結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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たぶん、おそらく、きっと、もしかしたら。
全てのしがらみから解き放たれた彼と彼女達の話、かもしれない。
勇者も、天の神も、神樹も。全てがなかった世界の話、かもしれない。
これはそういう『もしかしたら』の話。
ただ、一つ言える事は、今の彼と彼女の関係ではあり得ないIFの世界なのだ。





短編 クリスマス

「ゆーっきー!」

「うるせぇぞ乃木。なんの用だよ?」

 

 12月24日。そろそろ雪でも降るんじゃないかと思いきや、今年はどうやらホワイトクリスマスはないようだ、と天気予報のお姉さんが伝える今日この頃。放課後のチャイムが鳴り、生徒が帰っていく教室でスマホを触っていたら『乃木園子』が俺に後ろから抱きついて来た。面倒くさい。それも非常に。

 

「暑苦しい、離れろ」

「いいんよ~細かいことは~少なくともゆーゆの許可は得てるからー」

「よかねぇ。離れろ」

 

 クラスメイトのヒソヒソ声が聞こえてくるんだよなぁ......。顔には出してないけど恥ずかしいんだぞ。窓側の席にいる姉は微笑ましい顔してるし、その後ろの東郷は......動画撮ってやがんなあいつ。後でシバくか。

 

「乃木、そろそろ離れろ。次はないぞ」

「もぉ~。ゆっきーは強情だなぁ」

「で、何の用だ。お前がこうやって来るのは譲りたくない用事があるんだろ?」

「......。そういう勘の良いところは嫌いだよ?」

「勘じゃねぇよ。何年の付き合いだと思ってんだ.........。わーったよ。話は歩きながら聞くわ。行くぞ」

「さっすがー!ゆっきーは話が分かるねぇー」

 

 帰る準備はしているからとっとと鞄を持って教室から出よう。姉にはチラリと顔を見れば「わかってるよ」という顔つきで微笑まれる。双子特有の以心伝心......とでも言えばいいか?まぁ、そんなところだ。

 

「おい乃木、行くぞ」

「待ってよゆっきー!早いよー!」

「お前が行くって言ったんだろうが......ったく」

 

 後で追いつくだろう、と勝手に決め付けて昇降口まで降りていく。下駄箱に着いた頃には息を切らした乃木が俺に追いついていた。

 

「もう!ゆっきーのイジワル!」

「知らねぇよ。普段運動してねぇのが悪いんだろ?」

「ゆっきーは不良相手に毎日喧嘩してるのが運動だって言うの?」

「運動だよ。軽い、な」

 

 ほぼ毎日居るのだ。俺に絡んでくる他所の中学生だったり、高校生だったり、果ては無職のチンピラだったり。そういう存在が俺を付け狙って来る。姉や、認めたくないが...『大切な存在である』乃木なんかを狙って来るアホも居たりしたのだが、俺を狙って来た時以上の恐怖を与えてやった。大事な存在が居ない人間など居やしないんだから。

 そういった連中を毎日シバき回しているのが今の俺の日常だ。

 

「危ないのは駄目なんだよー?」

「向こうから手出してくるんだから仕方ねぇもんな。んで、今日はどうすんだ?ゲーセンか?」

 

 ゲーセンに行った事がないという箱入りお嬢様っ娘の乃木を以前連れて行ったらここ最近ずっとハマっているようで俺をボディーガードに「連れて行け」とせがんでくるのだ。今回もその類かと思ったのだが.......。

 

「違うよー!今日は何の日か知ってる?」

「......クリスマス」

「そう!だいせーかい!ゆっきーにはさんちょスタンプを贈呈しよう!」

「いらねぇって......」

「そうテンション下がらないで欲しいなぁ。こうして可愛い可愛い『彼女』さんがクリスマスのデートに誘ってるんだよ?」

「なら最初からそう言えよ。俺はお前みたいに頭の回転は早くないんだぞ」

 

 そう、何の因果か。どういう訳か。乃木園子は俺の彼女で、俺たちの関係は【恋人】なのだ。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「でね、私は我が家の権力をちょこーっと使ってお高いお店でディナー!......とか憧れてはいたんだけどね?ゆっきー、そういうの苦手でしょ?」

「苦手っつーか作法を知らないだけだ。ドレスコードもよく分からんしな」

「そういうところ、律儀だよねぇゆっきーは」

 

 学校の近くの公園。そこには学生相手にたい焼きを焼いている移動販売の軽トラックがやって来ていた。俺と乃木はそこでたい焼きを一つずつ買ってベンチに座って食べていた。

 

「だふぁらふぇー?」

「飲み込んでから言え。何言ってるか分かんねぇから」

「んぐっ......。だからね、ちょっとオシャレだけど学生服でも行けるお店がいいなぁって思って調べたんだー」

 

 そう言ってサンチョの口から付箋がびっしり挟まったグルメガイドを取り出した乃木。お前のサンチョの中身はどうなってんだ?

 

「そんなに楽しみだったのか、俺と過ごすクリスマス」

「当たり前だよー。だって私はゆっきーの事大好きなんだもん」

「さよけ」

「もー冷たいんだから!」

「別にさ、家とかじゃダメだったのかよ」

「うちの両親にご挨拶したいなら、いいけど?」

「やっぱなし」

「ゆっきーの家でもいいんだよ?」

「うちは親は居なくても姉貴が居るっつの」

 

 乃木に態々気を遣わせまいという発想だったけど最初からその選択肢はなかったか。

 

「もしかして、気を遣わせて悪いとか思ってるの?」

「多少はな」

「ゆっきー可愛い!もー、別に気にしなくていいんだよ?私がやりたくてやってるだけだからー」

 

 心底ウザい。目をしいたけみたいに輝かせてくるのは本当に鬱陶しい。俺はなんでこんな奴と付き合ってんだろうな。

 まぁ、たぶん.....腐れ縁なんだ、と思う。

 小6の春頃に、金目当てのアホがこのアホを攫おうとした事件があった。その時、偶々俺がそれを見かけていて、アホ共をぶん殴って乃木を助けた。

 それ以来、乃木は俺の事を「白馬の王子様」だなんて言っている。更に小学校を卒業したら、俺を追いかけるように讃州中学に転校して来た乃木と一緒に学校生活を過ごし早2年。俺たちは中学2年生になっていた。

 

 なんとも早い3年間だったと自分でも思う。それもこれも、目の前にいるこの乃木園子の影響だろう。

 

「ねぇ、ゆっきーは私達が付き合い始めた時のこと、覚えてる?」

「......。まぁ、それなりに」

「ゆっきーのそれなりって基本的に全部だよね。............。私、嬉しかったんだ。まさかゆっきーから告白されると思ってなくて」

「しゃあねぇだろ。お前、いやがってたからああやるしかねぇだろうが」

「『手を出すな俺の園子だー!』って。カッコ良かったよー?」

 

 3年来の付き合いだが、恋人という関係になった日は浅い。今年の春からだ。乃木の実家がコイツを連れ戻そうとした出来事があった。

 嫌がる乃木を見て、俺は咄嗟に叫んでしまった。これが恐らく最善手であると信じて。

 

 今となっては計算高い乃木の自作自演ではなかったのだろうかと疑うレベルだ。こいつの両親は「結婚はせめて高校を卒業してからにしなさい。あと成人するまで避妊はしっかりと」なんてほざきやがる。乃木の親じゃなかったら顔面を殴ってんぞ。

 

「今ではそう言ったのを軽く後悔してる」

「えーっ。酷いよゆっきー!」

 

 酷くない。

 

「んで、その様子だと店を調べたはいいものの、どこも空いてなかったって感じか?」

「ぎくぅっ!」

「色々悩んで、その権力とやらを使ってお高い店に割り込もうとしたけど俺が嫌がるだろうから止めた」

「うっ...」

「結局決まらず仕舞い。流れに任せようってとこか」

「......ほんと、ゆっきーのそういう感の良いところ嫌いだよー......」

「はぁー.....全くお前は」

 

 よよよ、と落ち込む乃木の頭をガシガシと乱暴気味に撫でてやる。

 

「気にしなくて良いつったろうが。俺はお前と一緒ならどこでもいいんだよ。それに...」

「それに?」

「中学生らしく、身の丈にあった場所に行かないと、な?」

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

「お、お、おぉ〜!」

「まぁクリスマスにどうかとは思ったんだけどな、このショッピングモールならカフェもあるし、クリスマスイベントもある。あんまお前はこういうとこ来ないし、楽しめるだろ?」

 

 俺たちがやってきたのは最近出来たショッピングモールだ。クリスマスという事もあって客が多く賑わっている。

 

「私、ここ気になってたんだけど中々来れなかったんだよねぇ〜」

「だろうな」

「んん〜、ゆっきー優しくなった?」

「なってねぇよ。んで、ここまではお前の予想通りか?」

「どうだろうね〜。でも私はすっごーく嬉しいよ?」

 

 相変わらずのらりくらりと交わすなこいつ。にへらと笑う顔からして俺がこうして連れてくるのは予想外だったようだが。口に出すと拗ねるし、その癖を治すだろうから言わない。幸せな予想外だとこういう癖を出してくる。

 

「ったく......」

「にへへ〜、照れてるゆっきーも可愛いよ?」

「照れてねぇ。ほら、行くぞ」

 

 まぁ照れているのだが、言わぬが花。言ったら揶揄われるのが目に見えてる。自分から墓穴に入るわけにはいかん。顔には出ていないと思うが照れ隠しついでに乃木の前を歩き、左手で乃木の手を掴んで歩き出す。

 

 ......。

 うわっ乃木の奴め、恋人繋ぎに変えやがった。くっそ、これ恥ずかしいんだぞ。

 

「やめろとは言わないんだね〜」

「言っても止めねぇし、そも仮にも恋人なのに振り払うのも気が引ける」

「んへへ〜サンチョ〜、恋人だってぇ〜」

『仮にも恋人なのに』

「んへへ〜」

「おい待て乃木。おい、サンチョに録音機仕込んだな!?てめぇなんてことしてんだ!」

「気のせいじゃない〜?」

『俺と乃木は恋人』

 

 こいつ、録音どころかこの一瞬で今までの俺の発言を組み合わせて編集して再生してやがんな。これは東郷の入れ知恵の匂いがするぞ、あいつ本当に一発シバかんと駄目だな。

 

「再生してもいいけど、こういう公共の場でやるなよ......」

「はぁ〜い」

 

 本当は再生すらしてほしくないが、まぁ家で1人で聞く分にはいいだろう。そこまで口を出すのも気が引ける。

 

「ま、いいや。もうすぐお目当てのイベントも始まるし、カフェでホットコーヒーでもテイクアウトしていくか」

「いいねぇ〜!私カフェモカクリームマシマシで!」

「甘いの好きだよな。俺も好きだけど今はブラックの気分だ」

 

 俺たちは所謂コーヒースタンドのカフェに赴き、俺はホットコーヒーを。乃木はカフェモカの生クリームチョコチップチョコソースキャラメルソーストッピングを頼んでいた。聞くだけで口の中が甘くなりそうだ。

 

「クリスマスって事でトッピングが無料だったんよ〜」

「だからって盛り過ぎだろ、太るぞ」

「女の子に体重の話はいけないんだよ?まぁ私は太らないんだけどねぇ〜」

 

 それは羨ましい話だ。姉が羨むのも分かる、が。それでも一部が寂しいのがなぁ。

 

「何?その目は?」

「なんでもありません」

 

 知らぬが仏。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 コーヒーを買った俺たちはショッピングモールの4階、ちょうどモールの中心部にある広めの中庭に来ていた。そこには丁度中央にどこから運んできたかわからない高さ10m程のクリスマスツリーが周りから照らされるライトで神々しいその姿を照らしていた。

 

「もうすぐクリスマスツリーの点灯式。そのあとは聖歌隊の聖歌斉唱だってよ」

「ゆっきー、ここまで調べてたの?」

「いや、ここに来てから始めて知った。ま、そうでなくともお前の案が空振りだって聞いた時にゃあこのショッピングモールに来る予定だったけどな」

 

 どうせ乃木が色々裏でやってるだろうとは思っていたがまさか空振りとは思ってもいなかったので足りない頭の回転をフルに使った結果がこのショッピングモール行きであった。まぁ何かしらイベントがあるだろうな、という希望的観測も実を結んでくれたので万々歳だ。

 

「あ、あとさ」

「なになにー?」

「クリスマスプレゼント。ほれ」

 

 渡すタイミングが適当過ぎる気がするが、こんなもんでいいだろ。ムードなんて知ったこっちゃねぇ。

 

「えっうそ!?ゆっきーが!??」

「......んだよ」

「えっ、いや、その......。私、プレゼントのこと何も考えてなくて......」

「園子らしくねぇな。その焦ってるのも、プレゼントを忘れてたってのも」

「ごめんね、ゆっきー......。楽しみにしてた?」

「楽しみにしてなかった、って言えば嘘だけどさ。いいさ。気にすんなよ」

「うぅ......今日の私はダメダメだよ〜......」

「だーかーらー!気にすんなってこの!」

 

 本日2度目の頭ガシガシ。この娘っ子はこうも気にし過ぎだから駄目だ。そんなもんで嫌いになる訳もないだろうが。

 

「開けても......いい?」

「いいぜ」

「ありがとね......。わっ、綺麗......。勾玉?」

「そ、勾玉。八尺瓊勾玉つって、三種の神器の一つって言われてるやつの...レプリカのレプリカ」

「聞いたことはあるけど......。どうしてこれを?」

「俺の『大事な』モノだからな。生まれて間もない頃、何処から持ってきたのか何時の間にか持ってたんだとさ。俺の心臓みてぇなもんだ」

「心臓......」

「ただの比喩だからな?」

「そっかぁ......そんな大事な物を............」

「ん、どうした?」

「いや!なんでもないよ!それよりもほら、点灯式が始まるって!」

 

 乃木にそう言われると、司会のアナウンスが広場に広がる。今からカウントダウンをするようだ。10から始まったカウントダウンが、一つずつ減っていく。

 

「ね、ゆっきー?」

「ん?なんだ?」

「なんで私、あまーいカフェモカを買ったと思う?」

「気分だろ?」

「んー、30点。最初はそうだったんだけどね。今は丁度いいかな、って」

「なんで......!?」

 

 カウントがゼロとなると共に、クリスマスツリーの電飾が下から順番に灯っていき、最後にはツリーの天辺にある星が凛々と輝き、周囲まら歓声が湧いた。

 

 もっとも。俺はその光景を目の当たりに出来ず、ただ頬を朱に染めた園子の顔だけが見えていた。

 

「なっ...おまっ......」

「コーヒーの苦味もいいけど、やっぱり甘い方がいいでしょ?甘々なぐらいが、ね?」

 

 俺は確かに感触が残る唇にただ赤面するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢が、醒めた。

 目が覚めるのは見慣れた天井、薄暗い部屋。

 あぁ、あれは夢だったんだ、と悟ると一気に無いはずの胃から嘔吐感が溢れ出してくる。

 

「うぅっ......!」

 

 ベッドから転げ落ちるように、片足しか動かない足で洗面台へ向かう。吐き気を抑えきれずに、吐瀉物を吐こうとするが、何も出ない。そりゃあそうだ。

 

「はーっ...はーっ......」

 

 嘔吐感に喘ぎ、洗面台に備え付けられた鏡を見た。酷くやつれた顔、濁った片目。昔の『私』からすれば考えられない程醜い。

 

「う......うぅぅぅ......あああああああ!!」

 

 我慢できずに鏡を拳で殴りつけて叩き割る。拳に破片が突き刺さって痛いが、そんなことはどうでもいい。

 

「あんな夢、あるはずがないんだ!!」

 

 あるはずなんてない。あってはならない。あの憎き相手と私が恋人同士?ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな。

 

「うわあああああ!!!」

 

 暴れに暴れる。

 部屋にあるもの全てを壊すかのように。

 私を祀り上げているモノを蹂躙するかのように。

 全て、全てが憎かった。

 

「私は、お前を許さない!結城勇祐!!!」

 

「私から全てを奪ったお前を、一生許さない!!」

 

「例え全てを返して貰ったとしても、絶対、絶対に許してやるものか!!!!」

 

 大好きだったサンチョも、もはやズタボロになっていた。それを見て、私は酷く顔を歪めながら部屋の隅にサンチョを放り投げた。

 

「お前の爪を剥がし、指を切り落とし四肢を折り、割き、そして最後は内臓を引きづり出して殺してやる」

 

 ミノさんを殺した恨み、忘れるはずがない。だから、殺す。

 

「あは......あははは!バーテックスが来たんだねぇ。なら、もうわっしーには頼らないよ。私が、この手で決着をつける。つけてやる......。あはははははは!!!!」

 

 神樹様が、私の正気も、散華の供物として持っていったのであれば......どれだけ良かったのだろうかと、考える時がある。そうすれば、廃人になって、それで終わったのに

 

 

 

 

 きっと私は、誰かに助けて欲しいんだ。

 

 

 

 




この短編の勇祐
夢の中の彼は不良なのは変わっていないし本編の勇祐からすれば口調も荒い。その他の面は変わらず、本編と同じ設定の勇祐君です。勾玉を生まれて間もない頃から持っていたらしい。それを恋人にプレゼントするって変わってるね。


この短編の園子
全部園子の夢でした。話の視点は勇祐君だけどたぶん園子は園子視点で見てると思う。夢から覚めた園子は本編の園子。園子がゲシュタルト崩壊しそう。正気を僅かに保ちながら狂っちゃった。


この短編の友奈と東郷
実はカップル。作者はゆうみも推しです。


この短編の銀
いや、普通に出すの忘れてた。ごめんね。
夢の中だと幸せに生きてると思う。


この短編書いた作者こと白桜太郎
クリスマスに他のゆゆゆ二次作者様達は幸せな話を書いて投稿するだろうに、ここまでやる奴ほかに居る?と思いながら書いてました。夢オチなんてサイテー!
でも夢から覚めた後は書いてて凄く楽しかったので後悔も反省もありません。
夢から覚めるまでは砂糖吐きまくってしんどかったです。


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