深淵からの復讐者   作:豊田

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今年は最後の投稿かな


明日はどっちだ!

「ん? なんだ食わないないのか? 甘いぞ? 美味いぞ?」

「え……いや、あの……」

「はぁ!? ンなモン食えるかよ!」

「あっ……」

 

ティアは差し出されだ飴に戸惑っていると、ルークは怒声をあげながらディーの手を振り払い、飴が放物線を描いて地面へと落ちた。

その瞬間、ディーの手がルークの頭を鷲掴みにした。そして。

 

「何食いモン粗末にしてんだこのクソガキッ!」

「痛え! 痛えよ! 潰れる! 離せ! 離せよオッさん!」

「オッさんだぁ! 口の聞き方を知らねえガキだな! ……どう見ても俺は……お兄さんだろうが!!」

「ギャアアアアっ! 知らねえよンなこと! てか、どう見てもオッさんじゃねえか、って、痛え、痛えって! 出る! 何か出るって!」

「ルーク! ちょっと離して下さい! ……って、カーティス大佐! 見てないで止めて下さい!」

「まあまあ、いいじゃないですか。それよりこの飴、食べますか? なかなかどうして、いけますよ」

「ホントに口の聞き方を知らねえガキだな!」

「ギャアアアアッ!!」

 

頭を鷲掴みにされたルークは空中に少し浮いた状態で、痛みにもがきながら足をバタつかせている。

ティアもまたディーをルークから引き離そうとするが、ディーはビクともしない。

軍人は落ちた飴を拾い、我関せずといった感じでその飴を食べている。

暫くそうしているとティアは軍人に再度、助けを求めようとした時。

軍人が変な人形を背負った少女に何かを耳打ちをしている姿が目に入った。

 

「えと……わかりましたけど……本当にいいんですか?」

「はい、恐らくそれぐらいはしなければ」

「わっかりました〜! その代わりイオン様をちゃんと見張ってて下さいねっ」

「では、宜しくお願いしますね」

「は〜い。イオン様! 大佐と一緒に居て下さいね! 絶対ですよ!」

「分かりました。アニス、気を付けて」

 

何時の間にか軍人の隣には、緑色の髪の少年がいた。

少女は少年に手を振りながらその場から離れて行くと、軍人は何度か手を叩くとディーの方へと近づく。

 

「そろそろ話しをしたいので宜しいでしょうか」

「あぁ? ……チ、ほらっ」

「うわっ!?」

「ルーク!」

 

軍人に言われディーが手を離すと、ルークはそのまま地面に落ち、ルークが頭をさすっているとティアが駆け寄る。その二人を無視してディーに軍人と緑色の髪の少年が話しかけた。

 

「イヤー、本当に助かりましたよ。勇気ある民間人さん」

「本当にありがとうごさいます。おかげで助かりました」

「それ程でも……てか、お聞きしても良いですかね、軍人殿……いや、それとも死霊使い(ネクロマンサー)とお呼びしたほうがいいですかなジェイド・カーティス(・・・・・・・・・・・)大佐殿?」

「おや? 名乗った憶えは無いのですが」

 

名前を呼ばれる軍人、ジェイドは驚いた表情を浮かべる。

ディーは視線をティアへ送る。

 

「あの歌姫ちゃんがアンタのことを『カーティス大佐』と呼んだからな。それにそのマルクト軍の軍服に、あの強力な譜術を見ればアンタが悪名高き死霊使い(ネクロマンサー)だって分かるさ。違うか?」

「いえ、貴方の言う通りですよ。改めまして、ジェイド・カーティスです……気軽にジェイドと呼んで下さい、ファミリーネームにはあまり馴染みがありませんから。あなたは?」

「ああ、俺はディー、ただのディーだ。宜しく大佐(・・・)殿」

 

ジェイドが差し出した手を握るディー。

 

大佐(・・・)ですか……まあいいでしょう。ではディー、貴方が聞きたいこととは?」

「ん? ああ、人違いならいいんだが、そこにいるガキ……ローレライ教団の導師イオンじゃないんですか?」

「はい、貴方の言う通り。僕はローレライ教団の導師のイオンです」

「マジか……」

 

ジェイドの代わりに本人である少年、イオンがディーの質問に答え、ディーは頭を抱えた。

すると、回復したルークがディーに詰め寄った。

 

「テメェッ! オッさん何すんだよ!」

「何だ。まだ、口の聞き方が分かってねえ見たいだなぁ、坊ちゃん!」

「ルーク! いい加減にしなさい!」

 

再びルークの頭を掴もうとするディー。

そしてルークを諌めながら、庇うようにティアは二人の間に割り込んだ。

 

「すいません。彼、少し世間知らずの所があって、謝ります……ほら、ルーク貴方も」

「何でだよ! 何でこんな奴に謝んなきゃ」

「いいから!」

「ぬわっ」

 

ルークの頭を無理矢理下げるティアの姿を見て、溜息を吐くディー。

 

「いや、もういいよ。俺も大人気なかったからよ、だから頭上げてくれよう歌姫ちゃん」

「う、歌姫ちゃん?」

「ああ、さっきの譜歌。綺麗だったぜ!」

 

サムズアップをするディーに顔を引きつらせるティア。まだぎゃあぎゃあ喚いているルークを無視し、ディーはイオンに話しかけた。

 

「それで導師様。貴方は何故こんな森に?」

「はい。実はエンゲーブの村の食料盗難事件の犯人がチーグルだと聞いたもので、それで……」

「いてもたっても居られずに来てしまった、と言う訳ですか」

「はい……」

 

シュンとするイオンの姿を見て溜息を吐くディー、次にジェイドの方を見る。

 

「で、貴方は勝手に居なくなってしまったイオン様を探しにこの森へと来たと」

「そう言うことです」

「じゃあ、アレは(・・・)?」

 

ディーが視線を後ろにやる。その先には騒いでいるルークをウンザリした顔で宥めているティアがいた。

それを見たジェイドはやれやれといった感じるで眼鏡を押し上げる。

 

「さあ? 少なくとも私の知り合いではありませんね。心当たりはありますが……むしろ貴方の方が知っているんじゃないんですか、ディー?」

「……さあ」

「否定はされないんですね」

「肯定もしませんがね……大佐殿」

 

 

二人の間に不穏な空気が流れ出す。まさに一触即発といった感じの中。

 

「あの、ディー……さんでしたか?」

「ん? あー、はいはいそうですが」

 

不穏な空気を壊すようにイオンがディーに話しかけた。

 

「お礼を言うのが遅くなりましたが、助けて頂きありがとうごさいます、ディーさん」

「へ? あ、いやいや、そんなことありませんから、お気になさらずに」

「ですが……」

「本当にいいですから。それよりも導師様、顔色が悪いようですが」

「いえ、私は大丈夫ですよ」

「そんな訳ないでしょ」

 

やれやれといった感じに溜息を吐くジェイドは、厳しい視線をイオンに送る。

 

「医者から止められてたはずですよね。なのに能力(ちから)を使いましたね」

「すいません、ジェイド。ですが」

「お気持ちは分かります。しかしそれで民間人を巻き込んでしまった」

「まっ、大佐殿の言う通りですね。導師様には立場というものがありますから、今回の行動は軽率としか言えませんね」

「…………」

 

ジェイドとディーの二人に責められるイオン。イオンは何も言わず黙っていると。

 

「おい、お前ら。そいつ、謝ってんじゃねえか。もう許してやれよ」

「おお、意外だな? まさか坊ちゃんがそんなことを言うとは」

「そうですね。巻き込まれたことを愚痴ると思ったのですが」

(ホントに意外だわ……)

 

三人が本当に意外そうな表情を浮かべたが、いち早く表情を元に戻したジェイドが、イオンに話しかけた。

 

「まあ時間もありませんし、今はこれぐらいにしとおきますか」

「親書が届いたのですね?」

「そういうことです。さあ、とにかく森を出ましょう」

「駄目ですの。長老に報告するですの」

「ん? 誰かいんのか?」

「こっちですの」

 

ジェイドがそう促した時、気の抜けた声が足下から聞こえてきた。ディーが下を見ればそこには、青い毛の小動物がいた。

 

「んだコレ?」

「コレじゃないですの。ミュウはミュウですの!」

「しゃ、しゃべ、喋ったあ〜!?」

「これは……チーグルが人間の言葉を?」

 

青い毛の小動物、チーグルのミュウが喋ったことに驚くディーとジェイドの様子に、イオンはクスリと笑った。

 

「ソーサラーリングの力ですよ」

「ソーサラーリング?」

「チーグル族がユリア・ジュエとの契約で与えられたリングのことです。ほら、ミュウが身につけている物がそうです」

「これですの!」

「は、はーあ。不思議な物もあるもんだ……飴、食うか?」

 

イオンの説明を聞いたディーは不思議そうな表情をしながら腰を落とすと、ミュウと目を合わせた。そして、ポケットから飴を取り出すとミュウの前に差し出した。

 

「いただきますですの!」

「おう! ……どうだ、旨えだろ?」

ふぁい(はい)ほいふぃいでふお(おいしいですの)!」

「そうか!」

 

ほっぺを飴玉の形に膨らませながら、美味しそうに食べるミュウの様子を微笑ましくディーが見ている。

するとミュウは今だに騒いでるルークの元へ走ると、ルークの頭の上に嬉しそうに飛び乗った。だが更に機嫌を悪くしたルークはミュウを踏みつけ蹴り飛ばす。

見かねたディーが駆け寄ろうとした時、イオンに話しかけられた。

 

「ディーさん。今から僕たちはチーグルの住処へ行きますが、貴方は如何されるのですか?」

「いや、俺はこのままエンゲーブに戻りますよ。ローズさんに事件解決の報告しないといけないんで」

「それは残念。貴方ほどの実力者がいれば何かと安全なのですが」

「少しも残念そうには見えないんですがね」

 

ジェイドの様子に顔を引きつらせるディーだったが、今日何度目かの溜め息を吐いた後、出口に向かって歩き出した。

 

「まっ、もう会うこともないでしょうしね」

「そうですか。またすぐ会えると思いますがね、私は」

「ご冗談を。それでは導師様に大佐殿、会えて光栄でしたよ」

「僕もです。お気をつけて」

 

言葉を交わしながら、ディーは振り向かずに手を振りながらその場を離れていく。

 

「ディーさん」

「? なんですか、大佐殿?」

「出口。そちらじゃありませんよ」

「え? ホントに」

「はい」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

ジェイドに森の出口への道を教えてもらい、何とか出口へと辿り着いたディー。行きとは違い、帰りはスムーズに辿り着き、あとは帰って寝るだけだと考えていただけだったが。

 

「いや、どういう状況だよコレ」

 

ディーが出口に辿り着いた瞬間、狙いすましたように武装した兵士達がディーを取り囲んだのだった。

あまりにもの多勢に無勢に抵抗する気も起きないディーは両手を挙げている。

 

(俺なんかやったかな? まさか、あの件か。いやもしかして貴族令嬢に手を出した件か! イヤイヤイヤ、あのことかも……)

 

ああでも無い、こうでも無いと心当たりを探していると、兵士達の間を割って小柄な少女が現れた。

 

「どーもー」

「ん? あ、ああ、どうも」

 

突如現れた少女に面食らうディー。しかし少女はディーの様子に御構いなしに自己紹介を始めた。

 

「わたし、イオン様の導師守護役(フォンマスターガーディアン)

のアニス・タトリンて言います。気軽にアニスちゃんって呼んで下さいね!」

「はあ……」

「実はですね。大佐からの指示で貴方を拘束させてもらいすねぇ」

「はあ……はあ!? 待て待て待て待てっ! なになに大佐! 大佐ってまさかジェイド・カーティスのことか!」

「は〜い! 正解でーす!」

 

展開に頭が追いつかなかったディーだったが、ジェイドの名前でた瞬間、眼鏡を光らせて微笑んでいるジェイドの顔が浮かび、ふつふつ怒りが湧いてきたのか、空を見上げると澄み渡った青空に向かって。

 

「ザケンナッ! あの腐れ眼鏡がぁっ!!」

 

ディーの叫びが響き渡った。

それからすぐ後。

 

「ほら、私の言った通り、すぐ会えましたね」

「どの口がホザいてるんですかね」

「この口です」

 

青筋を立てたディーと余裕の笑みを浮かべたジェイドは再び出会った。……鉄格子ごしの再開だが。

 




では良いお年を!
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