「……すごい」
「なんなんだよ、彼奴ら……」
ルークとティア。二人は目の前で何が起こったのか理解できなかった。
さっきまでライガ・クイーンと戦っていた二人、その前に突如現れた男。男はライガ・クイーンの一撃からルークを助けると、一人でライガ・クイーンへ向かって行った。其処まではいい。其処まではわかるのだ。だがその後が分からない。一体何が起きたのか。二人は目の前に広がる光景が信じられず、ただ呆然と立ち尽くし眺めることしか出来なかった。
ーーそう。
「なぁ、もうちっとタイミング如何にか出来なかったか? もう少しで掠るとこだったんだけど……」
「アハハ、嫌だなぁ。避けられたからいいじゃないですか」
「いや! イヤイヤイヤ! いいじゃないですか、じゃねぇよ!! もう少しで大怪我、若しくは死んでたぞ! 分かる! オッケー!?」
「ま、結果無事だったからよかったじゃないですか。それに貴方なら紙一重で避けてくれると信じていましたよ」
「ウワー……ここまで胡散臭い台詞を吐けるなんてアンタ大物だわー」
「イヤー、それ程でも」
「褒めてねぇよ!?」
ルークとティア、二人の前で掛け合いをしているこの男たちが、首の無いライガ・クイーンの死体の前で漫才みたいな掛け合いをしているのだから。
「オラ、行くぞ!
怒りの咆哮をあげるライガ・クイーンに向かって駆け出したディー。小細工も無しに一直線に向かってくるディーに対してライガ・クイーンはその場にどっしりと構え、ディーを迎え撃とうとしている。
いや、迎え撃つことしか出来ないのだ。ライガ・クイーンは片脚をディーによって斬り飛ばされた事で走り回る事が出来ないのだ。最大の武器である機動力を奪われたライガ・クイーンには迎え撃つという選択しか出来なかったのだ。
だが、ライガ・クイーンは後脚で全体重を支え、残った片脚を振り上げると目の前に迫るディーに向かって、その爪を振り下ろす。
「ハッ! フンッ!」
「!?」
振り下ろされた爪をスレスレで躱すディー。そのままライガ・クイーンの懐に飛び込もうとするが、ライガ・クイーンは勢いをそのままにディーにその巨体をぶつけようと突進する。だがディーは姿勢を引くし、滑るようにライガ・クイーンの下を通り過ぎ、すれ違い様にライガ・クイーンの体を斬りつけた。
しかし、傷は浅くライガ・クイーンはすぐ様ディーを見据えると、力を溜め体を大きく振りかぶると、片脚を地面に叩きつけ衝撃波を発生させる。
「お?」
地面がぐらついた事でディーが体勢を崩す。ライガ・クイーンはすかさず体を回転させ、背を向けるディーに尻尾を叩きつけようするが、迫る尻尾をディーは片方の剣を斬り上げ、ライガ・クイーンの尻尾を斬り落とし、もう片方の剣でライガ・クイーンの後脚を切り裂く。後脚を斬られたライガ・クイーンはその場に体勢を崩した。
「そんじゃトドメといくか!」
「ッ!?」
「ッ! ぬわっ!?」
ディーがトドメを刺そうとライガ・クイーンに近づくと、ライガ・クイーンは首だけをディーの方へ向けると口を大きく開くと、サンダーブレスを吐き出した。寸前の所でブレスを避けるディー。
「うお! 危ねぇなぁ!」
「すいません! 準備出来ましたから発動しますので、上手く避けて下さいよ」
「は? 発動? へ? ちょ、ちょっと軍人さ〜ん?」
「狂乱せし地霊の宴よ! ーーロックブレイク!!」
「んなー!」
軍人は譜術を発動させると、譜術の光は大地を走り地面がひび割れていく。そしてひび割れた大地は盛り上がり、隆起した大地がライガ・クイーンへと突き出されたる。ーーディーを巻き込みながら。
「クソがっ! ふざけんじゃねえよあの軍人!」
軍人の発動したロックブレイクに巻き込まれたディーは、隆起し押し上げられる大地を飛び越え、足場にしながらライガ・クイーンへ駆け出す。ライガ・クイーンもロックブレイクがまともに当たり、ディーの接近に気付くのが遅れてしまった。
気付いた時にはディーは、ライガ・クイーンの目と鼻の先に迫っていた。だが、ライガ・クイーンもまた、ただでは殺られまいと再びサンダーブレスをディーへと吐き出した。
不安定な足場では避けることもままならない。逃げ道の無いディーがサンダーブレスに包まれ、黒焦げになる…………はずだった。
「舐めんなっ!!」
「!?」
ディーは叫ぶと同時に隆起した大地を踏み込むと跳躍した。そしてディーがさっきまでいた場所をサンダーブレスが虚しく通り過ぎる。
空を駆けるように翔ぶディーは、勢いをそのままに体を捻りながらライガ・クイーンの背を取る。そして。
「じゃあな。ライガルの女王様!!」
無防備となった首目掛け二本の剣を振るい、交錯する二本の刃は吸い込まれ。断末魔をあげる事なくライガ・クイーンの首を宙を舞った。
「よい……しょっと」
「おー! イヤーお見事です」
「……そりゃどうも」
空中で反転しながら無事、着地したディー。そんな彼にパチパチと拍手しながら近づいてくる軍人を怪訝な顔で見るディー、手に持つ剣を鞘に納めるとディーもまた軍人の方へと向かって行く。
それに続くように首の無くなったライガ・クイーンの体が仰向けに倒れていく。巨大な地響き音に遅れる事、数秒。
宙を舞っていたライガ・クイーンの首がルークとティアの元にポトリと小さな音と共に堕ちた。その死に顔は自身が死んだことにすら気づいていないようだ。
「すごい……」
「なんなんだよ、彼奴ら……」
軍人と男は未だに漫才みたいな掛け合いをしているのを、ただ呆然と眺める眺めるだけのルークとティア。
怒涛の展開で早過ぎる戦闘に目が追いつくことが出来なかった二人だが、ティアだけは気付いた。
(あの人……あれだけの戦闘だったのに無傷だ!)
ティアの目に映るディーの姿は無傷なのだ。ライガ・クイーンの間近で戦っていたのに衣服の乱れだけで、擦り傷一つ無いのだ。強力な譜術に巻き込まれたというにも関わらずにもだ。
そんな事を考えていたティアだったが。
(おい、おい! ティア!)
(っ!? な、何!)
(ボサッとしてんな! 彼奴らこっち来てんだよ! どうすんだよ!)
(えっ!?)
ルークに突つかれ、視線を向ければ確かに二人が此方に向かって来ている。軍人は胡散臭い笑みを浮かべ、ディーは不機嫌そうな顔つきで向かって来る。
そして二人がルーク達の前に着くと、四人の間に緊張が走る。ルークは喉をゴクリと鳴らし、ティアは後ろ手にナイフを構える。
そしてディーがポケットに手を入れ、何かを取り出しルークとティアの目の前に突き出した。
「はぁ?」
「え?」
二人の前に出されたのは、何の変哲も無い飴玉だった。
頭を傾げながらディーに視線を向ければ、本人は無邪気な笑顔を浮かべ喋りかけた。
「飴ちゃん食うか? 坊ちゃんに歌姫ちゃん」
次は何時になるかな?