結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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第20話 それは彼らの一時の話

「あづいよぉ〜」

「暑いわねぇ......」

『書く気力がないので暫く無言になります』

「あっ樹ちゃんが溶けてスケッチブックすら持てなくなってる......」

「やる事ないしコンビニに涼みに行ってもいいかもねぇ...」

 

 ゆうくんが夏凜ちゃんのお兄さんに連れて行かれて2日が経ちました。

 東郷さんはまだ入院中。夏凜ちゃんも「やる事ないなら鍛錬する。用事があったら呼んで」とNARUKOで連絡があって部活を休んでいます。

 勇者のお役目も終わったけど、夏凜ちゃんは以前からの習慣は抜けないみたい。

 

「アイス!食べたいですよねぇ......!」

「んじゃ、今日の部活はもう休みにしてコンビニ行きましょ。今日は東郷も検査でお見舞いは出来ないみたいだしね」

『アイス!!?』

「溶けた樹ちゃんが凄い勢いで元に戻った......!」

「樹も元どおりになったし、今日は私が奢ったげるわよ!」

「いえーい!」

『いえーい!(≧∀≦)』

 

 

 そんな訳で、今日も勇者部は平和なのでした!

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「あっつい......」

「そらお前、この炎天下の中で完全装備の模擬戦やったら暑いだろ」

「なんで...テメェはバテてないんだ.....?」

「悪いな、暑さには強いんだよ」

 

 太陽が容赦無く熱気を放つ今日この頃、俺は芝生に寝転がって息も途絶え途絶えな山伏しずくを見下ろしていた。俺は暑くないのかって?暑くないんだよなこれが。

 具体的に言えば暑さを感じる感覚すら鈍くなってきた感じだ。どうも最近無茶し過ぎてるからだろうな。

 

 炎天下の中、山伏が「一発ヤらせろ!」と年頃の女子が明らかに口にしてはいけない、勘違いしてしまう言葉ランキング上位に食い込む発言をしてきたのがきっかけで唐突に完全装備の模擬戦を行なっていた。

 といっても俺はパイルバンカーと大楯なしだ。

 アレがあったら殺してしまうし、攻撃も俺に通じなくなる。なのでいつもの仮面と装束。楠から借りた銃剣の装備だった。

 

「これで通算10戦10勝。ついに2桁の大台だぞ山伏?」

「納得いかねぇ!なんで芽吹みてぇな技巧がねぇのに負けんだよ!」

「なんでだろうなぁ?」

「むっかつくぅ!」

 

 結果はご覧の通り。1時間及ぶ終始俺が優勢な模擬戦は俺の勝利で終わった。判定はスタミナ勝ちだ。

 ギリギリで山伏が勝てそうに動きつつ決して負けないように立ち回っているんだからそうなるよな。

 でも喜べ山伏。この10戦で最初に比べて3割ぐらい強くなってるぞ。この調子でいけば秋頃には俺に勝てるんじゃねぇかな。

 

「ところでお前、いつもは静かなのになんで俺に突っかかる時はそんなに凶暴なんだ?」

「いつもはしずく。今の俺はシズクだ!見りゃ分かるだろうが!」

 

 分かんなかったから聞いたんだよ。悪かったな察しが悪くて。つまりお前は二重人格者か何かって訳か。へー。

 

「どうでもいい」

「んっだとテメェ!この俺がどうでもいいってか!!?」

「俺にとっちゃ山伏は山伏だしなぁ。二重人格だろうが変わらんっていうか...」

 

 出会って1ヶ月も経ってない訳で山伏自身に何か思い入れがある訳でもなく、俺が人間じゃない何かっぽいから二重人格程度では驚けないんだよなぁって。

 

「んだよそれ...意味わかんねぇ!」

「お前はお前って話。んで、まだやるか?」

「やってやるに決まってんだろ!」

「はいアウト。楠ー。この熱中症寸前のアホ娘連れてってー」

 

 顔は赤いし汗もあんまり出てないように見える。寸前というか熱中症そのものだろこいつ。

 自覚してるかどうか試しに聞いてみたがしてないなら怖い人を呼ぶしかない。

 途中から観戦していた何名かの防人の中から楠を呼び出す。暴れる山伏を抑えられるのは防人にはこいつしか居ない。

 

「寸前になるまでに、模擬戦は止めて頂きたいものですね。ほらシズク、行くわよ」

「はーなーせー!まだやるんだー!」

 

 抵抗できない山伏を脇に抱える楠だったが、気に食わない山伏が暴れ始めた。素直に体冷やして午後からでも俺のとこに来ればやってやるのに。

 

「はぁ...全く」

 

 山伏を抱えた楠の顔が変わる。ここ最近見慣れた光景が始まりそうだ。武士の情けで耳を塞いで後ろを向いてやろう。

 

「あー、いつものが始まるにゃ〜」

「メブのいつものだねぇ...」

「シズクさんも懲りませんわねぇ...」

 

 見学に来ていた防人たちも暗黙の了解と言わんばかりに耳と目を塞ぎ始める。俺も最初は面食らったもんだが慣れるのも早いもんだ。

 

「ちょ、ちょっと待て!おい芽吹!その顔は...ひぃっ!?パンツを下げるな!みんな見て......お前ら!顔を逸らして耳塞いでんじゃねぇ!助けろ!おい!聞こえてんだろ!?仮面野郎助けろよ!芽吹、やめろ!謝る!謝るから!お尻ペンペンだけは......いっだぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 山伏の抗議はどうやら全員からスルーされたらしく、夏模様の青空にパシーンという軽快な尻叩きの音がこだましていった。

 

 

 

「うぅ......痛い」

「静かな方の山伏か。お前にとっちゃ災難だったな。煩い方はどうしたんだ?」

「............私の中でお尻抑えながら、泣いてる」

 

 随分とダメージを受けたようだ。楠もまぁ容赦がない。

 

「体調管理出来るようになったらいくらでも付き合ってやるって言っといてくれ。機嫌の足しにならないとは思うが」

「......次は、殺す......ってさ」

「へいへい。やれるもんならどうぞ」

 

 防人の俺に対する殺すという言葉は最早挨拶に等しい。俺としてもやれるもんならやってみろである。そうやって向かって来てくれれば少しでも強くなるために俺も手伝えるんだからな。

 

「俺もシャワー浴びて昼寝でもするかなぁ」

「あ......えっと......」

「ん?なんだ?」

「その...ありがとう」

「......?なにが?」

 

 もじもじと、何かを言い出そうとしながら中々言い出せない山伏。なんだ、何を言いたいんだ?訓練のお礼とか?いやまっさかぁ。静かな状態の山伏も割と容赦無くボコったからそれはないだろ。

 

「その、シズクを認めてくれて......」

「あぁ、それか。気にすんなよ。1つの家に2人住んでるだけってことだろ?悪い事も何もないんだから堂々としてればいいじゃん。出来ないんなら今後の課題だな」

「う...ん......」

「楠も加賀城も弥勒も、他の連中も良い奴なんだから1回話してみたらどうだ?悩んだら相談、だ」

 

 国土からの受け売りだ。

 なお俺の場合、厄過ぎて話せない内容だから相談はしていない。やれるもんならとっくにやっている。

 というか、どいつもこいつも心に闇を抱え過ぎてて俺も困るんだよな。

 楠は勇者に対する強いコンプレックス。これは俺が投げ倒してたらいつの間にか防人を戦闘狂集団に塗り替えやがった。

 加賀城は殴りまくって多少の自信は付けさせた。代わりに俺から逃げるようになった。

 

 弥勒は...不器用ながらにお家再興の為に1人で孤軍奮闘している姿は涙を誘う。特にイマジナリー執事のアルフレッドをマジ顔で呼ぶ時は完全に心が壊れている。加賀城はよくその事でからかっているようだがあの姿は、ちょっと姉の姿と、な。重なるんだよな。

 

「頑張って、みるね......?」

「おう、まぁ山伏も無理すんな。無理に相談しての良い事はねぇし」

 

 そう言ってシャワーを浴びる為にその場から立ち去った。これで何か変わるのかは知らないが、まぁ、やらないよりマシだろう。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 三好夏凜は悩んでいた。

 今後、自分は讃州中学の勇者部員として過ごして行くことに、彼女は最早悩みも後悔もない。

 勇者としてのお役目がこんなにも早く終わり、それどころか満開すら経験しなかった現実にとてつもない喪失感を感じていたからだ。

 

 本当にこれで良かったのか。

 そう考えない日は、最後の戦いの日からなかった。

 夏凜以外が負った傷。風は生理不順。樹は声。東郷は左耳。友奈は不明だが、東郷の様子を見るに、恐らく不調があるのだと夏凜は感じていた。

 

 

 

 ------何かある。

 

 

 

 夏凜も、あの戦いでダメージは受けていた。なのに自分だけが戦いの後に疲労以外の異常がなかった事に夏凜は違和感を感じ、その事を勇者部に話そうか悩んでいたのだ。

 

「そうなると、満開が......?いや、まさかそんな............」

 

 大赦は問題ない、と言っていた。だが本当にそうなのかと疑ってしまう勇祐の一件もある。大赦は、勇祐が人の心を持った存在だと夏凜には教えなかった。『先代勇者の1人を殺した史上最悪の悪魔』と大赦は言ったのだ。

 だが蓋を開けてみれば、そこに居るのはただ必死に白面というもう1人の自分に抗う、ただの1人の人間ではないか。物事は1つの視点で見るべきではないといえ、夏凜にとって『先代勇者を勇祐が殺した』という話は信じられない話であった。

 

「どうなのかしらねぇ......」

 

 本日3本目のエナドリを飲みながら夏凜はいつも鍛錬で使っている海岸に座り込んだ。

 

「あの馬鹿も、人殺しするような馬鹿じゃないだろうし......」

 

 どちらかといえば人を殺さねばいけない状況に陥ったら自分の命を断つような存在なのが勇祐である、と夏凜は限りなく正解に近い答えを既に持っていた。

 

「なら、聞いてみるのが一番か」

 

 空になったエナドリの空き缶を背面スローで投げて立ち上がる。今日は東郷とは面会できない。夜に忍び込む選択は後で取るとして、まずは友奈に聞いてみるべきかと思い立ったのだ。

 

「思い立ったがなんとやらね。さて、鬼と出るか蛇と出るか......」

 

 夏凜に投げられた空き缶は綺麗な放物線を描き、綺麗に空き缶用のゴミ箱にシュートされたのだった。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「お待ちなさいアルフレッド!お茶の淹れ方を教えて差し上げるだけですわ!!」

「うるせぇ!誰がアルフレッドだ!俺は白面だっつの!」

「本当の名前を教えてくださらないではないですか!だから貴方は今日からアルフレッドですのよ!」

 

 ドタバタとゴールドタワーの中の廊下を勇祐と夕海子が走り回る。事の発端は勇祐がコーヒーしか淹れられない事に夕海子が憤怒した事なのだが、どうやら真摯に接して弥勒家を馬鹿にしなかった勇祐を執事に仕立て上げようとしているようだ。

 

「うるさいわよ貴方達!廊下を走るな!」

 

 そこに怒り心頭の顔でプラモデルのランナーとニッパーを握った芽吹が自室のドアを勢いよく開け放つ。

 

「楠!この似非名家のお嬢様をなんとかしてくれ!お前隊長だろ!?」

「貴方が執事になってくださったら似非ではなくなります!さぁ!この執事服に袖を通してくださいませ!サイズはピッタリの筈ですわ!」

「こえーよ!なんで俺のサイズ分かったんだよ!?」

「そんなことより私を盾にしないでいただけますか!?」

 

 勇祐はこれ幸いとばかりに、現れた芽吹の後ろに隠れ夕海子を牽制する。

 

「先っちょだけ!先っちょだけでいいのですわ!?」

「よかねーよ!お前どうせ最後まで執事やらせる気だろ!?」

「そっ、そそそ、そんなことありませんわ!ただ執事服を着て紅茶を淹れて頂くだけで立派な終身アルフレッドの完成ですもの!」

「結局は同じじゃねぇか!」

「ちょっと、貴方達...いい加減に.....!」

 

 鼻息荒く迫る夕海子、その夕海子からなんとか逃げようと芽吹を盾にする勇祐、そしてそんな2人に挟まれ、もみくちゃにされる芽吹。

 そんな芽吹の堪忍袋の緒が切れるのも遅くはなかった。まず芽吹を盾にしていた勇祐を背負い投げして吹き飛ばした後に、突然の出来事に驚いた夕海子の顔をアイアンクローでひっ摑んだ。

 

「あだだだだだ!!?」

「いい加減にしろって言ってるのよ......!弥勒さんも晩御飯をゼリー飲料にされたいかしら?」

「そ、それは御勘弁を!?」

 

 アイアンクローを受け、半分ほど靴が床から浮いている夕海子は必死に芽吹に謝罪する。こういう時、本当にやるのが芽吹なのは彼女はよく知っていた。

 

「なぁ......なんで俺、投げられたんだ?」

「......。自業自得......?」

 

 廊下で大の字で寝転がっている勇祐をいつの間にかやってきていたしずくが勇祐の仮面をツンツンと突いていた。

 

「......触ってもいいけど取ろうとはすんなよ」

「......っ」

「流石に顔見られたら殺すしかなくなるんだわ。すまんな」

「その......ごめんなさい」

「驚かせすぎたか。ごめんごめん。その内見せられると思うから気になるんならその時な」

 

 勇祐は寝転がったまま、しずくの頭を撫でる。

 

「えっ......あっ、う......?」

「あれ...?」

 

 頭を撫でられたしずくは時が止まったように動かなくなった。

 

 

「う...うぉぉぉぉああああああ!テメェ!何してやがんだこの野郎!女子の頭をそう簡単に撫でんじゃねぇ!!」

「ちょっ、待て山伏!今腕の関節をキメようとするな......あああああああああ!!」

 

 唐突に目つきが変わり、顔を真っ赤に染めたシズクに人格が変わった途端に勇祐の腕の関節を極め始めた。どうやら相当恥ずかしかったらしく、しずくは半分気絶しているようだ。

 

「うるせぇぇ!しずくを虐めたお前は許さねぇ!」

「いだだだだだだあああ!謝る!謝るから!勘弁してくれ!!」

 

 そうして煩くなった廊下での騒動は亜耶が止めに入るまで続き、結局4人共『私達は廊下で騒ぎました』のと書かれた札を首から下げられ食堂の入り口で正座させられる事になったのだった。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 

「はっ!今ゆうくんがナデポしてるような電波が......!」

「おーい友奈。戻ってこーい。その電波は絶対気のせいよー?」

「気のせいじゃないよきっと!たぶん、半分ぐらい当たってる......はず!」

「勇祐じゃないから本当に当たってるのか判断しづらいわね......」

 

 夜。宅配便も頼んでいないのに家のチャイムが鳴ったと思ったら、なんと夏凜ちゃんでした。立ち話もなんなのでリビングに招きます。不思議そうに周りを見渡した後、夏凜ちゃんはいつもより凛とした表情になりました。

 取り敢えず麦茶を出して、夏凜ちゃんと机を挟んで座り合います。

 

「ねぇ、友奈。なんで勇祐は白面なんかになったと思う?」

「えっ......?」

「私、不思議なのよ。あいつは乱暴で言葉遣いも悪い、不良のレッテルを貼られてもおかしくない行動ばかり。でも、あいつは世界を敵に回すなんて事は絶対にしない。それは友奈、あんたが居るから」

 

 私の顔をじっと見て、夏凜ちゃんは言葉を続けた。

 

「ま、全部私の仮定の話だけどね。大赦からはなーんにも返事がない訳だし、一方的に話を振られるだけだし?それは今いいわ。友奈。私は戦う事しか出来ないから、戦いたいの。だから教えて、勇祐こと。友奈が知りうる全部を」

 

 

「えーっと、もしかしてゆうくんの事好きなの?」

 

 一瞬の静寂。私の言葉の後、夏凜ちゃんの顔が固まっちゃった。

 

「は?」

「だってそれだけゆうくんの事が気になるなんて、好きって事なんだよね?」

「いや、いやいやいや。どうしてそうなるのよどうして」

「違うの!?」

「違うわよ!」

「いっつもゆうくんと一緒に騒いだり喧嘩してるのに?」

「むしろ仲悪く見えるでしょ!?」

「喧嘩するほど仲がいいって言うし!」

 

「あーもう、違う!」と言う夏凜ちゃんにが容赦無く言葉を浴びせていきます。ゆうくんの全てを教えるのはいいけど、ゆうくんが恐れてる何かが起こってからじゃ遅いし......。ごめんね夏凜ちゃん。

 

 夏凜ちゃんをからかいながら、ゆうくんの顔を思い出します。あの頃の優しい顔のゆうくんはもう居ない。私にすらどこか遠慮がちなあの子は......もう壊れちゃったんだなって。

 

「もう!友奈聞いてるの!?」

「うん、聞いてるよ?」

 

 ゆうくん、私......。全部思い出したよ?

 だから......早く一緒に話して、また一緒に笑おう?

 

 

 







「は、はははは......」

俺にとって2回目の結界外調査。そこで俺は目的の存在を見つけた。
こんなに早く見つかると思っていなかったし、正直見つからないかもと思っていた。

「そ、っかぁ......。早く思い出せって、そういうことか」

目の前にあるのは大きな結晶体。その中は濁っていて見にくいが1人の『半身が焼け爛れた』女の子が眠るように浮かんでいた。

「全部、じゃなかった。俺はわざと、記憶に蓋をしてたんだ......!」

溶岩のような地面の上に膝から崩れ落ちる。
俺は自分の命を半分、こいつにあげる筈だった。でも、今の俺の命は『1週間も持たない』。こいつに分け与えたところで......結局は、死ぬ運命にある。

「俺は生きたいのに、死ななきゃいけなくなって......罪を重ねて...俺、は。俺は......」

もう訳が分からない。でも1つ言えることは、俺が死ななければこいつは......『三ノ輪銀』は助からない。

「あはは...ははははははは......」

乾いた笑いが、虚空に漂う。
触覚すら無くした身体から、一部分が砂として崩れていく感触だけが、俺を支配していた。

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