あともう1話だけ防人たちの話やって、水着回です。
「なぜ、俺は海に来てるんだ」
「楽しいからね!」
「アーソウダネ。というかくっつくな姉貴、暑い」
「そうよ!楽しみなさい勇祐!」
『楽しみましょう勇祐さん!』
「折角逃げ出してきたんだし、楽しまないとねぇ?」
「誰のせいだと思ってんだよ...ったく。しゃーねぇなぁ」
暑い夏、白い砂浜、青い海。そして水着美女と片目を眼帯で隠した身体中傷だらけの俺。似つかわしくない俺がどうして隔離されてる筈の勇者部と合流しているのか、話は昨日まで遡る......。
世間はもう夏休み。防人達も例外ではなく、一部を除いた者達は実家へ帰省していた。
俺も帰りたいけど...まぁ当然、そんなことが出来るわけもなく。
やる事のない俺は普通に暇をしていた。
本来の俺はは天の神を迎撃する基点となる役目を帯びていたが、園子の1件でパーになったわけで......。俺があーだこーだと防人たちに寿命削ってまで訓練するのも、俺の代わりに防人たちが天の神を迎撃する役割を担う事になったからだ。
その訓練相手も殆ど居らず、居残り組の楠達も今日は出かけているのでゴールドタワーには俺1人だけ。
いいのか、俺を1人にして。確かダメだと思うんだけど......まぁ、いいか。
そうやって暇を潰していると、パイセンから勇者部のチャットが飛んできたのだった。
「は?海水浴?」
『そう!海水浴!お役目が終わったからちょっとぐらいいいでしょ?って大赦に言ったら用意してくれたのよねぇ』
大赦も随分と気前がいい。まぁ、大事な大事な勇者様だからそりゃそうか。そう考えると随分安い対価だな。衣食住今後タダとか、そういうのしてくれてもいいと思うんだけど。
「ほーん、じゃあ楽しんでこいよ」
『あんたも来るのよ』
ん......?今明らかに今の俺の状況と合致してない文字が流れてきたな?パイセンには説明したよな俺?
「パイセンさ、俺って勇者部から隔離されてんの知ってるよな?」
『知ってるわよ?』
「じゃあ俺がそっちに行けないの知ってるよな?」
『抜け出して来なさいよそんなもん』
ばーーっかじゃねぇの!?
出来るわけねーじゃん!姉さんが人質なんだっつの!流石に他の奴らには伝えてないけど!おいそれと外に出たら大赦から抹殺されるか、姉が拉致られるから俺はゴールドタワーで生活してんだっつの!
なんつー軽い考えでモノ言ってんだよこのパイセンは!?
「出来る訳ないだろ!?」
『えっ、出来ないの?』
『兄貴が連れていくなら別にいいよ、って言ってたわよ?』
『私もゆうくん連れて行っていいか聞いたら許可もらったよ〜?』
いいのかよ。それでいいのか春信さん。どうせ三好から強請られて許可したんだろ?というか姉も姉で人質っていう自覚あんのか?お前が言い出したんだぞ?『もしゆうくんが逃げ出したりしたら私が人質になります』って。
本当に、いいのか......?
...........いや駄目だろ。俺はまだ大赦に敵認定されてる筈だぞ?
そんなことないと思うが、あいつらが適当ぶっこいてる可能性が微粒子レベルで存在している。春信さんにも確かめるべきだ。
『ごめん、なんとかバレずに抜け出して?』
「アンタ人類救いたいのか破滅させたいのかどっちだよ?」
春信さんに即電話したらこの有様。うーんこの。怒りと呆れを通り越してもうため息しか出てこない。
『実を言うと、今回宿周りを手配してるのが僕なんだよね。というか夏凜から頼まれたから無理矢理ねじ込んだんだけどさ。だから一旦抜け出して集合場所まで来たらなんとか『計画』通りになるように言いくるめ出来るんだよね』
「いいのかそれ......」
つまり来たら安全は保証するけど、来る前はどうにも出来ないから自力で出てこいって訳だ。泣けるね。
『とは言っても、君の2回目の壁外調査の話と残り寿命の話を全面的に信用すると、最後の晩餐として後のこと考えずに楽しんでおいで、としか僕は言えないんだよね』
「言うよなぁ、それ」
『言うさ。本当なら君の命も救いたい。だが、どうしようもないからね......。君のような子供にこんな事は言いたくないんだが......』
「いいんすよ、もう。俺だってもう諦めてるから。だけど、銀の身体の事は頼んだぜ?」
諦めてる、なんて嘘だ。本当なら、もっと生きたい。けど寿命もなけりゃあ、俺が死ななきゃ銀は目覚めない。と、くればあとはもう『やるしかないんだ』。
『任せてくれ。本来は君の受け皿用に改造していた人工精霊だが、彼女の幽体にも適用出来るように急ピッチで作業中さ。おかげで暫くの徹夜は確定だけどね』
今は頼もしく思えるんだよな春信さん。こういう仕事はキチっとやってくれるから後の事は任せられる。
『集合は明日夜中3時。駅前に来てくれ。そうしたら黒塗りの車が君を拉致って行くから』
「もうちょい良い言い方ない?」
前言撤回したくなるのも、また春信さんらしいというか......。
♦︎
夜1時。防人たちの消灯時間は23時だから朝の早い防人たちは既に寝入っている頃だ。
ちなみに最近の俺は眠気すら無くなってきたのでこんな時間でも余裕で起きていられる。こういうのは不良やってた時に欲しかったわ。眠いもんなこういう時間帯って。
「着替えとか水着は姉貴に持ってきてもらう手筈だし...特に持ち物ないな?」
一応手荷物を確認。財布にスマホ。あとは着の身着のまま。特にこれといった持ち物はない。学生証も身バレ防止の為に家に置いて来てあるし。
「ここ使うのも、もう最後だなぁ......」
元から最低限の荷物しかなかった小さな部屋。特に感傷に浸るような思い出はないが、それでも二度とここに来る事はないだろうということを考えると少しばかり眺めたくもなる。
「......先に別れの挨拶でもしに行くか」
集合時間までには余裕があった。挨拶の1つや2つ、していくのも悪くない。仮面を被り、装束に着替えてから俺は窓から降りた。
「............というわけで俺の部屋の真下にある楠の部屋に来たわけだが...」
地上何十階か忘れたけど落ちたら普通に死ぬような高さを、俺はロープを伝って降りていた。なんで態々ゴールドタワーの外からロープ降りてるのかって?本来の出入り口には監視カメラとセンサーがこの時間は動いてるからだよ。2階までの窓もセンサー付き。だからこうして自分の部屋の窓から出るしかなかったわけだ。
なけなしの身体能力で飛び降りても良かったんだけど、これ以上寿命を縮める訳にもいかない。
「......楠の奴、こんな時間なのにまだ起きてんのか。まぁ、好都合と言えば好都合だ」
窓の向こうのカーテンの隙間から、消灯時間は過ぎているにも関わらず少しだけ灯りが見える。話し声も微かに聞こえてくるから、電話中か、それとも誰か一緒に居るのか?まぁいいや、窓叩いてみよ。
おっ、部屋の中の反応が変わった。おもしれーな。悪戯してるみたいだ。
もう一回叩いてみる。今度はヒソヒソとした話し声。これ、楠の部屋に何人か居るな?
そう思えばカーテンが少し動く。誰か覗きに来たか?ここまで来ればオバケに徹してもいいな。面白いし。
そーっと開いていくカーテン。開けていたのは加賀城だ。
なんで楠の部屋に居るかは置いておこう。
思い切りからかってやろう。
頭が地面に向くように逆さ吊り状態になって上体を持ち上げる。これで窓から見ただけでは俺の姿は確認できない寸法だ。
「あ、あれ......なにもない.........?」
「よう、元気か?」
違和感を感じて窓を開けただろう加賀城の目の前にょきっと顔を出す。案外距離が近かった。大体10cmぐらいの顔の近さだ。
「ヒッ......」
あっ気絶した。
♦︎
「えっと......ごめん?」
「ごめんで済んだら勇者システムはいらないんですよ」
バタンと倒れた加賀城を見ながら窓に足を掛けて室内に入ると、そこには勇者システムを起動した楠、弥勒、それに山伏が臨戦態勢で立っていたのだ。向こうも緊迫していたのは明白なんだけど、こっちもこっちでビビったので10秒ぐらい向き合った状態だったのだ。
俺は銃剣の刺突で軽く即死しかねない耐久力しかないから、慌てて誤解を解いた。まぁ許してもらう代わりに今は仮面を脱いで正座させられている訳だが。
「深夜1時、それも女子の部屋に窓から侵入してくるのは流石に不味いですわよ?」
うっす、反省してます。
「というかあの姿はなんだったんですか?遂に我々を殺しに来たのかと思いましたよ」
「......正直、怖かった」
それについては不可抗力だ。
どうやら先程まで、いつぞやのバーテックスのような姿になっていたらしい。知ってたら流石に窓から突入しない。
「俺もあの姿になる気は無かったんだ。気付いてたら流石に仮面取って入るぞ」
「...まぁ、最初に会話が通じた時点で悪戯しに来たか何かだと思ってはいましたけど、いや本当に何しに来たんですか?」
「もしかして......夜這い!?いけませんわアルフレッド!主従関係でそういうことはよくある事ですけど......駄目ですわ!?」
「えっなにその満更じゃないような顔......というかアルフレッドって存在したの......?」
「いや、してないからな加賀城。弥勒が勝手に言ってるだけだぞ」
勇者部といい防人といい、なんでこうも話が変な方向にズレて拗れるんだろう。一々突っ込むのも面倒だ。ほれみろ、楠の顔がイラっとしたように歪んでるぞ。
「まず、要件を聞きましょう。態々窓からやってきたのも、何か並々ならぬ理由がありそうですし?」
無いとは言わせないと言わんばかりの雰囲気だなおい。いや、あるんだけどさ。それも結構重要なのが。
「その前に1つ聞きたいんだけど......もしかして讃州中学に居なかった?」
加賀城の当然の疑問。うん、お前は俺の顔知ってるもんな。だから仮面を被ってた訳なんだが。
「居たよ。俺も覚えてるよ、加賀城がウチに忍び込んで、勇者部をつけてたのがバレて三好にフォーク投げられてたのは面白かったな」
「うわっ...本当だったんだ......。出来れば忘れて欲しいんだけど、名前は言ってもいい系なの?」
「んー、まぁいいよ。どうせ俺あと1週間で死ぬし」
「「「「は?」」」」
何言ってんだこいつって顔で声を上げる。いやぁ、やっぱこういう反応になるよなぁ。やっぱ勇者部には寿命は言わないでおこう。たぶん酷いことになる。想像したくねぇなぁ......。あとで知った方が酷いことになりそうだけど......。
大赦にカチコミしに行くとかないよな?
「んー、いっつもなんか高速でシュバっと動いたりするじゃん?あれって俺の命削ってやってんだよね。で、死ぬ前にちょっと小旅行してこようかなって」
「いや、ちょっと待って。情報量が多過ぎて理解が追いつかないんだけど......」
「言葉足りなさ過ぎませんこと?訳わかんないんですわ?」
「ちょっと弥勒さんのお嬢様口調が崩れてるんだけど......厄っぽいから部屋に帰っていい?」
「......流石に、予想外......」
「最初の内は負担になってなかったんだよ。ただ体が酷く疲れるっていうぐらいでさ。命が削れるようになったのはここ最近、俺がゴールドタワーで暮らし始めてからでさ。あの力を使わないと日常生活にも支障が出始めててなぁ...」
「なぜ......何故なんですか。何故、命を削ってまで訓練をされていたのですか?」
それぞれが困惑した顔でざわつく中、震えながら楠が俺に聞いてくる。俯き加減の楠の顔の表情は見えないが、たぶん...きっと、怒っているんだろうな。
俺が態々命を削らなきゃいけない程に自分達は弱かったのか、とか。自分達はそこまで信用されてなかったのか、とか。なぜ言わなかったのか、とか。なぜ気づかなかったのか、とか。
俺を真っ先に怒れないのは、自分に自責の念があるからだろう。気にしなくてもいいだろうに、楠芽吹という存在は三好夏凜のようにそれはそれ、では済ませられないらしい。
「楠、先に言っとく。俺がここまでしたのは俺のエゴだ。大赦にとって、俺はイレギュラーな存在だった。俺をここに置いてくれた人は、自分に処刑されてもおかしくない程の高いリスクがありながらも俺を守ってくれた。それに応えるためにやったのが理由の1つ。でも1番大きい理由はお前達に生きて欲しいっていう俺のエゴからだ」
思い出すのは出会った頃の思い出。自分の残り少ない命をここで使おうと決めたのは様々な理由があるが、本来の勇者システムから酷く劣る性能のシステムを使わされて、使い捨ての駒のように死地に送り込まれる防人たちを見て憤りを覚えたからだ。
彼女たちは逃げられたのに逃げなかった人達だ。だから俺は最初に、強く当たった。
唆されたから残った、なんて言わせないように、自分の意思で防人を続けようとする存在だけを残そうとした。
結果としては、俺の力なんて必要なかった。何人かは脱落したかもしれないが、防人たちは自分の意思で立ち上がり、この理不尽な世界に挑んだ筈だ。つまり、俺は『居ても居なくても同じ』だった訳だ。
それを知りながらも命を削り続けたのは、たぶん罪悪感と焦燥感からだと思う。
俺が今までやってきた罪。
もう長く生きられないという焦り。
俺はきっと...防人たちが眩しくて、八つ当たりをしてたんだと思う。
「お前達は十分強いよ。お前達が勇者に選ばれなかったのはただ間が悪かっただけだと、俺は思うよ。だから......」
「ふざけるな!!」
「ちょ、メブ!?」
楠が叫び、俺の胸倉を掴んで声を張り上げた。加賀城も咄嗟に割って入ろうとするが、楠の剣幕に押されて一歩後退る。
「貴方が命を削る程の事じゃないでしょうが!お人好しにも程があるじゃない!自己犠牲で私達を強くすれば私達が喜ぶとでも思ったのか!私達は、私達は!貴方がお人好しで、傲慢で、優しい存在だというのは知ってる!けどそこまでする必要なんてどこにもなかったじゃない!」
「確かに、なかった。だから俺のエゴなんだよ。いくら理由を重ねようと、俺がしたかったからしたんだ」
楠の顔が、酷く歪む。言い様のない怒りが感情を支配しているが、上手く言葉に出せないようだ。そして遂に楠の手が出るか、という時に今まで黙っていた山伏が口を開いた。
「あーもう!情けねぇな芽吹!男がこうと決めたんだ!やらせてやればいいじゃねぇか!テメェの人生をどう使おうが俺達にゃあ関係ねぇ!命を削って俺達を強くしてくれたんだぜ?逆にありがたい事じゃねぇか」
「シズク......」
しずくからシズクに代わった山伏が俺から楠を引き剥がした。
「おう、白仮面野郎。本当の名前は?」
「勇祐。結城勇祐だ」
「勇祐、いいね......。よく覚えとく、ぜ!」
「ぶっ!?」
頬っぺた殴られた!?唐突過ぎない!!?えっ、ちょ......状況がよく理解出来ないんだけど!?
「これでいいだろ。心配掛けさせやがってこの馬鹿っていう怒りはこのパンチ1発で許してやる」
「ち、ちょっとシズク!?」
「芽吹もたぶん1発じゃ収まらなかっただろ?だから俺が代わりにやってやったんだよ」
「それ...自分がやりたかっただけじゃ?」
「あ?なんか言ったか雀?」
「ヒィッ!?なっななななんでもありませんよ!」
「まぁなんでもいいけどよ。勇祐、お前死ぬ前の小旅行...つってたか?その前にイッパツ付き合えよ」
えっ。
えっ?
勇祐
夏休みだし寿命ないしお家帰りたい。実際適当なとこで帰るつもりではあったが黒塗りの車に拉致られることで抜け出す事に。遂にズッコケ防人4人組に顔バレ。胸倉掴まれて怒鳴られた彼の目は濁っていた。シズクパンチは度肝を抜く。
メブ
部屋で女子会してたらバーテックスみたいなのが窓から侵入してきて無意識に勇者システムを起動した常在戦場ウーマン。勇祐の態度に激怒。今までにない怒りを見せた。
すずめ
窓を開けたらバーテックス。そりゃ気絶する。ちなみに彼女の第六感は一切警笛を鳴らしていなかった。たぶん第六感くんも気絶してたんだと思う。
しずく&シズク
防人パンチ(物理)。相変わらず誤解されそうな言動が止まらない。
みろくさん
相変わらず勇祐をアルフレッドにする事を諦めていない。芸人。
パイセン
そんなもんどうでもいいから帰ってこい。
おねえちゃん
帰ってきていいって言ってたよ?言質はしっかり取ったようだ。
夏凜
兄貴に頼んでみたら二つ返事で良いよって言われて逆に困惑。
夏凜のお兄さん
勇祐被害者の会の1人。色々聞かされて胃に穴が開きそうになってるけどそれはタタリ関係ないよ。ただのストレスだよ。
それはそうとタタリに関してはギリギリを見極めてなんとか避けている模様。