結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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第23話 それは姉が甘える海水浴の話

 春信さんに黒塗りの車で拉致されてきた後、俺は久し振りに勇者部に再会した。みんな元気そうで良かった。東郷も退院して、色々あったんだろうけど笑顔だ。あとで園子の事後も聞いとかないとな。

 

 

「ういっす。みんな久し振り」

 

「よく帰ってきたわね勇祐仮部員!」

 

『おかえりなさい!』

 

「勇祐くんも久し振り」

 

「あんた、一体どこで何してたかは知らないけど、迷惑掛けてきてないでしょうね?」

 

「してねぇよ。......というか姉貴、どうしたんだよ」

 

 

 勇者部と合流するなり、姉は俺の胸に無言で抱きついてきて未だに動いていないのだ。

 

 おい、モゾモゾすんな、くすぐったいだろ。

 

 

「友奈ちゃんも寂しかったのよ」

 

「それは分かるけどさぁ...。反応ぐらいしてくれよ姉貴」

 

「んー......」

 

「珍しいわね。友奈がここまで勇祐に甘えるなんて」

 

 

 パイセンが物珍しそうに姉を見ながら呟く。確かにそれには同意する。

 まぁ家ではもっと擦り寄って来るけどな。それも猫みたいに。流石に外では恥ずかしいのか、そういうことも少ない。けどまぁ、今日のは異常だ。完全に3泊4日の旅行から帰った後、玄関から飛び出してきた犬といった感じだ。寂しかったんだろうなぁ、とは思う。

 

 

「おい姉貴、そろそろ行くぞ」

 

「ん〜......」

 

「駄目だ。こりゃ完全に暫くは駄目なやつだな。おい、姉貴」

 

 

 声は聞こえているようで、俺の首に手を回してきた。そのまま手を背中と膝に添えて姉を持ち上げる。お姫様抱っこの形だ。春ごろに東郷にやって以来だな。埒が明かないからこのまま車の中まで連行だ。

 

 

「なんか、介護してるみたいね」

 

「あながち間違ってな.....いてっ。抓るなよ姉貴。悪かったからさ」

 

 

 首を指で抓られた。話はしっかり聞いてんじゃねぇか。というかやるなら言い出したパイセンにやってくれ。

 

 

「まぁ、今日は1日、友奈に優しくしてやんなさいよ。今日を楽しみにしてたみたいなんだから」

 

『昨日の夜は眠れなかったみたいですよ』

 

「おぉう...そこまでか。結構家空けたし悪いことしたなぁ...」

 

 

 自分の口から罪悪感が出る辺り、俺も相当に参ってたのかもしれない。まぁ...これから死んでいく事に後悔はないけどさ。やるしか、ないんだし。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「結城友奈、ふっかーっつ!」

 

「勇祐成分を得て顔ツヤツヤの友奈ちゃん...可愛い......」

 

「可愛いのは分かったから写真連写はやめなさいよ...ちょっと勇祐、あんた大丈夫?」

 

「これが大丈夫に見えるなら大丈夫だろうよ......くっそメチャクチャにやりやがって......」

 

 

 服は乱れ、髪型は崩れ、一体どこでナニをしてきたのかと言わんばかりの状態の勇祐だが、大型犬が飼い主に激しく戯れ付くが如くの友奈にやられるままにされていただけなので特に卑猥なことはないのだ。

 

 そんな姉弟を横目に、勇者部一行は目的地である旅館に到着していた。大きく背伸びをして、滅茶苦茶な状態の勇祐には我関せずな犬吠埼姉妹と兎のように跳ね回る友奈。その様子を激写し続ける東郷。

 なんともカオスな状態であり、それを止める役割を担うはずの夏凜も、車の中の後部座席で友奈からの強烈な勇祐成分吸引行為によって酷く疲弊した勇祐を介護していた。

 

 

「友奈が要介護かと思えば次はあんたか。いい加減にしなさいよ」

 

「暫く離れてたから元凶は俺だけど、この場合悪いのは姉貴だろ......なんで俺が怒られるんだよ.......」

 

「車の中でチラッと見たけどあんたも喜んでたでしょうが。大型犬を可愛がる姿にしか見えなかったわよ」

 

「......くそ、否定できない」

 

 

 実を言うと、勇祐も勇祐で全力で友奈を甘やかしていた。だから後部座席は結城姉弟が独占していたのだが、夏凜はチラチラと2人を見ていたし、東郷に至ってはカメラのビデオ機能で撮影までしていた。

 

 

「んで、なんで部屋割りが俺と姉貴の部屋とお前らの部屋で別れてんの」

 

 

 東郷が作ったのであろう分厚い『勇者部夏合宿のしおり』と達筆な筆字で書かれたしおりを捲りながら、勇祐は部屋割りが載っているページを見て夏凜に問う。

 

 

「本来はあんたの1人部屋よ。友奈がそっち行きたいって言ったからこうなったのよ」

 

「止めろよ」

 

「なんでよ。止める必要ある?」

 

「あるだろ......」

 

「俺が嫌だから、とかはナシよ。あんたに拒否権はそもそもないから」

 

「ぐぬっ......」

 

 

 そう言われて勇祐は押し黙る。勇者部において彼に決定権がないのは仮部員となった時からである。これが男1人が他の部員全員が女子という部活に入る意味でもあろう。勇祐が仮部員となって色々と命令できる立場にある彼女らからすれば、勇祐の部内ヒエラルキーが最下位なのも残念ながら当然だろう。

 

 

「ゆうくーん!早く部屋に荷物置きに行こー!」

 

「はいはい。ちょっと待ってくれ姉貴」

 

 

 車から姉が用意した荷物を引っ張り出した勇祐は自分を呼ぶ姉に元へと走っていった。

 その姿を見ながら東郷は夏凜に話しかける。

 

 

「ねぇ、夏凜ちゃん。どう...見える?」

 

「なーんか隠してるわねあの馬鹿。それもかなりヤバい奴。隠すの下手になってない?」

 

「そうよね...。よっぽど知られたくないことか、マズい事かも......」

 

「はいはい、アンタらも探るの止めなさい。そんなもん後でたっぷり出来るでしょ。さっさと荷物置いて海行くわよ海!」

 

 

 険しい顔をしながら話す夏凜の背中を風が叩く。今日の夜には、友奈が勇祐を問い詰める予定だ。その為に結城姉弟部屋を頼んだ、という理由も少なからずある。

 夏凜と東郷も、これ以上仮説で話しても意味はないと思ったのか素直に風に従ったのだった。

 

 

 

 

「ね、ゆうくん」

 

「ん......なんだ?」

 

「ありがと、ね?」

 

「......なにが」

 

「私を、助けてくれた事。ごめんね。不甲斐ないお姉ちゃんで。本当なら、私がもっと頑張らなきゃいけないのに」

 

「.........。全部思い出したのか。あの、葬式の日の事も」

 

「うん...ゆうくんが私を抱きしめてくれたことも......」

 

 

 

 そこで会話が途切れる。途切れたまま歩く2人は何時の間にか用意された部屋に到着していた。

 そのまま荷物を置き、周りを見渡す。海沿いであるこの部屋は、窓側にある広縁から眺めの良い気色が観れるのだ。

 

 なんとなしに広縁に設置されていた椅子に座り、同じ動作で机を挟み、対面同士で座り合う姉弟。実に息の合った行動であるが、実際のところ、彼らの頭の中は混乱の極みの真っ最中であった。

 

 

((気まずい......何から話せばいいか分からない......!))

 

 

 ちなみにこの姉弟、2人きりになると実は会話が少ない方である。

 それはなぜか。何を言わずとも、双子である2人はなんとなくで言いたい事を理解出来るからである。

 それ故に...友奈は、恐らく勇祐が話したくないことを急に打ち明けてしまって、どう話せばいいのか分からなくなっているのだろうと察した。

 逆に勇祐は今まで黙っていた事を思い出した姉にどう接していいか分からなくなっている。

 

 つまるところ、2人は混乱しているのだ。

 さっさと話し合えばいいものを、今まで話し合わなくとも理解出来てきたが故に話を切り出せなくなっているのだ。

 

 外部からすれば、阿吽の呼吸で理解し合う2人を見ている為に『すぐに話し合う事が出来るだろう』と思われがちだ。しかし一旦どちらかが遠慮すると『気を遣わせてしまったからこっちも気を遣おう』などとなり、一気に遠慮の負のスパイラルに陥ってしまうのが結城姉弟だ。

 

 それを理解しているのは勇者部において東郷のみであり、事あるごとに東郷はその場面に介入しているのだが、今回は話があまりにもデリケート過ぎるために東郷自身が介入を避けているのだ。

 

 

((こんな時、東郷さんが居てくれれば......))

 

 

 なお当の本人達はこれである。むしろ東郷の介入を待っているのだ。

 流石に情けないという域まで到達している。

 

 

(言っていいのか...?タタリに触れるところも、全部......姉貴に............?)

 

(聞いてもいいのかな...?たぶん、私が知ったらいけないことまで......)

 

 

 姉にそこまでの覚悟があるのか。弟が嫌がらないか。各人その1点のみを探り合っているが故に、今2人の表情も百面相どころの話では無くなっていた。唸りながら互いの顔を睨み合うというなんとも間の抜けた雰囲気になっている。

 

 

「あのね、ゆうくん。私ね。思い出したんだ。お父さんとお母さんが死んだ事...私が忘れてたのは、ゆうくんが私を傷つけない為に、私を守ってくれたんだよね?」

 

「......」

 

 

 何か言おうとしたした勇祐だったが、先に話を切り出された事で勇祐は押し黙る。

 その後に続く言葉は、勇祐も予想していた答えだ。今まで前兆があったのだ。いつ思い出してもおかしくないと思っていた。それが今来ただけだ、と鼓動が速くなる心臓をなんとか抑えようとする。

 

 

「それでね、えっと...ゆうくんは、覚えてる?あの時のこと」

 

「......あの時、って...俺が姉貴の記憶を忘れさせた時の......?」

 

「そうだけど、もう少し前かな。勇祐くんが病室に来た時の事。私驚いちゃって...一気に目が覚めたんだよ?だってゆうくん、髪の毛が伸びて私みたいになってたんだもん」

 

「ん......んんん!?ちょ、ちょっと待て姉貴。何だそれ。初耳。というか記憶にない」

 

「あれ?だって、へなへなって私が寝てたベッドによろよろーって来たと思ったらバターン!だったんだもん!私が忘れるはずないもん!」

 

「力尽きるように姉貴が寝てたベッドに足を引きづりながらやってきて、そのまま倒れたって訳か。大体辻褄は合うけど...そもそも気絶した記憶がないぞ......?」

 

「んー、ゆうくん凄く疲れてたから覚えてないだけじゃないかな?倒れたんだし」

 

「えぇ...そんな馬鹿な......」

 

 

 緊迫していた空気が一気にしおらしく萎む。友奈と勇祐の記憶が合致していない。どちらかが間違えて覚えているのだろうが、どちらが間違っているかを証明できる存在が居ないのでどうしようもなかった。

 

 

「もしかして、ゆうくんって女の子だったりするの?」

 

「しねぇよ。小5まで一緒に風呂入ってたんだから知ってんだろ」

 

「じゃあアレは......白面の影響か、何か?」

 

「......分からない、けど否定出来る要素はない、な」

 

 

 そこまで言って勇祐は考え込む。勇祐自身、身体も精神もボロボロだった上に自分が間接的に両親を殺した事実を受けて更に酷い精神状態だった。あの場で天の神が何かしらちょっかいを掛けて来ていてもおかしくはなかった。

 

 

「ね、ゆうくん。私、怒ってもないし悲しくもないよ。だから自分を責めないで?私は何があってもゆうくんの味方だから......」

 

『ちょっと2人ともー?いつまで準備してんのよ早く行くわよー?』

 

「「はッ...はい!!?」」

 

 

 そんな2人に風からの声が掛かる。2人も声を合わせて急に部屋の外から掛かった声にドキリとしたのか上擦った情けない声を上げた。

 

 

「......ま、まぁ...後にするか。今はとりあえず」

 

「海、だね」

 

 

 そういうことになったようだ。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 さっきはなんとか誤魔化せて良かった。あのままいくと本当に言ってしまいそうだった。タタリだけはなんとかして避けなきゃいけないからな。

 

 かくして、俺は海に至る。

 ご大層な事を言っているが、ただの海水浴場だ。客は疎ら。多い訳でもなければ少ない訳でもなく、そんな海水浴場に年頃の男性グループなど居る訳もないのにパイセンが「ナンパされたらどうしよう!?」などと戯言を言っていたので「ありえん」と素直に言ったら飛び蹴りを食らった。

 解せぬ。左目の眼帯がズレただろうが。

 

 

「あんたってデリカシーない訳!?」

 

「いやデリカシーもクソもナンパするような男居ないじゃん。何処にいるんだよ」

 

 

 ズレた眼帯を直しながら抗議する。デリカシーないからって蹴られる筋合いはないぞ。

 

「いるかもしれないじゃない!私だって今日結構水着選ぶのに時間だって掛けたのよ!?」

 

「......確かに気合入ってるなぁ、とは思ったけどさ......」

 

 

 ちなみにパイセンの後ろには『朝5時からずっと2着のうちどちらにするか悩んでました』というフリップを掲げた樹がなんとも言えない表情でパイセンと俺を見ている。あの表情は諦めてる感じっぽいな。もしかして朝5時から水着選びに樹を付き合わせてたのかこの人。酷い姉だな。うちの姉を見習って欲しい。

 

 

「でしょ!これが女子力ってヤツよ!」

 

 

 そーなのか。へー。棒読み気味で言うのは止めといてやろう。次は回し蹴りが飛んで来そうだ。

 

 

「それよか貴方達姉弟はそのパーカーどうしたのよ。姉弟でお揃いなんて珍しいわね」

 

「あぁ、前に姉貴と一緒に買い物した時に買ってな。よく行く服屋の店長が思わず作っちまったっていうんで買ったんだけど、まぁ姉貴が一緒に着たいって言うからさ。俺のボロボロの身体晒すのもアレだし丁度いいだろ?」

 

 

 腕は隠れてないから下にはアンダーシャツをつけているが、俺が今着ているのは少し前に姉と一緒に買い物をした時に買った半袖のパーカーだ。流石に海に入るときには脱ぐ予定だ。

 

 

「あー...ごめんね勇祐。ちょっと無遠慮だったわね」

 

「むしろ謝るのは俺の方だ。何の説明もしないでパイセン達と敵対して、その結果の怪我だからさ。むしろ俺に土下座しろって言ってもいいんだぜ?」

 

「でも勇祐って私達に危害加えたっけ?夏凜ぐらいじゃないの殴ったの」

 

「樹は投げたぞ?」

 

「......正当防衛でしょアレ。というか明確な敵対意識はなかったでしょ?あの時の勇祐って」

 

 

 まぁそうなんだけど......投げた事は投げたんだし......

 

 

『私は気にしてませんよ!むしろごめんなさい!><』

 

 

 樹が申し訳なさそうにフリップで口元を隠しながら伝えてくる。

 可愛い。小動物か。

 

 

「そう言ってくれるなら、全部水に流す感じでいいのか、な?」

 

「いいんじゃない?私も樹が怪我しなかったし気にしてないからね。そーれーよーりーも!」

 

 

 なんだ、俺に人差し指なんて突き刺してきて。何するんだよ。

 

 

「こんなとこで油売ってないで泳ぐわよ!」

 

「眼帯濡れるんだけど」

 

「はい、これ。水にも強い防水眼帯」

 

「何であるんだ......?」

 

「前に劇で使ったのよね。それが残ってたから丁度いいし勇祐にあげようと思って」

 

「身体の傷とか」

 

「気にしないわよ。そうよね樹?」

 

 

 うんうんと何度も首を縦に振る樹。うーん逃げ場がない。俺の身体が傷だらけなのは入院した頃から知ってんだから気にするんなら海なんかには呼ばねぇよな。

 

 

「しょうがねぇなぁ。んじゃ、沖まで競争でもすっか?」

 

「良いわね!望むところよ!」

 

『頑張ってください!』

 

 

 樹に応援されながらパーカーとアンダーシャツを脱いで海まで走る。

 

 

「あっ、コラ!先走ったわね!」

 

「早いもの勝ちだぜ!お先に!」

 

 

 ふははは!勝てばよかろうなんだよ!勝ったところでなにもねぇけどな!だが勝った時は凄く気持ちいいし気分がいい!例えそれがパイセン相手だろうと容赦はしない!

 

 

「あっゆうくん達ズルい!私も競争する!」

 

「何面白そうなことやってんのよ!私も混ぜなさい!」

 

 

 そこに姉と三好までやってきた。いいぜ...俺が1番速いってところを見せてやる!

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 駄目でした。

 いやー普通に忘れてたよね、俺って今死にかけだって。流星使わなきゃ100mもまともに走れないんだったわ。

 沖まではなんとか頑張ったけど体力が尽きて溺れかけた。東郷を介助してた人がライフセーバーじゃなきゃほんと死んでたかも。

 

 

「ゆうくん大丈夫?」

 

「大丈夫じゃないかなぁ......。ちょっとしんどい」

 

「勇祐くん、体力あったわよね......?ハッ、大赦から拷問を.....!?自白剤を!?」

 

 

 されてない。打たれてない。割と洒落になんないからそういうこと言うのやめろ。

 

 

「えっ!?ゆうくん何を自白したの?もしかして小学5年生まで一緒に寝てたとか?」

 

「おい、馬鹿、やめろ。なんで急にそういうこと言い出すんだ姉貴」

 

 

 黒歴史を唐突に言いだすのはやめろ。東郷の顔が...あぁ、恍惚な表情になってる。こいつはなんで俺ら姉弟の事となるとこうもポンコツになるんだ。俺単体だと殺しかけたりしてくるのに。

 

 

「その間に挟んで欲しかったわ......」

 

「嫌だけど......」

 

「2人の間がいいの!友奈勇祐から放たれる結城磁界が私の足を治すかもしれないのよ!最高のパワースポット、もしかしたら神樹様より御利益があるかもしれないわ!1回だけ!1回だけでいいから!」

 

「......何を息巻いて熱弁してんだ、お前は。若干引くぞ」

 

 

 姉も「一緒に寝るぐらいはいいよ?」って顔で首を傾げるのやめなさい。東郷はそういうの勘違いして性的な方向に持って行くから。

 

 俺も入院生活の時に調べなきゃ、ここまで気付かなかったんだろうなぁ......なんだか汚れた気分だ。ちょっとげんなりする。

 

 

「ほら、スポドリ。疲れてるフリならぶん殴るわよ」

 

 

 そんなツッコミを心の中でしつつも苦しそうに、いや実際苦しいんだが。荒い息をする俺に三好がスポドリを買ってきてくれた。

 

 

「サンキュ三好。この姿見て疲れてるフリだったら、俺は俳優になれるぜ......」

 

「......確かに、今のアンタは瀕死ね。あんま無茶したら...駄目だから」

 

「まぁ......善処する」

 

 

 出来ないんだよ、とはもう言えないな。こりゃあ寿命の話したら真剣で叩き斬られるどころじゃなさそうだ。しかし言っとかないとなぁ。

 

 

「じゃ、この馬鹿は放っといて遊びに行きましょ友奈、東郷」

 

「でも勇祐くんの看病は...」

 

「俺はいいから遊んで来いよ。折角海に来たんだしさ」

 

 

 申し訳なさそうな東郷と姉を三好と一緒に追いやる。まぁあの三好の事だ。明らかに様子がおかしい俺を見て、色々察しているのかもしれない。

 

 

 いやだがしかし、このまま遊ばなくてもいいのだろうか。

 どうせ死ぬ命だ。そのうち大赦に俺は拉致られて生贄か何かにされえるようだ。死ななきゃならない命を有効活用する為に俺が『使えよ』と言った結果だった。

 だから、もう少しぐらい身体に負担を掛けてもいいかな。

 

 そう思って立ち上がったら三好に木刀を投げられた。俺の足元、右足の親指から1cm先の砂浜に突き刺さる木刀と三好からの「それ以上動いたら殺す寸前までボコボコにするから休んでろ」というドスの効いた声を受けて、俺は叱られた子犬のようにパラソルの下で体育座りするしかなくなったのだった。

 

 

 


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