結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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年度末なんて消えて無くなってしまえ......(疲労困憊)
また暫く更新が遅くなると思いますがゆっくり待っていてください......


第24話 それは夏の思い出になるはずだった話

 

「東郷、なに作ってんだそれ」

 

「琵琶湖よ」

 

「......どこにあるんだよそれ」

 

「滋賀県」

 

「......いや、ほんとにどこだよ......」

 

 

 東郷が砂浜に作っていた長細い水溜りはどうやら湖らしい。

 後に聞いた話だが、滋賀県とは今はもう炎に包まれた外の世界にあった土地の名前らしい。

 日本で1番大きな湖だったんだとか。

 

 

「けどなんで急に作り始めたんだ?」

 

「お城とか作り飽きちゃって...。それで次は何を作ろうかと思ってピンと来たのをね」

 

「そういえば幼稚園児相手に砂場で城作ってたもんなぁ。園児達も凄いけど違いが分からないって言ってたっけ」

 

 

 それにしてもピンと来たから湖って、どういう感性してんだ。中々ないぞ、城を作り飽きたから湖って。

 

 

「山の方が良かったかしら?」

 

「そう言うんじゃないけどさ...お前なら最初に戦艦って言うと思ってたんだけど......」

 

「......戦艦はね、凝り過ぎるのよ...。作り始めたら3徹は確定するわ」

 

「あぁ......なるほど」

 

 東郷は凝り性だもんなぁ。城だってそうだし、もっと好きな物になったら凝り過ぎるのも分かる。

 

 

「......そろそろお昼時だし、何かメシ買ってくるよ。何か食いたいものあるか?」

 

「......焼きそば、かしらね。お願い出来るかしら?」

 

「ん、分かった。んじゃ、姉貴達にもなにがいいか聞いてくる。東郷はちょっと待っててくれ」

 

「分かったわ。よろしくね勇祐くん」

 

 

 流石に園子の事を聞く雰囲気じゃなかったから後にしよう。

 さて姉達は...と。

 

 

「おーい姉貴。そろそろ昼飯にしようぜ」

 

「はーい!」

 

 

 砂山崩しをしていた姉が元気良く声を出す。相手は三好だったようだが、三好が頭を抱えて蹲っている辺り、姉に何度も負けたようだ。

 三好は聞こえてるか知らんが、まぁエナドリさえあればいいだろ。煮干しとサプリで適当に代用するだろうし。

 

 

「勇祐ー。私焼きそばパン、10秒ねー」

 

「パイセンには黒焦げのやつ買ってきてやるよ」

 

「それ買ってきたら承知しないわよ?」

 

「だったら余計な事言わねーこった。樹はどうする?」

 

『焼きとうもろこしとイカ焼きで!』

 

「おっ、いいわねそれ。じゃ私も樹と同じの追加でー」

 

 

 姉と三好の砂場崩しをゲラゲラと笑いながら観戦しているパイセンとその戦況に若干引き気味の樹の注文も受け取る。

 というかパイセン、既にうどん食ってんのにまだ食うのか。空き皿の数を確認するとなんと今食べている分で5皿目。その割にお腹は表面上は膨れていない。どこに行ってんだ食べたものは......ブラックホールか?ははは、あの場所思い出して笑えねぇ。

 

 

「ん、了解。んじゃあ買ってくるわ」

 

「ゆうくん待って!もう少しで終わるから!......夏凜ちゃん、もう諦めた方がいいよ?もう次触ったら崩れるようにしてあるし......」

 

 

 砂場崩しも中々にエグい戦況になってるな......真ん中に刺さっていたであろう棒の周りにはほぼ砂が無くなって、少しでも振動が加われば棒が倒れるぐらいの砂の量しか残っていない。

 もう少しぐらい手加減してやれよ姉。昔から勝負事には全力なのは知ってるけどさ。

 

 

「ま...負けました......」

 

 

 結局、三好が少し触っただけで棒が倒れたところで三好は涙目で負けを認めたのだった。

 一体何回勝負して何回負けたんだろうか。ちょっと怖いから聞きたくない。

 

 

「よし、おーわり!ゆうくん一緒に行こ!」

 

「特に悪意もなくやってのけるんだから凄いよな姉貴......」

 

 

 姉の勝負事で1番質が悪いのは、良くも悪くも相手を選んで勝負する事だ。たぶん樹相手だったらここまでボロ負けさせる事はないだろう。三好だからこそ『心が折れてもまぁ大丈夫』という匙加減になる訳だ。

 ちなみに俺相手だと接戦をしたがる。俺が出来ない事だと出来るまで付き添うという看護付きでだ。

 

 

「ねぇねぇ、ゆうくんは何食べるの?」

 

「んー、悩んでんだよなぁ。何がいいかな」

 

 

 海の家の販売口まで来た俺は、未だ決められていない自分の分の昼飯で悩んでいた。砂浜側に設置された鉄板の上では焼きそばが踊り、すぐ近くの金網には肉串と焼きとうもろこし、焼きイカが香ばしい匂いを放って鼻孔を擽ぐる。

 

 

「いらっしゃっ......って勇祐さんじゃねぇっすか!お久しぶりっす!」

 

「ん......?あぁ、お前か。久し振りだな。どうやら元気にしてたっぽいな」

 

 

 店番をしていた金髪の日焼け少年は以前俺が居た不良グループに居た奴だった。こんなところで出会うとは。

 

 

「友奈さんもお久しぶりっす!あの時はお手数お掛けしてすいませんっした!」

 

「あっ!あの時のゆうくんに絡んでた不良くんだね!ごめんねあの時殴っちゃって」

 

 

 そういえばそんな事もあったな。理由は忘れたけどワンパンKOされたんだっけ。あれ以来姉が不良達から尊敬の眼差しで見られるようになってグループの解散もスムーズに出来たんだったな。やはり姉は女神か何かかもしれない。

 

 

「チーム解散してからは、勇祐さんの助言通り親孝行してますよ!たまーに嫌になることはあるっすけど、店番も中々楽しいっす!」

 

「んだからアレはチームじゃ...まぁいいけど、店番ってことは両親がやってる店ってことか?」

 

「そうっす!なんで勇祐さんでも多少量はオマケ出来ても安くは出来ないっすよ!」

 

「別に安くしてもらう気はねぇよ。それより、なんかオススメある?」

 

「んー、1番人気はうどんっすねぇ。さっきも可愛い女の子が山ほど買っていったっす」

 

 

 あぁ、パイセンだな。名前出されずとも分かる。あの人ほんとこういう時は目立つな。大食い大会に出てもいいんじゃないか?

 

 

「でもおススメならコイツっすね。ウチの親父が徳島出身で、これがまた美味いんすよ!どうっすか?」

 

 

 そう言いながら指差すメニュー名がデカデカと書かれた看板には、普段見慣れない文字が踊っていた。

 

 

 

 

「うどんじゃない麺類は邪道よ」

 

「美味けりゃ食べ物に下賤なしだぜパイセン。実際、初めて食べるけど美味いぞ?徳島ラーメン」

 

「くっ...正論......!だがしかし、女子力たるうどんを手放すわけにはッ!」

 

「別に食えって要求してるわけじゃないんだしさ......」

 

 

 がるるる、と唸るパイセンを横目にオススメされた徳島ラーメンを啜っていた。濃厚なスープが麺に絡んで凄く美味しい。ここまで濃い麺類を食べたのは初めてだ。カップラーメンぐらいしかラーメンという食べ物を食べたことなかったが、中々に良いものだな。リピート確定だ。

 

 

「そういえばしずくもいっつも徳島ラーメン食ってたっけ」

 

 

 しずくが食堂の昼飯には徳島ラーメンを食べていた事を思い出した。あの時はずっと栄養ドリンクとゼリー飲料を啜る生活だったから割と羨ましかったんだよな。オススメされたのとは別に、これが徳島ラーメンを昼飯に選んだ理由だったりする。

 

 昼飯と言えば、楠の食べ合わせだけは顔を顰めた。なんだあの栄養ドリンクと牛乳と野菜ジュースを混ぜた飲み物にヤサイマシ肉マシうどんって。あんなに天高く盛られたもやしとキャベツは初めて見た。

 

 そして目の前にも偏食気味の三好が居る。似た者同士だな三好と楠は。今もエナドリと煮干しとサプリをポテチ感覚で貪ってるし。

 

 

「何よ?」

 

「いーや、別に。何もない」

 

 

 うん。何もない。そういうことにしといてくれ。お前が楠の事を知ると色々面倒だから。

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「待て、なんで家族風呂なんて予約取ってあるんだ」

 

「だって私達家族だよ?」

 

「そういう事を言いたいわけじゃない姉貴、一体誰の差し金......東郷、貴様か」

 

「ふふふ、私は友奈ちゃんと勇祐くんが仲良くイチャイチャしているところが三度の飯より好きな女の子。さぁ、楽しんでくるといいわ!」

 

「お前さ、俺が中1の頃に避けてたのそういうとこだぞ」

 

 

 ちょっと攻めっ気のあるあの眼も良かったわ!とか言ってんじゃねぇ。なんで急にお前が攻めて来てるんだ。ど変態にも程があるだろうが。

 

 

「まーまー。勇祐も暫く居なかったんだから2人仲良く入って来なさいよ」

 

「待て、待って。お願い。引っ張らないで、頼むから。樹もパイセンも俺の両腕を掴んで引っ張るな。おい三好、お前は何しようと......」

 

「アンタ、こんなに力弱かったっけ?まぁ抵抗しないってんなら話が早いわ。とっとと友奈とお風呂入って来なさい!」

 

 

 いってぇ!!俺が抵抗出来ないからって背中蹴り飛ばす奴があるかよ!クッソ痛ぇじゃねぇか!

 

 

 

 

「くそ...三好のやつ本気で蹴り飛ばしやがって」

 

「あはは...夏凜ちゃんも中々に容赦ないもんね」

 

 

 背中を擦りながら、俺と姉は正面同士になりながら少しだけ広い湯船に浸かっていた。

 夕方、海で散々遊んだ俺たちは真っ先に風呂に入りに来た訳だが、どういう訳か家族風呂が予約してあった。しかも結城家という名前付きで。

 正直馬鹿なんじゃないかと思ったし、実行犯である東郷の正気を疑った。

 全力で拒否した俺だったが、ボロボロになってまともに力を出せない身体では女子の腕力にしら勝てず、あえなく蹴り込まれたと言う訳だ。

 

 

「えっと...そんなに嫌、だった?」

 

「嫌じゃねぇけどさ、やっぱり思春期の男には恥ずかしいもんなんだよ」

 

 

 実を言うと防人たちの風呂に突入してしまったりされてしまったりの話があったりして、その事で余計に考えてしまったりしている影響もある。

 いくら姉弟だろうと、恥ずかしいものは恥ずかしいのが1番なのだけど。

 

 

「久しぶりだもんねぇ」

 

「そうだな」

 

「ね、ゆうくん...体の調子はどう?」

 

「ん......最悪。正直生きてるのが不思議なぐらい」

 

「そっか...」

 

 

 ちゃぷん、と姉の身動ぎに合わせて水音が鳴る。

 近くの海岸から聞こえる波打ち際の音と湯船に湯が流れるだけの静かな時間が家族風呂に流れる。

 

 

「正直さ、何を話していいか分かんないんだ。俺らの悪い癖だな。話さなくても大体分かるからって肝心な事は話さず、察してくれってなる。そうして悪い方に進んでいって......」

 

「大体のことが言わずとも大体上手くいっちゃうから余計にね...。私もそうだなぁ、ゆうくんや皆に迷惑かけたくないからって抱えちゃうもん」

 

「だな...俺もだ。やっぱ双子ってこういうところが似るのかもな」

 

「あはは、そうかもね。でも、ゆうくんはやっぱり話してくれないの?」

 

「やっぱり、話せない。ごめん、姉貴。俺は...悪い弟だよ」

 

「いいよ、謝らなくても。悩んだら相談......って言いたいけど、悩んでなそうだもんね今のゆうくんって。昔は泣き虫だったのになぁ」

 

 

 悩んだら相談、の段階などとっくの昔に過ぎている。今更相談したところで状況が良くなるはずもない。だから俺は結局自分の寿命だとかその辺の話を一切しないことに決めた。

 

 そして俺は、まるで逃げるように死んでいく訳だ。姉の言う、泣き虫だった頃の俺と何も変わらないそのままの成長していない結城勇祐のままで。

 

 

「泣いて帰ってきて、でも次の日にはケロっとしてて、次は傷だらけになって泣きながら帰ってきて。そうやって昔から、私には話してくれなくて......」

 

「ごめん」

 

「責めてるわけじゃないよ。私だって、誰かに話してどうしようもないなら、自分だけで済むのなら自分で抱え込んじゃうし......」

 

 

 結局、俺たちは似たもの同士......いや、双子なんだから当然か。俺も姉も、同じように抱え込むタチだ。

 たぶん姉も、俺と同じように誰かに話せばタタリが感染する状況に陥れば、俺と同じように誰にも言わず、1人で抱えていくのだろう。

 

 

「だから約束。ちゃんと、無事に、帰ってきて?」

 

 

 姉が指切りをするように、右手の小指を出してきた。

 2度目の約束。前回はともかく、今度は絶対に守れそうにない約束。その小指に、自分の小指を重ねるのか。嘘を、つくのか。

 今まで姉に対してしたことのない嘘を。

 

 

「あぁ......約束、する」

 

「うん!ゆーびきーりげーんまん!」

 

 

 分かってるだろ、言わなくても。

 俺は今酷い顔をしてんだぞ。くしゃくしゃになって、声だって強張ってんのに。

 なのに、なんで......。

 

 

「うーそついたら針千本のーます!」

 

 

 そんなに、笑顔で......約束出来るんだよ。

 

 

「ゆーびきった!」

 

 

 その言葉と共に離れていく姉の小指はまるで俺に俺を案じる祈りという名の呪いを植え付けられたかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

 

 お風呂から上がった勇者部一行は用意された豪華な食事に舌鼓を打ち、会話に華を咲かせた。終始、勇祐のテンションが低かったが「疲れている」だけらしい。食事を済ませた彼はそそくさと自分の部屋に戻ろうとしたが、風の「疲れてるんならここで寝ちゃいなさいよ」という鶴の一声で全員一緒に寝ることになったのだった。

 

 

「いや、なってない、なってないぞ」

 

『どこに向かって言ってるんですか......?」

 

「つべこべ言わずに寝るわよ?」

 

「どうしてこうも俺の人権は否定されるんだ......!俺はただゆっくり寝たいだけなのに!」

 

「寝させたげるわよ〜?」

 

「嘘つけ!その顔してるパイセンに今までどれだけの無茶ブリされてきたと思ってんだ!」

 

 

 やんのやんのと騒ぐ犬吠埼姉妹と勇祐。本当に疲れているのか、勇祐の対応も少しだけイライラが混ざっているようだ。

 

 

「うっさいわよ勇祐。もう素直に諦めなさいよ」

 

「煩くさせてんのは誰だよ......」

 

 

 夏凜の言葉に溜息を吐きながら答えた勇祐は頭をガシガシと掻きながら立ち上がった。

 

 

「どこ行くのよ」

 

「トイレだよ」

 

「部屋の使いなさいよ」

 

 

 夏凜が指差すのは旅館の部屋には大抵入口脇に設置されているトイレだ。例に漏れずこの部屋も設置してあるが、勇祐はその提案にしぶい顔をする。

 

 

「......流石に、嫌だろ」

 

「あー、ごめん。私の配慮が足りなかったわ......」

 

 

 お腹を摩りながら苦虫を噛み潰したような顔をする勇祐見て、流石に察したのかバツが悪そうに謝る夏凜。

 何がどう駄目なのか不思議がる樹と友奈のふわふわコンビが居たが、あまりシモの話をするのも悪いと思ったのか勇祐もそのまま廊下へと出て行った。

 

 

「あー...やっべ......流石に、きついわこれ」

 

 

 部屋を出るなり、顔に玉のような汗を流し始めた勇祐。よろよろと壁伝いに廊下を歩いて行き、たった数十メートルの距離を歩いただけで体力を使い果たしたかのように荒く息をしていた。

 

「おぶぇ...おえぇ......!」

 

 

 トイレに着くなり、彼は洗面台に向かい、食道で押し留めていた血を吐血した。

 びしゃびしゃと洗面台が赤黒い液体で染まっていく。ガクガクと震える足を気力で抑えながら、勇祐は吐き続ける。

 診断では、内臓は焼け爛れていると言う。骨も筋肉もボロボロで生命維持など以ての外な状態で、生きているのも不思議なほどらしい。息をする事すら本来は苦痛であるはずだが、痛みを感じなくなっているが故に勇祐は生きていられる。

 

 肌に異変が現れていないのは不幸中の幸いか。それとも無意識に流星を使って治しているからか。『自分自身すら信じられなくなっている』勇祐には、それを確かめる術はもうどこにもない。

 

 

「ハァ......ハァ......!」

 

 

 荒く息をしながら心臓を鷲掴むように胸を掴む勇祐。体力はもはや限界だった。立っているだけでも目眩がする程に辛い。痛みはないが故に、体全体が重く息苦しい。常に全力でマラソンした後のような気怠さが全身にのしかかるようだ。

 

 

「姉貴......やっぱ呪いだぜ、さっきの......」

 

 

 この旅行が終わってしまえば、勇祐はさっさと死んでしまい予定だった。それが今となって「まだ死ねない」という想いが強くなってしまっていた。

 勿論、芽吹達の防人との交流。更に勇者部と過ごした今日1日。それら全てが勇祐の悔いとなって心の中に残ってしまっていた。

 

 最初から、やり残した事は山程あると自覚していて、『楽には死ねそうにない』と理解していた勇祐だったが事ここに至って、姉で半身とも言える友奈から『無事に帰ってきて』という呪いと言う名の祈りを受けた影響で、寿命を引き延ばそうと身体が無意識に流星を使い続け、体力を激しく消耗しているのだ。

 

 出来る限り、1秒でも長く生きるために。

 勇祐の体力がなくなり、身体を巣食うタタリから受けるダメージも治せない。勇祐はそこまで衰弱している状況なのだ。勇者部や姉の前では気高に振舞ってはいるが、それこそやせ我慢なのである。

 

 

「くっそ...ここまでしんどいのは想定外だな......」

 

 

 汚した洗面台を洗いながら独りごちる。最早自分の目的意識すら揺らぎ、もはや彼はただ死を待つだけの存在と成り果てている。

 思考する力すら失いかけている勇祐は、最早『何時の間にか思考が誘導されている事』にすら抵抗出来なくなっていることにすら気付いていないのだ。

 

 いつからだろうか。彼が『死にたい』と思い始めたのは。

 恐らく、最初は大橋の惨事後。両親が死に、友奈が入院したと知った瞬間であろう。

 それまで、ただ生きたいと思う少年だった。理不尽な運命に飲み込まれながらも姉である友奈と、家族と一緒に暮らしたいと思う少年だったのだ。『精神的に揺さ振られた大橋の惨事という事件』さえ無ければ、彼は「死にたい」と思うことすら無かっただろう。

 

 

「とにかく、部屋に戻ろ......ん?」

 

 

 勇祐のスマホから着信音が鳴る。画面を見れば『非通知』の3文字。今の彼のスマホに電話を掛ける存在など少ない。勇者部はNARUKOを使っているし、クラスメイトの連絡先など交換すらしていない。あとは不良グループか大赦関係からだが...どちらにせよ、非通知で着信が来ている以上は良い話ではないだろうと勇祐は確信していた。

 

 

「......もしもし?」

 

『あは...やっと出たね、ゆっきー?』

 

 

 訝しみながら電話に出てみれば、低い、ねっとりとした狂気を滲ませる声。そして今や呼ばれる筈もない昔の愛称。最早、愛称で呼び合う事も出来やしない関係であるにも関わらず、そうやって呼んでくる事に悪意を感じつつ、勇祐も反撃した。

 

 

「そのっちも、アレだけ泣き叫んでた癖に元気じゃねぇか」

 

『............チッ。やっぱりムカつくよ。お前は』

 

 

 本来の性格からは似合わぬ舌打ちをする園子。それに対して勇祐の対応は酷く冷たく白いものだ。

 

 

「自分から喧嘩売っといて何言ってんだ。俺も暇じゃねぇんだ。煽りたいだけなら切るぞ」

 

『ふーん、いいんだー?明日には連れて行くから最期にお姉さんに挨拶しときなよって忠告してあげようと思ってたのになぁ?』

 

「......言ってんじゃねぇか。まぁ、いいけどさ。連れてけよ。どうせそっちが圧力掛けて早まったんだろ、俺の生贄の儀式、いや......処刑の方が正しいか?」

 

 

 本来であれば1月以上先に行なわれるはずだった儀式の為に明日には連行されるという衝撃の事実だっただろうが、勇祐にとっては都合の良い展開でしかなかった。

 

 

「......なに、その反応は......?」

 

「大赦はもちろん、春信さんにも言ってなかったけど、今のままだと明日明後日には死ぬぜ俺。どうせ神樹から受けた神託で俺の寿命は3ヶ月っていう情報で止まってんだろ?それで態々俺の電話番号調べて、態々非通知で煽りに来た訳か。はははは、笑えるな。大赦が勝手に進めるものを意気揚々としゃしゃり出てきたのか?良かったじゃねぇか。さっさと俺を殺せるぜ?」

 

「お前......!」

 

 

 ケラケラと笑う勇祐に、電話越しからでも伝わる鋭い殺意を隠さない園子。

 

 

「まぁ...いいけどね。そういう事ならこっちも都合良いから。............お別れなんて、させてやるものか。お前の唯一の家族も、私と同じ気持ちを味わえばいいんだ」

 

 

 園子の恨み節の後、電話は即座に切れた。

 

 

「......。なんだったんだ?」

 

 

 電話が切れ、ホーム画面に戻ったスマホを手に、勇祐は首を傾げた。

 その直後、後頭部に鈍い感触が走り、そこで意識が途絶えたのだった。

 

 




※録音開始※

※発信音※


「勇者様には、病院で治療する為に緊急搬送した...と伝えました。えぇ、つつがなく。勇者様も、ヤツの体調不良を察していらっしゃったようで疑いもあまりなく確保出来ました。ただ、東郷様のみ疑い深く......はい、そうです。はい...はい。私ではとても......。承知致しました。全ては人類存続の為に」


※通話終了※

※録音終了※


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