防人達の活動時期ってメモリアルブック見たら秋頃からってなってた事に気付いて焦ったのですが、まぁ原作との齟齬は今更だよなって事で開き直りました。
あの夜の自殺未遂事件から3日。何故か俺が起こす事件って基本的に夜だよなとか考えてたらすぐに過ぎていった......。いや、過ぎていったことにしてくれ。恥ずかしくて東郷の顔を見れないどころの話じゃなかったんだ。三好にも生暖かい目で見られるし。お前どこで聞いてたんだよ。助けてくれたっていうのは知ってるけどさ!「ありがとう」ってちょっと吃りながら言ったら「お、おう...」って反応されたんだぞ畜生。姉や犬吠埼姉妹には知られていないのが唯一の救いなのだが、東郷もなんだか優しくなったし......。俺はどうすりゃあいいんだ。
「ゆうくん、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫じゃないかもだけど大丈夫......」
「うーん、これは大丈夫っぽいけど大丈夫じゃなさそうな答え方。お姉ちゃんちょっと悩んじゃうな」
布団を頭から被る悩み多き俺に、姉がツンツンと布団をついてくる。事情を知らないからって好き放題やりやがって。このっこのっ!
「布団から手だけ出てきた!」
「まるで猫みたいな反撃ね......。猫祐?」
誰が猫だ。人の気持ちも知らないで。
「そういえば東郷さんって、やっぱりゆうくんが家出してた時に出会ったのかな?...........わっ、これ結構面白い。猫じゃらし持ってくればよかったなぁ」
「そう、らしいわ。あまり覚えていないのだけれど......」
「そういえば記憶が......ごめんね東郷さん!」
「謝らないで友奈ちゃん。私は大丈夫だから。それよりも凄い勢いね......」
片手で俺と姉は高速手取り勝負をしていた。なんの勝負で、何で勝ち負けが決まるのかは分からないがまぁいずれ決着はつく、と思う。
「でもなんでねこくんは東郷さんと出会った事を忘れてたのかな?」
「誰がねこくんだ、誰が。......俺もそこは分からねぇんだよ。なんで忘れたのかいつ忘れたのか、さっぱりだ。あのて......雷で忘れた記憶は思い出せたんだけどなぁ」
「あの雷凄かったもんねぇ。ピシャーン!っていうかドーン!って感じだったし!電気ショック?」
「かもなぁ」
猫と呼ばれた俺はチラリと顔を出して姉に反論した。すると、東郷が視界の端で微妙な顔をしていた。
「なんでそんな顔してんの?」
「むしろ姉弟の微笑ましい戯れ合いだと思っていたら拳の激しい攻防を見せられて困惑しない方がおかしいと思うわ」
「えー!普通だよ!」
「普通だと思うけどな」
「普通の家庭ではそんな高速片手殴り合い受け止めた方が勝ちみたいなのはやりません!」
えっやらないの?こう、暇な時の組手みたいな感じで。「暇だなー、じゃあ拳当たったら負けゲームしようぜ」みたいなのとか。
「これはむしろ東郷がおかしいだけでは?」
「なるほど......一理あるかも」
「ありません!」
「あっ東郷さん一人っ子だもんね。じゃあ風先輩達はやるんじゃないかな!」
「樹がやるようには見えんけど......もしかして実は凄いのか?」
「かもしれないよゆうくん。きっと本気出したらユーアーショック!だよ。きっと!」
どうやら姉の中では、樹は服をビリビリに引き裂くほどの筋肉ムキムキになって百裂拳とかやってしまうらしい。想像しただけでも強い。
「俺勝てそうにないなぁ」
「大丈夫だよゆうくん!私がいるよ!」
「姉貴と2人なら割といけるか......!?」
実際シミュレーションしてみるものの、どうもそこに三下臭のするモヒカンパイセンが出てきて邪魔をしてきて苦戦するという姿が出てくる。北斗の樹攻略は難しそうだな。なんか空が落ちてきそうな気がする。
「なんでそうも真剣に悩めるのかしら......私にはちょっと理解できないわ」
「考えるな、感じろ!だよ東郷さん」
「その難易度が高過ぎるのよ友奈ちゃん......。2人が合わさるとこんなにほんわか空間なるなんて......」
「困惑するどころか恍惚な表情になってんぞ東郷」
東郷への呼び方も今は東郷呼びで統一している。東郷の要望もあるのだが、理由としては俺を以前の呼び方である「ゆっきー」と呼んでしまいそうだからだそうだ。
なにせ東郷の記憶喪失が殆ど嘘なのを知っているのは俺だけだ。更に今は勇者部にその真実を話すには時間が悪すぎる。『散華』の事など以ての外。勇者である事を隠せばまだ話せるのだろうが、以前の学校から元勇者である、という線を辿られる可能性も無きにしも非ずだ。
散華の事を話せなかった事を非常に気に病んでいる東郷だが、俺には...何も出来ない。「触れないでくれ」とまで言われたんだ。こうして元気な様子を見せる東郷だが、心に抱えた闇は深い。
姉も東郷も、犬吠埼姉妹も...あと園子も、俺が元凶の地雷が埋まっているのを何とかしなければいけないとは思うのだが......。
「入るわよー。風達は後で来るって言ってたけど......何してんのそこの姉弟」
「今は高速片手アルプス一万尺やってる」
「よく手元見ないでやれるわね。それも白面の力とやら?」
「いや、姉貴の動きに合わせてるだけだから違うけど......ちょっと姉貴、緩急つけるのやめろ」
病室に木刀を担いだ夏凜がやってくる。なんで病院で木刀担いでんだ。いくら大赦から許されてるからって木刀を抜き身で持つのは駄目だろ。せめて布袋に入れとけって。
「だって緩急つけないと面白くないもん!」
「あんた達本当に仲がいいわね。あと勇祐、うちの兄貴が呼んでたわよ。話があるって」
「春信さんが?というか三好、春信さんと仲悪くなかったっけ?」
春信さんからは一方的に嫌われているんだよね、と苦笑混じりで語られた事を思い出す。どうやら実家でのコンプレックス故に、だそうだが三好本人が語らないので定かではない。
「なんかボコったらスッキリしたわ。その辺は、まぁ間接的にもあんたのおかげかもね」
「お前最近優しくて怖いんだけど.....。まぁいいや。んじゃあ行ってくるか」
「ゆうくん、大丈夫?」
布団からガバリと起き上がって背伸びをする。高速片手じゃんけんあいこ縛りも結局決着がつかなかったが勝負はお預けだ。姉の心配そうな顔を見て、俺は笑顔で姉の頭を撫でる。
「大丈夫だよ姉貴。怪我も殆ど治ったしな」
医者が「ちょっと流石に意味わかんないですね」と匙を投げた回復力で、俺は昨日の内に骨折などの怪我を全て完治させていた。要は『流星』の応用だ。細胞を活性化させて治癒力を驚異的に高めた。そのお陰で寿命は縮んだが、『元々あってないようなもの』だからしょうがない。ただ、左目だけは治せなかった。流石に回復力が足りなかったようだ。
俺は三好の後に続きながら病室を出たのだった。
♦︎
「私さ。あんたの事を人間って言ったわよね?」
目的の場所への道中。三好は藪から棒にこんな事を言い出した。
「言ってたけど、それが?」
「......今も、答えは出てないんだけど...私はあんたの事、人間だと思ってるから。あんたほど人間臭い奴は居ないわよ」
「あんな姿を見ても、そう言うのか三好は」
俺が言うあんな姿とは、人の姿でありながらも人から逸脱した風貌の俺のバーテックス体の話だ。勇者部に話に聞くと人型のバーテックスらしいが、俺も鏡を見たわけじゃないからなんとも言えない。話せなくて、体がほぼ真っ白だったのは覚えている。
「一時的な話でしょ。というかいろんな人がいるんだからあんな姿の人だって居てもいいでしょ?」
「いや...化け物だぞ?どう見ても」
「中身は勇祐じゃない?ならいいでしょ」
「よくないだろ。俺だっていつ暴れるか分からないんだぞ。だから俺を抑えられる勇者システムを持った東郷と、木刀持ったお前が俺の監視役についてんだろ?」
東郷は初日から。三好は俺が拉致されかけた3日前の日から俺の監視役として、学校以外は俺の病室か隣の個室病室で過ごしている。本人曰く「しゃーなしよ」という事らしい。三好が勇者システムを持たない理由は恐らく今後はバーテックスの進行がないから、だろう。
「因みに真剣もあるわよ」
「すっごい聞きたくなかったぞその情報」
「あるだけよ。あんたが暴走してもやりたくないし。知り合いを私に斬らせるつもり?」
「そうさせないように、出来るなら自分で死ぬつもりだけどっ!?おい待てって話はまだ途中だぞ!?」
俺が「死ぬわ」と言ったら鬼の形相で木刀振るのやめない!?今髪の毛掠ったぞ!!?
「まだ死にたいとか言うのか。ならこの場で殺してやるわ」
「そうならないように努力するって話だっつの!早とちりすんなよこの木刀暴力ゴリラ女勇者!」
「なんですってこの野郎!あんたが怪我が治ると同時にどっか行こうとしてたことぐらい東郷から全部聞いてんのよ!」
「だって東郷に泣きついてたの思い出したら居た堪れなくなったんだよ!もう俺が死ぬ死なないは吹っ切れたっつの!」
「紛らわしいのよ!そうならそうと言いなさいよ!」
「言えるかそんなもん!」
わいわいギャーギャーと、三好といつもの口喧嘩。だがそれも三好側が落ち着きを取り戻してすぐに沈静化した。
「これからは相談でもなんなり、話を通しなさいよね。勇者部って案外そういうとこねちっこいのよ?仮部員?」
そう言うなり三好が立ち止まる。どうやらこの談話室で春信さんが待っているらしい。
「覚えときなさい。あんたは勇者部の味方でありたいみたいだけど、私たち勇者部もあんたの味方だからね。風も、たぶん同じ事を言うわ」
言うだけ言って、三好はその場から立ち去っていく。少し顔を赤らめていたので、言っていて恥ずかしかったんだろうか。
「なにやらうちの夏凜と仲がよろしいようだねぇ?」
「あれで仲良く見える...みたいですね。勇者部のみんなもそう言ってますし」
「......少しズレてるよね勇祐くんは。彼女達も色々と困ってそうだね」
「どういう意味なんすかそれ...」
「そこは自分で考えて欲しいところだね。ま、中に入って話そうか」
青筋浮かべて談話室から出てきたと思えば困惑したような疲れたような顔で先に談話室に入っていく。なんだったんだ?
「さて、ここからは実務的な話だ」
談話室に入ると缶コーヒーを投げ渡される。片目がなくて距離感掴みにくいからやめて欲しいんだけどな。まぁそこはいいや。
......甘っ、これマックスコーヒーかよ。
「君の探し人の件で防人隊が君の要請から1度外に出たんだけど、やはり人型の誰かさんは居ないようだ。あと芽吹くんからの伝言で「次は殺す」だってさ。愛されてるねぇ君も」
「今なら本気で殺されそうな気がするんだよなぁ......」
防人隊を危険に晒してまで探しに行ってもらったんだ。サンドバッグぐらい甘んじて受け入れよう。ただそれだと訓練にならんから抵抗はするけど。それとこれとはまた別の話だ。
「ま、32人もの少女達に想われているんだ。受け入れるのも男の本懐だよ?」
「流石に32人はなぁ...そもそも俺って怖がられてる方だろうし」
「つれないなぁ。もう少し乗ってくれてもいいんだよ?」
「そういうの嫌いなんすよね。というか、防人隊には白面で出会ってて、素顔を晒してない訳ですしそういう感情のかけらもないでしょ?」
「うん、本題はそこさ、勇祐くん。防人隊、行ってみないかい?」
「えっ?」
「実を言うと君を大赦の手から遠ざけるのも限界があってね......。君を排除しようという勢力が園子様襲撃から一気に増えてしまったんだ。具体的に言えば僕と僕の部下以外全員が敵さ」
わお、三好が俺を止める為に真剣持ってる以上に聞きたくなかったなそれ。本格的に俺が敵って訳か。はははウケる。全然笑えないけど。
「そこで、大赦の施設でありながら僅かな存在しか立ち入りが許可されていないゴールデンタワーに一時的に避難してもらう事になった。これは我々の計画の為にも必要でね。丁度タイミングが良かったんだ」
「............『反抗作戦』。その為ってことすか」
「そう、天の神に対し人類が遂にその切っ先を向ける、作戦名『天穿ち』。2年前、天の神に一撃を与えて、2年の猶予を与えてくれた君だからこそ成せる作戦だと私は信じているからね」
そう、これが春信さんが俺に接触してきた理由だ。32人の防人、そして乃木園子を含めた6人の勇者からなる決死隊を用いて天の神に一矢でも報いる。そしてその援護の元、俺がその身を犠牲にしてでも天の神を滅ぼすという算段。
ぶっちゃけた話、出来るわけが無いと思う。あの2年前の時でさえ、まぐれのような結果だった。だが春信さんは神樹の寿命を試算し、その結果から計画を発案したのだそうだ。『少しでも人類の繁栄を長引かせたい』。その想いの為に同志を募った。
結果は見ての通りだが、元凶は俺とはいえ、園子の暴走の件に関しては俺はあまり悪くない気がする。
「もし、僕が暗殺とかされたりして計画がパーになっても、この計画に意味があるようにはしてるからね。その時は君を守れなくなるけど」
要は俺自身が春信さんに人質にされているのだ。勇者部と仲良くなった俺が大赦によって処刑されてしまえば、最低でも姉は『使い物』にならなくなる。下手をすれば勇者部が大赦に襲撃をかけて、滅茶苦茶になるだろう。俺はそれを許せないが為に死ぬわけにはいかない。なんとも複雑な関係だ。表面は柔かな春信さんだが、裏の顔は手段を選ばない。
「俺が生きてりゃ姉貴が苦しみ、俺が死ねば姉貴が苦しむ。なんともまぁ、やりきれない人生だな」
「うん、君には悪い事をしてると思ってるよ」
「そんな笑顔で言われてもな。まぁ、いいよ。俺に選択肢はねぇんだから」
「あるにはあるけどね。それを君が選ばないだけで」
「いい死に方しないぜあんた。俺も人のこと言えんけどさ」
「百も承知さ。死んだら、地獄で会おう」
地獄で済めばいいけどな。
猫祐くん
高速片手ナントカを友奈と一緒にやる。勝ち負けは基本なく、どちらかが飽きるまで行われる。だが一旦勝ち負けが決まってしまうとくすぐりが待っているという闇のゲームなのだ......!ちなみに猫ではない。
友奈ちゃん
組手も高速手遊びもどこの家庭でもやっていると思っている。やってませんよ結城さん。猫じゃらしが欲しい。
東郷さん
勇祐と友奈が絡む姿が尊くてマジ無理.........。あとで隠しカメラ確認しなきゃ......!
夏凜
やっぱり木刀暴力ゴリラ勇者だった。なお被害者は主に勇祐。いつも迷惑を掛けられているので所謂インガオホーである。ショギョムッジョ。
春信さん
実は腹黒い。目的の為なら手段を選ばないけど直接的な人質を取らない辺りはまだ理性がうかがえる。やっぱり大赦仮面の一員には変わりないのだ。
新年明けましておめでとうございます。
まだまだこの作品は続いていきますのでご愛顧のほど宜しくお願いします。