目をつむれば必ず見る夢がある。
俺の見る夢は必ずと言っていいほど悪夢だ。
今見てる夢は大切な仲間と酒を呑んで、馬鹿をして、喧嘩して、大声で笑いあう、そんな夢。
こんな当たり前なことが幸せだと思う。
永遠に続けば良い、そう思う。
だけどこれはただの夢。こうあればいいと願う俺の願望。それが形になったけどただの夢。
幸せな夢なんか俺に見る資格は無いのだから。
だからこの夢の終わりも決まってる。
唐突に俺の世界は黒く染まる。
感情のこもらない冷たい嗤いが聴こえれば。
十三匹の魔物が黒い闇から這いずり出て。
笑っていた俺の仲間たちを血に染めあげる。
ある者は首の骨を折られ
ある者は業火に焼かれ火達磨に
ある者は額を撃ち抜かれ
ある者は串刺しに
ある者は吊るされ
ある者は斬り捨てられ
ありとあらゆる方法で、俺以外の仲間が無残に殺される。
仲間の断末魔が聞こえるなか、俺はその場を動けず、ただ必死に必死にもがいていた。
何かに縛られたかのように動けない俺の前で、次々と、次々と、次々と仲間が殺されていく。
必死に手を伸ばそうとする。
何度も何度も助けようと抗う。
だけどそれでも俺の体は動かない。
そして最後、動けない俺の前に一匹の魔物が現れて、俺を切り伏せる。
斬られた俺は底が見えない暗闇に堕ちていく。
最初から地面など無かった様に、真っ逆さまに堕ちていく。
朦朧とする意識の中、深淵に堕ちていく中でも、俺の耳には仲間を殺した魔物どもの嗤い声が木霊する。
そこから先は意識が覚醒するまで同じ。
止むことない嗤いを聞きながら。
堕ちていく
堕ちていく
堕ちていく
堕ちていく
堕ちていく
暗い暗い闇の中を
ただただ、ただただ堕ちていく
忘れることは許さない。
悲しむことは許さない。
恐れることは許さない。
逃げることは許さない。
為すべきこと為すために。
償い続けるという罰のために。
懺悔も後悔も必要ない。
名前を喪ったあの夜から。
帰る場所を奪われたあの日から。
ただ、ひたすら
そんな、そんな、そんな、そんな俺の
◇◆◇◆◇◆◇◆
「……チッ」
覚醒したディーは苛立ちを隠さずに舌打ちをした。額にはうっすらと汗が流れている。
いつになったら慣れるのか。いや、いつになったら
「〜ッ!! あーッ! もうッ!!」
その思いを掻き消すように、頭をボリボリと掻き毟るディー。
「おい、大丈夫か?」
「あ? ……誰、お前?」
鉄格子越しにディーに話し掛けたのは、軍服を来た金髪の青年だった。
軍服からマルクト軍の者だと察したが、なぜマルクトの軍人が、と言う疑問が浮かんだが、すぐ様眠る前の事を思い出したのか「あ〜」と呑気な声を上げるディーに、不機嫌な顔になる青年。
「おいおい、そんな顔すんなって。寝ぼけてただけだろ? え〜と……確か…………ユンケル……曹長だったけ?」
「ハインケルだっ!! クリストフ・ハインケル曹長!! 馬鹿にしてるのか、貴様!」
「してねえって」
顔を真っ赤にしているハインケルに落ち着けと言いながら笑うディー。
暫くして、ディーは幾分か落ち着いたハインケルから視線を鉄格子の入り口に移した。
「……ホントに開けぱっなしなんだな」
「なに?」
「コレだよ、コ・レ」
ディーは笑いながら開けたままの鍵を指差した。
「大佐の命令だからな」
「いやいや、命令つったって普通開けぱっなしにするかぁ? こんな得体の知れないやつを自由にしとくなんて、大佐殿は何を考えてんだか」
肩を竦めて呆れるディーは、今度はハインケルをビシッと指差す。その顔は笑っているが、目は笑っていなかった。
「お前さんもだ。馬鹿正直に命令に従って見張ってるだけか」
「…………」
「それに俺を心配したよな。甘すぎる」
「…………」
「 鍵もしなけりゃ拘束もしねえ。その気になればお前さん一人ぐらいどうにでもできるんだぜ、俺は」
さっきまでの笑みを消して、厳しい表情をみせながらゆっくり首を掻き切る仕草をする。
貴様などいつでも殺せる、そう言葉なく脅すディーは沈黙したままのハインケルに更に畳み掛ける。
「軍人ってのわよ、任務中は一時たりとも気を抜いちゃいけねえ。一瞬たりとも甘さを見せちゃいけねえんだよ。……それは見せれば、死ぬのはテメェだ。それにな」
ディーの頭に
「上からの命令は確かに絶対だ、だけどそれが全てじゃねえ。軍人である前に人間だろお前さんは。だったらその頭でしっかり考えろよ」
言い切ったディーとまだ黙っているハインケル。静かになる部屋の空気だが。
「だが、貴様はしなかった」
「はあ?」
その空気をハインケルが破った。
「確かにお前の言う通りだ。俺もそうするべきだ、と言ったんだがな」
「だが?」
「“彼はそんな卑怯な事をする人間ではありません”そう言って、拘束は必要ないと大佐は判断された」
「…………」
ハインケルの話しに口が塞がらないディー。
「あの人の言葉を一から十まで聞くわけじゃないし、判断が全て正しいとは言わない。それでも……
純粋で真っ直ぐな瞳でディーを見るハインケル。その瞳の力強さにディーは笑みを浮かべ。
「そうかよ」
そう言って部屋の小さな窓から、青空を見上げた。
次回はスキットです
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