結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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第2話 それは彼が心配する話

 授業は退屈だ。退屈だから寝てしまうし、寝て起きたらよく分からない世界に居たりする。木の根が張り巡らされた、静かな世界に居たりするのだ。

 あー、夢だこれ。たぶん、きっと、メイビー。

 たまにこの世界の夢は見たりするが、たしか2年ぶりぐらいじゃなかっただろうか。

 どうでもいいか。夢だし。

 

 さて、夢の中なのに実に鮮明な情景なのは置いておこう。まずは今着ている変な服だ。

 赤を基調として基本的に白色の配色。装飾っぽい部分は黒色。

 両手には恐らく金属製の黒い籠手。

 左肩には赤色で黒い、なんだ?文様?花?が描かれた盾。あっこれ格納式でシャキーンって盾が展開するわ。かっけぇ。

 右肩には何も無いがたぶんパイルバンカーだろう武器が右腕に取り付けられている。ボトムズかな?

 

 あと顔触ったらお面みたいなの付けてんな。一切視界には困らないから気づかなかった。

 取り外し出来たので取ってみると、真っ白なお面だった。視界用の穴とかも一切空いていない癖に見えてたのか...やっぱ夢なんだな。

 でもなんかこの服とか装備しっくりくるな。割と動きやすいし。前に着てたとか?まっさかぁ。

 

 

 でもまぁ夢だしその辺はどうでもいっかー、なんて考えてたらその夢は終わった。ブツン、とまるでパソコンが強制的にシャットダウンされるかのように。パイルバンカー打ってみたかったなぁ。

 

 

 

 目が醒めるとそこは教室だった。授業中に居眠りしてたから当然なんだけどさ。

 周りがざわついている。どうやら姉と東郷が急に消えたらしい。

 

「は?」

 

 いやいやそんな手品みたいな事は起きないだろ、と思っていたら本気で2人が居ない。

 探しに行こうかと思ったら神官服を着て大赦のマークが描かれた白面を被った奴が突然教室に入ってきた。

 姉と東郷は神樹様に選ばれて勇者というお役目についたとかほざいている。

 

「は?」

 

 二度目。

 で、今後もこんな風に唐突に消えることがあるらしい。『今後も?』

 いや待てや、おい。ちょっと待て。今、『姉さん』は何処にいる。

 ぐるぐると嫌な予感と焦りが心ををうねる。

 不安。怒り。様々な負の感情が渦巻いていく。

 

 それに耐えきれず、俺は教室を飛び出した。

 嫌な感情しか湧いてこない。気持ち悪い。喉から胃液が上がってくる。心臓の鼓動が早くなる。

 早く、早く姉を見つけて安心したい。

 何処にいる?いやたぶん、屋上だ。あそこは元々変な雰囲気あったし。確か社が建てられていたはずだ。

 

 あとは勘だけど、きっと、いや絶対、確信を持ってそこに姉はいる。

 

 

 屋上のドアを乱暴に開く。そこには姉と東郷の他に犬吠埼姉妹が居た。やっと体の中をうねっていた黒い渦が収まる。よかった。本当に。

 

 そして面子を見て、一つの答えに突き当たった。『勇者部』って、もしかしなくてもそういうことかよ。だがそれは後だ。

 

「姉貴!」

 

 思わず姉さん、と叫びそうになったのをぐっと堪えて姉を呼ぶ。すると姉が振り返り、少し強張った笑顔を向けてきた。

 

 やめてくれ。その顔は駄目だ。

 

「ゆうくん......」

「姉貴、怪我とかない?」

「うん、大丈夫。平気だよ」

「ならよかった...」

 

 ようやく安堵出来た。よかった。

 いやでもよくない。良い訳があるか。そんなもん。

 なんだ勇者って。なんだお役目って。

 うちの姉を怖がらせるのかよ勇者って。なんだよそれ。ふざけんなよ。

 色々、色々言いたいことがあるけど語彙力がないので言葉が出てこない。ちくしょう、勉強しときゃあよかった。苦手な国語の時間は真面目に授業受けようと決意する。

 

 姉に駆け寄って手とか足とか、素肌が見えている部分をぺたぺたと触る。姉はこういう時に黙っているから怖いんだ。さっき目を合わせた時に見えた奥底は、恐怖とか色々な感情で揺れていたから体よりメンタルがヤバいかもしれない。

 こそばゆいのか俺に触られてモジモジする姉。恥ずかしいのは分かるけど普段の行いが悪いんだぞ。自己犠牲の塊め。

 

「犬吠埼先輩」

「......えっ、なに?そのセクハラ見逃せって?」

「ちげーよちゃんと説明しろって言いてぇんだよ」

「無茶言わないでよ。その行為見てその発想には至らんわ!」

 

 後で説明しっかりしろよな、という目線を姉に触りながら先輩に投げるが、受け取ってはもらえなかった。何故だ。あと半泣きの樹の対処は先輩に任せよう。俺だと逆効果だろう。一方的に怖がられてるし、俺は姉の触診が終わったから次の奴を見なきゃいけない。

 

 ......ところで姉よ。なんで顔を赤くして俯いてんだ?

 

 東郷はさっきまで姉と同じような顔をしていたのに今は姉の顔を喜んでスマホで連写している。こえーよ。さっきまでの雰囲気なんだったんだよ。やっぱこの中で一番重症なのこいつだわ。いや元々か。ならしゃーねーか。処置無し。

 

「東郷、聞いても無駄だろうけど大丈夫か?」

「勇祐くん、もっとよ!もっと友奈ちゃんを触って!」

「うん、無駄だったわ。頭でも打った?病院行くか?外科じゃなくて精神科な」

「もっとやって!?」

「もーやだこいつ。なんで姉貴はこいつと友達出来るんだ?」

「友奈ちゃんとは親友だもの!」

「そういうこと言ってんじゃねぇよ!」

 

 もーやだ。なんか心配して損した。

 姉はまだ撃沈してるっぽいので代わりに東郷の脇を抱えてすぐそこにあった車椅子に乗せる。

「ひゃあっ」とか可愛い悲鳴が聞こえたが無視。やってられんわ。というかなんで車椅子から降りてたんだよこいつ。

 

「んで、パイセン。説明はよ」

「......放課後でいい?」

「なんで?」

「いやほら、授業あるし」

「俺は関係ないし」

「いやあるでしょ...」

「だっ駄目だよゆうくん!サボったらダメ!」

「そ、そうよ勇祐くん!授業をサボるなんて大和男児らしくないわ!」

「ふえぇ...そんな不良っぽいことするなんて勇祐さんはやっぱり怖い人なんだ......」

 

 ええいやめろお前ら。犬吠埼妹も勘違いを加速させてるな!犬吠埼先輩も「樹を泣かせたな!」とか言うな!こっちに凄んでくるな!やめろ!分かった!放課後、放課後な!

 

 畜生、こんなキャラじゃなかったはずだぞ俺は。

 

 

 ♦︎

 

 

 放課後。

 俺たちは犬吠埼先輩からの説明を聞く為に勇者部に集まった。

 若干イラ立ってますよ感を出しながら犬吠埼先輩を睨む。全然怒ってないし、たぶん大赦が全部仕組んでんだろうなという予感しかしないのでこれはただの八つ当たりだ。向けられてるご本人も俺の視線の意味を今度は理解してくれたらしい。

 というか俺が怒らんとこいつら無駄に正義感があるから「はぁ~すごいですねぇ」で終わる気がする。特にうちの姉。

 

 おい、そこの犬吠埼妹、俺は怒ってないからな?ほんとだぞ?だから姉の後ろに隠れようとするのはやめタマえ。タマってなんだ?

 

「というか雰囲気で有耶無耶になりかけてたけど結構ヤバい事してんだぞお前ら。バーテックスだ?神樹様を攻撃する?人類滅亡の危機?それを中学生が勇者として立ち向かって防ぐ?アホかよ。正直どこのマンガだよって話だぞ」

 

 パイセンが黒板に変な絵(敵とか世界とか色々書いてたらしいが正直海洋生物にしか見えなかった)を描いて色々と説明された後での俺の意見だ。大人どもなにしてんの?何うちの姉達に押し付けてんの?恥ずかしくないの?

 

「うーん、大赦潰した方が世の為じゃね?」

「駄目よ勇祐くん。暴力では何も生まれないわ」

「逆に考えろ東郷。これは幕末維新だ。大赦は米帝の手先なんだよ」

「ハッ!そういう事ね勇祐くん!これは御国の為...そう、国防!」

「いや乗せ方雑すぎだしなんで東郷もそんなのに乗せられてるのよ」

 

 適当な事を言って東郷を倒幕に傾かせようとしたがダメだった。取り敢えず東郷は特に思い悩んでなさそうだしいいや。「大赦からそう指示されているのなら下士官はそう従うしかありませんし...でも勇者部五箇条にあるように『悩んだら相談』して欲しかったです」って東郷本人も言ってたし。悩んでなかったんじゃないか?とは口が裂けても言わないが。

 

 姉も姉で「私たちしか出来ない事があるなら、頑張ります!」と張り切っている。ちょっと怖いという気持ちが見え隠れしてるけど、あれぐらいならなんとでもなろう。

 ていうか犬吠埼妹含めて『全員変身できた』んだな。よくまぁ意味の分からん敵に立ち向かえたもんだ。俺なら初手逃げに走るぞ。

 

 まぁそれでも俺が居なかったらたぶんもうちょい拗れてたんだろうなぁ、姉が居るからすぐ関係とか治るだろうけど。

 

「んじゃあパイセン」

「あんた呼び方変わったわね」

「いや個人的には家族を説明なしに巻き込みやがって!っていう気持ちは無きにしも非ずなんすよ」

「その、ほんとごめん...」

「謝罪の気持ちがあるんなら誠意を見せて欲しいっすよねぇ...?」

 

 冗談である。誠意よりも俺が戦える力の方が欲しい。

 

「乱暴する気ね!?エロ同人みたいに!!」

「するかアホ!」

「ゆうくん、調子乗り過ぎ」

「そうよ勇祐くん。風先輩が困っているわ」

「お姉ちゃんを虐めないでください!」

「おっと冗談だったのに針の筵じゃねぇか。犬吠埼妹が勇気見せたんで辞めときますわ」

 

 まぁ冗談もここまでにしとこう。犬吠埼妹も脚さえ震えてなかったらよかったんだけどな。そこまでは求め過ぎか。

 

  ......というか俺、そんなに怖い?割と以前から犬吠埼家には足を運んでるんだけど。

 

「樹ぃ~助かったわ~!」

「お、お姉ちゃん抱きつかないで!」

 

 パイセンが犬吠埼妹に抱きついて頭をすりすりしている。犬かあんた。苗字に犬は入ってるけどさ。

 

「んじゃ、後は勇者部で話し合っといてくださいや。俺は帰るんで」

「ここまで場を引っ掻き回しといて逃げるわけ!?」

「俺が口出さんと自分たちヤベーことやってんだって事、理解せんかったでしょ。勇者の力?バリアがあるから致命傷は避けられる?アホ抜かせ、俺たちただの中学生だぞ。しかもパイセン以下勇者部は喧嘩もした事がねぇ。実力不足にも程があるだろ」

「使い方は分かったよ?」

「それは結構。で、外側だけ強くしたところで中身はどうなんだ姉貴」

「それは...その......」

 

 言い淀む姉貴。俺も責めたい訳じゃないからこれ以上は言わない。

 

「要はもうちょい覚悟して挑めって言いてぇんだ。避けられない戦いだろうけど、準備は出来んだろ?それと普通に心配。喧嘩に傷はつきもんだけどさ」

「勇祐、あんた結構心配性なのね」

「あのな、知り合いが戦場に行くようなもんだぞ。心配するだろうが普通」

「友奈ちゃんは私が守るわ勇祐くん!」

「東郷さん...うぅん、勇者部は私が守るよ!」

「じゃ、この実は優しい強面少年の為に、皆頑張りますか!」

「「おおーっ!」」

「強面は余計だ!」

 

 張り切る勇者部を見て、俺は少し不安を感じる。俺もこの輪の中に入れていたら、この不安も消えていたのだろうか.......。

 

 

 

 




ゆうくん
知り合いどころか大切な姉が素人のまま戦場に投げ出されて滅茶苦茶不安。新兵訓練とかないの?ないんですか。
すでに覚悟ガンギマリしてそうな勇者部に一層の注意を促したけど、それしか出来ない自分に少し嫌気。たぶん姉は気付いている。

友奈ちゃん
ゆうくんが心配がってるのは分かってるけど何処から湧いてくるか分からない謎の意思で大丈夫!と言える強い子。
姉は強い事を証明して心配を掛けないようにしたい。でも自己犠牲の塊なのはゆうくんが危惧した通り。目を離すと怖い。


東郷さん
やっぱり勇祐君は友奈ちゃんに似て優しい子ね。私はちゃんと分かっているわ。
原作と違って最初から覚悟を決めて変身出来た模様。


風パイセン
もっと責められると思っていたし、全員変身出来るとは思っていなかった系女子。後で勇祐には個別で謝った模様。

樹ちゃん
勇祐が怖い。けどやっぱり良い人っぽいからもっと勇気を出して接するべきか悩んでいる。でも勇者部の部員じゃないし...うぅん?
勇祐が犬吠埼家にやってくる時はいつも奥の部屋で隠れるように静かにしてた。めっちゃビビり。
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