライガ・クイーンだよな。先越されちまったかあ」

 

 ディーの目の前には地面に横たわる数頭のライガルと、怒り狂って暴れるライガ・クイーン。それと戦っている朱髪の青年と亜麻色髪の少女がいた。

 

「あの朱髪たしかファブレ家の……ルーク様? いや、髪の色はもう少し濃かった気がするんだが。それになんでキムラスカの貴族がマルクトなんかに、それに」

 

 不思議そうに頭を傾げながら、戦闘中の二人を見つめるディー。その視線は亜麻色の髪の少女に向かっている。

 

「なんでオラクルの譜術師(フォニマー)なんかと一緒なんだ」

 

 しばしの間、気配を消しながら物陰に隠れて戦闘を観察していたが、ライガ・クイーンに押され劣勢となっていく二人。

 

「あ~あ、あの程度での実力でクイーンに挑むなんて命知らずだな。……アンタもそう思うよな」

「ええ、まったく持って同感ですね。見ちゃいられませんよ」

 

 ディーが話しかけると、今まで誰もいなかったはずのすぐ隣に眼鏡をかけた軍服の男いた。

 男の軍服から見てマルクトの軍人のようだが、その彼もディーの言葉に同意するようにやれやれと首を振っている。

 気さくに笑顔で話しかけるディー。同じように笑顔で応える軍人のようすはさながら友人にも見えるが、ディーのその手にはすでにサーベルの柄を握り軍人を牽制している。

 軍人もまたその手には槍を構え、すぐさま応戦できるようにしている。

 

「マルクト軍人の方がなんでこんな森の中に?」

「軍のお仕事ですよ。そういうあなたこそ、民間人がそんな物騒な物なんかもってこの森に」

「こっちもお仕事ですよ、軍人殿」

 

 そうですか、と朗らかに世間話している二人だが、お互い得体のしれない相手の隙を伺っている。

 

(たく、現状把握をしに来ただけなのになんかめんどくさくなってきたな)

 

 心の中で悪態をついていると青年の叫び声が聞こえてきた。

 どうやらライガ・クイーンに追いつめられ、半狂乱になっているようだ。やけくそ気味に剣を振り回しているのがその証拠だろう。助けに入った方がいいのだろうがすぐ隣にはマルクトの軍人がこちらの隙を伺っているので、動こうにも動けない。さて、どうしたものかとディーが考えているとあることに気づいた。

 

(オラクルの嬢ちゃん、なんか庇ってんな。ん? ありゃあ)

 

 ライガ・クイーンの注意を自身に向けている少女の後方には、物陰に隠れている緑髪の少年がいる。そしてディーは少年の顔に見覚えがあったのだが、本来ならこの場に居るはずのない存在なのである。

 

 しかし、この場に突然現れたマルクトの軍人が何故現れたのか予想がたてることが出来た。

 

「ねえ軍人殿」

「なんでしょうか民間人さん」

 気さくに話しかけるディー。

「俺の見間違いじゃなければ、あの二人の後ろに民間人がいますよね」

「そうですねえ」

「勇気ある民間人としてはほっとけないんですけど。軍人殿もそうですよね」

「ええ軍人として民間人を守ることは当然の義務です」

「ですよね」

「ええ」

 

 その言葉を最後に二人は物陰から飛び出し、ライガ・クイーンに向かって走り出した。

 

 

 

『相手がどんなヤツでもやられる前にやっちまえばいーじゃんか』

『ほー、では私にも?』

 

 ライガ・クイーンに追いつめられているルークは、自身の剣の師匠、ヴァンとの会話を思い出していた。ヴァンとの稽古ではよく防御を疎かにするのが悪いクセだ、と注意されていた。そのたびにルークは先ほどの科白を言っていたのだが。

 

(今の俺じゃ敵わない……師匠(せんせい)!!)

 

 始めての命を懸けた実戦、そして自分よりも実力が上の相手にすることで焦り恐怖するルーク。しかし命を懸けた実戦で意識を他のことに向ければ隙が出来るのは当然である。そしてその隙を見逃すライガ・クイーン()などいるはずもなく。

 

「ルーク!!」

「!? しまっ」

 

 亜麻色の髪の少女、ティアの叫びにルークがはっとすれば、ライガ・クイーンが自身に向かってその巨大な脚を振り下ろしていた。

 

 避けることが出来ないところまで迫っていたライガ・クイーンに脚。背後からティアの叫び声が聞こえているが、初めて体験する死の恐怖にルークは体を動かすことが出来なかった。ただ立ち尽くすルークにライガ・クイーンの脚が触れるか触れないかという瞬間。

 

「魔人剣・双牙」

 

 突如響いた声。それと同時に、飛んできた二つの斬撃がライガ・クイーンの脚を斬り飛ばした。

 ライガ・クイーンは脚を失った痛みに叫び声をあげながら、地面を転げまわっている。一体なにが起こったのか理解不能の事態に、訳も分からず茫然と立ち尽くすルークだったが。

 

「おら! 邪魔だよ、坊ちゃん」

「う、うわっ!」

 

襟首を引っ張られ尻餅をつくルーク。

 

「いってぇー! 何すんだおまえ!!」

「おっ、ワリぃな。坊っちゃん」

 

ルークが見上げる先には、悪びれた様子が一切ないディーの姿があった。

その様子に更に怒るルークは立ち上がりディーに詰め寄った。

 

「ざけんな! 全然謝る気ねえだろオマエ!」

「だー! あんま近くでギャーギャー喚くな、女かお前は」

「んだと! オレ様を誰だと思って」

「テメエみたいなガキなんざ知るかっ!!」

 

売り言葉に買い言葉。子供みたいな喧嘩をする二人を、呆れたように見ているティア。

 

「なにやってるのかしら、あの人たち……」

 

呆れながら二人に駆け寄ろうとした時。口喧嘩に夢中になっているディーの背中に飛び掛かっているライガルの姿がティアの目に映った。

 

危ない、ティアがそう言おうとした時、ディーは振り返ることなく剣を振るいライガの首を斬り飛ばした。

その一部始終を見て呆然とするルークを尻目に、意地の悪い笑みを浮かべるディー。

 

「謝りついでにコイツら片付けてやるから大人しくしてな、坊っちゃん(・・・・・)

「なっ!」

何やら後ろで叫んでいるルークを無視しながら、ライガ・クイーンの方へ振り返るディー。片脚を失い三本の脚で立つライガ・クイーンは怒りと殺意の篭った視線でルークを睨みつけている。

 

「ンな目で睨むなって、逃げやしねえよ……軍人殿!」

「ハイハイ、分かってますよ」

 

後方で構える軍人は譜術の詠唱を始める。それを感じ取ったディーは凶悪な笑みを浮かべると、二本の剣を構え、ライガ・クイーンに向かって走り出した。

 

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