結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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我慢出来なかったので書きました。やりました。




勇祐の章
第1話 それは物語の1ページ目以降の話


 結城勇祐は夢を見ていた。

 暗い世界。真っ赤な焔が燃えては消えていく世界。そこに彼は1人、たった1人で立っていた。

 

【時は来たり】

 

 声が聞こえた。

 

【正常稼働】

 

 平坦な、抑揚のない声が響く。

 

【征け】

 

 この言葉の意味は分からない。

 

 だから、彼はこれをただの夢だと思うことにした。

 ただ意味のない、脳が見せる幻覚なのだと、彼は思い込んだ。

 その意味と、声の主の事を考えぬまま、彼はしあわせな夢だと思い込んで、微睡みに包まれていった。

 

 

 ♦︎

 

 

 朝。

 昨日面倒臭くてカーテンを中途半端に締めたその隙間から朝日が少年の顔を照らす。

 そして窓の外から聞こえる小鳥の声が合わさり、少年の意識の覚醒を促す。

 が、朝に弱い彼は不機嫌に唸りながら布団を頭まで被って再度惰眠を貪り始めた。

 

 しかしそれを許してくれる程、姉である『結城友奈』は優しくないのだ。

 

「ゆうくーーん!おーきーろー!」

 

 

 ♦︎

 

 

 うーん、寒い。

 数分前から部屋に音もなく入り込み、(恐らく本人はそのつもり)寝ている俺に近付いて来て俺の寝顔を見て来て、流石にむず痒くなったから太陽が眩しいフリして布団に潜ったらコレだ。春先だけどぬくぬくの布団を全部取られると寒い。出来るなら早く返して頂きたい。

 

「なにすんだよ、『姉貴』」

「だってゆうくん起きないんだもん。こうでもしないと起きないでしょ?」

 

 そうだけどさ。否定しないけどさ。

 が、姉が布団を持って行った以上、俺の抵抗はただの虚しいものだ。素直に起きる以外の選択肢は残されていない。

 

「オーケー、俺の負けだよ姉貴。起きるよ、起きりゃあいいんだろ」

「自分から起きてくれれば一番いいんだけどね。じゃあ私は下行ってるから!早く来ないとゆうくんの朝ご飯も食べちゃうよ?」

「別に朝飯いらねーしいいよ、姉貴が食って」

「駄目だよそんなんじゃ!いい?ちゃんと食べに来ること!」

 

 そう言うなり姉はパタパタと俺の部屋から出て行く。非常に面倒くさいが、姉は怒らせると後が怖い。何が怖いかと言われると常に無言の圧力を掛けてくるどころかその状態で撫で回して来るのだ。いくら『双子』とはいえ、自分も思春期真っ盛り。昔は一緒にお風呂に入っていた半身同士であれど、恥ずかしいのだ。

 

 背伸びをして固まった筋肉をほぐした後に眠い目を擦りながらベッドから降りる。

 昨日練習していたアコースティックギターを床に転がしていたのを思い出し、それを避けながら寝巻きのジャージを脱いで制服に着替える。

 讃州中学の男子制服も、着慣れたものだ。

 姉から誕生日プレゼントで貰った手鏡で、姉とよく似ているが、少しだけ濃い赤色の毛色に左目の上辺りだけが白い髪の毛を軽く整える。髪ワックスを付ける訳ではないが、寝癖は直しておかないと後で姉の手で直されるのだ。勘弁願いたいので自分でやる。

 

 顔付きは「一瞬戸惑うけどどちらか分かるレベルで似ている」らしい俺の顔。そう言われてもこの目付きの悪さは姉とは比べてはいけないだろう。鏡の前で思わず自分の顔と姉の顔を思い出して見比べてみるが自分ではとても似ているとは思えない。姉からすれば喜ばしいことらしいが、比べるのもおこがましいと思う。以前そう言ったら怒られた。解せない。

 

 身支度を済ませてリビングに降りるとテーブルについて朝食の前で和かに微笑む、同じく讃州中学の制服に着替えた姉の姿。俺も対面に座って一緒に手を合わせる。

 

「いただきます!」

「いただきます」

 

 いつも通りの朝食が始まる。

 結城家の決まり事としてご飯は出来る限り一緒に食べる、というものがある。

 とは言っても姉は勇者部の活動があるし、俺は俺で適当に食べたりするので晩飯は揃うことが少ない。でも一緒に食べようと努力はしましょう、という事らしい。

 

「......。どうしたんだ姉貴?」

「んふふ~、なんでもないよ~?」

 

 ニコニコと、眩しい笑顔の姉が俺の顔を見ながら朝飯を食べている。俺の顔に何か付いてるのか、と聞いても「んふふふ~」としか言わない。ついに壊れたか?最近はどうもこんな調子になることが多い。今日は特に酷い。俺をオカズにご飯を食べられてるのだとすれば、俺にしたら食べにくいことこの上ない。あと相当恥ずかしい。

 

 

「行ってきます!」

「行ってきます」

 

 朝食を食べ終わったら2人同時に家を出て学校に向かう。その前に、隣の家から堅物を呼んで来なければいけない。それは姉の仕事だが2人を置いていくと後が煩いので俺は家の前で待つ。

 

「お待たせゆうくん!東郷さん連れて来たよ!」

「おはよう勇祐くん」

「うっす」

 

 隣の家の玄関から出てきたのは姉と、姉が押す車椅子に乗った俺たちと同い年の東郷。なんでも交通事故で両足が麻痺した、とか、過去の記憶を失くしたとか。あまり他人が突っ込むところでもないし、足が動かない、記憶が少しないというだけなので俺と、特に姉は全く気にせず接している。

 

 ただ、悪い奴ではないのだがちょっと飛んでる部分と硬い部分があるので個人的には苦手な部類だ。なのでぶっきらぼうに挨拶しておく。嫌いでは、ないのだけども。少なくとも荒れてた時期から好意的には接してくれているので東郷本人から俺は嫌われていないのだとは思う。

 

「勇祐くん、今日は元気そうね」

 

 唐突に東郷からそう言われる。

 まるで今まで元気がなかったかのような言い分だ。

 あぁ、そうか。姉がいつも以上に機嫌がいいのはそういう事か。

 

「そうか?昨日と変わらないと思うけど」

「そうよ」

「そうだよ!」

 

 2人から肯定の言葉。どうやらそうらしい。まぁ夢見が良かっただけだ。結局は夢の話なので現実とは関係がない。元気に見えるのは、たぶんそういう事だからだろう。だから姉も朝飯を食べている時にあれだけニコニコ顔だったのかもしれない。

 

「姉貴と東郷が言うんなら、そうなのかもな」

「そうだよ!お姉さんである私がゆうくんの事分からない訳ないもん!」

「友奈ちゃんなら、わかって当然だものね」

 

 東郷さんわかってる~!と東郷とハイタッチする姉。車椅子に乗る東郷の背に合わせてやっているのが微笑ましかった。

 

 

 

 昼。

 姉特製の弁当を1人屋上で食べながら空を眺める。姉と東郷は同じクラスだが、今日は勇者部で用事がある為、昼飯は別々だ。いつもは半強制的に3人で食べている。弟という存在はいつだって姉という存在には勝てないのだ。世知辛い。

 

 もぐもぐ、と口を動かしながら、勇者部の活動は本当に自分に合わないなと独りごちる。

 言うなればボランティア活動だ。流石に他人を無償で助けたいと思える程、人は出来ていない。そうでなければ中1の頃、あれだけ暴れてもいない。

 

 自分、結城勇祐は去年までは札付きの不良だった。若気の至り、いや今も十分若いが、この地域の不良達は基本的に殴った。あと家出もしたし深夜徘徊もしていた。

 

 例えばカツアゲしている奴がいると聞けば逆にカツアゲしてやったり、どこかのグループ同士が喧嘩していたら割り込んで両者とも殴って二度とそういうことをさせないようにしたり、万引きした奴を見つけたら殴って店主に投げ渡した。

 自分がやっていた事は勧善懲悪だ。使い方を間違えているだろうし、世間一般からすれば暴力に暴力で訴える等、野蛮な思考だろう。

 

 色々あって、今はもう辞めた。姉にバレてしこたま怒られたのだ。姉の泣き出した顔は、今でも辛い記憶である。

 

 勧善懲悪と言いながら、俺はストレスの捌け口を暴力に求めていたのだろう。自分の気に入らない事、強制される事。やろうとしても、出来なかった事。それらがつもりつもって、姉に手を上げないように行動した結果だった。

 まぁつまりは反抗期だったのだ。今となっては情けないことこの上ない。

 

 そんな人間が今更ボランティアなど出来る訳がなく、いや別に恥ずかしい訳じゃない。だけど実際、女子4人の中に男1人はとてもじゃないが、その、なんだ。そういうことだ。

 犬吠埼先輩には中1の頃に1度だけ入部を勧められたが、当時は普通に荒れていてぶっきらぼうに断った事もあって今更「入部します」なんぞ言えるはずもないのだ。

 

 

 水筒に入った麦茶を一口飲んで、また空を見上げる。今日は何もない。雲も、風もない。穏やかな1日。恥ずかしさは振り払って、食べ終わった弁当を仕舞う。当然、手を合わせて「ごちそうさまでした」と姉に感謝も忘れない。これも姉にやれと言われて染み付いてしまった動作の一つだった。

 

 

 夕方。

 本日の授業は滞りなく終わり、生徒は下校する時間だ。今日は勇者部の部活も特に仕事がないそうなので姉と東郷と一緒に帰ろう、という話になった。

 

「なのになんで犬吠埼先輩がいるんすか」

「居たら駄目なの?」

「そうじゃないっすけど...ほら、犬吠埼妹も俺の事怖がってますし」

「あっ、いえ、その...あの......」

「大丈夫だよ樹ちゃん!ゆうくんはこの間までヤンチャだっただけだから!」

「フォローになってねぇよ姉貴......」

 

 犬吠埼先輩こと犬吠埼風の後ろに隠れて俺に怯える犬吠埼妹こと犬吠埼樹。この対応も俺の自業自得なのだが取って食いはしないぞ。

 怖がられるのはどうだっていいのだが、姉の余計な一言で更に犬吠埼先輩の後ろに隠れるその妹。うーん悪循環。

 以前から犬吠埼先輩には家事を教えてもらったりしているので一応この姉妹とは顔見知りではあるのだが、俺の噂話で妹の方は全く慣れてくれやしない。大体は本当の話だから否定出来ないのがさらに悪い。

 

「ほら樹、別に食われやしないんだから出て来なさいよ」

「勇祐くん、普通にしてても顔怖いものね」

「えー?そんなことないと思うけどなぁ」

 

 犬吠埼先輩、それ逆効果。あと東郷、俺の顔が怖いのは生まれつきだしどうしようもねーんだよ。

 というかなんだ。俺は怖がられる為に呼ばれたのか?

 

「流石に違うわよ。一緒にうどん食べに行きましょ?」

「なんでまた?」

「特に理由はないけど?」

「えーゆうくん一緒に行かないの?」

 

 犬吠埼先輩が目線で姉を指す。うーん成る程。姉が言い出したのか、しゃーない。用事あるって嘘ついてもどうせバレるし姉の言う事に従いますか。

 

「はぁ...行くよ」

「さっすがゆうくん!よく分かってる!」

「最近無駄な反抗をしなくなったわね?勇祐くん」

「姉貴には勝てんからだよ。ったくしゃーねぇなぁ」

「おっツンデレかな?」

「犬吠埼先輩でも流石に怒りますよ」

 

 キッと鋭くメンチ切って(死語)もどこ吹く風の犬吠埼先輩。この人には家事関係で世話になったので姉とは別の意味で逆らえない。

 東郷の煽りはスルーだ。たぶん突っ込んだら墓穴を掘る。

 

 

 そんなこんなでうどんを食べに行ったのだが、俺が大盛りのきつねうどんを平らげたら犬吠埼先輩は3杯ぐらい食べてた。ひぇっ、やっぱこの人こえぇ......

 

 

 

 

 




 ・結城勇祐
 本作主人公。友奈の双子くん。昔はワルやってん!俺より悪い奴らをシバいては「二度と舐めた真似してんちゃうぞ」と脅していた。今は更生したらしい。でも不良仲間は居るし時々溜まり場に足を運んだりしてる。

 ・友奈姉貴
 弟めっちゃ可愛がるウーマン。駄目な弟がいる分、原作よりもしっかりしているが時々抜けてる。弟の気持ちはわかるよ、お姉ちゃんだもの。でも弟の思春期には気付いていない模様。

 ・東郷さん
 結城姉弟に出会った当初はヤンチャしていた勇祐の事を怖がったが接するうちに優しい奴だと気付いた。今では友奈ちゃんも大好きだし勇祐くんも大好きである。

 ・風パイセン
 色々残念だけど一応勇祐が尊敬してる数少ない人。なので先輩呼び。勇介達の家庭事情は知っているので姉妹共々割と気にかけている。

 ・犬吠埼妹
 ふえぇあの人目つき怖いし噂で流れてくる話が怖すぎるよぉ...。安心しろ樹くん。その噂は話(が)半分だ。
 これでも入学以前から勇祐とは知り合いである。
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