あまり関わりが上手くない提督が鎮守府に着任するお話   作:木啄

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 こんにちは、木啄です。

 更新が遅れて申し訳ありません、少しばかり現実世界が忙しく、なかなか執筆ができなかったという現状です。


 未だ回復中というわけで、また回復しだい投稿速度を上げていきたいと思っています。
 よろしくお願いします。

 「鎮守府のおやすみ」 次のお話でラストです

今回も後半にて新しい子が出てくるそうです。
前回の時間を見たら誰が登場するのかお察しかもしれません

それでは



その10 鎮守府のおやすみ その2

昼下がりの午後、提督と工場長は工廠で他愛もない会話をしています。

 

というのも、やれ武器の整備はこうしていきたいという他に、これからの艦娘の運用に関して等々、これからの鎮守府の進め方を吟味しあっている様子です。

 

「とはいえ、数をいきなり増やしすぎても、運営体制が整っていない以上、徐々に増強していく・・というのが無難なところでしょうね」

 

「あぁ、その為、今回の建造が成功すれば、海域の出撃任務等も行っていきたいと考えてはいる・・此処は”鎮守府”だからな」

 

 そう、深海棲艦によって奪われた海域を、再び人間の元へと戻す為に戦っている。

 

 表面的に穏やかな生活をしているかもしれないが、今現在、遠い海で戦っている同胞がいるということを忘れてはいけない。

 

「しかし提督さん。そんな気難しい顔をかんむすさんたちの前ではあまりしてはいけません。せっかくの休日、怖がらせてしまいますからね」

 

 さり気ない工場長の言葉に、思わず固い表情をしていた提督は面食らったかのように若干申し訳なさそうな表情をして、視線を下に向ける。

 

「・・・時々、彼女たちの期待に私は不安になることがある。」

 

「期待ですか?」

 

 あぁ、と提督は頷いて、窓から差し込まれる光をじっと見つめながら、提督はゆっくりと・・何処か言葉を模索するようなそぶりを見せながら口を開く

 

 

「あの子たちは、深海棲艦と戦う為に生まれてきた存在、彼女達は常に死と隣り合わせ、下手をすれば轟沈してしまう可能性もある。」

 

 だからこそ、提督という存在が、彼女たちを導いてやる必要性がある訳で。

 

「・・だが、私は所詮生身の人間しか扱ったことがない・・というと語弊があるかもしれないが、所謂軍人だ。幼い女の子たちと接したことなど無くてな・・」

 

 しかし侮るなかれ、艦娘はその辺の男たちよりも力を持っています。

 見た目は可憐、力は怪獣とまでは行きませんが、怪力。

 

 薔薇には棘があるものです。

 

「大丈夫ですよ。あなたなら、彼女たちは信頼してくれています。このボクが言いますから、間違いはありませんよ。」

 

 ”妖精さん”である工場長がしきりに頷くものの、提督は今一理解出来なかった。

 何故妖精さんに懐かれるから艦娘に信頼されるのだろうかというのを。

 

 

「その・・なんだ、工場長、妖精さんに懐かれる事と、艦娘に信頼されるということは・・何か関係でもあるのか?」

 

 提督が質問すると、再び工場長があの意味深なウィンクをします。

 

「そのうちわかりますよ、分からなければその都度お教えします。」

 

 ”今はそれで我慢してください、提督さん”と、工場長は楽しそうに笑う。

 

 そんな妖精さんをみて、提督は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

・・・。

 

「さーてと、鎮守府にご到着っとお。」

 

一方、買い物袋を沢山持った4人の艦娘は、食堂に一先ず買ってきた荷物を下ろして、それぞれ休憩を取り始めます、と言っても。

 

「中々に大漁でしたね!大潮、また行きたいです!」

 

「はい、そうですね大潮。このような買い物をするというのも久しぶりかもしれません」

 

「買い物・・・ね、中々レディーみたいな感じで悪くなかったわね」

 

買い物袋の中身をそれぞれ出しながら他愛もない会話を始めるというのが、彼女達の所謂休憩みたいなものです。

「そう言えば天龍さん。」

 

「ん?どうしたよ、暁。」

 

  買い物袋から野菜を取り出しながら不思議そうに首をかしげつつ、暁は尋ねてみます。

 その内容というのはー

 

「”天龍さんって料理出来るの?”」

 

 数秒の間、沈黙が空間を支配します。

 

 因みに、会話が突如途切れて、沈黙が訪れることを、人は「天使が通る」と言うようで、今現在きっと天使が彼女達の間を通り過ぎて行ったのでしょう、多分。

 

「あ・・えーと、俺?あー・・朝潮とかどうだ。」

 

 朝潮に対して無茶ぶりをする天龍、しかし、朝潮も今一といった表情を浮かべています。

 

「すみません天龍さん。私は・・その、料理の経験がとても乏しくて・・ちなみに大潮も確か・・だめでしたよね?」

 

 ”私がだめなんだから妹の大潮も恐らくダメでしょう”という発想に、大潮は一瞬

”えっ!?”となってしまいますが考えてみると実際料理と呼べるものが出来ないのも事実。

 

「はい・・大潮も出来ません・・しゅん」

 

 と、正直なんとも言えない胸のもやもやを抱きつつも返事をする大潮、しかし、姉の無茶ぶりにも正直に答えてくれるのが大潮の良さでもあり、この後こっそり大潮のところに詫びのお菓子をプレゼントする姉の朝潮でした。

 

「ま・・しゃーねえ、なんとなるだろ・・!!提督がいる訳だしよ!」

 

「そういえば司令官がいらっしゃいませんね。お部屋でしょうか?」

 

「かもしれないわねっ。お願いしてみる・・?司令官なら料理できるのよね?」

 

 暁の言葉に頷く朝潮、というのも、二人きりの時は基本調理は提督が行って・・いや、今現在もそれはあんまり変わらず、ついでに妖精さんが来てくれたので、多少楽にはなっているらしく、提督と艦娘、そして妖精さんが朝昼晩のご飯を担当している。

 

 ちなみに主に補佐してくれるのは朝潮と大潮で、基本的にお野菜を切ったり、洗ったりというサポートをしてくれていて、その二人に続いて暁もお手伝いをするようになってきているとかなんとか。

 

 暁曰く「これもレディーのたちなみ!!!」だそうです。

 

 天龍は二人の演習の教官をしている疲れからか、ご飯まで仮眠をとることがしばしば。

 起きているときは提督の料理しているところを見に遊びに来たり来なかったり・・というのが3人の間でのやりとりらしいですが。

 

 実際の所は、明日の演習や訓練内容をどうしようかといったところを考えていたり、提督の所に相談をしに行ったりしているようですが、それを朝潮、大潮、暁の3名には秘密にしていたりしています。

 

「それじゃあ行くとしますか・・!」

 

 ”おーーっ!!”と元気よく3人が返事をして、司令室の隣に設けてある私室へと足を運ぶ4名

 

 その一方で提督は、新たな艦娘が誕生する所を目の当たりにしようとしていました。

 

「提督さん、ポッドから生命反応です。そろそろ誕生します!」

 

「あ・・あぁ。」

 

 無機物な物から、新しい命が生まれるという事実に、未だ戸惑いを隠すことは出来ない。

 

 だけどもし彼女がそれを受け入れてくれるのであれば、きっと素晴らしい仲間になることに変わりはないだろうー

 

「圧力そーちかいじょー。かんむすさん、くるですー」

 

「まもなく扉がひらくです。こうじょうちょー」

 

 部下?の妖精さんたちがえっさほっさと動き回る中、工場長はまっすぐとこちらを見る。

 

「・・本来であればこの儀式も、以前大本営で行った時は、すべて失敗していました」

 

「・・失敗?」

 

 工場長はその可愛らしい表情から読み取れはしないものの、真剣に話をしているということは提督にも理解できた。

 

「何が理由だったのかも不明です。作られた物体はすべてごみの山で、かんむすさんとよべるものはありませんでした」

 

 工廠の中が騒がしくなる中だというのに、この二人の間に取り巻く空気だけは、とても静かなものでー。

 

「ですが、元帥さんがこう言っていました。あいつなら出来る。と」

 

「・・私なら・・?」

 

「はい。」

 

 工場長はゆっくりと頷き、笑顔になる。

 

 ”どうやら、その答えは本当のようだったみたいです”と、工場長は笑うとー

 

「パッチひらきまーーす」

 

 妖精さんの声と共に、あの大型の機械の扉から蒸気が吹き出しては、ゆっくりと扉が開かれていく。

 

「だからこそ、刮目しなければなりません。

 彼らでさえ成しえなかったことを、今、私たちはしているのです。」

 

 工場長の言葉と同時に、濃い蒸気の中から、その姿は現れる・・それは

黒い髪の毛、後ろで一つに纏められ、凛とした佇まいをする彼女。

 

 落ち着いたその表情、そして背中には大弓を携え、左腕には艦載らしき物を身に着け、口元は若干の笑みを浮かべながら。

 

 白い、青い海に映えるかのような雲のように白い軍服を身に着けた鎮守府のリーダーたる提督である神楽暁を、その純粋な瞳がじっと見つめる。

 

「・・艦載母艦、”鳳翔”と申します。小さな艦ではありますが・・よろしくお願いしすね」

 

ー”提督”。

 

 そう言うと、暁の時とは全く違う雰囲気の”鳳翔”は、ゆっくりと、そして礼儀正しくも

提督に頭を下げている。

 

「さ、提督さん。新しいかんむすさんにご挨拶ですよ!」

 

「む・・・うむ。分かっているとも」

 

 帽子を再びしっかりと被りなおして、今まで話したことが絶対ないであろうタイプである鳳翔という人物と会話をする為。

 

 提督の決断は迫られる。

 恥ずかしがらずに、しっかりと挨拶ができるのか・・それもできないのかをーーー

 

「私は・・暁、この鎮守府の提督をしている・・神楽暁だ、鳳翔さん」

 

「あら・・ふふっ。私も・・何となくですが・・貴方が提督なのではないかと・・無意識のうちにそう思ってしまいました。お間違いなくて良かったです、提督・・あとそれと。」

 

 鳳翔はいったん言葉を止めて、困ったような笑みを浮かべながら提督をじっと見つめる。

 

「私の事は”鳳翔”とお呼びください・・提督。私は貴方の艦ですから」

 

「む・・ううむ・・そ、そうか・・それでは・・その・・」

 

 なんてまどろっこしいんだあのヘタレ提督は、なんて言ってはいけません、これでも努力を重ね、そして日々イメージトレーニングを行い、朝潮と会話を交わして少しずつであるものの対話するコミュニケーション能力を上げています。

 

 今大切なのは羞恥心を捨てることである、そう判断した提督は、真っ直ぐ鳳翔を見つめ、気が付くと彼女の無意識にそっと掴んでー。

 

「よろしく頼む、鳳翔」

 

「あ・・・はいっ・・ふふ。頑張ります♪」

 

 どこか頬が桜色に染まる彼女を見て、”落ちたな”とつぶやく一部妖精さん。

 慌てふためく提督と、そんな提督を見て楽しそうに笑う鳳翔を遠目から見つめる工場長、そしてふと、工廠に誰かが入ってくる気配を感じ取り、誰だろうかと視線を向けると、再び工場長の口元がにんまりと笑顔になった。

 

「やーーっぱりここに居たぞー!!!」

 

「流石天龍さんですね!!司令官の事ならなんでも分かっていそうです!」

 

「あ、朝潮だって工廠にいらっしゃるのではないかと思っていました・・!」

 

「おなかすいたぁー暁はご飯が食べたいの!司令官!」

 

 4人の騒がしい声と共に、更に騒がしくなる工廠。

 

「む!?もうそんな時間なのか・・!」

 

「あらあら・・私でよければお手伝いしましょうか・・?」

 

 軽いパニックになっていた提督もハッとするように時計を見ると、もう夜になろうとしている事に気付く。

 

「そいつあ助かる・・ってうお・・!新しい艦か?」

 

「おおおー!!!凄いじゃないですか司令官!!!これはぱーっとあげあげですよー!」

 

 朝潮や暁もそこに加わり、今日はぱーっとパーティーでも開きましょうという展開になりつつある今現在。 

 

 まだまだ鎮守府のおやすみが終わることがないでしょうなぁ、と楽しそうに笑う妖精さんであったのでした。

 


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