結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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苦しくても味方であり続けるか、辛くても敵であり続けるか。
それを選ぶということは即ち......。

次回はクリスマスに短編を挟む形で投稿します。よろしくお願いします。


第12話 それは決断の時

「4度目ともなると、随分と慣れたもんだなぁ」

 

 唐突に訪れた4度目の戦い。

 俺も例外なくそこに呼ばれていた。

 相変わらずの暗い空に、虹色に輝く木の根が張り巡らされた世界。個人的には苦手な世界だ。ここには戦いしか待っていないんだから。

 嫌でも戦わなければ、身体を操られて姉達を殺さなくてはいけなくなる。

 嫌だ、嫌だ。なぜバーテックスとかいう化け物どころか姉達とまで戦わなくてはいけないのか。一体俺が何をしたと言うんだ。姉を殺せと神に命じられる程に俺はバチが当たる事でもしたのか?

 

『早く殺せ』と身体のどこかが衝動として俺に訴えかける。それを煩いと一蹴して溜息をつく。従わないと不味い気がするが、従ったらこの戦いが終わったあとでもう2度と勇者部とは会えないだろう。

 その時こそ大赦の敵として討伐される訳だ。やってられない。

 

「はぁーっ」

 

 どう足掻いても勇者部との戦闘は避けられないだろう。そして今回辺りで勇者部には完全に姿が露呈してしまうだろうという予感がある。覚悟している事だが、やはり知られる恐怖はあるというもので、ため息ばかりが出ていく。

 

 

 やるしかない。

 

 そう思っていてもこの理不尽さには辟易とする。勇者達の敵でありながら、勇者の為に戦う。なんて矛盾した行動なんだろう。思わずこの首を掻き切って死んでしまいたい。

 

「死ねば楽に......は、なれないんだろうなぁ」

 

 死にたくないし生きたい。でも死んだ方が楽になれるとは思う。しかし、その先に待っているのは天の神が存在する限り永遠に傀儡に成り下がるだけの人生だ。

 まるで俺自身が人質みたいだな、と苦笑する。我が身可愛さに、人類に敵対行動をしているのだ。愚かさが身に染みる。

 

「っし...!」

 

 そこまで考えて。両頬を両手で強めに叩く。ちょっと白面が邪魔だったが関係ない。

 

 ------やるか。

 

 気合いを入れ、空高く飛び上がる。その先に、5体のバーテックスを見つけて口の端を自分でも気付かない内に歪めていた。

 

「皆殺しだ......!」

 

 その声に、憎しみを孕ませて。

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 一方その頃、樹海に召喚された勇者部一同は困惑していた。彼女達が勇祐を招待したチャットアプリ『NARUKO』。勇祐のそれには勇者システムに搭載されている位置情報確認機能が隠して搭載されていた。勇者部部長の風の許可の下、東郷が密かに開発していたのだ。

「元々は友奈ちゃんの追跡用だった」との発言は風はスルーしたが、勇祐が白面である、という疑念が晴れない以上はやるしかないと思ったのだ。

 

 端的に言えば、この思惑は成功した。最も、彼女達全員はその『成功した場合の結果』を信じたくなかったのだが。

 戦いの前に、酷く沈黙してしまう勇者部一同。部長である風はその沈黙に発破を掛けた。

 

「暗い顔しない!たしかにこの樹海に勇祐が居て、バーテックスに向かって飛び出して行ってるわ。けど勇祐が敵だと決め付けは良くない。まだスマホを持っているのが本当に勇祐なのか、勇祐が白面なのかもまだ確定していない」

「だから、確かめに行きましょう!」

 

 風の理論は的を得ているようで、本質は答えの先延ばしだ。解決策ではない。だがそれでも前に進まなければいけない。そうでなければこの世界が終わってしまうのだから。

 

「仮に、ゆうくんだとしても大丈夫だよ」

「友奈ちゃん......」

「あの子は、優しい子だから。お姉ちゃんである私が1番良く分かってる。だから分かるんだ。きっとゆうくんは私達の為に戦ってる筈だよ」

 

 笑顔の友奈が勇者部にそう語る。その声は期待や願望が混じったものではなく、確信をもった言葉だ。

 

「それに、白面を敵と決めつけるのも良くないと思うんだ。夏凜ちゃんから聞いたけど、お話は出来るんでしょ?なら、分かってくれるよ!」

 

 だから私はやるよ。と友奈は告げる。その言葉を、勇者部の彼女達は信じた。風、樹、夏凜、東郷が頷いた。

 

「もし話を聞かなくても叩けば言う事聞くわよね」

「海軍懲罰棒ならありますよ風先輩」

「なんであるんですか......」

「ぼ、暴力は駄目だよ!えっと......勇者部に入部させるとか?」

「なんで勇者部に入部させる事が罰ゲームみたいになってるのよ」

 

 もし反抗期だった場合を話す4人。夏凜だけがスマホを触って何かをしていた。

 

「何してるの夏凜ちゃん?」

「ん?勇祐に電話」

「「「「えぇ!?」」」」」

 

 唐突になんていうことをやらかしてるんだ、と言わんばかりに4人が夏凜に詰め寄る。

 

「ちょっと夏凜!何勝手にやってんのよ!?」

「勝手も何もないわよ。確かめればいいでしょ?」

「それは、そうだけど......」

 

 実際、彼女達も思わなかった訳ではないのだ。『スマホがあるんだから電話すればいいんじゃないか』と。しかしながら彼女達はその勇気がなかった。深淵への扉を開いてしまう気がしてしまったからだ。

 

「私はあいつが白面だと信じちゃいないけど、こうも状況証拠があるなら疑わざるを得ないのよね。だから、勇者として看過出来ないから電話する」

 

 相手へのコールが始まり、そして終わる。その間の数秒間がとてつもなく長い時間に思えた。

 

『.........誰だ?』

「通りすがりの不良勇者よ」

 

 夏凜の口から出た言葉は、勇祐と夏凜の2人しか知らない意趣返しの言葉だった。

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 いやいやちょっと待て。なんで俺はスマホを持ってんだ。夏凜から電話が来なかったら気付かなかったぞ。ていうかなんで今電話が来てるんだちょっと待てってほんと。今電話来るって確信犯だろ。もうモロバレじゃねぇか。ほんと待ってくれよ。

 

 控えめに言っても俺は焦っていた。その内バレるだろうなぁと思っていたのがまさか唐突に今バレるとは思ってもいなかったのだ。本当に心臓に悪い。

 

「出るしかない、だろうなぁ」

 

 バーテックスに向かっていた体をその場に止めて意を決して電話に出る。こういう電話には出たくない。一応知らん人っていう体で出てみるか......。仮面を被ってると声が篭って聞こえるし、少し声のトーンを落としたらバレない、と思う。そうだったらいいなぁ。

 

「......誰だ?」

『通りすがりの不良勇者よ』

 

 あいつ......あの夜の俺の真似してやがる......!

 

『あんたそこで何してんの?こちとらあんたの位置は分かってんのよ。無駄な努力は止めて降伏しなさい。ぼた餅が悲しんでるわよ』

 

 そこは姉が悲しんでる、とか言わないんかい。思わず突っ込みそうになったぞ。

 

『......あら、もしかして家に知られると不味い系?御愁傷様。こっちは知った事じゃないのよね。勇者部に仮入部したのに『悩んだらすぐ相談』しないあんたが悪い。というわけで』

「......!?」

 

『勇者部の最終兵器、友奈と東郷を送り込んだから仲良くしなさい』

 

 笑いを堪えられないという様子の夏凜。そして言うだけ言って電話は切れた。ははは、やりやがったな。あのにぼし女。

 

「ゆうくん!」

「勇祐くん!」

 

 俺が今この場に一番居て欲しくない奴を2人も寄越しやがって......。ぜってぇ許さねぇ。

 勇者の姿で飛んで来た姉と東郷。東郷に至っては銃をこちらに構えている。今の俺の状態だと、銃弾も『見てから避けられる』とは言え、流石にキツい。逃げるという選択肢は無くなる。あの銃弾の雨を避けながら逃げられるとは思えない。

 

 いや待て、なんでナチュラルに『逃げる』と『戦う』で悩んでるんだ俺は......いやしかし、どう説明するんだ。「天の神に操られてて偶に暴れ出したり殺しそうになったりするけど味方だよ!」とでも言えばいいのか。無理だろ。俺なら信じないぞ。

 

「なんで、って聞かないよ。ここに居る理由も、事情も。でも、教えて。貴方は、私の知ってるゆうくんなの?」

 

 そうだ、の3文字が口から出てこない。肯定出来ない。その行為がとてつもなく恐ろしく感じる。

 もし、俺が話したら......。

 

『この人殺し!』

『よくも、よくも銀を......!』

 

 

 唐突に脳裏に響き渡る、いつの日か聞いた俺を罵倒する声が、今度こそ鮮明に再生される。されてしまった。俺が抑えていた、忘れ去っていた、思い出したくなかった記憶が吐き気と共に蘇る。

 

 

『言っては駄目だ』

 

 何処かから、そんな声が聞こえた気がした。俺に、まだ抱え込めって言うのか。

 

『言ってしまえば、須美はお前を殺さざるを得なくなる。それが約束。だから駄目だ』

 

 須美、須美......?お前、は.............。

 

 

 

「あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

 

 そして、俺の脳が熱く燃え上がるように痛みを発して叫び声を上げながら俺は意識を失った

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

「AAAAAaaaaaaaaaaaaa !!!!!」

 

 絶叫。慟哭。嗚咽。

 

 最早どう言い表せばいいのか分からない叫びに、友奈と東郷は思わず後退る。その咆哮に心の底から呼び起こされる恐怖に顔を歪ませる他無かった。

 

「ゆうくん!!」

 

 友奈が叫び、勇祐に触れようとする。だがその瞬間。勇祐に雷が落ちた。

 唐突に重ね合わせるように起きた出来事に、流石の友奈も東郷も手を出す事が出来ずに事を見守るしかなかった。

 

 

 そして、雷が晴れた時。勇祐が居た場所には勇祐は居らず。『勇祐であったモノ』が立っていた。

 

「バーテックス......!」

「そん...な......」

 

 二足で立ち、人の面影を残しながらもその姿は正しくバーテックスそのもの。新たに被ったフードの奥からは白面と同化した顔が覗き、禍々しい口が開いている。赤と白の装束もボロボロになり、そして真白に染まっていた。

 

「やはり銀を殺したのは......ッ」

「待って東郷さん!ゆうくんの様子がおかしいよ!」

 

 

 東郷が二丁拳銃を構えるが、友奈はそれを止めた。

 見ると、勇祐だったモノは頭を抑えながら苦しそうに呻き声を上げていた。まるで何かに抗うように。

 

「AAAaaaaa.........!!」

「ゆうくん!」

「ク、るなァァ!!」

 

 咄嗟に駆け寄ろうとした友奈に、勇祐がパイルバンカーを射出。友奈に接触する寸前で釘は止まったが、勇者バリアは発動することがなかった。

 

「どうしたのゆうくん......。怖くないから、ね?私、お姉ちゃんだよ?」

 

 それでも、友奈は歩みを止めなかった。寸んでのところで止まったものの、あと数センチ先にいたのであれば貫かれていたにも関わらず、彼女は弟の為に両手を広げて敵意がない、安心してとゆっくり声を掛けながら近づいて行く。

 

「大丈夫だよ。私が側に居るから」

「グ......グゥッ......!」

 

 ゆっくりと近付いて行く友奈。だがそこにその場に居た2人ではない何者かの干渉を受けた。

 

「きゃあ!」

「友奈ちゃん!?くっ、邪魔よバーテックス!」

 

 バーテックスだ。まるで勇祐を守るかのように攻撃を仕掛けて来たのだ。友奈はその攻撃に反応出来ず吹き飛ばされ、東郷は友奈を追いかけながら応戦を開始した。

 

 そして勇祐は、その光景を見て、動きを止めた。

 

 吹き飛んで行った友奈。

 交戦しながらも攻撃を受けて痛みの声を上げる東郷。

 彼を愛し、そして彼に優しくした2人。その光景を見て失った意識を呼び戻す事は容易かった。

 

 

 ------だが、正気までは元に戻らない。

 

 憎悪。

 そう、憎悪だ。姉に攻撃をしたバーテックスを憎んだ。だがその憎悪は、姉や勇者部に対する狂気とも言える憎しみへと変換されていく。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!」

 

 まるで獣のような咆哮。勇祐はもはや人ではなくなっていた。

 

「くっ......勇祐、くん!」

 

 痛みに耐えながら東郷が起き上がる。東郷はまだ此の期に及んでも、勇祐を信じたかった。例え白面であったとしても、勇祐は私達の味方であってくれる、と。

 

 だが足が動かず、勇者システムの補助で動けるものの、他の勇者と比べて移動速度が遅い東郷は格好の的であった。

 そこにバーテックスの攻撃が飛んで来る。

 駄目だ、避けられない、と目を閉じた東郷。だがそこに攻撃が飛んで来ることは無かった。

 

「ゆう...すけ、くん......?」

「............」

「どう、して......?」

 

 東郷を守るように盾を展開してバーテックスからの攻撃から防御した勇祐。東郷の言葉には答えないが、まだ少なからず理性が残っている事が伺えた。

 

 

「とう、ごう...。オレは、味方で...味方に......なりたい............ッ!!」

 

 勇祐はそのまま盾を構えてバーテックスに向かって突撃した。

 

「アアアアアアァァァ!」

 

 バーテックスの攻撃を避け、バーテックスを御霊ごとパイルバンカーで打ち抜こうとした。しかし御霊を露出させる事だけに留まってしまった。

 

「勇者ァァパアアアンチ!」

 

 そこに吹き飛ばしから復帰した友奈が合流して、御霊に強烈な一撃を食らわせた。友奈の勇者パンチを食らった御霊は崩れ去り、いくつもの光となって天に導かれていった。今まで勇祐が潰してきた御霊とは違う現象であった。

 

「ゆうくん!」

 

 バーテックスを倒した2人が今ここに結城姉弟が至近距離で対峙した。一方はバーテックスを倒す勇者で、一方はバーテックスそのもの。

 

「私、分かってる。ゆうくんが何か言えない事情があるんだ、って。言っちゃったら駄目って約束をしてるんだ、って。だからね、ゆうくん。また、お家でうどん食べよう?」

 

 2人は立場上は敵同士。だがそれ以前に彼女と彼は姉弟なのだ。同じ日に、同じ場所で生まれた双子の姉弟。結城友奈は勇者であるが、姉であり、結城勇祐は弟であるのだ。

 だから友奈は先ほどのように勇祐を抱きしめようとせず、1人の勇者として敵でも味方でもない存在という体にしたのだ。勇祐がこうする事を望んでいるのが分かるから、心は今も繋がっていると理解出来たからこその行動だった。

 

 勇祐も最初はその意図が分からなかったが、少ない理性で理解した。「姉は強いんだよ」と、微笑む友奈を見て。

 友奈も、その言葉に反応は示したが答えない勇祐に不満も抱かず、ただ問い掛けた。

 

「ゆうくんは、どうしたい?出来るなら私も手伝うから」

 

 意見を押し付ける事なく、友奈はただ勇祐が『どうしたいのか』を聞いた。

 勇祐は友奈の言葉に応える事なく、空を睨む。

 

「......たたかう」

「そっか。分かったよゆうくん」

 

 ただそれだけを交わした勇祐は友奈の元から飛び去る。友奈はただその飛び去る勇祐の背中を見ていた。

 

「友奈ちゃん......」

「大丈夫だよ東郷さん。ゆうくんは強いから、大丈夫」

 

 不安がる東郷に微笑みかけ、友奈と東郷は先に他のバーテックスと交戦している風達に合流する為に動き出した。

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 移動している最中、東郷は不審がっていた。友奈の言動は盲信に近いものがあったからだ。東郷にも兄弟が居れば、ああなるのだろうか。確かに、傍目からは以心伝心の姉弟としか見えない。だが東郷は知っているのだ。友奈は勇祐の表情から心を察知することはあれど、心自体は読めない事を。

 そして、白面からバーテックスに変わってしまった勇祐。この樹海の世界で初めて出会った時と同じ雰囲気を醸し出していた。つまり、『勇者を殺す』という雰囲気だ。

 

(友奈ちゃん......)

 

 恐らく、友奈は弟と敵対したくがない為にあのような行為に走ったのだろう。結果的にそれは成功したが、もし、正気を失ったままであればと考えると怖気が止まらなくなる。

 

 東郷は勇祐を助けたいし、信じたい。しかし、親友との約束で白面は殺さなくてはいけない。だから『もう一度』勇者システムを起動したのだ。

 

「これは私の罪。もし、勇祐君が完全に敵対したのであれば......」

 

 とっておきを、使わざるを得ないだろう。あの時、使えなかった必殺の銃弾を......。

 

 

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