あまり関わりが上手くない提督が鎮守府に着任するお話 作:木啄
暁提督が体調不良の最中に行われた艦娘の建造が完了しましたよ! と工場長からの連絡が入って、提督である私は秘書艦である朝潮に執務室で書類のダブルチェックを任せて、一人工廠…もとい”妖精ふぁくとりー”へと足を運ばせていく。
私、神楽暁は道を歩きながら、ふと建造について考えてみる
(艦娘の建造は、記憶や思いといった思念を汲み取り、そこから妖精さんの技術によって人としての形によみがえらせるという技術)
例えると、この神楽暁という男に対して思念を抱いているのではなく、提督という存在に対して何か思っていた艦としての心や、その艦に搭乗していた人々の思念も含まれているのではないだろうか、ということ。
つまり艦娘とは、思いの結晶や思いの力。そういった不可視的な力を備えた存在という事になる。
(ならば、朝潮や天龍に大潮も…)
彼女たちの潜在的な思いに応えるように、艦娘としての力を開花させたという事になるのだろうか。
人と人との交わりに、人の抱く思いの強さにはまだまだ分からない事が沢山ある、そんなことを考えつつ、工場長の待っている工廠へ辿り着いて、中に入るや否やー
「きましたきました、提督さんきました」
「ふっかつー提督さんふっかつしたです?」
「やっぱりあのおくすりはききますねえ」
いつもの元気な妖精さん達に出迎えられながら、奥でぷらんぷらん足を動かしのんびりしている工場長がこっちに手を振っています、もうここまで出迎えるという事もせず、あぁおかえりみたいなニュアンスなんでしょう。
提督としての威厳が無いのだろうかと若干複雑な心境を抱きながら、装置の近くに歩み寄って
「はーいよくきてくれました提督さん!妖精ふぁくとりーへようこそ!」
「あぁ。今日もよろしく頼むよ、工場長」
恒例行事となりつつあるこのやり取り。流石の提督も慣れてきたのでしょう、軽く会釈をするように手を動かして、装置に視線を向ける。
「大分我々も慣れてきましたね、提督」
「どうだろうな…。まだ私も半人前だ、君たちのように達観している訳ではないさ」
「ふふー、そうですねえ。ボクも何もかもを見通しているわけじゃあありません。この装置だってまだまだ可能性がありますし、どうやって改造していこうかまだまだ模索している段階。」
なので、”ぼくたち”も提督さんとあまり実は変わらない心境だったりするんですよー。
そんな風に言う工場長の表情は、どこか凛々しさを感じて。
「…さて!それじゃあさっそく御開帳としますか?気になるでしょう?今回は提督さんではなく、秘書艦の朝潮が行った建造になりますからね。ぼくたちもどんな結果になるのか分からんのです」
あぁそうか、いつもは私自らが行っている為、どの艦娘と邂逅を果たすのかは不明だが、”提督”という存在とつながりを持つ艦娘が建造される可能性が高いという事。
ならば今回は?
「朝潮型の可能性もある。ということか?」
「十中八九そうだとは言い切れませんが、可能性としては高いでしょうなぁ」
「なるほど」
提督がそう言うと、妖精さん達は集まって、装置の操作を始めていくー。
「ロックかいじょー げんあつかいしー」
「ぷしゅっと蒸気解放ー空気圧正常ー」
「艦娘さん反応かくにん。パッチひらきまーす」
激しいモーターの稼働音と共に、重厚な機械の扉が開かれて、中から海水が零れるようにしてそとに流れていく。
「さぁ、でてきました。あなたの新しい仲間です。ていとく」
「…ん…んん…」
その制服はどこか朝潮や大潮と似たような物、髪の毛は銀色の美しい毛並みで、閉じられた瞼がゆっくりと開かれて、その瞳は真っすぐとした意思を感じられる、彼女の名前はー。
「…私は、霞。朝潮型駆逐艦よ。」
一体何の因果なのかは分からない、しかし彼女もまた朝潮型の一人。その面影は確かに長女と似ているものがある
「私は暁、神楽暁。この鎮守府の提督をしている…。よろしく頼む」
「あなたが司令官ね?ふぅん。…まっ、よろしく頼むわ」
こうして、新しい姉妹と、そして。朝潮にとっては懐かしい妹との邂逅
ー。
「さて、という訳でまた一人新しい仲間が来てくれたわけだ」
「…朝潮姉、なのよね。」
工廠から執務室に場所を移し、そこに艦隊メンバーを招集。
朝潮や大潮含めた朝潮型と、暁に天龍、そして鳳翔が居る。
「…はい。私です、霞。何でしょう…とても懐かしいような、そして貴女に会えて"心"がとても嬉しいって言ってる…ふふ、またこうして一緒に居られるんですから、嬉くない訳ありませんね」
にこっと笑みを浮かべる朝潮に、表情がどこか硬い霞が反応するように表情を和らげ、安堵の表情を浮かべながら朝潮や大潮に歩み寄る。
「…!…そ、そうよね。んんっ!また朝潮姉さん達と一緒に戦えるんだもの!私も嬉しいわ!」
「えへへ!大潮も嬉しいです…!とても、とっても嬉しいですっ!あげあげです!あげあげ!」
「も、もうっ、大潮姉さんたら、大げさよ…ふふっ」
ガンガンついてきなさい!! そういって彼女は姉妹達と懐かしくもそして新しい出会いを果たす。
皆がそれぞれ嬉しそうに笑っている中、どこか寂しそうな目をしている艦娘が一人だけ、そこには居たー。
「…?」
・・・・。
・・・・。
お祝いと称して簡単ではあるものの食事会を開き、皆でわいわいしている最中、少し外の空気を吸おうと外に出ると、空を眺める天龍がそこに立っていて、提督を見て軽く手を挙げると、提督は天龍の隣までやってきて。
「…よっ、提督。楽しんでるか?」
視線を空から提督に向けてそう言うと、提督もまた頷きながら返事をする。
「まぁな。天龍、君はどうだろうか」
ーぼちぼちかな。
そう言う天龍の表情はどこか憂いを帯びるような、楽しそうに笑っていた先と比べて、どこか儚げで寂しそうな眼をしていて。
「…何かあったのか。さっきもそんな目をしていたな」
「…別になんでもねえさ、って、見てたのかよ…。」
少しだけ驚くさまを見せながら、これは隠し事できねえなと苦虫をかみつぶしたような表情をしたと思うと、また視線を伏して…。
「ただ…なんだろうな。あいつらを見てると、俺にも妹が居るんだよなって…思ってさ」
天龍型軽巡洋艦二番艦"龍田”。おそらく天龍は彼女の事を言っているのかもしれない。
「野暮な質問だが…天龍も会いたいか、その…妹に。」
提督の質問に対して、少しの沈黙の後、んー…と声を漏らす。
「んー…どうなんだろうな。俺はほら、もともと人間の転生組で、人としての記憶もある。だからこう…言葉では言い表せないけどさ、やっぱり会いたいと思う。これは俺の意思でもあるし、俺の”心”の意思でもある」
「…そうか。」
人としての心、艦としての心。二つの心を持つ彼女故の気持ちの表れなのかもしれないと提督は感じた。
「…へへ、妙だよな。こんなこと話すの初めてなんだよ。俺、変なのかもな」
「…変じゃない」
へへっと笑う天龍に、きっぱりと否定の言葉を放つ提督の表情はとても真剣なもので。
「君の心を聞く事が出来て、私はとても嬉しい。その気持ちはとても大切な物、人の思いも…艦としての思いも、とても大切な物だと思っている…、だから、だから私は…。天龍、君の”心”を心から尊重する。」
普段のかたぐるしい表情とは変わって、とても柔らかい笑みを見せる提督を見て、天龍は目を丸くする。
あぁ、こんなところにきっと他の奴等も心奪われるのかもしれないな、そんなことを考えている自分に驚いた天龍は慌てて髪の毛をかきむしるような仕草をして
「…あーもう!お前と話していると顔が熱くなるんだよな!!!お、俺もう戻るぜ!!」
「む…!?そ、そうか?わかった、また後でな。天龍」
「お、おう。あんまり外に居んなよな、寒いしさ」
そう言い残して扉の前まで駆けてい行き、開けようと取っ手に触れてから数秒の間が流れる。
そんな様子の天龍を見て、不思議に思っていると。
「…ありがとうな提督。俺、すごく嬉しい。これからも頑張るからさ。いつか絶対俺にも会わせてくれよ!可愛い妹にさ!!」
くるりと振り返り、ありったけの笑みを浮かべてから中に入っていく天龍を見てー
提督は一人「もちろん」と答えた。
…その後、何気なく建物の中に戻ると、先よりも明るく、元気な天龍がそこに居て。
そんな天龍に感化されたのだろう、他の艦娘達も嬉しそうに笑っていて…霞はまだどこか戸惑っているが。
しかし、そんな彼女たちを眺めながら、提督は嬉しそうに笑みを浮かべた。