結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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これがやりたくて勇祐にギターを持たせました。
まだもう暫く不定期更新が続くかと思います。


第11話 それは彼女と彼の夢の話

 

 樹の歌のテスト本番の壇上。彼女は僅かに震えていた。それは皆の前で歌うという行為への恐怖心の表れだったが、彼女はそれを抑えられるだけの覚悟を決めていた。

 

(勇者部に入って.....。ううん、それまでもお姉ちゃんにお世話になりっぱなしだった)

 

 樹が思い出す事は、両親が死んだと伝えられた2年前のあの日。その日から風の顔つきはそれ以前より遥かに頼りになる姉としての顔つきに変わっていった。

 樹は、その原因が自分にあると気付いていた。自分が頼りなく、おどおどしていたから姉はそうせざる得ない状況に追い込まれたのだと。

 

 だから、姉として、唯一の家族としての責務を果たそうとして勇者の事を、大赦から与えられたお役目の事を黙っていたのだと樹は考えた。

 

(私はお姉ちゃんのようにはなれないけれど......)

 

 樹の手には、いつの間にかノートに挟まれていた1枚の手紙が握られていた。

 それは勇者部の彼女達がサプライズとして挟んだであろう手紙で、樹を応援する言葉が各人から贈られていた。

 その中に、見慣れぬ筆跡で書かれた名前のない「ガンバれよ。お前なら出来る」の文字。

 風、東郷、友奈、夏凜の言葉は名前付きである。夏凜の名前については、恐らくその見慣れぬ筆跡の筆者が書いたのだろう同じような文字で書かれていた。

 

(夏凜さんは、恥ずかしくて名前書けなくて......たぶん勇祐さんが書いたんだろうなぁ)

 

 樹は易々とその光景が脳裏に浮かぶ。夏凜が名前を書かなかった理由を察しておきながら勇祐が「名前が無かったから書いておいてやったぞ」と笑顔で言っている姿を想像して、思わず笑った。

 

(こんな人達に囲まれて、応援されて、励まされて)

 

 ------だから、お姉ちゃんの隣で歩ける、私になりたい。これが、その第一歩だ。

 

 

 自然と、震えは止まった。

 

「犬吠埼さん?」

 

 歌の先生が、樹に心配そうな声を掛ける。一瞬目を閉じた彼女はゆっくりと目を開け、元気よく「大丈夫です!」と答えた。

 

 

 歌のテストの課題曲が、歌の先生のピアノの伴奏によって奏でられていく。樹は鍵盤が弾き出すメロディに不思議な高揚感を得ていた。

 そして歌い始めた彼女の歌声は、今までの緊張して音程が酷く外れていたモノとは全く違うものだった。

 

 テストの結果に関しては......何も言うことはないだろう。

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

「樹のテスト、上手くいったかな」

 

 とある場所からの帰り道。放課後からずっと作業をしていた俺は漸く樹の歌のテストがどうなったのかと心配出来るだけの余力が出て来た。

 それだけ大変な作業だったのだ。文字通り、身を削るような作業だった。正直、二度とやりたかない。

 

 先日、遂に俺は勇者部専用のグループチャットに突っ込まれてしまった。本当に嫌だったのに。これで「そんな部活の連絡なんて聞いてない」とは言い出せなくなってしまった。今までは休日の度に逃げてきたというのに、これでは本当に勇者部に所属しているようなものじゃないか。実質的な仮入部だぞこれ。

 

『仮部員見てるー?』

 

 そんな時に限ってこういうチャットを飛ばしてくるパイセン。一体何の用だ?

 

「何の用?」

『特になし!』

『仮部員で反応するなんて律儀ねアンタ』

 

 うっせぇよ木刀暴力にぼしゴリラ。というか用はないのかよ。なんで呼んだんだ?

 

『律儀なのはゆうくんの良いところだよ!』

『勇祐くん、ぼた餅あるからこの入部届にサインを』

「ぼた餅は欲しいけど入部届は書かないからな」

『そろそろその意地っ張りも止めたらどう?』

『こっちは楽しいよ〜?』

『ぼた餅』

『楽しいですよー』

『ぼた餅』

 

 ぼた餅ぼた餅うるせぇな東郷。ぼた餅星人か何かかお前は。『ぼた餅大明神』......おい誰だ今の。

 

「ところで、樹」

『はい、なんでしょうか?』

「歌のテストってどうだったんだ?」

『はい!皆さんのお陰でバッチリです!』

 

 おお、そうかそうか。そりゃあ良かった。自分のことのように嬉しいな。よく頑張ったなぁ。

 

「良かった良かった。頑張ったんだな樹」

『えへへー...』

『ちょっとうちの妹を誑かさないでくれる!?』

『不純よ!』

『あんた......最低ね』

『ゆうくん!駄目だよそういうのは!』

 

 なんでそうなるんだよ。おかしいだろ色々と!褒めただけでなぜこうも弄られるんだ。だから嫌だったんだよこのチャットグループに入るの!殆ど集団暴行じゃねぇか!

 ったく......。まぁいいけど......ん?樹から個別チャットが?

 

『勇祐さんごめんなさい!私のせいで...』

「いや、いいんだよ気にすんな」

 

 律儀な子だ。こう思うのもたぶん2回目ぐらい、だったか?

 

 

 ------むしろ、謝りたいのは俺なんだけどな。

 

 

 こうやって黒い感情を出そうとする癖は止めた方が良いよな。どう考えても精神面的に悪影響しかない。

 

『頑張ったので、ご褒美のギターを弾いて貰いに、カラオケにでも行きませんか?ちょっと手伝って欲しいこともあって......』

 

 そういえばそんな約束もしてたな。手伝って欲しいこと.....ってなんだ?

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

「歌手のオーディション用のバックミュージック......ねぇ」

「その......どうでしょうか?」

 

 樹と合流したカラオケ店。室内に入ると樹は真っ先にノートパソコンの画面を俺に見せてきた。そこには歌手デビューのオーディション案内と書かれたホームページが映し出されていた。どうやら樹は、そのオーディションの課題曲に配布されているサウンドを使うのではなく、俺のギターの音を録って使いたいらしい。

 

「実を言うと、バンドのオーディションもあってですね......」

「ほうほう、成る程なぁ」

 

 ページを下にスクロールしていくと、確かにバンドオーディションの項目がある。樹が言うには、俺とどうやらバンドを組んで1度お試しで応募してみたいらしい。

 

「面白そうだな」

「ほ、ほんとですか!」

 

 今までそうやって自分を売り出そうとは思ってもみなかった。自分の趣味で、自分が楽しくて、それでいいと思ってた。恐らく、今までの樹も同じだったんじゃないだろうか。

 でも樹は、最初の一歩目を踏み出した。勇気を出して未来をより良くしようと頑張っているんだ。例え、この挑戦がお遊びで終わったとしても、得難い経験になると確信して。

 

 それがとても面白そうだった。

 

「いいじゃん!やろうやろう!」

「やったぁ!勇祐さんとやってみたかったんですよ!」

 

 な、なんかすっごい喜んでるな......。取り敢えず楽譜見て練習してみるか.......。

 

 

 

「......これなら行けそうだな」

「なら1度、通しで演奏してみませんか?」

「おう、いいぜ」

 

 楽譜を見ると、そこまで難しそうな曲調ではなく、静かに弾き語るかのような楽譜だった。要は1音符毎にどれだけ想いを乗せて響かせることが出来るかが勝負所なのだろう。

 

 だが実際、樹が歌い始めるとそれが間違っている事に気付いた。樹が奏でる歌の音色。その音色を更に引き立てさせる事がギターの役目なのだ、と。ギターは想いを込めるのは確かに必要だ。だがボーカルの邪魔をしてはいけない。ただ裏方に徹してボーカルの援護をする。今までソロで弾いてきたから、この感覚が分からなかった。でも今なら分かる。

 

 ------楽しい......!

 

 思わず主張してしまいそうになる自分を抑えて、弦を弾き続ける。目の前で楽しそうに歌う樹を見ると微笑み返してきた。その笑顔が微笑ましくて、俺も思わず笑顔になる。そうか、これが誰かとセッションするって事か。

 

 そうして1度目の演奏が終わり、俺と樹は目を合わせる。

 

「すごい、最高ですよ勇祐さん!」

「あぁ、楽しいな。とっても」

 

 そうしてある程度練習を重ねた俺達はたった数時間ではあるが出来の良い曲が出来上がり、それを応募作品としてオーディションに送る事にした。

 

 

「ところで......バンド名って、どうしましょう?」

 

 オーディションの応募フォームを入力していた樹がバンド名の入力の欄で止まった。確かにそうだ。その辺全く考えてなかったな。どうすっか。

 暫く悩んだ後、思いついたと言わんばかりに樹が言い出した。

 

「えっと『勇樹』とか、どうでしょう」

「『勇樹』...。なるほど俺と樹の名前を勇気と掛けたのか。いいじゃんいいじゃん。それで行こう!」

「じゃあ勇樹でいきますね!」

 

 キーボードを叩き、必要事項を入力した樹は送信ボタンを押すところで止まった。

 

「どうした?」

「いえ、その...緊張して......ほ、ほんとうに送っちゃっていいのかなぁって」

 

 今まで乗りとテンションで来ちゃった系か。分かるぞ、その気持ち。ボタンを押すところで正気にでも戻ったか?だがしかし。もう遅いんだよ樹くん。なにせ俺が乗り気なんだからなぁ......!

 

「残念だが樹、俺は......」

「は、はい......」

「悩んでる奴の背中を蹴り飛ばすのは大好きなんだよッ!送信!!」

「あーっ!!」

 

 樹の右手が添えられているマウスの上に俺の手を重ねて左クリックをする簡単な作業だ。ふははは、悩むからいけないんだ樹。俺はこういうの大好きだからなぁ......!

 

「ゆっ、ゆゆゆ勇祐さん!?」

「樹から言い出したんだ。悪く思うなよ」

「凄い悪役っぽい顔してますけどやってる事がみみっちい......」

「そりゃあ、たかが中学生のやる悪戯なんてこんなもんだよ」

 

 可愛い後輩に大それた事なんて出来ない、とも言う。

 

 

 思わず樹の右手を握ってしまったことは、その......黙っておこう。恥ずかしいし。

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 カラオケからの帰り道、時間は既に夕飯の頃を過ぎていた。いくら夏前で日が暮れる時刻が遅いとはいえ、これから暗くなる事を予想すれば、勇祐は樹を一人で家に帰すという選択肢はなかった。

 

「すいません...家まで送ってもらって」

「気にすんなよ。最近何かと物騒だしさ」

 

 確かに勇祐の言う通り、ここ最近ケンカや強盗などの暴力事案が増えているとニュース番組が伝えている。神樹への信仰を軸とした教育により、モラルや治安は悪い筈がないのだが、『何故か』その教育や教えに反発する子供が育ちつつあった。勇祐もその内の1人なのだが、だからと言って見知らぬ誰かに暴力を振るう事はない。彼が暴力を振るう存在は『既に暴力を振るった者だけ』であるのだから。

 

 実際、不良グループの抗争などが活発化しつつあるというのは勇祐は自分の不良情報網から仕入れていた。そういう事情もあって、勇祐は樹の帰り道を送っている。事情がなくても彼なら送っていくであろう。

 

「流石に勇者システムを一般人相手に起動する訳にもいかないしなぁ」

「私も、使いたくないですもん」

 

 勇者システムはバーテックスに対して使用するものであり、ましてや人に使うものではない。もし使ってしまったら、と考えた樹は一瞬で背筋が寒くなる感覚を感じて急いでその悪い思考を止めた。

 

「......どうした?」

「いえ、なんでもないです」

「そっか。まぁ、大変だよなお前らも。いつ呼ばれるか分からないお役目を意識しながら毎日を過ごさなきゃいけないんだろ。俺だったら嫌だね」

 

「実際、姉貴や樹達が呼ばれると生きた心地がしないしな」と勇祐は続ける。その顔はどこかばつが悪そうにしながらも、眼だけは悲しそうに緩んでいた。勇祐は口が裂けても「俺も嫌だ」とは言えないだけであるが。

 

「勇祐さんは、よく喧嘩とかされてたんですよね?」

「ん?まぁ、そうだな。最近はやってないけど」

「不躾だとは思うんですけど......その、喧嘩の心得とかはあったりするんですか?」

「ビビったら負け。あと、売られた喧嘩は必ず買う、かな」

「ビビったら負け......」

「後者はまぁ置いとくとして、ビビったその瞬間って体が大なり小なり硬直するんだわ。んで、その一瞬を突かれると一気に負けに追い込まれる。だから相手の目を睨んでやるんだ。『俺はビビってねぇ!お前が動いたら俺はお前をぶん殴る!』ってな」

「ちょっと乱暴のような......」

「そうか?んでもさ、バーテックス相手ならそれぐらいがいいと思うぜ?」

 

 そう言われるとそうかもしれないと考え込む樹。割と正論かと思われる事を言われると信じやすいのだろう。勇祐は樹に何処か危なげさを感じた。何か、ひょこひょこと何かに付いて行って騙されたりしてしまいそうな、そんな感覚だ。

 

「あとあんまりやろうって躍起になるのも......ん?」

 

 

 勇祐と樹の進路を塞ぐように数人の不良高校生らしき男たちが立ちはだかった。

 

「おい中坊くん?ちょっと財布だけ置いてってくんない?」

「ゆっ、ゆゆゆ勇祐さん!どうしましょう、これって所謂カツアゲですよね?」

 

 突然の出来事に慌てふためく樹。だが勇祐は心底驚いた顔をしていた。なにせこの辺りで自分に絡んでくる存在は既に全員殴り飛ばしたと思っていたからだ。

 

「いや、本当に居たんだな、カツアゲする高校生。弱い者イジメして恥ずかしくないのか......?」

 

 勇祐の純粋な疑問である。立場で考えれば、高校生からすれば中学生は弱者の立場だ。それを狙っての犯行なのだろうから、よほど芯根が腐っていると言えよう。

 

「アホくさ。付き合ってられんわ。行こうぜ樹」

「い、いいんですか?」

「いーんだよ。どうせ俺の知り合いがシメるから」

「てめぇ調子に乗ってんじゃねぇ!」

 

 遂にキレた短気な高校生が勇祐に殴りかかる。腰に力も乗っていなければ、腕の振り方も微妙な殴り方。それを一瞥した勇祐は冷めた目で、殴りかかる腕を弾いた。

 

「!?」

「アウト。シバき回すわお前ら」

 

 目には目を。暴力には暴力を。勇祐の持論である。

 宣言した勇祐は重いボディブローを殴りかかった高校生の腹に打ち込む。そして痛みに下がった頭を側面から蹴り飛ばした。頭を蹴られた高校生は地面を転がっていき、側溝に落ちてピクリとも動かずに止まった。

 

「勧善懲悪の時間だオラァ。テメェら可愛い後輩の前で舐めた報い、存分に払ってもらおうかァ?」

 

 勇祐の声は完全にキレている。そのピリッとした空気に思わず樹は後退った。そして、格好良い、とも思ったのだ。まるで漫画や映画の中でしか見れない不良たちのバトルが見られるのだ、と興奮した。

 

「やっちゃえ勇祐さん!」

「お前そんなキャラだっけ......?まぁいいや。ギター持ってて樹」

「はい!」

「テンション高すぎて俺心配だよ......」

 

 数人がかりで勇祐に殴り掛かろうと走ってくる高校生達。だがその拳は宙を殴り、勇祐に手玉に取られるように1人、また1人と勇祐にボコられて撃沈していく。最後の1人が破れかぶれの拳を放ち、それを受け止められ、背負い投げされた彼は勇祐渾身のサッカーボール蹴りで意識を失った。

 

「俺に手出すからだボケ」

「おぉ〜......凄かった、ですね......」

 

 パンパンと手を払いながら樹の元に戻っていく勇祐。その顔は少し恥ずかしそうだ。

 

「すまんな樹。カッコ悪いとこ見せちまって。怖くなかったか?」

「怖くなかったけどカッコ良かったですよ!こう、映画の中の殺陣シーン!って感じで!」

 

 興奮した様子で話しかけてくる樹。成る程、要は普段の現実とはかけ離れ過ぎていて、映画のワンシーンのように見えたから怖がるどころか興奮してるのか、と勇祐は思い至った。

 

「真似は、するなよ?」

「さ、流石にしませんよ......」

「ならいいんだけどさ」

 

 これには流石の勇祐も心配になってくる。だがバーテックスと戦う以上、こういうのも大事かな...?と思考を放棄した勇祐はそのまま樹を家にまで送っていくのだった。

 

 




暴力少年勇祐
誰かと秘密の作業をしている。えっちな事ではない。たぶん。実は友奈が自分の曲に合わせて歌うことは今までなかったのでこれがセッション。すごく楽しかったらしい。不良スレイヤー。ドーモ、サンシタコウコウセイ=サン。不良スレイヤーです。

夢見る少女樹
勇祐のギターがすごく好きで、思わずバンドに誘ってしまった。恥ずかしさは押し殺して夢に向かって歩め、ミライモンスター!
勇祐の喧嘩はどこか画面の中の出来事っぽくて凄かったらしい。

三下不良高校生
神樹様信仰のこの世界なのになぜか湧いてくる不良達の一部。湧いて出てきては勇祐と元勇祐の愉快な仲間達にシバき倒されて更生させられている。実はその背後には春信さんが居る。



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