結城勇祐は弟である   作:白桜太郎

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お気に入りが200を超え、いつの間にかUAも16000。感謝感激雨霰であります。星2付いちゃいましたけど私の文章力がナメクジだという表れだと思うので精進していきます......。
読者の皆様、本当にありがとうございます。


第26話 それは春を信じる者と信じた者の話

 

 

 大赦施設の、小さな事務室。そこには数名のスーツを着た職員が作業を行なっていた。

 その部屋の1番奥に座りながらも1番若い風貌の男、三好春信の元に部下と思わしき人物が近付いていき、春信に書類を手渡した。

 

 

「なに!?勇祐くんが回収されただって!そんな馬鹿な!」

 

「大赦本部の決定です。つい先程、その決裁書類が回ってきました」

 

 

 驚きを隠せない怒鳴り声を聞きながらも、極めて冷静な声かつ苦虫を噛み潰したような顔をしている部下は答え、手に持つ書類を春信に渡した。

 

 

「約束の期限までまだある筈だ!それまでは家族と友人と過ごす手筈ではなかったのか!?」

 

「その筈、でした。しかし乃木家が上里家に圧力を掛ける形で改定案を出した模様です。今すぐに処刑すべきだ、と。流石は乃木家ですね。我々が察知する前に回収して、気付かれる頃に改訂された書類を回すとは......」

 

 

 乃木家と上里家は大赦設立後間も無くから大赦のツートップとして君臨してきた名家だ。だが上里家の今代当主は歴代当主に比べて出来が悪く、更に言えば巫女や勇者となれる女性が生まれていなかった。

 乃木家当主は、その弱みにつけ込んだのだ。『我らは苦しんでいるというのに...』という同調圧力を持って。

 

 だがそれだけでは場は動かない。いくらツートップが声を上げても、他の大赦幹部達が首をすぐに縦には振らない。

 既に春信が手を回し、『期限まで勇祐の処刑を行わない』と決議を引き出しているからだ。

 だから乃木家は強行手段に出た。勇祐の拉致だ。

 そして事態は更に乃木家にとって良い方向に転がってしまったのだ。

 

 

「関心している場合か!今すぐにでも彼を...!」

 

「いえ......彼は、望んでいるようです。自らの死が誰かの鬱憤を晴らす為になるのなら、この先短い命ぐらい投げ渡してやる、と......」

 

「......大馬鹿野郎が!!」

 

 

 春信は机に両手を叩きつける。その音に作業していた他の職員たちも驚き、作業の手が止まる。

 

 

「俺は確かに犠牲になれと言った!分の悪い賭けで、恐らくそう遠くない未来に死ぬだろうと!お姉さんや友人達と別れる事になっても君を利用し続けると!だが...だが、こんなのはただのリンチじゃないか......!ただの被害者である年端もいかない少年を虐め殺しているだけではないか......!」

 

 

 爪が手のひらに食い込む程両手を握り締める春信。この部屋に居る誰しもが、彼をなんとか生き延びさせながら世界を救おうと考えて東奔西走していた。

 だがその努力も水の泡となったのも久しい。全ては乃木園子が彼を呼び出した時から始まったのだから。

 アレさえなければ、と春信は悔やむ。だが勇祐が天の神から捨てられた事実は覆らない。何もかもの間が悪過ぎたのだ。

 

 乃木園子が暴走した事も。

 結城勇祐が乃木園子を降し、その心をへし折った事も。

 結城勇祐が天の神から見捨てられたことも。

 そして、その白面としての力も変身以外を無くした事も、寿命があと僅かだという事も、彼は黙っていたのだ。防人隊の練成訓練において無茶をしている事、自分の寿命を削っていることすら彼は春信に対して黙り込んでいたのだ。

 

 そしてもう1つ。彼が春信どころか彼に関わる全員に黙っていた事があった。

 

 

「処刑決行日は3日後......。クソ、時間が足りなさ過ぎる」

 

 

 現状、春信達に打つ手はなかった。決定が覆された以上、それを更に覆して元に戻せる程のカードを春信達は所持していないのだ。

 

 

「大体、彼も自分の寿命ぐらい分かると言いながら割と曖昧じゃないか。増えたり減ったり、何となくで決めているように思える...。先月の神託では寿命は『今のままで過ごせば』3ヶ月と下されていたじゃないか。それなのに彼はもっと短い寿命を言い放った。この差異は何だと言うんだ......!」

 

 

 春信は知らない。勇祐が寿命を削っている事も、そして寿命とは少なからず彼の『心臓が止まる瞬間』という意味は含んでいるものの、大部分では違った意味であるという事を。

 

 もっとも、それを勇祐本人が詳細に理解しているのかと問われれば、否と答えるべきである。

 もはや彼自身、自分を信じていないのだから。

 

 

「......。いや、私らしくないな。彼は神に呪われた身、常識の埒外の何かが起こっているのかもしれない。彼から、もっと詳しく話を聞くべきだったようだ......。今更、だろうがね」

 

 

 そう言いながら春信は目頭を抑える。

 彼は既に3徹目。彼の部下達はまだ毎日寝る時間はあるが、それでもハードワーク。

 

 彼らの仕事は主に結城勇祐から得られる情報などの精査。そして大赦本部にすら秘密にしてある人工精霊の技術を用いた義体の開発など、一般の大赦職員が知れば確実に記憶処理はされるであろう事ばかり。

 それだけ機密性が高いのにも理由がある。そう、結城勇祐から伝播する『タタリ』の影響だ。

 

 春信率いる数名の部下は自らの命を人類の存亡に役立てるために惜しまない。例えそこにタタリという不可避の死が待っていようともだ。

 勇祐自身は知らないが、既に1人が勇祐を元とするタタリによってその身を落としている。だがその命と引き換えに得難い情報を得たのもまた事実。

 

(彼自身、消された記憶が本当に正しいか疑っていた。消されもするんだから、齟齬がないように繋ぎ直すぐらいは神樹様にだって出来る......)

 

「......春信さん?」

 

「すまない。もう起きてしまった事象にケチを付けてもしょうがない。問題はこれからどうするか、だが......」

 

 

 勇祐は天の神が思考誘導を行い自分を尖兵として扱っていた、と言う。だが尖兵となった当初から大橋の惨事までの記憶を消した事は本当に天の神が行ったのであろうか。

 神樹が記憶消去を行ったという仮説も春信はあながち否定出来ないでいる。

 否定する根拠の1つさえあればこんな事にはならなかった。だが神樹は勇祐を嫌っている。その1つ事実が邪魔なのだ。

 

 

「し、失礼します春信さん!たった今神樹様のお告げがあり、バーテックスが再び現れたと!」

 

 

 そこに、春信にとって起死回生とも言え、万事休すとも言える速報が舞い込んで来たのだった。

 

 

「最後のチャンス、か......。彼女達、勇者様達であれば......奇跡は成せるかもしれない」

 

「春信さん、何をなさるおつもりですか!?」

 

「毒を食らわば皿まで、だ。我々が事を為さずとも勇者システムは勇者様達に渡る。あとは真実を、伝えるだけでいい。例えば、大橋の惨事の真実。そして壁の外、散華。暴走させる事は容易い」

 

「ですが!今更彼を救い出したところで何も変わりません!それどころかこの世界が終わる可能性だってあるんです!」

 

「そうだ。だから言っているだろう。毒を食らわば、と。起死回生を図るにはもうそれしかない。いいか、私はいつだって人類の存続を願っている。だがそれは人々が幸せでなくては意味がない。例え私の願う未来が、サイコロを100回振って100回とも6の目を出さなければ到達出来ない未来だとしても」

 

 

 春信にもはや絶望的な確率の未来以外を選ぶ選択肢は存在していない。

 

 

「子供に責任を負わせる法など無ければ道理も無い。大人が責任を負い、選択する義務がある。だが子供にも当然、選択する権利はある。だが私達は否が応でも子供に過酷な選択をさせ過ぎた。だから、この選択肢は私が選び、背負おう。その結果、子供達がどう感じてどう選ぼうとも。その尊き選択を支持し、責任までも背負わせない為に」

 

 

 その辛い選択を、勇者達と勇祐にさせない為に。

 

 

「私達が、罪を背負おう」

 

 

 辛く厳しい冬の後に、春が訪れると信じる者が決意を新たに机から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「......白面!?」

 

 

 満身創痍のシズクの前に、勇祐と同じのっぺらぼうの白い仮面を付けた、『濃い桜色の髪の毛と白と桜色のボロボロの装束』を身に付けた人と同じ形をした存在が立っていた。

 

 

「......」

 

 

 その存在にも、星屑は襲い掛かる。星屑には一瞥もくれず、右足で地面に強く踏んだ。

 シズクから見れば、地面が割れるほど強く踏んだようには見えなかった。だが、次の瞬間には動きに似合わない衝撃波がシズクに襲い掛かった。

 

 

「うわっ!?」

 

「......落ちたな。やっぱり残り滓ではこんなもんかな」

 

 

 なんとか衝撃波で吹き飛ばされず、その場で持ちこたえたシズク。

 思わず顔を抑えたシズクの耳にぼそりと聞こえてくる中性的な声。その声は勇祐に似ている気がした。少なくとも、姿形から勇祐でないと判断は出来るが......。

 

 

「は......?」

 

 

 それよりもシズクは絶句していた。あれほど周りを囲んでいた星屑共が、あの衝撃波の影響で消え去っていたのだ。

 

 

「あっ!パイルバンカーだ!うわーっ、懐かしいなぁ。この300年は触ってなかったもんねぇ」

 

「お、おい!勝手に触んな!」

 

 

 唖然としていたシズクの後ろに何時の間にか回り込んでいた。それどころか、背中に背負っていた大型射撃槍を弄ってすらいた。

 

「というかお前は誰だ!返答次第じゃ......!」

 

 

 その奇妙な桜色と白色の存在を威嚇しながらシズクは振り払う。

 

 

「あぁごめんごめん。私は人類の敵じゃないよ。そうだなぁ......優しい想いに釣られて出て来た、謎の白面X......とでも呼んでくれたらいいよ」

 

「な、なんだよそれ......お前も、白面.....?」

 

「んー、結城勇祐とは似て非なる白面、かな。ま、えっと......ごめん、『名前忘れちゃった』けど貴方の知る必要がないところだよ。さ、私があのクソサソリをボコるから早く吹き飛ばされた子を助けに行きなよ」

 

「意味わかんねぇ...けど、信じるしかねぇか。俺じゃお前に勝てねぇ」

 

「うん、理由はどうあれそうしてくれるのは嬉しいよ。さ、行って」

 

 

  謎の存在の言葉を怪しみながらも、今すぐ助けに行かないと芽吹の命に関わると判断したシズクは急いでその場から離脱した。

 その姿を見送りながら、謎の白面Xはぼそりと小さく呟く。

 

 

「......一回こっきりのお助け装置的な役割とは言え、実質的に『2回』死んだっていうのにまた起こされて......いや、起きるはずじゃなかったし、でもあんな優しい声で思いの丈をぶつけられたらなぁ...参っちゃうよ」

 

 

 愚痴を溢しながら、白面と名乗った存在は大型射撃槍の具合を確かめながらスコーピオンバーテックスに『歩いて』近づいていく。

 その間に、一切の攻撃はない。まるでそこに居る白面を被る存在を、頂点よりも上に居る『怪物』と怯えるかのように。

 

 

「ちょっと遊ぼうか。なぁに、300年の内楽しんだのは10年もなかったんだから......おい、天のクソ神野郎。どうせ見てるし聞こえてんだろ。『私は』お前に届かなかった。だが『僕は』届いた。次こそは、『俺が』お前をブチ殺してやる」

 

 

 天を指差しながら、目も鼻も口もない真っ白な仮面は睨みつける。

 ひとしきり睨みつけた後、大型射撃槍を構えてスコーピオンバーテックスと対峙した。

 

 

「オオオオオオォォォォァァァアアア!!」

 

 

 咆哮。まるで獣のような、そしてバーテックスに成りかけた時の勇祐のように吼える。

 姿形はバーテックスにはならず、地面から濁った木の根が伸び、光となってボロボロになった装束を綺麗に治していく。まるで勇者が満開をするかのように、新品のような装束に様変わりした。

 そして1つ息を吐く。先ほどまでと打って変り、冷静に、落ち着いた様子でぽつりと呟く。

 

 

「何事にも報いを。これは若葉ちゃんの言葉だったっけ。やっぱり残花状態だと記憶もちぐはぐで殆ど忘れてるのが辛いなぁ」

 

 

 既に花びらは地に墜ち、かつての武勇も、想い出も。記憶すら抜け落ち、ただの白い仮面を被る者として心に残った唯一の残滓。

 それらを掻き集めて燃料とする。

 

 

「必要最低限、あればいいかな。あとは、要らない。私は、ただの『バトン』......でも」

 

 

 その残滓の燃料、自らの記憶を必要最低限だけ残して燃やす。それは自分が、まだ走り続けようとする『結城勇祐』にバトンを繋ぐ為だけの存在だからだ。

 

 だが、それでも。自分という存在があった事を、『彼女』は残したかった。自分から望んで捨てて、消し去った『----』という自分自身を。我儘である事は十分承知しておきながら。

 

 

「私は、私の名前は『----』。身体は既に滅び、魂だけで在り続ける者。記録にも記憶にも残らなくても、私は......私が生きていた証を残したい。だからお前は、ここで死ね」

 

 

 燃やした記憶は『彼女』の力となり、バーテックスが爆ぜた。

 

 

 

 

 

 ♦︎

 

 

 

 

 

「おい芽吹!しっかりしろ!おい!」

 

 

 シズクがなんとか芽吹の元にたどり着いた時、芽吹は意識がない状態で倒れていた。

 防人の装束のお陰で身体が地面に焼かれてはいなかったが素肌が見えている箇所に火傷のような傷があるのが確認出来た。

 

 

「クソ、返事しろよ、おい!」

 

 

 芽吹の息はあるし、心臓も動いているが返事はなく、ぐったりしたままだ。医療知識皆無のシズクでさえ、これは不味いと判断した。

 とにかく連れ帰らなければ話にならない。治療するにしてもこの場で勇者システムを解除する訳にもいかず、そもそもシズクにも応急処置の知識程度しかない。

 

 

「あっ、不味いねこれ」

 

「うおわっ!?テメェ何時の間に!」

 

 

 突然現れた謎の白面Xが芽吹の顔を覗き込む。

 うーん...と唸りながら「どうしようかなぁ」と悩み始める。

 

 

「うーん...まぁいっか。取り敢えず、貴女達の仲間のところへ連れてってあげるよ」

 

 

 謎の白面Xに肩を掴まれると、シズクの目の前が一瞬にしてぐにゃりと歪む。一瞬の出来事の後、シズクの目の前にはなんと先に壁に辿り着いていた防人たちが居た。

 

 

「うわあああああああ!?めめめめめ目の前に、うわあああああ!!?」

 

「へ、あ......?なんで急にここに!?」

 

 

 ちょうど現れた目の前に居た雀が唐突に現れたシズク達に驚き腰を抜かした。地面に尻餅をついた雀だったが高温に驚き、「あっづぅい!」という声と共に即座に飛び上がった。

 

 

「シズクさん!?なんで急に......いえ、それよりも隊長の容態は!?」

 

「内臓と骨がヤバいかもしれねぇ。早く病院に連れて行ってくれ!」

 

 

 唐突に現れたシズクに驚く防人たちだったが、ボロボロになったシズクと肩を担がれてぐったりとしている芽吹に驚き、数名が血相を変えて芽吹を壁の中へと連れて行った。

 

 

「よし、総員撤収......の前に、そこの貴方は一体誰かしら?」

 

 

 芽吹の代わりに隊長を代行していた2番の防人が銃剣のグリップを握り、いつでも銃剣を向けて射撃出来るように態勢を取りながら謎の白面Xに問う。

 

 

「いや、こいつは警戒しなくて大丈夫だ。むしろこいつが居なきゃ俺と芽吹は死んでた」

 

 

 シズクが2番の防人に事情を説明する。その説明に、謎の白面Xはバツが悪そうに頬の仮面を人差し指で掻く。

 

 

「まぁあれだけ星屑が湧いたのもほぼ私のせいだからお礼を言われるほどじゃないんだよなぁ...むしろあの巫女服の子にお礼言って謝罪したいんだけど...」

 

「ん?なんでだ?」

 

「寝惚けて...悪いことしちゃったからね」

 

「寝ぼけて......?」

 

「ま、細かいことはいいんだよ。君もさっさと治療しに行きな。私もそろそろ帰るから」

 

「何処に帰るんだよ!?」

 

「......さぁてね。天国もなけりゃ地獄もない世界だし、多分その辺漂う魂にでもなるさ」

 

 

 謎の白面Xは、体から砂をパラパラと落としながら、壁に背を向けて歩き去っていく。

 

 

「結城勇祐と勇者達によろしく。そして、君達防人に幸多からん事を」

 

 

 言うだけ言って、ひらひらと手を振りながら謎の白面Xは先程防人達の目の前に現れた時と同じようにシズク達の前から、謎のままに消えたのだった。

 

 

 




春信さん
頑張っている。けど勇祐に振り回され続けている苦労人。タタリの前に過労で死にそう。労基に駆け込もうにも大赦職員は国家公務員的なアレなのでそんな事ができるはずもなく、労働環境改善するためではないが勇祐の事を勇者にチクる模様。

芽吹
ボロボロ。火傷っぽいのはいつのまにか治っていたようだ。出番は殆どシズク行き。何か持たされている。

シズク
圧倒的な力を前に、唖然としたりよくわからない生物(?)に絡まれて対応に困ったり。身体中ボロボロなのにツッコミ役という文字通り身体を張った一芸を見せた。なお本人は必死なだけである。

謎の白面Xさん
FGO的に言えばXXさん的立ち位置な存在だが稼働時間はウルトラマン。何か持たせた。
満足気に消えたようだけど本来の性格は割とノリと勢いがあればエンジョイ&エキサイティング。そういうこと、忘れちゃダメだよ。
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